川島のりかず③『恐ろしい村で顔をとられた少女』 【来たのは誰だ】 ('85、ひばり書房)
爆風。
スッ飛ばされるヅラ。
「なんだ・・・なにが起きたんだ?!」
叫ぶウンベル総司令の目の前で、ビルディングが倒壊していく。
自由の女神の首が吹っ飛んできて、道路に転がった。
首都圏一円に届く巨大な光の柱が、漆黒の闇夜に立ち上り、輝いた。
旋風が幾重にも捲き起こり、連続で窓ガラスを破る。
バラバラとコンクリートの破片が降り注いで、軒並み横倒しになった車輌のボディを叩く。
頭を庇って蹲る兵隊達を鼓舞しながら、ウンベルは崩壊するビルを見つめた。
「これほどまでに・・・やつの・・・・・・
のりかずの力は・・・・・・」
轟音と怒号が画面を覆い尽くす。
[タイトルバック] 黒地に真紅の筆文字が浮かび上がる。
「怪奇ハンター」第三話、六回 【来たのは誰だ】
出演 真行寺君枝
マリア四郎
左文字 右近
大河内伝次郎
脚本 犬
演出 元ジャンクハンター吉田
タイトルエンド、「ジャンクハンター」の文字がクシャッと潰れて、丸まる。
浮かび上がるTBSの文字。(提供・東京ビジネススクール。)
[シーン・18] 俯瞰。崩壊し、炎上する首都圏。
巨大な真っ黒い影が崩れ落ちる高層ビルの上を飛び回る。
世にもおぞましい、喉を締め上げられた鶏のような醜い悲鳴が甲高く鳴り響く。
飛び過ぎる自衛隊のヘリ。
警察無線。鳴り響く警報のサイレン。
本編とまったく関係ない美少女の回想の声、流れる。
(ナレーション)
「それは・・・この世の終わりは、あまりにも突然にやって来ました。
私たちはどうすることも出来ず、ただ見守るばかりでした。
全天俄かに掻き曇り、この世の終わりを告げる銅鑼の音のような、不吉な響きが・・・」
S.E.(ボクシングのリングサイド・ゴング)「カン、カン、カン」
[カット切り替わる。スタジオ内]
怒り狂う美少女。
「イメージ違ぁーーーう!」
S.E.(パックマン)「ピロピロピロピロ」
「・・・ますます、もって遠くなっちゃったよ。どういうことだよ。
そもそも、やる気はあるのか。根本的に。
まず、そこを確認しようよ。あたしとお前。」
S.E.(11PMのオープニング)「♪シャバダバ、シャバダワー」
美少女、天を仰いで深く嘆息する。
その瞬間、スタジオの壁をぶち破り、真っ黒い巨大な影が突っ込んできた。
絶叫と共に一撃でひき潰される美少女。
黒い影、エメラルド色の熱線を放ち、周囲を薙ぎ払う。連続する爆発と悲鳴。
TV局のいまだバブル全開な建物が炎に包まれた。
[シーン・19]
地下室へ続く、暗い階段。
踏みしめるスズキくんの足。古い木のステップは、ギシギシ不快な音を立てる。
その後ろで、携帯を握り締めた黒沢刑事、大声で怒鳴っている。
「エ・・・?!
だから、何がどうしたんですか、長官?
ハァ・・・?!首都圏に謎の円盤群が飛来・・・?!
攻撃を受けている真っ最中ですって?!」
振り向くスズキくん。
唇に人差し指をあてがい、“黙れ”のジェスチャー。
腐臭はますます強くなり、鼻を捥がれんばかり。手にしたLEDの懐中電灯(震災後に購入)が放つ光は弱々しく、前方の視界はかなり暗い。
階段の終端は、そのまま地下室の出口に繋がっており、扉は見えない。
壊れているのか、外されたのか。あるいは、元々存在しなかったのか。
影が黒々とした口を開け。
だが、その奥に、確かに何かの気配があった。
ブシュー。
ブキュー。
不規則な呼吸音だけが、低く響いてくる。
スズキくんのこめかみを冷たい汗が伝って落ちた。
「・・・だから、長官!
事態の収拾がわれわれの双肩にかかっている、って言われましても!
目下、現場は非常に取り込んでいる状況でありまして・・・」
大声で携帯で話しながら、黒沢、何気ない日常動作で階段をツツツと降りた。
地下室の中へ、ひょいと消える。
「・・・・・・!!」
相棒のあまりの無謀な振る舞いに凍りつくスズキくん。
小声で呟く。
「エー・・・これは、アレだ、携帯電話をかけている人間が往々にして周囲を見落としがちになる現象、すなわち現代病の一種だナ・・・。
ボクはこれを“地下室症候群”と名付けようと思うけれど、流行るかしら」
「ギョエエエェーーー!!!」
突如、黒沢の魂消る絶叫が響き、パーーーン、パーーーンと乾いた拳銃の発射音が鳴った。
「黒沢さん!!」
スズキくんが慌てて腰を浮かした瞬間、部屋の中から小さな黒い塊りが飛んできて、目の前の壁にビタンと音を立てて激突した。
それは、拳銃を握り締めた黒沢の片腕だった。
「・・・うわぁぁぁぁーーー!!」
スズキくんは猛ダッシュで階段を駆け下り、地下室へ飛び込んだ。
[シーン・20]
地下室。
狭い空間。
片腕を斬り飛ばされて、茫然自失の態の黒沢刑事の向こうに、そいつは待ち受けていた。
地下室の天井まで届く、醜悪な肉の柱に、無数の触手が生えたもの。
その胴体を構成するのは、様々な生き物の肉体であるらしく、そこかしこから見覚えのある動物の一部が顔を出している。
鹿の鼠蹊部、猫の頭、烏の羽根、犬の鼻先。それらに混じってねじくれ、不気味なカリカチュアと化した人間の肢体が幾重にも折り重なり、ヌメヌメとした光沢を放つ緑の粘液に覆われ、蠢いている。
まったく、悪夢の中から這い出してきた存在としか思われない。
切っ先の鋭い鉤爪が生えた触手が幾本も伸びて、いま、その一本が素早く走って、黒沢の銃口を構えた腕を斬り飛ばしたに違いなかった。
「ありゃまぁ・・・」
怪奇探偵スズキくんは、懐中電灯で頭を掻いた。
「こりゃ本格的に、出ちまいましたか。
月並みな表現ですが、いやはや、まったくこの世のものとも思えませんなぁー・・・」
「ブギョルルルーーーァ!!」
怪物の無数の開口部のひとつから、異様な雄叫びが迸る。
ニュッ、と開いた穴から太い棒状の茎が伸びた。
その先端に、端正な笑みを浮かべる老人の顔があった。その顔は嘗ての記者会見場の時と同じ、謎めいた沈黙を湛えて、深遠を見据えているようだった。
「おやおや。」
不敵な笑いに口角をキュッと吊り上げて、スズキくんは云った。
「ようやく、お逢いできましたね。安藤社長。」
(以下次号)
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