ニール・マーシャル『ドゥームズデイ』 ('08、パラマウント)
思い切ったバカ映画。人から尊敬されようという気がまったくない。これは非常に重要なことだ。
確かにもう少し(特に脚本などは)考えて撮って欲しかった気がするが、それでは勢いが薄れるってもんだろう。
いいんだよ、これで。
試験の答案としては明らかに赤点だが。映画は試験じゃねぇんだ。
おっさんの酒飲みみたく、カーッと飲んで「プハァーーーッ!」って吐いて。勢いだけで、「う・ま・い!」って。重要なのはリアクションですから。
深く考えていては出来ないこともあるものだ。
観終わって、目の前に監督がいたら、
「バカ!
あんた、バカでしょ?この、バカバカバカ!
・・・よかったよ」
と、褒めてあげたい。
【あらすじ】
南北に分断されたちょっと未来の大ブリテン島。
瘡蓋(かさぶた)と疱瘡(ほうそう)だらけになって狂い死ぬ、新型ウィルスが突如爆発的に流行。猛威を揮った結果、数百万の犠牲者が出てしまったのだ。
政府は感染拡大を防ぐため、巨大な防壁を築き、スコットランドをまるごと隔離するかなり思い切った作戦を堂々と実行。
中世のペスト患者か、と全世界的に本気でバカにされる。
かくて見捨てられた壁の向う側では、人間はすべて死滅した筈だった。
それから二十年。
国際的評価の低いまま、貧乏暮らしを続ける英国に、再びウィルス流行の危機迫る。
金融街でゲロ吐いた男が、すかしたハイテックなビルのエントランスに血塗れの腫瘍をずるずる擦りつけて絶命したのだ。感染経路はいっさい不明。
「あいつが帰ってきた!」と、ギャングの大ボスか、『オーメン2』のダミアンの如く恐れられているだけだ。病気なのに。
「実は」
物凄く格好をつけた政府の黒幕から、主人公の女(少佐。やたら少佐、少佐呼ばれて、『功殻ナントカ』みたいでいかん)は衛星写真を見せられる。
「壁の向うに生存者がいました」
エーーーッ。
なるほど、路地を闊歩する人影が写っている。
「これはワクチンが開発されているからに違いない、なぜなら二十年前ウィルス研究の第一人者が壁の向うで消息を絶ったからだ、あいつは生きていて研究を続け、抗体を作り出したに決まっている。いやもうそう決まった!」
あまりに憶測だらけの謬説に、二の句も接げない少佐。
「お前はいますぐ海兵隊を率いて現地へ飛び、ワクチンを掻っ攫って来い!タイムリミットは48時間!それ以上待つと、ロンドンは死滅する!」
ドーーーーーーン!!
ひさびさに藤子Aしてしまうくらい盛り上がる設定だが、なんか根本的に大きく間違っている気がする。
アッティラ軍が迫っているとか、火星人が攻めて来たならともかく、相手はウィルスだしな。何か、対処の原則が根幹から違うような。いや、気のせいだろう。
地球滅亡まで、三百と六十五日。
そこからはもう、ノンストップアクションのつるべ打ち。勢い余って、牛の群れに突っ込んだり。大間違いのサービスてんこ盛り。
どっかで見たような巨大装甲車が炎上し、食人族と化した近未来の暴走族がおっさんを丸ごとバーベキューにし、拷問、鼻ピアス引き千切り、駅のホームで全力疾走。蒸気機関車、ゴーーーッ。
その間どんどん死んでく海兵隊員に科学者二名!
遂に、ワクチンを開発したと目される天才医師マルコム・マクドゥエルの居城に辿り着くが、相変わらずのチンピラ顔の老人は身も蓋もない驚愕の真相を打ち明ける。
「ワクチン・・・?
そんなもの、初めっからねぇよ!
ありゃ、自然に発生した免疫力だよ!」
ドーーーーーーン!
ドリフの「あたしゃ、神様だよ!」クラスの衝撃に、全員どん引きになるが、常に冷静沈着な少佐だけはニヤリ笑った。
「・・・ってことは、誰を連れて帰ってもオッケーなのか!南乃花!穂花!それは、ほのか!」
闘技場での装甲巨人とのバトル、マッドマックスをビデオニ倍速で観ているようなカーチェイス(フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド「トゥー・トライブス」がバカ丸出しで流れるのが感動的)があって、政府の黒幕とのランデヴーポイントへ無事到着。
会社の近所で捕まえたねぇちゃんを引き渡す。
「こいつ、免疫あるわよ!」
(彼女は本当はマルコム・マクドゥエルの娘なのだが、そんな設定に意味などない。この映画の登場人物は心理的葛藤をいっさいしない。例えば、主人公は二十年前壁が築かれるとき、暴動の中で母と生き別れ、軍隊の発砲によって片目を失った暗い過去を持っているが、さして深く考えず現在は職業軍人として生きている。)
喜んで、人を人と思わない、悪すぎる考えを滔々と述べ出す悪役。その一部始終は、少佐の片方の義眼に仕込まれた超精密度カメラによってしっかり録画されていた・・・。
【解説】
「片目がカメラになっている」設定だけは、ちゃんと考えて撮った節はあるが、他はもう純然たる勢い重視というか、とにかく大好物だけ詰め込んだオレ様流オリジナル弁当。
だが、大丈夫だ、ニール・マーシャル。
ゼリーに、いくらに、半熟タマゴでも、ちゃんと最後まで食える。
アメリカじゃ映画は大コケだというが、あいつらにはちょっと高尚すぎたのかも知れないね!
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