« レイ・ハリーハウゼン『シンドバッド虎の目大冒険』 ('77、コロンビア) | トップページ | ルチオ・フルチ『ビヨンド』 ('81、FULVIA FILMS、パイオニアLDC版) »

2011年7月23日 (土)

川島のりかず『殺しても生きている女』 ('86、ひばり書房)

【あらすじ】

 殺しても生きている女が、家に棲みついてしまった!
 絶好調、不条理の旗手・川島のりかず先生が贈る、微妙な恐怖劇場!


 平穏な家庭の軒先に出された資源ゴミ。
 新聞紙・週刊誌の天辺に括りつけられた一冊の聖書。 

 今泉家は五人家族。両親とふたりの子供。おじいちゃん。
 小学生の夕紀は、黒い学ランが良く似合う兄の俊が大好き。父が車で送るよといっているのに、兄と徒歩で通学することを選ぶぐらい。
 (単に父親が嫌いなだけかも知れないのだが。)
 しかし、この徒歩がまずかった。
 迂闊な夕紀は道路を横断中、暴走してきた乗用車に轢かれかける。

 「きゃあああーーーっ!!」

 そのとき、身を挺して助けてくれたのは、すぐ後ろを歩いていたアイラインのどす黒い若い女、小川真由美だった。
 暴走車はふたりをかすめて電柱に激突し大破。酒酔い運転のドライバーは、脳梁を陥没させて即死するが、幸い夕紀は無傷で済んだ。
 

 「あなたは、娘の命の恩人です。ぜひ、お礼をさせてください。」

 駆けつけた父親に懇願され、その夜今泉家へ招待される謎の女。
 ニヤリと影でほくそ笑んだのは、残念ながら、読者にしか見えなかったか。
 幸福な家族の食卓に積まれた山盛りのごちそうを、みるみる平らげていく不審な女に、家族は正直リアクションに困る。
 そういや、この女、アイラインが妙にどす黒い。
 瞼から眼下まで黒く隈取られ、まるでパンダだ。露骨に怪しい。

 
 しかし、命の恩人。

 読者諸君の予想通り、翌朝になってもその女は帰らなかった。
 咥え煙草で新聞を広げ、だるそうにテレビで朝のワイドショーを観ている。
 せめて会社に電話しておいた方が、と余計なおせっかいを焼く夕紀の母親に対し、

 「いいんですよ。あんな会社。」

 何気に、おそろしいことを言い放つ。
 どうやら、この女、期待される善人像とは大きく異なった存在のようだ。遅まきながら、その事実に気づき、疑惑を深める母。

 「奥さん、コーヒー淹れてくださらない?」

 居間に寝そべり、あつかましい要求をしてくる女。
 渋々持って来ると、

 「やだ!
 コーヒーっていったら、ケーキぐらいつけてよ!」


 憮然とし、聞えぬ振りをする母親にさらにとどめを刺すように、

 「奥さん!今夜はステーキにしてくださいね!」

 何者だ、こいつ。
 反骨精神溢れる夕紀の母親は、比較的穏健な手段で反逆の烽火を上げることを決意した。
 その夜。

 「なによ、これ・・・!天ぷらじゃない!!」

 「て・・・天ぷらもおいしいわよ・・・」

 状況の異常さにちょっと半笑いで諭す夕紀。
 その表情に、純粋にキレた居候女、テーブルをひっくり返し、いきなり全開で小学生の頬を張る。

 「・・・あぅっ!!」
 
 床に倒れ伏す夕紀。
 あまりに理不尽な暴虐ぶりに、比較的ダウナー系の母親が遂に立ち上がり、叫んだ。

 「でも、うちの家族は、肉が嫌いなんです!!」

 衝撃の告白であった。
 気勢を削がれた謎の女は、そのまま席を立とうとするが、母は被せるようにしごくまともな質問をした。

 「あなた、子供を傷つけて、それで平気なの・・・?!」

 表情も無く、母の顔を見つめる女。
 ユラリと蠢きながら、低い、乾いた声でこう言った。

 「・・・明日は、きっとステーキにしろよ・・・・・・。」

 
常軌を逸した相手に戦慄する母親。
 そこへ、酷く人の良い父親が帰宅。今のやり取りの一部始終を報告されて、さすがに呆れ果てる父。

 「エーーーッ?なんだ、そりゃ?!信じられんなぁ!!」
 

 床いっぱいに飛び散った天ぷらの残骸を片付けながら、妻は啜り泣いている。
 と、そこへ重苦しい重低音が響く。

 ドスッ。
 ドスッ。
  ドスッ。


 未だ怒りが治まらぬのか。あるいは、空腹に耐えかねるのか。
 あの、恐ろしい女が二階の床を踏みしめている音であった。
 思わず、顔を見合わせる夫婦。

 一方、ご手淫盛りの兄、俊の最近の密かな愉しみは、謎の女の入浴を覗き見すること。
 エロ妄想で脳細胞が張り裂けんばかりのティーンエイジャーの元に、正体不明でエロエロな二十代の若い女が突如上がり込んで来たのである。
 これは、もう、実家がフランス書院文庫と化したような、異常なシチュエーションと申し上げてよい。
 女の素性より、まず生殖器だ。乳房だ。本物だ。

 「アラ・・・ボク、覗いているの・・・?」
 
 シャワーを止めて振り返り、妖艶な微笑みを投げかける謎の女。
 婉然と両腕を伸ばし、さぁどこでも見てちょうだい、とポーズする。ますますもってフランス書院。
 義母の生着替え。叔母の柔肌が。黒い下着の女医。ピンクの蜜壷が糸を引く。熟妻。女子大生秘密の体験入学。
 まことにけしからんことに、この女、いいカラダしてやがる。
 目の周りも隈取りで真っ黒だが、まんこも同じく真っ黒けだ。

 遊んでるのだ。
 激しく遊んでやがるのだ。


 突如眼前に展開する、十八歳未満お断りの秘密の花園地帯に、喉もカラカラになった中学生は、思わず一歩前に踏み出してしまった。
 その手を掴んで引き寄せると、盛り上がる豊かな乳房に重ね、
 
 「ほら・・・あなたの好きにしていいのよ・・・」

 わかりました(即答)。
 浴室で、女の下の草叢に夢中で口をあてがい、噛んだり舐めたりしていると、気づいたおやじが飛んできた。

 「コラ・・・!!!
 セックスは大人にな・っ・て・か・ら・ッ!!!」

 
 意外と冷静な俊は、なおもチュウチュウやりながら、
 「・・・おやじ、説得力ねぇよ。
 だいたい、あんたも似たようなこと、やってんじゃん!」
 確かに。
 
 その場は水ぶっかけられて引き剥がされ、なんとか事なきを得たが、下半身は一度火が着きゃ油田火災の故事の如く、その晩から俊は女の居室へ通いつめるようになり、どんどん異様に痩せいった。

 最早、かつての爽やかな学ランのイメージはない。
 頬はこけ、瞳はギラつき。ざんばら髪が伸び放題。
 幽鬼だ。
 性の悪魔に魅入られた幽鬼のようだ。
 
 学校も勝手に休んで、連日連夜の餅つき大会。自主参加。
 
 このままでは、息子の人生、本格的にダメになる。
 焦りまくる両親。
 「い・・・いったい、日に何発やればああなるんだ・・・?」
 「なによ、あたしは女としての魅力に欠けるっていうの・・・?」


 膠着化し、泥沼のベトナムの戦況を呈してきた我が家を見るに見かねて、母親は警察に通報。些細な異常事態に遂に国家権力が介入。
 二名の実直そうな警察官が、一般家庭にやって来た。

 「事情はわかりました。
 じゃあ、この方は娘さんの生命の恩人じゃないですか?」

 
状況をまったく理解していない。
 
すると、女が、

 「そうなんですよ。
 わたし、ときどき遊びに来てるだけなのに・・・」


 凄い大芝居で嘘泣き。
 あくまで被害者面をする女に、地方出身者の真面目な警官たちはコロリと騙され、引き揚げようとする。
 慌てて呼び止めようとする夕紀。

 「待って!お兄ちゃんは、あの女に・・・」

 「シッ!!それだけは、言っちゃダメ!!」

 堅く口止めする母親。
 こればかりは家族の最大の恥。漏らしては却って状況が不利になる。
 いかにも善人然とした人のいい笑顔で交番へ引き揚げていく巡査たち。外部から援けを呼ぶのも失敗してしまった。

 居間では、金属バットを持ち出した俊がぶちキレていた。

 「ギーーーッ!!
 ギーーーッ!!
 おまえら、今度こんなふざけた真似しやがったら、ギーーーッ!!
 ギタギタに刻んで、太平洋の真ん中に捨てて来てやるぞ!!
 ギーーーッ!!!」


 テーブルを破壊し、テレビを叩き壊す俊。
 その様子を、煙草を飲みながら、ほくそ笑んで見ている謎の女。
 おじいちゃんも、腰を抜かして失禁してしまった。

 埠頭。深夜。
 停めた車の中で。
 対策を考えあぐねた父親は、裏で女に金を渡し、お引取り願おうとするが、鼻で笑われ札束(五十万見当)を叩き返された。

 「フン!笑わせるんじゃないわよ!
 わたしは、お金なんかいらないわよ!
 こうなったら、意地でもあの家から、出て行かないからね!!」


 「貴様、いったい何で俺の家庭を壊そうとするんだ?!」

 怒り狂う父親は、無意識に女の首を絞めようとするが、通行人が現れた為、かろうじて思いとどまる。
 通りかかった酔っ払いのアグレッシブな中年の港湾労働者、酒臭い息を吐きながら、

 「おっさん、おっさん。
 短気は損気ってねー、へっへっへー」


 そういえば、こいつも咥え煙草をしている。仲間か。
 とっさに身構える父親だったが、相手は左手に焼酎ビンをぶら下げて、鼻歌を歌いながら行ってしまった。

 苛立ち、遂に限界を越えた家族は、急遽家族会議を開催。
 女の殺害を本格的に検討する。
 刃物を使用すると女の流す血で家屋が汚れる為、殺害手段は絞殺、もしくは撲殺で。
 女、もしくは俊の頑強な抵抗が予想されるので、母親は独身時代かつて勤めた病院のルートから、クロロフォルムの入手を行なうことに。

 そんなある日、母親は近所でガイジンに呼びとめられた。

 「アナタは、神を信じマスカー?」
 
 瞬間、激昂する母。
 「フン、笑わせないで!
 以前は聖書を読んでいたけど、神なんてどこにいるの?
 いるなら、どうして、わたしんちがあんなになってしまったの?」


 冒頭、聖書をゴミに出したのがこいつだったことが判明。
 宣教師をどついて立ち去る母の心は、どす黒く、穢れていた。まるで、あの女の内面が感染したかのように。

 (なぜ、あの女のような人間が出来るのか・・・。)
 部長職にある父親は、丸の内のオフィスビルから眼下を往き交う人の波を眺めていた。
 (終戦直後の焼け野原から比べれば、私も日本も豊かになった。
 不思議に思うのは、なぜ、人の心も豊かにならなかったのだろう。
 日本よりまだ豊かなアメリカでは、凶悪な犯罪が増える一方だというではないか。
 豊かになればなるほど、人の心は貧しくなっていくのだろうか・・・。)

 部下が書類を届けに来たので、部長は思考を断ち切らざるを得なかった。


【解説】

 ここまでが前半。
 後半部は、殺しても死なない悪魔的なモンスターと化した女と、家族との攻防戦が描かれる。

 この存在を(例えば誰かの台詞ででも)超自然的なものだと定義づければ、話の据わりはよくなる筈だが、川島は断固としてそれを拒否する。
 正体不明の、純粋な悪意のメタファー。
 最終的には、主人公の夕紀すら女に金属の鉄棒をねじ込む殺人行為を働くのだが、それでも女は死なずに蘇る。
 海に沈められても、列車に轢かれても、滅びず家族に付き纏ってくる、一貫したひたむきな姿勢は、なんだか輝いてみえる。

 少なくとも、隔離され病人食を食うだけでセックス中毒が治った、学校に行かせろと無理な主張をする長男・俊よりは、自分に正直に生きていると言えるだろう。

 母親がその後聖書を買い直したという話は聞かない。

|

« レイ・ハリーハウゼン『シンドバッド虎の目大冒険』 ('77、コロンビア) | トップページ | ルチオ・フルチ『ビヨンド』 ('81、FULVIA FILMS、パイオニアLDC版) »

もっと、あらすじが読みたいきみへ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 川島のりかず『殺しても生きている女』 ('86、ひばり書房):

» 収納・片付け・お部屋のリニューアル・おしゃれな家具のご紹介 [Perfect Housewife]
ハイセンスな輸入家具といえばIKEA(イケア)ですね。お客さまにぴったりのリフレッシュプランをご案内いたします。 [続きを読む]

受信: 2011年7月23日 (土) 18時44分

« レイ・ハリーハウゼン『シンドバッド虎の目大冒険』 ('77、コロンビア) | トップページ | ルチオ・フルチ『ビヨンド』 ('81、FULVIA FILMS、パイオニアLDC版) »