大内清子『悪魔のおとし子』 ('84、ひばり書房)【後編】
(承前)
「避難所」と看板に手書きで貼られた喫茶店は、かなり混雑している。
怪奇探偵スズキくんは、奢りだと聞いて注文した追加のレモンスカッシュをごくごく飲み干しながら、手の中の一枚の紙片を弄りまわしていた。
「うーーーん・・・お高いですよ、コレは。相当お高いです・・・」
宙を仰ぎ、溜息を吐く。そこへ、
「都内に生活する大学生の一日当たりの生活費は、平均1,037円!」
古本屋のおやじは、席に滑り込むなり云った。
走り去ろうとするウェイトレスを強引に捉まえてエッグマフィンをオーダーしてきたのだ。
「おまえは、なにを悩んでいる?サイババ死去の報道か?なぜ、国葬?そういう謎かけか?」
「違いますよ。
そろそろ、我が国固有の習慣であるところの某連休に突入するじゃないですか。」
「あぁ、ゴールデンウィーク。」
「ちっとも、ゴールデンじゃない!ボクたち、派遣労働者は日給制なんですよ。休めば休むほどお金が貰えなくなるんですよ!アラ、不思議!」
「お前、派遣だったのか。」
「最近始めたんです。怪奇だけじゃ喰えないもので。」
「わしゃフリーだもんね。」
おやじは胸を張った。
「喰えなきゃ、喰えないほど体重が減る!アラ、不思議!」
「ちっとも不思議じゃない。・・・それにしても、よく解らないな。あんた、どうやって喰ってってるんだ?本業の古本屋が繁盛してるようにはとても見えないし・・・」
「そんな話はいい。
それよか、今回の大内清子の記事を書いていて、重要なことに気づいたんだ。」
「なんですか?」
「俺に“妹萌え”という感情はまったくない。理解できない。そんな奴がこんな記事を書く資格があるんだろうか?」
呆れたスズキくんが叫んだ。
「あんた、本物のバカですか・・・?
しっかりしてください!
今更何を言い出すんですか?!
そんな変態の初歩の初歩を理解しなくて、この先“姉萌え”“兄萌え”“弟萌え”“母萌え”“おやじ萌え”・・・と続く近親相姦の家族ゲームを攻略できると思ってるんですか?
妹、ですよ!い・も・う・と!!
幼いんですよ!
はなっから性交できないんですよ!永遠の異性交遊禁止ゾーンの住人なんですよ!
だからこそ、逆に萌えるんじゃないですか!!
ブオォーーーッと!!!」
「おぉ!ブオォーーーッと、か!!」
「そりゃもう、バーニングですよ!バーニング・プロ!!さらにメランコリック・ジェラシーですよ!!」
「バ、バーニング・・・!!
しかも、ジェラシーまで・・・!!」
「しまいにゃ、スパークリング・・・!!!
どうです、わかりましたね!!」
おやじは泡を吹いて床に倒れ、失神していた。
【あらすじの続き】
その夜、ふと目覚めて窓から表を眺めると、頭を包帯でぐるぐる巻きにした奈々尾純子の生き霊が隣の家に入っていくところだった。
「あ・・・そういえば、隣は死んだアヤちゃんの家だった・・・!」
舌を出しお茶目な顔を見せる良。茶目っ気にも程がある。
寝たふりしながら、それを窺う妹・神(しん)は、純子との宿命的な対決を不可避のものと感じ、悟空の物真似で(オラより凄ェやつ・・・ワクワクすんなァー!!)などと呟いていたが、そのうち飽きて寝てしまった。
翌日。晴天。
(つづく)
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