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2011年5月30日 (月)

古城武司『死神少女』 ('81、リップウ書房レモンコミックス)

 意外と面白い『死神少女』。
 人がいっぱい死ぬぞ、『死神少女』。


 絵柄は泥臭いが、狙いは野心的。異国を舞台にしたエスニックホラーだ。本物の魔女が出演するから、サタニックホラーでもあります。

【あらすじ】

 舞台はドイツ。ニーゲンドルフ地方。架空。
 聳え立つクラシックな古城。
 現在では全寮制の寄宿学校として利用されているが、百年ごとに城内より魔女が誕生し、事故や叛乱、発狂による大量殺戮、陰謀・毒殺・暗殺が横行、原因不明の伝染病が大流行して城下に数多くの死者が出るなど、かなりバッドな伝説を持ち合わせている。
 要は、本格的に呪われた場所なのであった。

 「・・・そして、今年が伝説の百年目にあたっているのでアーーール!!」

 稲光りと共に、片眼鏡(モノクル)の恐ろしい顔の校長が断言すると、開校百年祭のパレードの幕が切って落とされる。
 ラジカセに合わせ、ゴーゴーを踊り狂う
若者達。

 さてさて、よせばいいのに、はるばる日本からこんな辺鄙な田舎村にわざわざ留学にやっていらっしゃった間抜けな日本人少女ユウコ・コバヤシさんは、案の定地元民のいじめに遭遇。
 百年祭の夜デートを口実におびき出され、お化けの仮装でさんざん嚇し捲くられる。
 電子音楽の申し子クラフトワークを生んだテクノロジーの先進大国ドイツにしては、やることが岐阜か長野の過疎村レベルだが、意地悪に国境はない、という作者の素晴らしく一貫した信念が窺えるだろう。

 恐怖で森へと逃げ出し、急遽立ち籠めてきた深い霧に捲かれ彷徨うユウコは、いつの間にやら城の遺棄された一角、誰も入らない廃墟のエリアに迷い込む。

 人呼んで、“死神の砦”。
 不吉にも程がある。
 センスを感じさせるネーミングだ。


 崩れ落ちた城壁。分厚く積もる埃り。
 松明も懐中電灯も持たないユウコがなぜそんな暗黒の空間をスイスイ進んでいけるのか。これはもう神秘の現象としか申し上げようがない。
 カエルの顔の騎士像に驚いたり、フロント部分がギリシャ彫刻になっているオリジナルデザインの鋼鉄の処女に戦慄したりして、からくも危険な通路を辿っていくと、そこには地下室の入り口が・・・。
 毎度こういう場面で地下室に入っていく奴って、一体何を考えているのか。

 お風呂があるから、水を入れました。
 苗があるから、植えました。
 ナイフがあるので、刺しました。
 そんな感じか?


 で、地下室があるから入ると、床から天井から無数の巨大な繭が転がされている、どう見てもやば過ぎるスペースがある。
 やばさ専用の展示空間。
 これはもう、アートの領域。

 「こ・・・これは・・・人間のミイラ!!」
 

 繭を覗き込み、驚愕するユウコ。
 その通り、繭の中に封じ込められ骨と皮になっているのは、老若男女、ベテランと若手、ロリータからエヴァ・ガードナーまであらゆる年齢、社会階級の多種多彩な顔ぶれなのであった。
 そこへ、遂に魔女がマイクを持って登場。

 ひッ、ひッ、ひッ、ひッひ・・・どうじゃな、今夜の夜ヒット?
 予想を上回る豪華ゲスト陣じゃろ・・・?」


 芳村真理であった。
 のけぞる井上純。
 恐怖の余りに失神してしまうユウコ。おしっこ、ジョーッ。
 そもそもドイツで夜ヒットが放映されているのか、海外レポート担当なら服部まこの職分ではないのか、など根源的な疑問を投げかけつつ、すべては闇に呑まれ暗転していった・・・。

 翌朝。
 衣服ボロボロ、目はうつろで、典型的なレイプ被害者の格好で発見されたユウコ。
 生涯処女を堅持される予定の先生方(修道尼のコス着用)は、

 「まァ、日本人の癖に、白人サマの太くて長くてかつソフトなおちんこを挿入して頂けるなんて、クソ羨ましい」

 などと露骨な人種差別発言を述べながら、適当に手当てを施す。
 (バンソウコウを貼る程度。)
 が、ユウコの胎内に注入されたのが、農村青年の濃厚な精子などではなく、人類とは少し違ったタイプのD.N.A.だったことには誰も気づかないのであった。
 やがて口角に醜い吹き出物、全身には無数の発疹、高熱を発して、授業中倒れるユウコ。
 すわ伝染病感染か、と校医の余計な判断が働いて、三百年前発狂した国王を閉じ込めたという伝説がある、異常に高い尖塔の小部屋に厳重に隔離処置されてしまう。
 鉄格子の嵌る小窓から顔を覗かせ、おのれの不運を嘆くユウコ。
 しかし、無情にも彼女の病状はさらに悪化し、遂には容姿に異変が出始める。
 
 全身むくんで、小錦状態。
 髪の毛はどんどん抜け落ち、ざんばら髪に。
 皮膚はなぜか緑色がかり、犬歯が伸びて牙の如く。
 太く、短くなった手足には鉤づめが。
 そして、なにより周囲の者が思わず鼻を抓むほど、


  「く・・・くさい!!」

 異臭にバタバタと逃げ出す看護連中。
 かくて、人間大のイモムシ生物に立派にメタモルフォーゼしたユウコ、夜な夜な塔を抜け出しては、近隣の村々で人間狩りに精を出すようになる。

 留学を決意した当時はこんな過酷なミッションが下るとは想像だにしなかったが、やってみると意外と楽しい。
 農作業実習も、人間狩りも、あたしを成長させる立派な授業だ。
 続発する行方不明事件に警戒を強める地元青年団だったが、幽閉されている日本人少女が犯人だとは中々思い到らない。
 そうこうするうち、犠牲者は続発。いじめっ子のクララ(三つ編みお下げ)やら、そばかすミレイやら、オール日本人キャストで贈る『レ・ミゼラブル』の如き不自然さを醸しだす、不細工少女たちが次々犠牲になっていく。
 逆切れしたいじめっ子のリーダー、マーガレットたちがこっそり後を尾けると、怪物は喉笛を噛み切った遺体をどこかへ運んでいくようだ。
 やがて、立ち籠める深い霧。現れる“死神の砦”。
 (やっぱり。)
 
 イモムシ怪獣は本当になにかの幼虫であるらしく、盛んに遺体を繭に包むと地下室に安置していくのだった。
 天井からぶら下がる、一際目立つ繭を偶然持っていたナイフで開梱してみると、ベロンと飛び出すクララの遺体!
 

 「ぎゃぁぁぁーーーッ!!」

 「フフフ・・・」
 背後で不気味な笑みを浮かべるイモムシ人間ユウコ。
 「ここまで秘密を見てしまったら、あなたたち、全員生かして返す訳にはいかないわ・・・」

 「た、助けてェーーーっ!!」

 ユウコが襲いかかるより早く。

 倒れてきたカエルの顔の騎士像の下敷きになり、その手が握った斧が後頭部に深く喰い込んで絶命する者。
 飛びのいたところで足が縺れ、ギロチン台にはまり込んで首を飛ばされる者。
 追い詰められ、隠れたところがオリジナルデザインの鋼鉄の処女内部で、全身串刺しにされ夥しい流血と共に息絶える者。 

 「あら・・・」
 頭を掻くイモムシ少女。
 「みなさん、勝手にくたばっておしまいになったわ・・・」
 
 恐るべし、死神少女・・・!
 その魔力はなんか役に立ってるのか、死神少女!


【解説】

 洋画にインスパイアされたらしき、救いのない話が延々続く。
 最後まで読んでも特に教訓めいた展開はないので、読後なんとも云えない虚しさが残る。
 伝説の魔女の誕生とか、オカルトブームの残り滓のような作品。
 それなりにしっかり構成されているので、飽きずに読めるだろうが、読んで為するところは一切ない。
 その点は素晴らしいような気がする。


 死神少女が追っ手の刑事を糸を吐き、絞首刑にする場面。
 あと、死神少女が最終的に繭になり、やがて誕生してきた魔女が全裸の美少女だった、といった展開は非常に結構であるが、しかし。

 この魔女、なにがしたかったのか、さっぱり意図不明。
 どうやら、蛾を増やしたいらしいのだが、それでどうなる。
 飼育委員か?

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