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2011年4月29日 (金)

聖日出夫『一発野郎No.4魔獣の牙』 ('68、東京トップ社)

 繁華街。駅裏の高架下に新聞スタンド。
 MIBと紛う黒いスーツ姿の男は、代金を払うのも忘れて紙面に見入る。売り子のおやじに咎められると、千円札を出しお釣りも貰わず歩き出す。呆れる売り子。
 尋ね人広告におのれの顔が掲載されているのだ。
 「R.P.・・・」
 「R.P.・・・」
 そんな文字は読者に読むことはできないが、作者は気にしていない。
 「ロヂャーポール博士・・・」

 「ロヂャーポール博士だ・・・!!」

 そんな人物はこの先も出て来ない。登場するのは何とも気の抜けたポーム博士という名の科学者である。
 どうやら、この時点では登場人物の名前をはっきり決めていなかったらしい。

 銀座。ビルの大時計の見えるところで待ち合わせ。
 相手はイリヤ・クリヤキンと岡っ引きをハイブリッドにしたような若者、タツ。黒いスーツの男を「兄ィ」と呼ぶ。つまり、典型的な子分だ。
 前方にマッシュした髪が盛り上がり、後頭部が禿げている。(P.7参照)
 青いジャケットに白いズボンで、ストライプのシャツ。アメリカの大学生みたいな感じ。(禿げてはいるのだが。)
 32分遅刻してドタドタとやって来たタツが、弁解する。

 「いやー、兄ィ、こいつがいけないんでさァー!!」

 笑いながら右手に嵌めている腕時計をバシバシ叩く。お茶目というより、気違いだ。
 兄ィがノーリアクションで車に向かうのも、子分の頭脳の構造を憐れんでいるからだろう。

 都心から田舎へ向かう、男ふたりのドライブ。
 新聞の尋ね人広告に応じ、会いに行くところらしい。
 かっこいい国産車。トヨタクラウン。道すがら、タツが親切に読者へ向けて黒服の男の素性を説明してくれる。

 「今でこそ兄ィは、シナリオライターとかってのんびりした職業で身を立ててますけど、その昔はれっきとした殺し屋ですもんね・・・!」

 元殺し屋のシナリオライター。
 素晴らしい。見かけたらぜひ飲み屋で一緒に飲んでみたい。いずれの職業もカタギではない組み合わせが非常に興味深い。

 「しかし、こりゃ警(サツ)のわなかも知れませんぜ」
 「バカ、警(サツ)が新聞広告なんか出すもんか」
 「そういや、指名手配ってありましたね」

 完璧にバカ同士の会話。
 ちなみに「警」と書いて「サツ」と読ませることは出来ないので、漢字に弱い中高生諸君は注意するように。 

 「それじゃ、昔の知人とかに心当たりがあるんですかい?」
 「ポーム博士」
 即答か。

 「新しいものを創り出すことが生きがいの、発明気違いの科学者だ。数年前、俺の住んでいたところの屋根裏部屋に寝起きしていたんだ・・・」
 黙って聞いているタツ。
 兄ィは運転しながら続ける。
 「二三の発明品を商社に売ったあと、行方をくらましてしまった・・・」
 「といいますと、いまはやりのじょうはつ、というやつで?」

 「わからない」

 「その発明品というのは・・・」
 「核ミサイルの制御装置。それに・・・ニキビ取りの妙薬」
 「ニキビ・・・ですか?!」
 「とにかく毛色の変わった人だった」

 確かに一筋縄ではいかない相手のようだ。タツは唇を噛み締め、問いを発した。
 「なぜ、その人が兄ィを・・・」
 「わからない。しかし、ひとつ気になることがある」
 「といいますと・・・」
 「俺たちはさっきから尾けられているようだ。バックミラーを見ろ」

 高速道路を全開で驀進してくる黒いセドリック。

 「はァ、もう3キロも尾けられっぱなしですもんね」
 意外と有能な回答をするタツ。
 「下道に降りて決着をつける。シートベルトを締めろ」
 「そんなのまだ、運転席にも設置されてないですよ。道路運送車輌法で設置が義務付けられたのは1969年ですぜ」
 「じゃ、俺たち、確実に死ぬな。行くぞ」

 アクセルを踏み込み、下りのランプウェイへ進入する白いクラウン。いつの間に宵闇が忍び寄り、ヘッドライトが点灯されている。 

 

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