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2011年5月 8日 (日)

ホルヘ・グロウ『悪魔の墓場』 ('74、スペイン+イタリア、日本ヘラルド)

(場面・浴室)


 「レッツゴー・悪魔!!悪魔の墓場!!
 ウィィーッ、キッキッキッ!!」


 「やめてくださいよ、頼みますから」
 ソープ嬢ツヅ子は、客の股間に大量のローションを垂らしながら懇願した。
 それにしても、おかしな客だ。
 店に入ってくる風体も異様だった。全身泥まみれで、これじゃまるで。

 「・・・掘り出した死体みたいだって言うのか?キキ、キッ!!」

 「あッ、・・・いえ」
 
 心を読まれたような戦慄を感じ、ツヅ子は素早く指を動かし始めた。
 仕事は、仕事だ。
 早く処理が終われば、この嫌な客ともおさらばだ。一定の賃金を貰っている以上、時間給程度の仕事はこなさなくてはならない。
 休憩までは間があるし、この客の相手が済んでも煙草一本吸うことしか出来ないだろう。

 それにしても、ひどい臭い。
 腐乱した魚を三日漬けて寝かせたみたいな。
 臓腑の裏側からこみ上げるような。髪の毛の一本にまで沁み入るような。

 既にシャワーのお湯は清潔なタイル面を洗い流し、人工香料の甘ったるい匂いもぷんぷんしているというのに、まるで効果がない。

 「・・・あの映画を観たか・・・?」

 唐突に男の押し殺した声がした。
 
 「え?」

 「あの映画を観たかと訊いてるんだ!」
 
 男の上腕がツヅ子の首に捲きついた。ムッとする饐えた悪臭が強く鼻腔をうった。

 「ヒッ!!」

 「あの映画はな・・・本当にあった話なんだよ。数年前、イギリスでな。超音波の除草機が出す電波が影響して、死人が生き返る。
 そんな嘘臭い話、誰も信じないだろ?そこが政府の奴らの目の付けどころなんだよ・・・。」


 男の太い指さきが延びて、乳房を鷲摑みにされた。
 この男。
 気違いに見えて、やることはしっかりやる気だ。

  日常慣れ親しんだ男の動作に、ツヅ子が気を緩めた瞬間、男の伸びた爪が万力のような力で皮膚に喰い込んできた。
 たちまち、表面に血が滲み出すのが分かる。

 「アギィッ、アギィッ!!」

 苦痛に床を蹴った足がつるりと滑る。
 男の片掌はすかさず、刹那の悲鳴を放った唇周辺を覆い隠す。
 崩れて抱きとめられた身体は、半ば宙吊りの格好となり、されるがままの状態だ。
 乱暴な掌に擦りたくられ、乳首は痛いほど硬く尖っている。

 それを見て男は、醜い乱杭歯を剥き出しにして笑った。

 「なァ、ネエちゃん。・・・悔しいか?悔しいだろ。
 こんな場所で、なんだか判らねェ泥まみれの半気違いに暴行されて、反撃のひとつも出来ないなんてのはよう。キキッ」

 
 噛み締めた口許を汗が伝って落ちた。
 全身がカッと異様な熱を帯びて、瘧のように震えている。

 「蘇った死者は、異様な怪力になっているんだよ。
 常人はかないやしねェ。クッ、クッ。
 拳銃もまったく効かないんだから、こりゃもう、逃げ出すしかねえや・・・」


 べりっ。
 ぐちゃっ。


 濡れた嫌な音が響き、女は自分の目を疑った。 
 乳房が片方毟り取られていた。
 激痛より先に、鮮血が断面からしぶいて床のタイルに飛び散った。
 男はまったく平気な顔で肉片をおのが口に運び、喰らった。くちゃくちゃ、とよく噛み締める。

 急速に薄れる意識のなかで、ツヅ子は場面にナレーションが被るのを聞いていた。

 「・・・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のカラー版リメイクとして企画されたらしい本作ですが、ジノ・デ・ロッシの残虐効果の完成度は既に一級品!
 暗くて、せこくて、さっぱり救いの見えない物語もグー!
 紛うことなき本物の手応えを実感してください。
 ヘラルドが贈る、好評・悪魔シリーズ第三弾!『悪魔の墓場』!!『悪魔の墓場』!!」


 口の周りを血だらけにした男が、ぼそっと呟いた。


 「・・・死者の眠りを妨げるな。」

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