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2011年7月30日 (土)

冨樫義博『HUNTER×HUNTER No.28~再生』 ('11、集英社ジャンプコミックス)

 「大河連載マンガを一冊だけ拾ってきて、それしか読まないくせに、勝手なことを言いまくる。
 あのシリーズ、大好きなんですよ。また、やってください。」

 「きみがそういうことを云うのは、珍しいね。」
 古本屋のおやじは、目を眇めて呟いた。「登場以来初かも知れないな。」

 「この超適当なブログに、記事をリクエストしようという奇特な人間自体、天地開闢以来初めてなんじゃないですか?」 

 スズキくんは、失礼なことをほざきながら、背中に背負っていたリュックサックからまだ真新しい単行本を一冊取り出した。

 「ジャ~~~~~ン!
 ボクのリクエストは、コレです!
 冨樫義博『HUNTER×HUNTER 』」
 
 「あ~~~、なんか知ってるわ、ソレ。」

 「薄いリアクションですね。」

 「とっても人気あるんだろう?でも、たまにしか載らないんで、連載再開だけでニュースになるという。
 やっぱり、狙ってやってる?」

 「“とんち番長”程度には狙ってますかね。
 読んでいただければ解るんですが、このマンガの構造自体、一種のメタ狙いなんですよ。」
 
 「俺の中学のときの生物の担任。」

 「・・・え?」

 「米田(めた)先生。」

 スズキくんは予告なく、手にしたウェッジウッドの陶器をおやじの頭に炸裂させた。
 はげあたまの頂点に血の雫をにじませながら、おやじ、無言でコミックを読み始める。


【これまでのあらすじ】

 ハンターが支配する国。ハンティングに優れた者だけが究極の称号“ハンター×ハンター”を得ることが出来るのだ。
 ちなみに何を狩るのかは、絶対秘密だ。うっかり喋ると世界が破滅するのだ。
 主人公の少年は、栄光を目指しハンター試験に参加。幾多もの仲間と友情、そして裏切りを経験し、少しずつ(年間数センチづつ)成長していく。まだまだ伸び盛り。
 「よし、今日は潮干狩りに挑戦だ!」
 さて、そんな風に呑気に狩ったり、狩られたりを繰り返していると、人間、だんだん飽きがくるものである。
 そんなとき、折り良く太陽黒点の異常で、蟻人間が暴れ出した。その謎を解こうと研究していた博士は、軍に捕まり拷問され、鉄仮面を被せられ幽閉される。
 そして、二十年後------。

 「・・・いや、二十年経ってませんし、後半違うマンガの紹介になっちゃってます。」

 「仕方ないだろう。あらすじ、紹介しようにも本当は読んでねぇ訳だし。」
 おやじは、血のついた頭を掻いた。
 「話の内容より、作者の手法の方が気になったよ、オレは。やたら作為を盛り込んだ、強引な折衷形式をとってるな。
 本当に人気あるのか、このマンガ?」

 「一種のパロディーなんですよ。
 従来のジャンプが展開してきた、なんでもバトルにする(なにせ“ジャングルの王者ターチャン”まで戦ってましたからね!)独特の編集方針を踏襲しつつ、なにか新しいことをやってやろうという意欲作だと思うんです。」

 「この28巻なんか、山口貴由のパロディーまである。いいのか(笑)?
 蟻人間の王は、もろ『ドラゴンボール』、フリーザとセルをミックスしたデザインだし、対する会長ネウロは浦沢直樹の描くじじいの顔に天野喜孝的な肉体、大島弓子のチビ猫までどさくさに飛び出すし、なんか落ち着かないゴッタ煮風味だよな。」

 「アクションも、ネームも不自然極まりないです。
 その違和感が新鮮だと思うんですが・・・」

 「きみは毎週ジャンプを買ってる信者だからな(笑)。
 告白しとく。
 オレ、自分でジャンプを買ったことないんだよね。実家に居た頃は、毎週律儀に弟が買ってきてたし、学校へ行くと、原哲夫を心底尊敬しているバカがいたりして、タダ読み出来た。ネットよりも、もっと無料(笑)。
 オウム事件が起こるまで、都内の電車では大抵のマンガ誌は拾い放題だったしな。」

 「いい時代でしたね。
 冨樫義博といえば、ボクら世代には『幽遊白書』の人でして、編集と揉めて描く、描かないを繰り返しながら、いまだにやってるという。
 往生際の悪さなら江口寿史を越えるんじゃないかと。」

 おやじ、軽くうなづき、

 「既存の文法を踏まえたうえで、批評的に作為的にマンガを構築しようというやりくちは、みなもと太郎先生の『ホモホモ7』シリーズの昔からあるんだが、基本、ギャグマンガになってしまうんだよ。残念なお知らせですが。
 一個のマンガの中に複数の絵柄が乱立すると、読者の感情移入は統一を欠く。
 あと、ネタを仕込む作者は倍、消耗するわな。
 『HUNTER×HUNTER』がやたら休載することで有名になってしまった理由はそのへんにあるんだろうけれども。」

 「編集部のリクエストとして、“ドラゴンボール路線を継ぐものをやれ”というのがあったんじゃないかと想像できるんですよ。
 どう考えても生粋のひねくれ者の冨樫先生としては、素直にそんなオーダーに従う気にはさらさらなれなかった。
 そこで考え付いた、おのれのマンガ家エゴとの妥協案が、とにかく脱線しまくってやれ!・・・だったんじゃないかと思うんです。
 無制限パロディー許認可。
 オリジナルの『レベルE』とかじゃ、そこまで全開に出来ませんもの。」

 「なぁ。」

 おやじは、ふいに真剣な眼差しを投げかけた。

 「・・・なんですか?」

 「オレ達、今回随分真面目にマンガの話をしてないか?このままじゃ、BSマンガ夜話と同じ運命を辿りかねないぞ。」

 「ご心配なく。」

 スズキくんはニッコリ笑って、蟻人間としての正体を明らかにした。
 伸びた触角、硬いキチン質の皮膚。人類と本来相容れない、異質な生命。

 日頃修行を積んで会得し拳法を縦横無尽に駆使して闘いながら、古本屋のおやじは嘆息する。

 「まぁ、いいんだけどね。
 ・・・狼牙風風(ロウガフーフー)拳!!!」

 

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