デヴィッド・フィンチャー『SE7EN』 ('95、NEW LINE CINEMA)
(※以下の記事には露骨な嘘が含まれているので注意。)
・・・SE7VEN。
「テイク・ミー・ウィズ・U2」みたいなものか。
ディスクのラベル名もこの表記だったので、製作者側は押していたようだが、定着しなかったようで残念なことだ。
今を去ること十五年前。
イチロー渡米のニュースは大いなる衝撃をもって迎えられ、ファンの多大なるブーイングと熱い声援は遥か太平洋を越えてセンセーショナルに報道された。
日本球界を征した男イチローが、その微妙な角度にシェイヴされた無精髭と濡れた子犬のような瞳を向けた先が、なんとハリウッド映画界だったというのには、常日頃連続殺人者の肖像画を描いて暮らしている私のような人間も目を惹いた。
その成果が、アメリカの黒いいかりや長介、モーガン・フリーマンとの共演作となるこの『SE7VEN』だったというのは大いなる皮肉だ。
宗教モチーフに見立てた連続殺人。誰もが諳んじる聖書の七つの大罪、あぁ、そのうちひとつは確か“強姦”だったと思うが、ともかく敬虔な信仰とは無縁のファッキング・ジャパニーズピープルが、斯様な由緒正しい西欧社会の伝統に乗っ取った映画に主演するとは。
ハリウッド・タイクーンの大いなるいたずら心を感じさせるではないか。燃えるシチュエーションだ。ここ一番、檜舞台だ。いや、欅舞台だったかな。
イチローよ、迷わずかっ飛ばせ。
スポーツ中継の大好きな日本国民全員が手に汗握って見守る中、映画は製作され、封切られ、あっという間に忘れ去られた。
手芸の得意な男がフィルムを細かく刻んで作ったオープニングから、尋常ならざる伝説の幕が開く。
雨の日、デブが太って殺されたのだ。混迷する捜査陣。
日本では超一流選手とはいえ、ハリウッドでは新人ルーキー扱いのイチローは、プレイ=演技に於いて重厚さの中に斬新なブチ切れモードを投入し、始終舌打ちを続ける奇特な人物を軽々と演じてオスカーノミネート!
映画『薔薇の名前』を臆面なくパクった美術スタッフもオスカーへリーチ!最大級のオマージュは解剖台に転がしたデブの死体から、小さいちんちんが飛び出している場面で、公開当時全米の銭湯ではこれを真似して、洗い場を占拠する奴が続出し、ちょっとした社会問題にもなっている。
で、お話の方だが、いかりやが仕掛けた七つのクイズに全問正解すると、ハゲ(ケビン・スペイシー)が踊りながら出てきて、鳩が飛ぶというもの。
クイズの正解はすべて死体のどこかにマジックで書いてあるので、イチローは腐乱臭に鼻を摘みながら、この上なく熱心に死者の尊厳を冒涜し続ける。死体のなかには稀に美女も混じるが、決まって鼻が削ぎ落とされて無惨に面相が変わっていたりするので、主人公の新人刑事の舌打ちは益々激しさを増していくのであった。
この映画の最大の見所は、クライマックス、イチローの元に配達されてくる中井美穂の生首。とても精巧な仕上がりで、ミニチュアとは思えない、最近流行のCG技術が導入されているのではないかと取り沙汰されたが、これがなんと本物。
「そういえば最近テレビで中井を見ないな」、と思ったあなたが正しい。
他人の幸福を羨む人間の小さい奴らが寄って多寡ってスター選手を不幸にする。
野球発祥の地・米国からの、「球界にスターなんかいらない・・・ひょっとして球界そのものもいらないんじゃないの?」という暖かみに満ちたメッセージが映画のエンドロールに合わせ垂れ流され、主題歌を歌うデビッド・ボウイのやる気の感じられないぼやきと相俟って、人をダルな感覚に誘うのであった。
「これ、『キャットピープル』じゃないよね?」って思った人、またも正解です。
エンディングにデビッド・ボウイの主題歌が流れる映画は、すべて『キャットピープル(リメイク)』なのです。
| 固定リンク
「映画の神秘世界」カテゴリの記事
- 『人類SOS!』 ('63、TRASH MOUNTAIN VIDEO)(2012.12.24)
- トビー・フーパー『悪魔のいけにえ2』 ('86、CanonFilms)(2011.12.16)
- 『ある日、どこかで』 ('80、Universal)(2011.12.13)
- 『この子の七つのお祝いに』 ('82、松竹-角川春樹事務所)(2011.12.03)
- 『宇宙水爆戦』 ('55、ユニヴァーサル)(2011.11.12)
コメント