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2011年4月10日 (日)

黒沢清『叫(さけび)』 ('06、オズとエイベックス他)

[あらすじ]

  湾岸の埋立地。葉月里緒奈がどぶに顔を浸けられて殺されている。
 取り囲む捜査員たち。警察のパトカーの赤ランプ。
 死因は溺死であるらしく、死体を起こすと口から泥水がドバーーーッ
 
 そんな汚い事件の捜査は嫌
だが、仕事だからしょうがない。役所広司が渋々現場を検証すると、被害者の爪から自分の指紋が出て来て、ビックリ。最新の指紋照合システムの前でバツの悪い苦笑いを浮かべる鑑識と刑事たち。
 まぁ、検証中にうっかりツメに触ったんでしょう、ということになり、証拠は不問に。
 そんな記憶がない役所は、「なんか、変だな?」と思いつつ、さらに現場を洗うと、今度は黄色い電線コードの束が出てきた。被害者の首筋からは黄色い塗料が検出されており、あぁ、じゃぁこれで首を絞めたんだ、という話になる。

 変なのはここからで、残業時間に書類書きをし、辛い一日の仕事を終えて帰宅した役所が自宅のマンションの壁をふと見ると、電源コードの根元から毟り取られた箇所がある。
 いよいよ、変な顔になる役所。
 夜中にこっそり殺害現場に舞い戻り、あれこれ捜しまわっていると、突如葉月里緒奈の幽霊が台車に乗って襲ってくる。
 脈絡なく、イヤーーーな感じの絶叫を迸らせて。

 「な、なんだよう?!俺がなにをしたっていうんだよう?!」

 中学生みたいなことを言いながら、地面に蹲る役所。
 台車に乗った葉月は、鼻をふふんと鳴らして、
 
 「・・・私を忘れたのですか・・・?」

 瞬きをまったくしないで喋る。生来記憶の悪い役所は、残念だが、この女が誰なのかまったく記憶がない。

 「お・・・お前なんか、知らねェよーーーッ!!」

 ブチ切れて絶叫すると、頭上から盥の水がドバーーーッと降ってきた。
 
失神する役所。刑事にあるまじき情けなさだ。
 
 場面変わって、病院。
 コントでお馴染み中村ゆうじ扮する医師が、筋弛緩剤を大量に持ち出し、ぐれてしまった息子の殺害を謀る。
 そんな状況とは露知らず、工業高校帰りの息子は親父に金をせびりに来る。

 「なぁ、親父、頼むよぉー。オレよぉー、先輩にさー、借金があんだよー」

 「・・・幾らだ?」

 「五十万円。」

 額面に思わず固まる中村だったが、思案の末以下の間抜けな結論を出す。

 「じゃ、ちょっと待て。母さんに聞いてみるから。」

 この人、自分では何一つ判断がつかない男であるらしい。
 ちなみに医師の名前は、佐久間。『CURE』でうじきつよしが演じていたキャラと同一人物であるらしく、眼鏡に髭の同じコスプレをしている。インテリだけど、事態の解決にまったく役に立たない点も同じ。黒沢監督の脚本は、吉元新喜劇と非常に良く似たスタイルを持っているようである。

 続く深夜の工場裏での息子の殺害場面は、普通に物悲しい音楽が流れて、いつもの黒沢映画の、あの不自然さを不自然なままに撮る演出とはそぐわないが、まぁ、エイベックスから何か云われたんでしょう。
 注射器で筋弛緩剤を服の上から打ち込み、苦しむ息子の首を絞め、傍らにあった工事用バケツの中に浸けて、殺害。そして、逃走。
 事件後またしても現場に駆けつけた役所は、先の殺人との手口の共通性に愕然となる。同僚の伊原剛志にマジに心配されるくらい、目に見えた狼狽振りをしめす役所。

 「お前さ・・・一回カウンセリング受けて来いよ。」

 紙コップに入れたコーヒーを差し出す伊原は、妙に優しいのだった。
 
 さて、犯人の医師はやがて捕まるが、取調べ中もあらぬ方向を向いて「来るなッッッ!!」と絶叫したり、あからさまに怪しい。
 どうやら彼だけに見えている存在があるようで、口跡の端々から、どうやらそれがあの幽霊女らしいと分かり、いよいよ混迷の度合いを深める役所。
 あの女、いったい何者なんだろ?

 カウンセラーの、元仮面ライダーオダギリジョーのところで、過去の記憶を掘り返すうち、あの女を確かにかつて見たことがるのに気づく。
 遥か昔だ。ようやく、思い出したぞ。
 でも、「アレ・・・?どこでだっけ・・・?」
 どうやら、この人は根本的に脳の構造に問題があるという設定のようだ。

 その間に、身元不明だった葉月里緒奈の正体が判明。母親がようやく今頃捜索願いを所轄署に提出したのだという。
 若干拍子抜けしながらもさっそく訪ねる伊原と役所だったが、応対に出た母親の様子が妙だ。
 よくよく尋ねてみると、娘のかつての交際相手というのがいて、たびたび金をせびられているらしい。
 「なんで、また?」
 と至極当然な疑問を口にしかけたところへ、当の男がやって来る。

 「あ!お前は・・・!」

 刑事の勘がピンときた二名。慌てて逃げ出す男。
 田んぼを越えてくんずほぐれつ、大捕り物の末、フライシャーの『絞殺魔』でトニー・カーチスが捕まるカットそっくりに(画面外で車に当てられ転倒するところが良心的オマージュだ)駆けつけた警官によって取り押さえられる。
 捕らえて見れば、なんのことはない、こいつが葉月里緒奈を殺した犯人という訳で、一件落着。
 これでもう、幽霊も出ないだろう。ホッと胸を撫で下ろす役所。
 夜も安心。
 多い日も、安心だ。


 その夜、帰宅してひとりコンビニ弁当を食べている役所のところで、電灯が切れる。ブレーカーが原因かと思って上げてみたりするが、やはり暗いままだ。
 パチッ、パチッ、パチッ。
 何回目かのパチパチの間隔で、カメラ据え直すと、背後の部屋の角に葉月里緒奈が座っている。

 「うわッ!!」

 必要以上に過剰なリアクションで後ろに飛びずさる役所。

 「な・・・なんで、お前、また俺のところに出るんだ。違うだろ。」
 半泣きで子供のような理屈を言い立てる役所広司。さすが日本を代表する名優である。
 「出るんなら、お前さんを殺した奴のところへ行け!」

 瞬きもせず、巨大な瞳で役所を凝視する幽霊。
 どうやら、かむりを振っている。

 「エ・・・なに、違う?違うのか?
 あいつはお前を殺した犯人じゃないって・・・?
 
 お前、あの女じゃないというのか!!」


 うなずく幽霊、両手をジェスチャーで動かす。

 「なに、それは置いといて・・・なんだ、次は。難しいな。わかんね。わかんねぇよ!」

 あまりの役所の飲み込みの悪さに、イラッときた幽霊、思わず喋ってしまう。
 
 「私は・・・孤独だった。
 誰もが私を見ようとしなかった。
 
 私を探して。
 探してくださいぃイイイイイイイイ!!」

 
 両手を頬に当て、絶叫する幽霊。ドアを開けて、戸外へ出て行く。
 耳を塞いで追いかけた役所の目の前で、マンション9階の手摺を越え、飛び降りてしまう。
 こりゃさすがの心霊現象もひとたまりもあるまい、と覗き込んだら、ふわりと空中に浮かび上がった女は、ひらひらと飛行しながらビル街の上空に吸い込まれるように消えていった。
 ピースサインをしながら。

 役所広司、誰もが思っていたことを口にする。

 「・・・なんだ、そりゃ・・・?」 


[解説]

  不自然極まりない作品。せめて役所の記憶力がもう少しましだったら、と切に願わざるを得ない。 
 しかし、女の逆恨みで世界が滅亡とか(本当)、相変わらずやることをやってて楽しい。
 クライマックスでの、盥おけの使い方のうまさは、伊藤潤二の名作「うめく排水管」に酷似してグーなので、
 「ホラー映画は怖いから、見ません!」
 とか、女子大生みたいにふざけたことを抜かしているスズキくんも必見だ。

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