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2011年4月16日 (土)

大内清子『悪魔のおとし子』 ('84、ひばり書房)【前編】

 その喫茶店は、看板の上にテープで一枚の紙が貼られていた。

  「避難所」

 店内は混雑している。 

 「・・・ボク、こういう“博士と助手”パターンって大好きなんですよ。
 システムの勉強してたときも、そういう参考書ばかり読んでましたし。」

 怪奇探偵スズキくんは、コーヒーカップを取り上げて言う。

 「すると、わしが博士か。グシ、シシ、シ。」

 古本屋のおやじは薄気味悪い笑い方をした。
 「実は憧れていたんじゃ、博士。
まったくいい響きだよなぁー、おいコラ、これからは日常生活でもわしを博士と呼べ。」

 「オバQみたいですね。」

 スズキくんはラムレーズンクッキーに手を伸ばした。
 「そういや、あと、葉加瀬太郎っていましたね。なんですっけ、職業ヴァイオリニスト?」

 「あいつは、ハカセ界の面汚しじゃ。なぜ、白衣に虫眼鏡を持たんのだ。ペッペッ」
 唾を吐いた。
 ドン・ジョンソンみたいな店員がギロリと睨んだ。

 慌てて首を竦めたおやじは、誤魔化すためか、カフェオレに角砂糖をドバドバ放り込んだ。
 さらに険しい顔つきになる店員。

 「・・・ま、ま、兎も角」
 おやじは慌てて話題を変える。
 「今回は難物じゃぞ。読むと確実に気がふれる。絶対正気の人間では考えつかない、不自然極まるストーリー。」

 「なんか、毎回そんなのばっかりですが・・・。」

 「しかも、画力まで心底腐っておる。本気で地獄だ。プレ少女マンガのアヴァンギャルドな構図。妙に執拗に髪の毛だけ細かく描いてある、不安定過ぎる人体デッサン。
 常人の理解を軽く凌駕する大石清子先生の傑作『悪魔のおとし子』、別名『幽霊クラスメート』。
 この本はタイトルが違うだけで同じ内容だからな!間違えて二冊買っちまえ!!」

 「嫌ですよ。この本、ボク読みましたが、つまらなかったですよ。蔵書にいらないです。」

 「そんなことだから、お前はいつまでたっても公園暮らしから抜け出せないんだ。
 
どれ、この作品の読みどころ、博士こと吾輩が解説してやろうかい。グシ、シシ、シ。」


【あらすじ】

  (俺の妹がそんなに可愛い訳がない・・・。)

 物語は、主人公・日高良のそんな独白から始まる。
 試験前。眠れないまま、深夜二時。
 ふと、気づくと枕元に妹・神(しん)がパジャマで立っている。空中を見つめ、あらぬ様子の妹に、「おい、どうした?」と声をかけると、

 「フフゥーーーッフゥー。かみ殺してやる!!」

 襲ってきた。
 このとき、妹の頭上にはオオカミのような犬のような、微妙な動物霊の顎から上がオーバーラップして描き込まれている。(憑依したということか?)
 慌てて応戦する良。どったん、ばったん。

 騒ぎを聞きつけた両親が子供部屋に駆けつけると、寝巻きの幼女を押さえ込んでいる中学生のおませさんがそこにいたのだった。
 「おまえも年頃なんだなぁー。わかるゾ、お前の気持。ヒヒヒヒ」
 父親は妙な理解を示すが、母は冷たかった。
 良はこっぴどく叱られ、当分妹に近づくな、と無茶な警告処分を受けるのであった。

 翌日。
 「お兄ちゃんがへんなことするから寝坊しちゃった」妹は、小学校に行こうと迎えに来た隣のあつしにまであらぬ痴漢行為をチクるもので、良は小学生からも「この変態!」とマジギレでどつかれる。
 お陰で試験結果はさんざん、追試は確定。
 そこへすかさず先生が、「まぁ、試験のことはそのくらいにして・・・」と聖職にあるまじき暴言を吐きながら、転校生の紹介を始める。 
 (※この物語の登場人物の言動は、万事に渡ってねじくれている。)

 「うわ〜、きれいな子だー!」

 スカート丈より遥かに長い、校則ぶっちぎり無視の、長い髪をした神秘的な美少女。奈々尾純子。おお、純子。
 話の混乱を防ぐため、先に諸君に断っておくが、こいつが幽霊クラスメートだ。よろしくね

 「席はどこがいいかなァー?」
 そんなことも決められない、ダメすぎる教師。縦縞のストライプの背広なんか着こなしてやがるからか。
 「はァーい!良くんの隣がいいと思います!」
 「では、そうするか。」

 「エエーッ!こ、ここは、アヤちゃんの席です!先生だってわかっている筈です、アヤちゃんの死を・・・」

 唐突にとんでもないことを口走る良。
 読者はここで、クラスメートのアヤちゃんが何らかの原因で死亡し、以来この席が永久欠番と化していたという、通常の学校生活においては不自然極まるべき事実を知らされることになる。なんの前触れもなしに。
 良の激しい告発に、突如涙目になるダメ教師。
 中年、メガネにズラ
という大人アイテムを見事着こなしているにも関わらず、この男、内面はガラスの十代を卒業できていないようだ。 

 「・・・判っている。」
 重苦しい声で教師は言うのだった。
 「たしかにあれは悲しい出来事だった。しかし、忘れなくてはいかん!」

 どっちなんだ。

 「あたし、良くんの隣でいいです。」
 初対面から馴れ馴れしい純子。良の隣に着席すると、目を合わせず、心の声で話しかけてくる。
 
 “フフッ・・・良くん、あたし、アヤよ・・・”

 驚愕する良。
 しかし、そんな声など聞えない他のクラスメート達から「お前!奈々尾さんに見とれんなよ!」とどやされ、事態はうやむやになるのであった。

 放課後。
 心の声で話しかけられる異常体験をしているにも関わらず、純子と一緒に帰るという、大胆不敵な選択肢を選んだ良。いったい、なにを考えているのか。
 
 「私、身体が弱くて迷惑かけるかも。だけど、よろしくね
 「いやぁ〜〜〜非常に・・・光栄っす!」

 なにも考えていなかった。
 
 メアドもゲットし、さらにムードに乗じて、彼女の家を訊き出す良。

 「私、家に帰るのに、バスで一時間以上もかかるの・・・。」
 憂鬱そうな表情を浮かべる純子。
 「なんでまた、そんな遠くから通ってるんだい?」
 「これにはその、いろいろと・・・事情があるのよ・・・。」

 狂ったマンガにはつきものであるが、最後までその事情が明確に語られることはない。
 と。そこへ、

 「あれ~~~ェ、お兄ちゃん!」
 小学校帰りの妹・神(しん)が現れた。兄に会いたくて、さっきからずっと待っていたという。
 萌え~~~。

 「あれ、このお姉ちゃんは・・・。」
 まじまじと初対面の奈々尾くんの顔を覗き込む、神。
 「お兄ちゃん!このお姉ちゃん、アヤちゃんだよ・・・!」

 「なに、お前にもそう見えるのか?!」

 「そう・・・あたしはアヤよ・・・。」

 瞬間、形相の一変した奈々尾純子。けだものじみた仕草で、空中を走るや、妹の襟首を鷲摑みにし、唸り声を上げて絞め出した。

 『この悪魔め!!
 かえせ~、私の生命をかえせ~!』


 まったく意味不明の緊急事態に慌てた良は、思わず道端に落ちていた石ころでもって、奈々尾純子の額を割った。夥しい流血。お前はブッチャーか。
 思わず蹲った少女は、しかし低い気味悪い声で喋り続ける。

 『・・・なにをするのだ~、良~、お前の妹は悪魔なのだぞ~!!!』

 「なに・・・?」

 『わからんのか、私はお・き・く・・・。』

 「へ・・・?」

 『青山主膳様に愛され、そして殺されたお菊・・・私の怨霊は、悪魔め、お前を殺さぬかぎり成仏できんのだ~~~!』

 「な、なんでこんなところに番町皿屋敷が出てくるんだ?!」

 当然の疑問を口にする良。
 面倒なので、ざっくり手早く事態を説明するが、奈々尾純子は超霊媒体質の面倒くさい女で、始終誰かの怨霊に取り憑かれ、あっちこっちフラフラ彷徨っている。
 今回憑依しているのは、数百年前に死んだお菊の怨霊と、先日不慮の事故で命を落としたクラスメートのアヤちゃんで、いずれも意外な共通点があって、こうしてつるんで化けて出ているのだそうな。

 最早真剣に話を聞く気が失せた良は、鼻をほじりながら尋ねた。

 「で・・?お菊、お前とアヤちゃんの接点ってなにさ?」

 『いいか、良、よく聞け。お前の妹は数千年にわたって生きながらえている古代バビロニアの悪魔なのじゃ!!』

 「エ~~~ッ?!」
 
 『われわれは、いずれもお前の妹に殺された犠牲者なのだ。』

 思わず、妹を見据える良。なんの変哲もない小学生の女の子にしか見えない。
 そう正直に答えた途端、額をバチンとはたかれた。

 「不心得ものめ!貴様と話しているだけで不愉快だ。
 わしは、もう帰る。」

 勝手に帰ってしまった。
 あとに残された奈々尾純子は、すぐに正気を取り戻すとモジモジしていたが、恥ずかしそうに背中を向けて走り去った。
 ポカン、と見とれる良。

 「・・・萌え~~~

 「お兄ちゃんのバカ!!」

 神という名を持つ悪魔の子は、思いっきり実の兄をどつくしかなかった。

  
 (後編へつづく)

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