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2011年8月11日 (木)

大林宣彦『ねらわれた学園』 ('81、角川映画)

 どうしようもない映画が必要だ。

 つまらないもの、意味のないもの、観ていて恥ずかしくなるもの。
 優れた作品を適正に評価する為には、物差しが要る。故に、くだらないものには果たすべき重要な役割がある。この世に生まれてくるものに、意味のないものなど存在しないのだ。諸君には捨て石になって貰おう。
 だが、ここに奇妙な逆転が起こる。
 誰もが認める優れた作品とは、本当にそれほど優れた映画なのだろうか?
 ひょっとして、われわれの鑑識眼が曇って真相を看破しきれていないだけでは?
 どうしようもない失敗作であることで、逆に印象に残る映画とは、実は非常に優秀な映画ではないのか。

 10年後に、「英国王のスピーチ」について語る人はいないだろうが、大林宣彦の映画は生き残った。
 30年過ぎて、この映画を何の気の迷いか、再び観てしまった私は思った。
 あぁ、観るんじゃなかった。
 驚いたことに、この感想は30年前とまったく変化なかった。

【あらすじ】

 校庭が代々木公園になっている、非常に奇妙な学校にセクシーな赤いレオタードの美少女が転校して来る。
 色めき立つ一同。
 美少女は転校早々に生徒会長に立候補することを宣言し、見事当選を果たす。
 だが、実はそれは宇宙人の罠だった。
 惑星間旅行を実現した程の、高度な科学力を誇る宇宙人は、都内の高校を傘下に収めんと公衆トイレに改造した宇宙船を代々木公園に送り込み、塾と偽って高額な報酬を得ていたのだ。
 美少女に先導され、学校や教師、PTAに宣戦布告する生徒達(と手塚眞)。
 地味で色黒の女子高生、薬師丸は自宅では和服で通している変な女だが、一部に熱狂的なシンパがいるので、割りと調子に乗ってフカシこいていたら、映画が終わってしまった。

 さて、この映画をどう評価すればいいのか。
 そもそも大林映画にまともな映画など一本もないのであるが、その異常性が妙にうまくいっている場合と、空転しとんでもない方向へ全力疾走してしまっている場合とがある。
 『転校生』はおそらく一番うまくいっている映画で、背景を監督の実家に設定したことも功を奏し、たいして面白いことなど起こらないにも関わらず、観客を飽きさせないテンションを維持することに成功している。
 遡って、監督デビュー作『ハウス』は典型的なクズだ。
 この映画は面白いことしか起こらない。(井戸で冷やしたスイカを引き上げたら、田中邦衛の生首が上がって来てカタナに噛みついた、とか。)そして、興味深いことに、面白い出来事の連鎖で映画一本繋げてみると、実は大して面白くはなかった、という非常に残念なパラドックスを齎した。
 楽しそうな場面を連続させても、映画自体はハッピーにならない。
 人間大のゴキブリがピアノを演奏する映画版『漂流教室』も同様だ。
 これらの映画は、観ると死にたくなる、もしくは本当に死んでしまうという点において、『リング』に登場する“呪いのビデオ”より遥かに効果的と言えるだろう。

 だが、しかし。
 そのダメさ加減が、幸薄い、本当に真剣に作られた良心的で地味な映画よりも、観客のハートにどうしようもない何か(例えば、だ)を残してしまうとしたら、これはもう、才能のレベルの違いとしか申し上げようがない。
 ダメさゆえに、心に残ること。
 これは、単純にただ優れているだけの映画を撮っても成し遂げられぬ、謂わばジェリコの壁越えと捉えて頂いて結構である。

 「ねらわれた学園」では、各部活の新人勧誘合戦が、世にもこっぱずかしいダンスと共に白昼の代々木公園で繰り広げられる。正気を疑うばかりのテンション。全裸になるより恥ずかしい、ハッピーなオーラの全面展開。

 どうしようもない映画とは、手のつけようがない映画ということであり、他の監督は間違っても薬にしたくない映画ということである。
 バカは死ななきゃ治らないのだ。
 末期癌患者のように、大林宣彦の独創性は際立っており、輝いている。
 人間が創造性をフルに働かせることが、必ずしも幸福な結果を生む訳ではないことを大林は身をもって教えてくれているのである。

 
 ※本文に織り込むことが出来なかったが、さすが角川映画、校長先生役がサラリーマンSFの巨匠・眉村卓先生(!)である。ゆえに、Dくんは必見。

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