聖日出夫『一発野郎No.4魔獣の牙』 ('68、東京トップ社)
繁華街。駅裏の高架下に新聞スタンド。
MIBと紛う黒いスーツ姿の男は、代金を払うのも忘れて紙面に見入る。売り子のおやじに咎められると、千円札を出しお釣りも貰わず歩き出す。呆れる売り子。
尋ね人広告におのれの顔が掲載されているのだ。
「R.P.・・・」
「R.P.・・・」
そんな文字は読者に読むことはできないが、作者は気にしていない。
「ロヂャーポール博士・・・」
「ロヂャーポール博士だ・・・!!」
そんな人物はこの先も出て来ない。登場するのは何とも気の抜けたポーム博士という名の科学者である。
どうやら、この時点では登場人物の名前をはっきり決めていなかったらしい。
銀座。ビルの大時計の見えるところで待ち合わせ。
相手はイリヤ・クリヤキンと岡っ引きをハイブリッドにしたような若者、タツ。黒いスーツの男を「兄ィ」と呼ぶ。つまり、典型的な子分だ。
前方にマッシュした髪が盛り上がり、後頭部が禿げている。(P.7参照)
青いジャケットに白いズボンで、ストライプのシャツ。アメリカの大学生みたいな感じ。(禿げてはいるのだが。)
32分遅刻してドタドタとやって来たタツが、弁解する。
「いやー、兄ィ、こいつがいけないんでさァー!!」
笑いながら右手に嵌めている腕時計をバシバシ叩く。お茶目というより、気違いだ。
兄ィがノーリアクションで車に向かうのも、子分の頭脳の構造を憐れんでいるからだろう。
都心から田舎へ向かう、男ふたりのドライブ。
新聞の尋ね人広告に応じ、会いに行くところらしい。
かっこいい国産車。トヨタクラウン。道すがら、タツが親切に読者へ向けて黒服の男の素性を説明してくれる。
「今でこそ兄ィは、シナリオライターとかってのんびりした職業で身を立ててますけど、その昔はれっきとした殺し屋ですもんね・・・!」
元殺し屋のシナリオライター。
素晴らしい。見かけたらぜひ飲み屋で一緒に飲んでみたい。いずれの職業もカタギではない組み合わせが非常に興味深い。
「しかし、こりゃ警(サツ)のわなかも知れませんぜ」
「バカ、警(サツ)が新聞広告なんか出すもんか」
「そういや、指名手配ってありましたね」
完璧にバカ同士の会話。
ちなみに「警」と書いて「サツ」と読ませることは出来ないので、漢字に弱い中高生諸君は注意するように。
「それじゃ、昔の知人とかに心当たりがあるんですかい?」
「ポーム博士」
即答か。
「新しいものを創り出すことが生きがいの、発明気違いの科学者だ。数年前、俺の住んでいたところの屋根裏部屋に寝起きしていたんだ・・・」
黙って聞いているタツ。
兄ィは運転しながら続ける。
「二三の発明品を商社に売ったあと、行方をくらましてしまった・・・」
「といいますと、いまはやりのじょうはつ、というやつで?」
「わからない」
「その発明品というのは・・・」
「核ミサイルの制御装置。それに・・・ニキビ取りの妙薬」
「ニキビ・・・ですか?!」
「とにかく毛色の変わった人だった」
確かに一筋縄ではいかない相手のようだ。タツは唇を噛み締め、問いを発した。
「なぜ、その人が兄ィを・・・」
「わからない。しかし、ひとつ気になることがある」
「といいますと・・・」
「俺たちはさっきから尾けられているようだ。バックミラーを見ろ」
高速道路を全開で驀進してくる黒いセドリック。
「はァ、もう3キロも尾けられっぱなしですもんね」
意外と有能な回答をするタツ。
「下道に降りて決着をつける。シートベルトを締めろ」
「そんなのまだ、運転席にも設置されてないですよ。道路運送車輌法で設置が義務付けられたのは1969年ですぜ」
「じゃ、俺たち、確実に死ぬな。行くぞ」
アクセルを踏み込み、下りのランプウェイへ進入する白いクラウン。いつの間に宵闇が忍び寄り、ヘッドライトが点灯されている。
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