« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »

2011年7月

2011年7月31日 (日)

CG⑤ エンキ・ビラル『ゴッド・ディーヴァ』 ('04、日本ヘラルド)

 いやー、駄目な映画ですなぁー。
 ちょっと信じられないくらい大惨事なんじゃないの。

 知ってる人は知ってるだろうエンキ・ビラルという人は、70年代にデビューし一貫して描き続けてるフランスの漫画家さんで、映画も撮る。(生まれはユーゴで9歳で仏に移住とか、その辺の事実関係は他所で調べてくれ。俺は忙しいから。)
 彼の監督一作目『バンカーパレス・ホテル』も、なんの因果か昔ビデオで観ていて、余りのつまらなさにのけ反った記憶がある。
 さすがバンド・デシネ出身者、カラーはきれいで構図はキメまくりなんだが、これが1ミリも動かないの。
 そんな鮮明な画面で、デブが風呂に浸かってるのを延々見せられてもなぁー。
 せめて台詞や内容が気が利いていればいいのだが、オタクにありがちな、先に設定を作り込み過ぎて、それを的確に語れないタイプなんだよ。
 観客からは見えないところに膨大な設定資料がぶら下げてあって、登場人物はそれをチラ見しながら、ちまちま喋ってる。イラつくこと、この上なし。

 お前の考えた内容が本当に面白いというなら、せめて面白く語る努力をしてみたらどうなんだ?

 思いっきり背中をどついてやりたくなる。
 喉に刺さった魚の小骨みたいな映画でしたよ。

 あれから、二十年以上経って、やつがまだ懲りもせずに映画を撮っている。
 しかも、今回は漫画家としての代表作「ニコポル」シリーズの映画化らしいと聞きまして、幾らなんでもあのデビュー作よりはマシになっているだろう、なんか予算も結構かかってそうな宣伝もしてるし。
 ・・・と、思った私が馬鹿でした。

 今回は、CG映画全般を覆う、救いようのないダメさが強力にプラース!

 あれほど、実写とCGの人物を混ぜるなと警告しているのに、なんで、そういうことするのかなーーー?
 えっ、どうなの、ビラルくん?!


 舞台は百年ぐらい先の未来都市なんですが、全面くすんだ単色の墨の濃淡CGで描かれていて、『キャシャーン』かと思いましたよ。宇多田の元旦那の。安すぎる。
 そこに『フィフス・エレメント』みたいなタクシー飛ばして、お馴染み『ブレードランナー』と『未来世紀ブラジル』のデザインを振りかけりゃ、こういう絵面が出来上がる。
 強力にどっかで見たことある未来。
 で、そこにッ!!
 CG映画版『ファイナル・ファンタジー』みたいな人物が動き回ってるの!地球外生命体の脅威とか、神とか、強力にファイナルな用語散りばめて!
 空疎、空疎、また空疎!
 いったい、なにがしたかったの、ビラルくん?
 
 所詮、メビウスの二番煎じ。
 そう言われて悔しかった筈だろう、きみは。
 そこで独自のカラーリングに走り、構図のダイナミックさも必要以上に強調し、士郎正宗みたいなフォロワーも生んだろ。
 ちょっと前だが、我が国でもきみの本は何冊か出たし、それなりに好意的な書評もついた。
 私は買わなかったけどね。
 きみの絵がメビウスの亜流を抜け出し、一層手抜きに走ったようにしか見えなかったから。まあ、それでも成功した部類だ。きみは。

 その結果がこの映画なのか?先生は悲しいぞ。
 だいたい、表題の『ゴッド・ディーヴァ』なんてのは、まったく登場しないじゃないか。(註・フランス原題はImmortal、不死者。)
 ディーヴァって、歌姫だろ?ババア(シャーロット・ランプリング)が、フンフン鼻歌を歌ってた程度じゃないか。
 まさか、アレが・・・・・・。
 
 いや、よそう。話を変えて。
 主演のミス・フランスのおっぱい、いい形で最高でしたけどね。乳輪でかめ、でね。
 彼女が、鷹アタマの変態に夜な夜なレイプされる恐怖映画にすりゃよかったんだよ。
 どんな映画にも一箇所は褒めるべきところがある。ってのは、淀川さんの言葉でしたっけ。

 おっぱいに、乾杯!
 ファッキンCG、くそくらえ!!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月30日 (土)

冨樫義博『HUNTER×HUNTER No.28~再生』 ('11、集英社ジャンプコミックス)

 「大河連載マンガを一冊だけ拾ってきて、それしか読まないくせに、勝手なことを言いまくる。
 あのシリーズ、大好きなんですよ。また、やってください。」

 「きみがそういうことを云うのは、珍しいね。」
 古本屋のおやじは、目を眇めて呟いた。「登場以来初かも知れないな。」

 「この超適当なブログに、記事をリクエストしようという奇特な人間自体、天地開闢以来初めてなんじゃないですか?」 

 スズキくんは、失礼なことをほざきながら、背中に背負っていたリュックサックからまだ真新しい単行本を一冊取り出した。

 「ジャ~~~~~ン!
 ボクのリクエストは、コレです!
 冨樫義博『HUNTER×HUNTER 』」
 
 「あ~~~、なんか知ってるわ、ソレ。」

 「薄いリアクションですね。」

 「とっても人気あるんだろう?でも、たまにしか載らないんで、連載再開だけでニュースになるという。
 やっぱり、狙ってやってる?」

 「“とんち番長”程度には狙ってますかね。
 読んでいただければ解るんですが、このマンガの構造自体、一種のメタ狙いなんですよ。」
 
 「俺の中学のときの生物の担任。」

 「・・・え?」

 「米田(めた)先生。」

 スズキくんは予告なく、手にしたウェッジウッドの陶器をおやじの頭に炸裂させた。
 はげあたまの頂点に血の雫をにじませながら、おやじ、無言でコミックを読み始める。


【これまでのあらすじ】

 ハンターが支配する国。ハンティングに優れた者だけが究極の称号“ハンター×ハンター”を得ることが出来るのだ。
 ちなみに何を狩るのかは、絶対秘密だ。うっかり喋ると世界が破滅するのだ。
 主人公の少年は、栄光を目指しハンター試験に参加。幾多もの仲間と友情、そして裏切りを経験し、少しずつ(年間数センチづつ)成長していく。まだまだ伸び盛り。
 「よし、今日は潮干狩りに挑戦だ!」
 さて、そんな風に呑気に狩ったり、狩られたりを繰り返していると、人間、だんだん飽きがくるものである。
 そんなとき、折り良く太陽黒点の異常で、蟻人間が暴れ出した。その謎を解こうと研究していた博士は、軍に捕まり拷問され、鉄仮面を被せられ幽閉される。
 そして、二十年後------。

 「・・・いや、二十年経ってませんし、後半違うマンガの紹介になっちゃってます。」

 「仕方ないだろう。あらすじ、紹介しようにも本当は読んでねぇ訳だし。」
 おやじは、血のついた頭を掻いた。
 「話の内容より、作者の手法の方が気になったよ、オレは。やたら作為を盛り込んだ、強引な折衷形式をとってるな。
 本当に人気あるのか、このマンガ?」

 「一種のパロディーなんですよ。
 従来のジャンプが展開してきた、なんでもバトルにする(なにせ“ジャングルの王者ターチャン”まで戦ってましたからね!)独特の編集方針を踏襲しつつ、なにか新しいことをやってやろうという意欲作だと思うんです。」

 「この28巻なんか、山口貴由のパロディーまである。いいのか(笑)?
 蟻人間の王は、もろ『ドラゴンボール』、フリーザとセルをミックスしたデザインだし、対する会長ネウロは浦沢直樹の描くじじいの顔に天野喜孝的な肉体、大島弓子のチビ猫までどさくさに飛び出すし、なんか落ち着かないゴッタ煮風味だよな。」

 「アクションも、ネームも不自然極まりないです。
 その違和感が新鮮だと思うんですが・・・」

 「きみは毎週ジャンプを買ってる信者だからな(笑)。
 告白しとく。
 オレ、自分でジャンプを買ったことないんだよね。実家に居た頃は、毎週律儀に弟が買ってきてたし、学校へ行くと、原哲夫を心底尊敬しているバカがいたりして、タダ読み出来た。ネットよりも、もっと無料(笑)。
 オウム事件が起こるまで、都内の電車では大抵のマンガ誌は拾い放題だったしな。」

 「いい時代でしたね。
 冨樫義博といえば、ボクら世代には『幽遊白書』の人でして、編集と揉めて描く、描かないを繰り返しながら、いまだにやってるという。
 往生際の悪さなら江口寿史を越えるんじゃないかと。」

 おやじ、軽くうなづき、

 「既存の文法を踏まえたうえで、批評的に作為的にマンガを構築しようというやりくちは、みなもと太郎先生の『ホモホモ7』シリーズの昔からあるんだが、基本、ギャグマンガになってしまうんだよ。残念なお知らせですが。
 一個のマンガの中に複数の絵柄が乱立すると、読者の感情移入は統一を欠く。
 あと、ネタを仕込む作者は倍、消耗するわな。
 『HUNTER×HUNTER』がやたら休載することで有名になってしまった理由はそのへんにあるんだろうけれども。」

 「編集部のリクエストとして、“ドラゴンボール路線を継ぐものをやれ”というのがあったんじゃないかと想像できるんですよ。
 どう考えても生粋のひねくれ者の冨樫先生としては、素直にそんなオーダーに従う気にはさらさらなれなかった。
 そこで考え付いた、おのれのマンガ家エゴとの妥協案が、とにかく脱線しまくってやれ!・・・だったんじゃないかと思うんです。
 無制限パロディー許認可。
 オリジナルの『レベルE』とかじゃ、そこまで全開に出来ませんもの。」

 「なぁ。」

 おやじは、ふいに真剣な眼差しを投げかけた。

 「・・・なんですか?」

 「オレ達、今回随分真面目にマンガの話をしてないか?このままじゃ、BSマンガ夜話と同じ運命を辿りかねないぞ。」

 「ご心配なく。」

 スズキくんはニッコリ笑って、蟻人間としての正体を明らかにした。
 伸びた触角、硬いキチン質の皮膚。人類と本来相容れない、異質な生命。

 日頃修行を積んで会得し拳法を縦横無尽に駆使して闘いながら、古本屋のおやじは嘆息する。

 「まぁ、いいんだけどね。
 ・・・狼牙風風(ロウガフーフー)拳!!!」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月28日 (木)

山本直樹「この町にはあまり行くところがない」 ('97、ビッグコミックスピリッツ掲載)

 山本直樹はかなりうまいのだが、その理由が的確に説明されたことがないようだ。そこで、親切な私が諸君に教えてやろう。
 山本直樹は、見せ方がうまいのだ。
 紙芝居的なつなぎかたを決してしない。

 実際見たことはないだろうが、紙芝居はわかるね?自転車のおっちゃんがやって来て、近所のガキを集め、水あめを売りつけたのちに始まる。アレだ。
 こちら側に観ている子供たちが陣取って、語り手のおっちゃんがいる。自転車の荷台にセットされたフレームの中で絵が順番に入れ替わっていって、物語を進めるのは、おっちゃんの説明。
 説明者は、画面の外にいる。これは神の視点だ。
 神は物語の進行に対し、絶対的な権力を持っている。登場人物を生かすも殺すも神しだい。
 でも、神はだいたい甘チャンだから、たいていの者を救ってしまう。
 これに異議を唱えた人は、改革者と呼ばれ成功した。手塚治虫とか、そういう人だ。
 
 さて、山本直樹の最大の特徴は、説明ゴマが常に主観によって構成されているところにある。
 そうでない説明は、映画のテロップ的に、素っ気ない。
 画面の外にいる神が語りかけてくる要素は、極力排除される。これはつくりものっぽくないということで、つまりはリアリティーが保証されているということ。
 説明ゴマとナレーションの的確な連携により、観客席にいる筈の子供たちは、主人公の視点になって物語の空間を体験することができる。
 執拗に繰り返されるセックス描写。
 石井隆に代表される劇画との最大の違いは、主観の領域に滑り込ませることができるかどうか。
 いくら緻密にぬるぬるのおまんこを描写しても、所詮は紙に描かれたオブジェに過ぎない。
 これを主観、イマージュのレベルで伝えること。
 いささか類型に陥りがちにはなるが、この方法論を確立しただけでも、山本は相当偉かった。

 物語を見てみよう。
 架空の田舎町。まず、女子高生と大学生の情交の描写がある。いささかマンネリ気味、変態行為の一歩手前。
 この女子高生が主人公のさえない高校生を誘惑してくる。(なにしろ、彼女は彼より2cmばかり背が高い。このへんの設定は実にリアルでうまい。)
 一年前にラブレターを送って、明確にふられた相手が、なぜ。
 (読者には、冒頭のセックスシーンが開示されているので、これが何かたくらみのある行為だとすぐわかる。)
 ふたりはデートの約束をし、駅前の本屋で会うが、「この町にはあまり行くところがない」。
 本屋でスカトロ雑誌を立ち読みしている彼女のダッフルコートの下は、下半身、ハダカだ。
 「さわってみて・・・」で、まんこを撫でてみる。
 場所を変えて、道路を歩きながら、彼女のコートのポケットに手を入れて、まんこいじり。
 (ポケットの底が破いてあるのは、『亡き王子のためのハバーナ』にも出てくる、国際的な定番だ。)
 階段の多い、斜面に建てられた海沿いの住宅地。
 いじりっこするふたりの背後に、尾けてくる男の姿をさりげなく1コマだけ挿入。
 これは実は神の視点なのだが、映画的にさりげなく入れているので、読者が説明に辟易することはない。
 押し付けがましさは、嫌われますよってに。

 作者の意図は、主人公の視点から、読者にも彼女のまんこをいじらせることだ。ついでに、こっそりその指を鼻に近づけて、くんくん匂いを嗅ぐことだ。

 そして、列車に乗って、また、さわりっこ。
 微妙に空いている田舎の電車でなければ成立しないリアリティー。車掌や他の乗客の目を盗んで、いろいろするふたり。
 最終的に、個室のトイレに移動して、舐めたり、吸ったり、出したりするのだが、はめてはいない。尿をかけたりはするのだが。
 これもまた何か不自然な性行為の匂いを濃厚に感じさせ、起こっている出来事の不自然さを補強する演出をしている。
 で、着いたところは海岸。
 そこには、本当の彼氏の大学生が待っていて、これが実は手の込んだ痴話ゲンカの一環だとわかる。
 泥沼化したふたりの醜い言い争いは、俯瞰のロングショットで、大声で怒鳴りあう台詞もわざと小さい写植で張り込まれている。
 これは、起こっている事件にたまたま捲き込まれただけで、実のところ、当事者でもなんでもない主人公の視点。距離感の表現だ。
 この距離は、読者の持つ距離感とも等しい。ゆえに感情移入できるのだ。

 誰と誰が別れようが、くっつこうが、当事者でもあるまいに、知ったことか。
 
 痴話ゲンカ自体の大好きな女性全般とは隔絶した、優れて男の子的な感性がこの場面では有効に働いている。
 最終的に、ふたりは別れることとなり、大学生は東京に去るのだが、それで残された女子高生と主人公の距離が接近するわけではない。
 微妙な距離を保ったまま、女の子は帰宅し、男の子は立ち去る。味のある幕切れ。
 
 要はひとことでうまく説明できない。微妙な感じ。
 主観とはそういうものだし、あなたも今それを体験しただろう。
 山本直樹は、そう言っている。



 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月25日 (月)

「なぜ、ひとことで説明できないのか?」

 TVのアナログ放送が終了するそうだが、ウチはTVがないので関係ない。
 
 だが、ずっと疑問だったのだよ。
 なんでまた、そんな間抜けな真似をする必要があるのか。
 只でさえ景気不振が続き、巨大災害が発生して人心が動揺しているこの時期に、何を好き好んでデジタル化などという、ひと時代前の空疎なお題目に執拗に乗っかろうとするのか、日本政府。
 ひょっとして暇なのか?

 しかし本日、お昼にyahooニュースを見てたら、疑問は氷解した。
 あー、なるほど。
 なんで誰も、こういう分かり易い説明をすぐしてくれないんだろうか。

 「アメリカは既に2009年、完全デジタル放送に移行している。」
 

 なるほどー。
 こういうのが、わかりやすい説明なんですよ。みなさん、お願いしますよ。

 ところで、すかんち「恋のマジックポーション」のサビメロが、ベイシティローラーズ「サマーラブ・センセーション」の影響大であることに気づきました。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月24日 (日)

ルチオ・フルチ『ビヨンド』 ('81、FULVIA FILMS、パイオニアLDC版)

 フルチ残虐百連発。映画としての最低限の体裁を整えるのも怠って、暴走しまくる不自然極まるアトラクション。素直に云って素晴らしい仕上がりだと思う。
           ※
 (BGM、『ビヨンド』の自動ピアノ演奏。盲人がギョッとするアレが流れる。)

 ということで、今回は監督のルチオ・フルチさんに霊界よりお越し頂きました。
 どうも。

 -「ドウモじゃねェーヨ!!
 
俺に金を貸してクレ!!」

 
監督はとっくに故人となっているとお聞きしましたが、死後も金銭的にお困りで?

 -「ウルへー!!波平!!じゃりっパゲ!!
 地獄の沙汰も金次第、金さえありゃあの世(ビヨンド)はなんとかなる!!」


 確かに監督のキャリアを拝見しますと、芸術家というより、金稼ぎの為にしょうもない残虐描写をやり続けた職人という疑惑が濃厚ですもんね。

 -「芸術の為に映画を撮るのは、もっと偉い人に任せておけばいいんだヨ!!
 こっちは、生活がかかってるんだ!!ふざけんな!!
 毎日が無防備都市状態ですヨ!!リアル自転車泥棒ですヨ!!」


 それ、単なる窃盗行為ですから。
 『ビヨンド』はそんなさもしい男の最高傑作として、アメリカの顎の割れたおっさん(タランティーノ)も絶賛しているその筋では有名作品ですが、一体どんなお話だったのか?
 何度観ても話がわからなくなる、観終わる頃にはアタマが悪くなっている気がする、等々クレーム続出のストーリーを適当にご紹介しましょう。
           
【あらすじ】

 アメリカ。ルイジアナ州。
 かつて地獄の風景を描いた画家シュヴェックが、怒り狂った町民の皆さんに磔にされ惨殺された、曰くつきの呪われた旅館(事故物件)に、おばちゃんがひとりで越してくる。
 ここで何が残虐だって、このおばちゃん、女優・バレリーナ・ダンサー・作家・写真家・ライター・イラストレイター、日雇い掃除婦と若者が憧れる職業(サブカル系)に次々手を出して、ことごとくどれひとつ陽の目を見ず食い詰めて、このままでは生活保護を受けるしかない!
 相当にてんぱった危険な崖っぷち状態のところに、金持ちのおじさんの遺産として、この老舗旅館を譲り受けたのだ。
 したがって、改修費用なんか持っていない!
 水道屋に払うお金もない!なんて危険すぎる状態なんだ!

 その頃、町では地獄の門の入り口が開いて、脳の割れたおやじが多数、暴れていた・・・・・・。

         
 -「・・・って、オイ!!
 オマエ、わしの映画を馬鹿にしているダロ!!」


 いえいえ、どっちかというと、大好きですよ。
 無駄に痛覚描写を延々重ねるところとか、物語の整合性を無視してその場の勢いだけで話を強引に進めるところとか。
 監督の作品を観るたびに思ってたんですが、なんで毎回、あぁも悪意剥き出しなんですか?
 癒しブームって知ってますか?

 -「オレガ、“癒シ”ダ!!
   オレガ、“癒シ”ダ!!」


 確かに。
 ムチャクチャ無理やりな硫酸顔面溶かしとか、動物の本来の行動を完全に無視したタランチュラ顔面引き剥がしのち肉をクチャクチャの刑とか、なんか観ていて癒されるものがあります。
 “こういう残虐を観たかった!”っていう癒しですね。嫌だなぁー。

 -「オレも若い頃はいろいろ、あったんダヨ。
 ヴィスコンティに褒められたり、将来を嘱望されたりもした・・・。

 でも、さっぱり金にならなかった!!
 驚くほど、貧乏だった!!


 食い詰めたオレは、星の降る夜、ミラノ橋の下のドヤで心に誓ったんだ。
 この世を下品のどん底に叩き込んでヤル・・・!!
 お上品な奴らなんか、全員地獄へロケット便で直送してヤルゼ・・・!!」


 そういう感じが良く出てますね。
 今日は貴重なお話をありがとうございました。サインください。今なら、高く売れそうです。

 -「生きてるときにアガレヨ!!オレの評価!!
 ロメロはいい
ナ!!」

 まさに死人に口無しというやつですね。
 それに、あちらは真面目なテーマとかお持ちですから。映画監督の値打ちなんて、インタビューにどう答えるか次第なのかも知れませんね。
 今日はどうもありがとうございました。

 -「ギャラ寄越セ!!ギャラ!!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月23日 (土)

川島のりかず『殺しても生きている女』 ('86、ひばり書房)

【あらすじ】

 殺しても生きている女が、家に棲みついてしまった!
 絶好調、不条理の旗手・川島のりかず先生が贈る、微妙な恐怖劇場!


 平穏な家庭の軒先に出された資源ゴミ。
 新聞紙・週刊誌の天辺に括りつけられた一冊の聖書。 

 今泉家は五人家族。両親とふたりの子供。おじいちゃん。
 小学生の夕紀は、黒い学ランが良く似合う兄の俊が大好き。父が車で送るよといっているのに、兄と徒歩で通学することを選ぶぐらい。
 (単に父親が嫌いなだけかも知れないのだが。)
 しかし、この徒歩がまずかった。
 迂闊な夕紀は道路を横断中、暴走してきた乗用車に轢かれかける。

 「きゃあああーーーっ!!」

 そのとき、身を挺して助けてくれたのは、すぐ後ろを歩いていたアイラインのどす黒い若い女、小川真由美だった。
 暴走車はふたりをかすめて電柱に激突し大破。酒酔い運転のドライバーは、脳梁を陥没させて即死するが、幸い夕紀は無傷で済んだ。
 

 「あなたは、娘の命の恩人です。ぜひ、お礼をさせてください。」

 駆けつけた父親に懇願され、その夜今泉家へ招待される謎の女。
 ニヤリと影でほくそ笑んだのは、残念ながら、読者にしか見えなかったか。
 幸福な家族の食卓に積まれた山盛りのごちそうを、みるみる平らげていく不審な女に、家族は正直リアクションに困る。
 そういや、この女、アイラインが妙にどす黒い。
 瞼から眼下まで黒く隈取られ、まるでパンダだ。露骨に怪しい。

 
 しかし、命の恩人。

 読者諸君の予想通り、翌朝になってもその女は帰らなかった。
 咥え煙草で新聞を広げ、だるそうにテレビで朝のワイドショーを観ている。
 せめて会社に電話しておいた方が、と余計なおせっかいを焼く夕紀の母親に対し、

 「いいんですよ。あんな会社。」

 何気に、おそろしいことを言い放つ。
 どうやら、この女、期待される善人像とは大きく異なった存在のようだ。遅まきながら、その事実に気づき、疑惑を深める母。

 「奥さん、コーヒー淹れてくださらない?」

 居間に寝そべり、あつかましい要求をしてくる女。
 渋々持って来ると、

 「やだ!
 コーヒーっていったら、ケーキぐらいつけてよ!」


 憮然とし、聞えぬ振りをする母親にさらにとどめを刺すように、

 「奥さん!今夜はステーキにしてくださいね!」

 何者だ、こいつ。
 反骨精神溢れる夕紀の母親は、比較的穏健な手段で反逆の烽火を上げることを決意した。
 その夜。

 「なによ、これ・・・!天ぷらじゃない!!」

 「て・・・天ぷらもおいしいわよ・・・」

 状況の異常さにちょっと半笑いで諭す夕紀。
 その表情に、純粋にキレた居候女、テーブルをひっくり返し、いきなり全開で小学生の頬を張る。

 「・・・あぅっ!!」
 
 床に倒れ伏す夕紀。
 あまりに理不尽な暴虐ぶりに、比較的ダウナー系の母親が遂に立ち上がり、叫んだ。

 「でも、うちの家族は、肉が嫌いなんです!!」

 衝撃の告白であった。
 気勢を削がれた謎の女は、そのまま席を立とうとするが、母は被せるようにしごくまともな質問をした。

 「あなた、子供を傷つけて、それで平気なの・・・?!」

 表情も無く、母の顔を見つめる女。
 ユラリと蠢きながら、低い、乾いた声でこう言った。

 「・・・明日は、きっとステーキにしろよ・・・・・・。」

 
常軌を逸した相手に戦慄する母親。
 そこへ、酷く人の良い父親が帰宅。今のやり取りの一部始終を報告されて、さすがに呆れ果てる父。

 「エーーーッ?なんだ、そりゃ?!信じられんなぁ!!」
 

 床いっぱいに飛び散った天ぷらの残骸を片付けながら、妻は啜り泣いている。
 と、そこへ重苦しい重低音が響く。

 ドスッ。
 ドスッ。
  ドスッ。


 未だ怒りが治まらぬのか。あるいは、空腹に耐えかねるのか。
 あの、恐ろしい女が二階の床を踏みしめている音であった。
 思わず、顔を見合わせる夫婦。

 一方、ご手淫盛りの兄、俊の最近の密かな愉しみは、謎の女の入浴を覗き見すること。
 エロ妄想で脳細胞が張り裂けんばかりのティーンエイジャーの元に、正体不明でエロエロな二十代の若い女が突如上がり込んで来たのである。
 これは、もう、実家がフランス書院文庫と化したような、異常なシチュエーションと申し上げてよい。
 女の素性より、まず生殖器だ。乳房だ。本物だ。

 「アラ・・・ボク、覗いているの・・・?」
 
 シャワーを止めて振り返り、妖艶な微笑みを投げかける謎の女。
 婉然と両腕を伸ばし、さぁどこでも見てちょうだい、とポーズする。ますますもってフランス書院。
 義母の生着替え。叔母の柔肌が。黒い下着の女医。ピンクの蜜壷が糸を引く。熟妻。女子大生秘密の体験入学。
 まことにけしからんことに、この女、いいカラダしてやがる。
 目の周りも隈取りで真っ黒だが、まんこも同じく真っ黒けだ。

 遊んでるのだ。
 激しく遊んでやがるのだ。


 突如眼前に展開する、十八歳未満お断りの秘密の花園地帯に、喉もカラカラになった中学生は、思わず一歩前に踏み出してしまった。
 その手を掴んで引き寄せると、盛り上がる豊かな乳房に重ね、
 
 「ほら・・・あなたの好きにしていいのよ・・・」

 わかりました(即答)。
 浴室で、女の下の草叢に夢中で口をあてがい、噛んだり舐めたりしていると、気づいたおやじが飛んできた。

 「コラ・・・!!!
 セックスは大人にな・っ・て・か・ら・ッ!!!」

 
 意外と冷静な俊は、なおもチュウチュウやりながら、
 「・・・おやじ、説得力ねぇよ。
 だいたい、あんたも似たようなこと、やってんじゃん!」
 確かに。
 
 その場は水ぶっかけられて引き剥がされ、なんとか事なきを得たが、下半身は一度火が着きゃ油田火災の故事の如く、その晩から俊は女の居室へ通いつめるようになり、どんどん異様に痩せいった。

 最早、かつての爽やかな学ランのイメージはない。
 頬はこけ、瞳はギラつき。ざんばら髪が伸び放題。
 幽鬼だ。
 性の悪魔に魅入られた幽鬼のようだ。
 
 学校も勝手に休んで、連日連夜の餅つき大会。自主参加。
 
 このままでは、息子の人生、本格的にダメになる。
 焦りまくる両親。
 「い・・・いったい、日に何発やればああなるんだ・・・?」
 「なによ、あたしは女としての魅力に欠けるっていうの・・・?」


 膠着化し、泥沼のベトナムの戦況を呈してきた我が家を見るに見かねて、母親は警察に通報。些細な異常事態に遂に国家権力が介入。
 二名の実直そうな警察官が、一般家庭にやって来た。

 「事情はわかりました。
 じゃあ、この方は娘さんの生命の恩人じゃないですか?」

 
状況をまったく理解していない。
 
すると、女が、

 「そうなんですよ。
 わたし、ときどき遊びに来てるだけなのに・・・」


 凄い大芝居で嘘泣き。
 あくまで被害者面をする女に、地方出身者の真面目な警官たちはコロリと騙され、引き揚げようとする。
 慌てて呼び止めようとする夕紀。

 「待って!お兄ちゃんは、あの女に・・・」

 「シッ!!それだけは、言っちゃダメ!!」

 堅く口止めする母親。
 こればかりは家族の最大の恥。漏らしては却って状況が不利になる。
 いかにも善人然とした人のいい笑顔で交番へ引き揚げていく巡査たち。外部から援けを呼ぶのも失敗してしまった。

 居間では、金属バットを持ち出した俊がぶちキレていた。

 「ギーーーッ!!
 ギーーーッ!!
 おまえら、今度こんなふざけた真似しやがったら、ギーーーッ!!
 ギタギタに刻んで、太平洋の真ん中に捨てて来てやるぞ!!
 ギーーーッ!!!」


 テーブルを破壊し、テレビを叩き壊す俊。
 その様子を、煙草を飲みながら、ほくそ笑んで見ている謎の女。
 おじいちゃんも、腰を抜かして失禁してしまった。

 埠頭。深夜。
 停めた車の中で。
 対策を考えあぐねた父親は、裏で女に金を渡し、お引取り願おうとするが、鼻で笑われ札束(五十万見当)を叩き返された。

 「フン!笑わせるんじゃないわよ!
 わたしは、お金なんかいらないわよ!
 こうなったら、意地でもあの家から、出て行かないからね!!」


 「貴様、いったい何で俺の家庭を壊そうとするんだ?!」

 怒り狂う父親は、無意識に女の首を絞めようとするが、通行人が現れた為、かろうじて思いとどまる。
 通りかかった酔っ払いのアグレッシブな中年の港湾労働者、酒臭い息を吐きながら、

 「おっさん、おっさん。
 短気は損気ってねー、へっへっへー」


 そういえば、こいつも咥え煙草をしている。仲間か。
 とっさに身構える父親だったが、相手は左手に焼酎ビンをぶら下げて、鼻歌を歌いながら行ってしまった。

 苛立ち、遂に限界を越えた家族は、急遽家族会議を開催。
 女の殺害を本格的に検討する。
 刃物を使用すると女の流す血で家屋が汚れる為、殺害手段は絞殺、もしくは撲殺で。
 女、もしくは俊の頑強な抵抗が予想されるので、母親は独身時代かつて勤めた病院のルートから、クロロフォルムの入手を行なうことに。

 そんなある日、母親は近所でガイジンに呼びとめられた。

 「アナタは、神を信じマスカー?」
 
 瞬間、激昂する母。
 「フン、笑わせないで!
 以前は聖書を読んでいたけど、神なんてどこにいるの?
 いるなら、どうして、わたしんちがあんなになってしまったの?」


 冒頭、聖書をゴミに出したのがこいつだったことが判明。
 宣教師をどついて立ち去る母の心は、どす黒く、穢れていた。まるで、あの女の内面が感染したかのように。

 (なぜ、あの女のような人間が出来るのか・・・。)
 部長職にある父親は、丸の内のオフィスビルから眼下を往き交う人の波を眺めていた。
 (終戦直後の焼け野原から比べれば、私も日本も豊かになった。
 不思議に思うのは、なぜ、人の心も豊かにならなかったのだろう。
 日本よりまだ豊かなアメリカでは、凶悪な犯罪が増える一方だというではないか。
 豊かになればなるほど、人の心は貧しくなっていくのだろうか・・・。)

 部下が書類を届けに来たので、部長は思考を断ち切らざるを得なかった。


【解説】

 ここまでが前半。
 後半部は、殺しても死なない悪魔的なモンスターと化した女と、家族との攻防戦が描かれる。

 この存在を(例えば誰かの台詞ででも)超自然的なものだと定義づければ、話の据わりはよくなる筈だが、川島は断固としてそれを拒否する。
 正体不明の、純粋な悪意のメタファー。
 最終的には、主人公の夕紀すら女に金属の鉄棒をねじ込む殺人行為を働くのだが、それでも女は死なずに蘇る。
 海に沈められても、列車に轢かれても、滅びず家族に付き纏ってくる、一貫したひたむきな姿勢は、なんだか輝いてみえる。

 少なくとも、隔離され病人食を食うだけでセックス中毒が治った、学校に行かせろと無理な主張をする長男・俊よりは、自分に正直に生きていると言えるだろう。

 母親がその後聖書を買い直したという話は聞かない。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年7月18日 (月)

レイ・ハリーハウゼン『シンドバッド虎の目大冒険』 ('77、コロンビア)

 友よ。
 北方謙三よ。


 俺たちは、こういうぬるい映画を観て育ったのだったなぁ、友よ。
 ひさびさに観たが、まさか113分あるとは知らなかったぞ。
 まったく、長いよなぁ。
 友よ。

 そのとおり。
 お前の意見は正しい。
 映画編集のプロじゃなくても、この映画、はしょれるカットが幾つもある。
 冒険活劇にしちゃあ、やたらテンポが悪くてイライラする。

 テンポが悪くなる主な理由として、主人公のグループが無駄に人数多すぎるというのがあるようだ。
 どんな怪異が襲ってきても、十人くらいが同時に驚き、団体行動する。
 馬鹿の集団にしか見えない。もしくは、川口浩探検隊か。
 ・・・あ、同語反復だったか。
 失礼を詫びるぜ。
 友よ。

 シンドバッド・シリーズの最高傑作はやはり『黄金の航海』だと思うが、その点、あれはテキパキ進むからなぁ。
 「未知の世界を怖れる者は、闇に怯える愚か者だ!」の名セリフもあるし。
 あと、なんたってキャロライン・マンローがヒロインだからな!
 
 しかも、奴隷役
 
 とびきりいい女が出演していて、さらに、その女が奴隷役であるなら、これ以上、映画になにを望むというのか?

 答えてみろ。

 どうだ?

 だが、ジェーン・シーモアとて悪かろう筈がない。
 イエス。イエス。
 確かに、『007死ぬのは奴らだ』は酷い作品だった。
 だがあれは、あの黒人が全面的に悪いのだ。クカマンガだっけ。(うろおぼえ。)奴だ。

 『ある日どこかで』を想い出そう。
 おぉ、最高ではないか。
 しかし、あちらはビクトリア朝の英国が舞台だったから、登場シーンの大半は普通に衣裳を着て芝居していたな、って。

 ・・・当然だけどな!

 (ハリーハウゼンの特撮の仕上がりから普通に考えれば最高作、
 『七回目の航海』のパリサ姫も同様だ。
 お陰で彼女は、普通のヤンキー娘にしか見えなかった。)

 そこへいくと、こちらは、いつでも水着だぜ。
 アラブのお姫様役なのに、常時、水着着用。扱いが奴隷以下の最低レベル。
 毎日が芸能人水泳大会。

 そして、この映画屈指の名場面、ハイパーボリアの滝壺で見せる、側面オールヌードは文句なく素晴らしい。
 映画はやっぱり、こうでなくっちゃ。
   
 これがわからなくて、映画のなにを理解しろ、と言うのか?

 
 友よ。
 北方謙三よ?


 かつて映画が、中学生でも入れるキャバクラだった時代があったのだ。

 最近、サービスの悪い店が増えたよ。嘆かわしいことだ。
 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月16日 (土)

永松健夫『黄金バット・なぞの巻』 ('79、桃源社版)

 ただひたすらに続いているだけの物語の不思議。

 冒険物語の本質とは「ともかく終わらない」ということであって、教訓めいた言質が飛び出すとしてもその連続性を裁ち切るものではなかった。
 新奇な舞台設定、奇抜な登場人物、あッと驚く必殺技や驚異の新兵器、有史以前の怪物の登場などは、あくまで「物語を面白くする」という目的に奉仕するもので、その目的たるや、ただただ、ひたすらに連鎖、逆転を繰り返しどこまでも続いていくこと。

 黄金髑髏の怪人が終始狂った高笑いを響かせる、およそ荒唐無稽を絵に描いたが如き、俗悪極まるこの不自然な物語に幾許かの価値があるとしたら、それは物語の本能に極めて忠実である点に於いてでなくてはならない。

 あぁ、表現がまどろっこしい。
 業界の古典として広く知られるこの作品、実際読んでみると、不自然さを寄せ集めて接ぎ木したかのような、狂い果てた内容であった。


【あらすじ】

              1.発掘された壷のなぞ

 富士山近くのS県T村。
 お百姓が地面を耕していると、畑から旧い壷が出土した。
 「なんだんべ、これ?」というので、学校の偉い先生に見て貰うと、表面に絵文字の刻まれた「おおむかしのもの」という判定だった。これでは、なにもわからない。
 早速、大鳥博士を団長とする遺跡発掘隊が編成され、一帯を封鎖し大掛かりな発掘作業が開始される。

 「おや、地面に大きな穴があるぞ。」

 現地へ到着し、発掘現場を見廻ってみると、人間ひとり入れるような大きな洞窟が口を開けていた。
 いのち綱を腰に捲いて、穴に入ってみる決心をする、奇特な若手。倉田助手。
 「大丈夫かよ、おい」と適当な心配を垂れつつ、手助けする心無い同僚達。
 まるで現代社会の縮図。

 それはかなり深い縦穴で、ようやく底に着くと、突如暗闇から三角頭巾の怪しい風体の連中がワラワラと現れ、襲い掛かってきた。
 「うわっ、なにをする?!」
 殴り倒され、縛られ、拉致されてしまう倉田助手。

 ---そして、助手の突然の失踪に安全管理、セキュリティー面で不備がなかったか、管理者大鳥博士の責任を問う不毛な議論が大学内部で捲き起こっていた頃。

 いち早く発掘され、今回の発掘作業の端緒となった例の「おおむかしの」壷が、収蔵されていた帝都大学博物館から強奪される。
 犯人は髑髏面の黒装束、通称黒バット。
 紛うことなき大悪人である。


 「・・・だ、誰だ、お前は・・・?!」
 「人呼んで、悪漢黒バット!!
 さ、さ、おニイさん、悪いコトしまショ!!」


 黒バットの操る蝙蝠の群れに幻惑されるうち、賊をむざむざ取り逃がす無能な警備員達。
 怪人は高笑いを響かせて、壷を片手に意気揚々、回廊の暗闇に走り去った。

 ---かくて、警備体制の根本的な問題点指摘と、今後の改善策について国会でサルの議論が繰り返されていた頃。

 ここ、N県K村の、はまだの屋敷では。

 「あやしい奴に、人形を盗られてしまったのです!」

 なんと、既に盗まれていた。
 
頭を掻く、はまだ氏。ノック府知事型の完全つるっ禿げ。
 満員列車に乗っていて、家宝の大事な人形を盗まれたという。正確には、盗まれたというより、髑髏づらして擦り寄って来た怪人黒バットに恫喝され、巻き上げられたという。まったく、お粗末としか云いようがない顛末。
 渋く、はまだの馬鹿げた話を聞いている中年男。大木探偵。有名人。
 この世界のホームズ的な存在だと都合よく理解されたい。
 それを証拠に、たちまち、事件の真相を見抜いた大木探偵、

 「ぼくは、ひやといにんぷに化けますから、雇ってください。
 息子は、ふろうじになります。」


 クリクリした目を輝かす、助手の清潔な少年探偵まさる。この話、助手が多いな。彼は探偵の実の息子。死んでも、親の責任で済む。
 かくして命知らずな親子は早速、事の発端、S県T村に飛ぶ。
 エ・・・なんで飛んだかって?

 もう、これは神の如き探偵の洞察力が、遥か県ざかいを越え事件の本質を見抜いたからだ、としか申し上げようがないではないか。
 いいではないか。委細些事などは。そんなことじゃ、偉い人になれませんよ。あーた。
 

 現地でスタッフとして雇用され、日払いの給与で、危険手当て一切なしの過酷な労働条件で働き始める大木探偵とその息子。
 これが家業とはいえ、辛いものは辛い。
 ダンディーな口髭がトレードマークの都会派探偵は、たちまち酒焼けした薄汚い中年男に変貌し、息子はしらみ頭で学童服も引き破けた薄ら馬鹿の小僧になりきってしまう。
 凄い探偵能力というか、捻りなし。そのまんまの、ど直球である。

 そして、また。
 
 「先生、あやしい人形が出土しました!」

 何体あるんだ、この人形は。
 この高度に哲学的な問題に、大鳥博士が鬢の油をてからせた頭を悩ましていると。
 黒メガネに鳥打帽の、不審な男が人形をまんまと盗み出し、バイクで逃走。誰だ、こいつ。
 事態をなぜか予測していた、酒焼けした薄汚い中年男が、薄ら馬鹿の小僧を連れて徒歩で追跡を開始。
 コツコツ歩くと、ごく近所に犯人の隠れ家があった。(表札に「隠れ家」と書いてある。)  

 「へい、おかしら!人形を持って参りやしたぜ」

 二階の小部屋で馬鹿笑いするおかしらは、当然ながら黒バット。
 人形マニアなのか。

 「フフフフ・・・この壷や人形に書かれた、おおむかしの文字を解読すれば、たからの謎は全部わかるぞ!」

 違った。
 埋蔵金方面の好き者だったのか。

 「解読は頼んだぞ、モモンガーのお熊婆さん!」
 「・・・イヒヒヒ、この文字が解けるのはこの世であたしだけだからね!!」


 敵の手下、その1。モモンガーお熊。
 薄汚い因業婆ァ。
レジでお釣りを誤魔化して持ち去ってしまうような大悪人。
 モモンガーとは動物のことではなく、異教の神らしい。そいつを昼夜崇めて信奉している。危険極まる人物だ。
 
 「くそッ、そうはさせるか!」

 以上の会話を屋根に登って聞いていた、酒焼けした中年男。なにをとち狂ったか、単身で一味の真っ只中へ乱入。無論、徒手徒拳。男らしいにも程がある。

 「うぎゃッ!!」

 探偵、モモンガーを組み敷いて人質に。一見、見事な老人虐待。

 「なにをするんだい!!
 あたしゃ、ただのばばあと ちがうんだよ!!」


 逆上し訳のわからないことを口走る老婆に正義のチョップ一閃、人形を掴み取ると二階の窓から飛び出す大木探偵。ジャッキーも真っ青の生命の無駄遣い。
 そこへバイクを盗んだまさるが突っ込み、あわや交通大惨事かと思ったら、片手で荷台に掴まり逃亡を図る探偵。物理法則を完全無視。もう、気持ちのいいくらい。

 「♪盗んだバイクで、ゴ、ゴーゴー!!」

 バックに流れる青春のメロディー。ジャンボ尾崎の歌唱が冴える。
 物凄い超人的な活躍を見せる大木探偵だったが、その後したことは、110番への通報のみであった。
 こうした冒険物語に登場する悪役が、警官隊の包囲によりあっさりお縄になるなら苦労はしない。
 パトカーが到着する頃には、アジトはとうに裳抜けのから。
 どころか、悪知恵の廻る悪人ども、木造建築に放火して逃亡。まさに行きがけの駄賃という奴。
 まさるの父親に対する絶大な信頼は、この日を境に、ちょっと薄らいだ。

      
    2.パンイチでライオンに跨る髭男

 舞台変わって、横浜。
 いしだあゆみも、不幸顔で歌ったヨコハマ。撞木反り。それは横ハメ。

 倉庫街に忍び寄る怪しい影が。
 なにせ、長さ十数メートルの櫓のような梯子を担いだ集団だ。しかも全員、三角頭巾を着用。先陣切るのは、黒バットその人。
 いくら無能でも警備員が気づかぬ訳が無い。
 しかし気づかれたと見るや、

 「ソレッ、簀巻きにして運河へ放り込んじまえ!!」

 まったく是非もなく、流れる水にドブンドボン。 
 非情だ。
 非情すぎるぜ、黒バット。

 かくて一目散に倉庫へ闖入する窃盗団。なにを盗んだかってェと、これが実のところ、よくわからない。ごめん。シルエットから推し量るに、何かの建設資材みたいなもの。
 黒バット氏の言葉をそっくり借りるなら、これぞ、

 「ブルタンクのもと」

 「なんだそりゃァ?」
 ご尤も、ご尤も。汗顔の至りでありますが。しかし。
 お気づきの通り、この物語は細かい設定の説明などなしに突っ走る、いわば銀蝿一家のような男らしい生き様に溢れておりますからして、筋道立った解説などはあとから台詞で適当に補完されればまだマシな方、投げっぱなしの謎なら星の数。

 見事ブルタンクのもとを手中に収め、黒いトラックに乗り逃亡を図る黒バット団。市街地を抜け、厚木方面から山道へ。
 追ってきた警官隊のトラックに対し、

 「それーーーっ、石を落として道を塞げ!!」

 おりしも隧道を抜け、峡谷にかかる橋に差し掛かったところだったから、たまらない。
 無惨にも善良な警察官多数を乗せたまま、ひき潰され、奥深い谷川の底へ転落していくこの世の地獄絵図。カサンドラクロス状態。
 非情だ。
 非情すぎるぜ、黒バット。


 大量殺戮をあっさりやってのけた一味は、富士山裾野に隠された秘密のアジトへ。

 「よし、全員無事戻ったな。
 人数を数えよう・・・アレ、ひとり多いな!」

 無念そうに進み出る大木探偵、三角頭巾を捲り上げると、無念そうに、

 「よく見破った。あっぱれだ、黒バット!!」

 あっさり捕まってしまう。
 この人物、とにかく観念しやすい性格のようである。

(つづく)
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月11日 (月)

『ゾンビ映画大マガジン』 ('11、洋泉社)

 巻頭座談会、ザック・スナイダー『エンジェル・ウォーズ』を「誰が喜ぶんだよ、あんなもん!」と切り捨ててくれただけで充分価値がある。
 映画評論とは実のところ、これに尽きるのであって、他にはない。
 好悪を明確に表明すること。
 尤もらしい説明なんか、後知恵でいくらでも出来るだろ。腐れ暇人が。

 だいたい、ザックには俺も云いたいことありまくりで、つまるところ、「頼むから、一回殴らせろ!」。
 そもそも、今初めて名前を打ってみて気づいたが、なんでお前はシュナイダーじゃなくてスナイダーなんだ?
 語呂が悪いにも程がある。
 ・・・ということで。

 死ね、死ね!死んじまえ!
 直ちに腐って死んじまえ!
 てめえのオフクロは今頃、地獄で尺八してるぜ!!



 ・・・さて、心落ち着けて本編を読むか。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月10日 (日)

レイ・ハリーハウゼン『SF巨大生物の島』 ('61、コロンビア)

 世界有数の、午後のTV放映が似合う映画。

 決して面白くない訳ではないのだが、過剰にのめり込ませてはくれない。適度な緩さと、何故か最後まで観てしまう持続力のポテンシャル。
 ぐだぐだした物語の展開にいい加減飽きた頃に、インサートされるレイ先生(ハゲ)渾身の本番行為。つまりは特撮。ここだけ、突然本気度が上がるのでついつい見入ってしまう。
 構造的に、まだピンク映画流れでドラマ本編が残存していた、昭和末期のAVみたいな感じだ。

【あらすじ】

 1865年南北戦争、リッチモンド攻防戦。
 南軍の捕虜になっていたハーディング大尉、その部下の自由な黒人ボブとヘタレの若者ジョニーは、従軍記者の偏屈ジジイを伴い、大型気球で戦火を逃れ、決死の脱出を試みる。捲き添いになる可哀相な南軍兵士一名。
 彼らはアメリカ史に残る巨大台風の影響を受け、進路を見失い、大陸を飛び越えて太平洋へ。(その大きな原因として誰一人気球の運転に熟達した者がいなかった点が挙げられる。)
 この間、碌に食糧もなく飲み水にも事欠く有様だった筈だが、全員ジッと我慢していたのだった。
 やがて、ガスの抜けた気球は降下始め、砂袋を捨てるわ、玉袋を干すわ、最終的にゴンドラを切り離すわ、大騒ぎ。眼下に広がる海は大時化で、ビル何階建てクラスの大波が荒れ狂っているのだから、こりゃまぁ仕方ない。
 もう駄目か、と思われたとき、前方に見えてくる陸地。
 やった、助かった。でも、帰れない。

 彼らが辿り着いたのは、万事おっさんに都合がいい神秘の島だった。なぜ、こんな島が存在するのかさっぱり解らない。
 まず、海岸にいるのが巨大なカキ。通常の二十倍くらいのサイズがある。

 「おい、美味いぞ。喰ってみろ」

 「・・・ボクは、貝類が苦手なんです・・・」


 などと、おっさんとジョニーの気の抜けたやり取りがあって、すっかりリーダー風を吹かせ始めたハーディング大尉、いきなり、火山に登ろうと言い出す。
 島の中央には、絵に描いたように(本当にマット・ペインティングで描いてある)真っ黒い煙を噴き上げる、かなりテンション高めの活火山が一個あり、こういうジャンルにやたら詳しい不毛な人生を送っている哀れな人からしてみれば、あぁコイツが最後に大爆発してジ・エンドなのだな、と容易に察しがつくのであるが、とにかくそこへ登って周囲の様子を見ようよ、ということだ。
 原作、ジュール・ヴェルヌ。
 『十五少年漂流記』でもブリアン少年が同じ手口でリーダーの座を確保していたが、とにかく主導権を取るには、人より高いところに登れ。夢も希望もない意見だ。
 で、山に登ると、山羊の群れが。

 「捕まえろ!
 これでミルクもチーズもゲットだぜ」


 ポケモンより捕獲が簡単な山羊たちを掴まえ、意気揚々引き上げる一行。しかし島の周辺は他に陸地の影もなく、その方面の成果はゼロだった。
 その夜、黒人は星に祈った。
 「女、ください。
  このままじゃ、ホモにでも走りそうだ!」


 翌朝、海岸にパンツ一丁の若い女が、保護者のババアと共に打ち上げられた。
 沖で豪華客船が難破したらしく、逞しい船員も流れ着いていたが、ソイツは顔面を水に浸けて既に窒息死。おいしいものだけ、厳選素材。
 こいつはラッキー、と早速飢えた男どもが集団で忍び寄ると、突如襲い掛かってくる馬鹿でかいカニ。

 「うわーーー!!」

 胴体を挟み上げられた黒人、ついでにオチンチンでもチョン切られんじゃないかと怯えていたら、大尉の陣頭指揮のもと、槍で甲羅を裏返し。
 ちょうどいい具合に、その場にあった間欠泉の噴き出る温泉プール(ここは火山島なので一応納得)に突き落として、見事巨大なカニが一杯、茹で上がった。
 あとは、やし酒飲んで大宴会。
 新参の女二名も加わり、飲めや歌えやどんちゃん騒ぎ。
 
 「おい、喰ってみろ!
 カニの肉はバターみたいに柔らかいんだぞ!!」
 
 「いや・・・あの、ボク、実は甲殻類も苦手でして・・・」


 どうやら海鮮系がとことん駄目らしい若手ジョニー。涙目。
 だが、なにが幸いするか分からないもので、そのういういしいヘタレっぷりに母性本能をくすぐられたらしいパンイチ女。ふたりは附き合い始める。

 そんなこんなで、今日も今日とて人目を忍んで山でデートしていると、今度は馬鹿でかい蜂が襲ってきた。
 巨大化のサイズは、どうも生き物によってかなりアバウトな設定らしく、今回のハチは全長5メートルくらいある。

 「どんだけーーー!」
 
叫びながら、目の前の洞窟へ逃げ込むふたり。
 息せき切って逃げ延びた幸運を喜び、祝福の熱いキッスを交わす。その眼前に、なんとも異様な光景が。

 「なんだ、コレ・・・?!」

 そこで見たのは、洞窟の奥に隠された潜水艦の発着ドックだった。
 停泊している、微妙にディズニー映画に版権を配慮したらしきデザインの、お馴染みのアレ。
 原作、ジュール・ヴェルヌ。
 「これって・・・?」
 「アレよ!間違いないわ」
 「でも、なんでまた、こんなところに・・・」

 その頃、海岸の大尉一行は、通りすがりの海賊船の襲撃を受ける。
 からくも応戦するも多勢に無勢、勝ち鬨を挙げて迫り来る凶悪極まりない海賊の乗る船の舷側に、突如、爆発の黒い煙が!
 あれよあれよ、と見守るうち、みるみる沈んで海の藻屑と散る海賊一味。

 「・・・なんだ、なにが起こったんだ?」

 混乱する一同の前に現れたのは、背中に大きなホラ貝を背負って、シャコ貝の仮面を被った怪人物であった。

 「ハロー」
 その男は厳格なクィーンズイングリッシュで挨拶した。
 「あの船は目障りなので、爆薬を仕掛けてふっ飛ばしてきた。もう危険はないので、安心して欲しい」
 
 「だ・・・誰だ、あんたは?」
 息を呑んだ大尉が訊いた。

 男は仮面を脱ぐと、日焼けした笑顔を見せた。

 「わたしは、ネモ船長。
 この島の生物が巨大なのは、みんな私のバイオテクノロジー研究の成果なのだよ!!」


 「エーーーッ?!これって、そういう話だったのーーー?!」
 驚愕する一行。

 「経済の根幹を変えなければ、戦争はなくならない。
 食糧問題を解決すれば、人々が争い合うこともなくなるだろう。
 そういった意味で、なぜかH・G・ウェルズの後発のアイディアを勝手にストーリーに織り込んで出来た映画がこれなのだよ!
 誰か、脚本段階で突っ込んでやれよ!
 この映画、絶対おかしいって・・・!!」

 ・・・その瞬間、溜まりに溜まったマグマの怒りが火を吐き、絶叫する登場人物全員を飲み込んで爆発し、神秘の孤島は太平洋の海底深く没し去ったのだった。
 
 暗い海の底で、数億年生きてきた巨大オーム貝が一部始終を見守っていた。
 が、そのうち飽きて、駅前のパチンコに行った。
 今日は出玉解放デー。


【解説】

 上記「ホラ貝背負って、シャコ貝の仮面を被った怪人物」というネモ船長に関する記述は、映画に即した、まったく真実の描写である。
 私は、思わず目を疑った。
 この恐るべき破壊的なセンスの無さこそ、この映画の最高の見所である。本家『海底二万里』や後の『アトランティス・七つの謎』も同様だが、ネモ船長の出て来る映画に碌な物はない。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月 5日 (火)

井上一雄『バット君』 ('47、漫画少年連載)

 よいマンガだと思う。
 
 なんとも自由でのびのびしているのがよい。
 劇画の手法が導入されてからの野球マンガは、主人公を襲う貧困も特訓もぐんとリアルで、だからこそ掴み取る勝利にも一層の価値があるとされたが、
 ちょっと待て。
 何か根本的に考え違いをしていないか。
 所詮、たかが野球ではないか。

 スポーツの凄さ、勝負事の厳しさを描くのなら、同様に野球の楽しさ、素晴らしさを広く世間に知らしめていかねば、表現として片手落ちではないだろうか。

 まさか野球が楽しいだなんて。

 球技全般が大嫌いで、スポーツ中継を憎んですらいる私がそんな感想を持つとは、実にいい加減で申し訳ないのだが、本当だから仕方ない。
 それを可能にしているのが、井上一雄のくせのない上品な絵柄である。
 泥臭さのまるでない、戦前に東京の出版社から出た児童マンガに特有のあの絵。のら犬黒吉のクリエイターであるスイホー・タガワや、大城のぼる、『少年南海記』の頃の杉浦茂やなんかに共通する、品のいいあたたかい描線。

 出てくる人物は基本的に善人ばかり。盗みを働いた少年はすぐに改心するし、それを見守るおまわりさんの視線がこれまた優しい。嘘みたい。
 暮らしは貧しいが、少年が貰った石鹸で、家族は仲良く洗濯なんかする。父親なんか、腕まくりで物干し竿にいっぱいの洗濯物を干している。母さんは、たらいで洗濯板だ。背景にはいっぱいの青空。
 ニッポンはこれでよかったのでないのか。
 いったい、どこで間違えてしまったのか。


 そういうわけで、子供がのびのび野球に打ち込むこのマンガは、現代では、ちょっとした衝撃作となりえているのである。
 ちなみに、この作品、わが国最初の野球マンガとして有名で、かのテラさん、寺田ヒロオ氏が原点として惜しみないリスペクトを捧げている。(私が今回読んだのも、テラさんによるリプリント版である。)

 バットくんは、ホームラン数を見事当てて、川上選手にサイン入り赤バットをもらう。
 プロ球団とファンとの健全な関係に、目を疑うばかりだ。
  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月 3日 (日)

川島のりかず③『恐ろしい村で顔をとられた少女』 【来たのは誰だ】 ('85、ひばり書房)

 爆風。
 スッ飛ばされるヅラ。
 
 「なんだ・・・なにが起きたんだ?!」

 叫ぶウンベル総司令の目の前で、ビルディングが倒壊していく。
 自由の女神の首が吹っ飛んできて、道路に転がった。

 首都圏一円に届く巨大な光の柱が、漆黒の闇夜に立ち上り、輝いた。

 旋風が幾重にも捲き起こり、連続で窓ガラスを破る。
 バラバラとコンクリートの破片が降り注いで、軒並み横倒しになった車輌のボディを叩く。
 頭を庇って蹲る兵隊達を鼓舞しながら、ウンベルは崩壊するビルを見つめた。

 「これほどまでに・・・やつの・・・・・・
 のりかずの力は・・・・・・」

 轟音と怒号が画面を覆い尽くす。

[タイトルバック] 黒地に真紅の筆文字が浮かび上がる。

 「怪奇ハンター」第三話、六回 【来たのは誰だ】

 出演 真行寺君枝 
     マリア四郎
      
     左文字 右近
     大河内伝次郎

 脚本 犬

 演出 元ジャンクハンター吉田

 タイトルエンド、「ジャンクハンター」の文字がクシャッと潰れて、丸まる。
 浮かび上がるTBSの文字。(提供・東京ビジネススクール。)

[シーン・18] 俯瞰。崩壊し、炎上する首都圏。
 巨大な真っ黒い影が崩れ落ちる高層ビルの上を飛び回る。
 世にもおぞましい、喉を締め上げられた鶏のような醜い悲鳴が甲高く鳴り響く。

 飛び過ぎる自衛隊のヘリ。
 警察無線。鳴り響く警報のサイレン。

 本編とまったく関係ない美少女の回想の声、流れる。

(ナレーション)
 「それは・・・この世の終わりは、あまりにも突然にやって来ました。
 私たちはどうすることも出来ず、ただ見守るばかりでした。
 全天俄かに掻き曇り、この世の終わりを告げる銅鑼の音のような、不吉な響きが・・・」

 S.E.(ボクシングのリングサイド・ゴング)「カン、カン、カン」

[カット切り替わる。スタジオ内]

 怒り狂う美少女。
 「イメージ違ぁーーーう!」


 S.E.(パックマン)「ピロピロピロピロ」

 「・・・ますます、もって遠くなっちゃったよ。どういうことだよ。
 そもそも、やる気はあるのか。根本的に。
 まず、そこを確認しようよ。あたしとお前。」

 S.E.(11PMのオープニング)「♪シャバダバ、シャバダワー」

 美少女、天を仰いで深く嘆息する。

 その瞬間、スタジオの壁をぶち破り、真っ黒い巨大な影が突っ込んできた。
 絶叫と共に一撃でひき潰される美少女。
 黒い影、エメラルド色の熱線を放ち、周囲を薙ぎ払う。連続する爆発と悲鳴。
 
 TV局のいまだバブル全開な建物が炎に包まれた。

[シーン・19]

  地下室へ続く、暗い階段。
 踏みしめるスズキくんの足。古い木のステップは、ギシギシ不快な音を立てる。

 その後ろで、携帯を握り締めた黒沢刑事、大声で怒鳴っている。

 「エ・・・?!
 だから、何がどうしたんですか、長官?
 ハァ・・・?!首都圏に謎の円盤群が飛来・・・?!
 攻撃を受けている真っ最中ですって?!」


 振り向くスズキくん。
 唇に人差し指をあてがい、“黙れ”のジェスチャー。

 腐臭はますます強くなり、鼻を捥がれんばかり。手にしたLEDの懐中電灯(震災後に購入)が放つ光は弱々しく、前方の視界はかなり暗い。
 階段の終端は、そのまま地下室の出口に繋がっており、扉は見えない。
 壊れているのか、外されたのか。あるいは、元々存在しなかったのか。
 影が黒々とした口を開け。

 だが、その奥に、確かに何かの気配があった。

 ブシュー。
 ブキュー。

 不規則な呼吸音だけが、低く響いてくる。

 スズキくんのこめかみを冷たい汗が伝って落ちた。

 「・・・だから、長官!
 事態の収拾がわれわれの双肩にかかっている、って言われましても!
 目下、現場は非常に取り込んでいる状況でありまして・・・」


 大声で携帯で話しながら、黒沢、何気ない日常動作で階段をツツツと降りた。
 地下室の中へ、ひょいと消える。

 「・・・・・・!!」

 相棒のあまりの無謀な振る舞いに凍りつくスズキくん。
 小声で呟く。

 「エー・・・これは、アレだ、携帯電話をかけている人間が往々にして周囲を見落としがちになる現象、すなわち現代病の一種だナ・・・。
 ボクはこれを“地下室症候群”と名付けようと思うけれど、流行るかしら」

 「ギョエエエェーーー!!!」 

 突如、黒沢の魂消る絶叫が響き、パーーーン、パーーーンと乾いた拳銃の発射音が鳴った。
 
 「黒沢さん!!」

 スズキくんが慌てて腰を浮かした瞬間、部屋の中から小さな黒い塊りが飛んできて、目の前の壁にビタンと音を立てて激突した。
 それは、拳銃を握り締めた黒沢の片腕だった。

 「・・・うわぁぁぁぁーーー!!」

 スズキくんは猛ダッシュで階段を駆け下り、地下室へ飛び込んだ。

[シーン・20] 

 地下室。
 狭い空間。

 片腕を斬り飛ばされて、茫然自失の態の黒沢刑事の向こうに、そいつは待ち受けていた。

 地下室の天井まで届く、醜悪な肉の柱に、無数の触手が生えたもの。
 
 その胴体を構成するのは、様々な生き物の肉体であるらしく、そこかしこから見覚えのある動物の一部が顔を出している。
 鹿の鼠蹊部、猫の頭、烏の羽根、犬の鼻先。それらに混じってねじくれ、不気味なカリカチュアと化した人間の肢体が幾重にも折り重なり、ヌメヌメとした光沢を放つ緑の粘液に覆われ、蠢いている。
 まったく、悪夢の中から這い出してきた存在としか思われない。
 
 切っ先の鋭い鉤爪が生えた触手が幾本も伸びて、いま、その一本が素早く走って、黒沢の銃口を構えた腕を斬り飛ばしたに違いなかった。


 「ありゃまぁ・・・」
 怪奇探偵スズキくんは、懐中電灯で頭を掻いた。
 「こりゃ本格的に、出ちまいましたか。
 月並みな表現ですが、いやはや、まったくこの世のものとも思えませんなぁー・・・」

 「ブギョルルルーーーァ!!」

 怪物の無数の開口部のひとつから、異様な雄叫びが迸る。
 ニュッ、と開いた穴から太い棒状の茎が伸びた。
 その先端に、端正な笑みを浮かべる老人の顔があった。その顔は嘗ての記者会見場の時と同じ、謎めいた沈黙を湛えて、深遠を見据えているようだった。

 「おやおや。」
 不敵な笑いに口角をキュッと吊り上げて、スズキくんは云った。
 
 「ようやく、お逢いできましたね。安藤社長。」


(以下次号)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月 2日 (土)

まとめ記事『恐ろしい村で顔をとられた少女』

 私のブログで、まとめ記事が出てくるとは思わなかったが、最終更新が一年前である。
 本人も粗筋をすっかり忘れ、読み直してみたら意外と面白かった。

 いい加減、完結させる気になったので、よろしかったらお付き合い願いたい。


不定期連載・川島のりかず劇場『恐ろしい村で顔をとられた少女』

 
①魔界誕生篇
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2010/04/87-3c19.html

②顔面剥奪篇
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2010/05/87-abc1.html

③流血牧場篇
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2010/05/85-44a0.html

④「到着」
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2010/06/85-411b.html

⑤「廃屋」
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2010/08/85-8862.html


 シリーズはあと三回で完結する予定。

⑥「襲来」

⑦「怨霊山の血闘」

⑧最終回「大終結」

 
 大丈夫、ちゃんと終わる。
  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »