特別企画「映画を泥棒してみる」
「私は、二本立てが好きだ。
なんだか意味はわからないが、満腹感があるじゃないか?」
犯罪王は誇らしげに宣言した。
緑の上着に赤いシャツ、黄色のネクタイ。ジャケットの胸に薔薇の花を一本刺して、現実社会にはちょっといないタイプの人になっている。
「はァ・・・しかし・・・」
応え辛い返事をする部下は、定石どおりデブ。
適当な服を着て、休みなくポップコーンを食い続けている。
地下のアジトは、排水管の饐えた臭いが立ち籠めている。
「調子に乗って3本はいかんよ。胃凭れの原因になるから。」
笑って、続ける。
「そう、かつて地上波テレビが娯楽の王様だった時代、若くて金もない私は深夜映画、お昼のロードショーなんでも片っ端から全部観まくった。
重要なことは、差別せずなんでも観る姿勢だ。
それでも、『フリークス』なんてのはちょっとTVにかかりにくいから、レンタル屋で借りてきてビデオで鑑賞した。『人間の条件』だか『戦争と人間』だか、そういうのも観た。『ベン・ハー』とか、な!“なに考えてるんだ、俺は?!”とか思いながらな!
映画館だけが映画の記憶の伝承装置ではない。
必死にトイレを我慢しながら立ち観した『スターウォーズ・帝国の逆襲』以来、映画館にあまりいい想い出がないんだ、私は。
自宅で、孤独りで観るのが最高。
映画を泥棒した気分になれて、非常に満足だ。」
デブが突っ込む。
「しかし、あんた、さっき3本はいかんと云った傍から4本はないデショ!!」
「しかしソフトも安くなったなァー!買わん奴の気が知れんよ!!という訳で、今週は決して名画座にかからない、一本幾らの安い映画、大特集!!
映画の甘美な記憶に死を・・・!!」
「死を・・・!!」
《一本目》 『ロボコップ2』('90、オリオンピクチャーズ)
「悪名高いメナハム・ゴーランとピーター・グルーバースのプロデューサーチームが安い映画をバブリーにかっ飛ばしてた時代の産物!
この映画、最大の衝撃はエンディング!
例のロボコップのテーマにあわせて、女性コーラスが高々と“ローーボーーコーーーップ!!”と歌い上げる!!」
「TVじゃそんな些細な箇所はカットされてますかね。あれは驚きますね。」
「お話はまんま一作目のデッドコピーだが、フィル・ティペットのハリーハウゼン魂が超炸裂!!摩天楼を舞台にしたロボコップ2号との肉弾戦は、まさに大熱演である。ノンカットで観たら、『アルゴ探検隊』のタロスに似た動きや、金星竜イミール的な立ち居振舞いが泣かせる!」
デブが小首を傾げる。
「しかし、敵がハゲとガキとボディコン女とヒューイ・ルイスってのは、映画として大丈夫な範疇に入るんですかね、ボス?」
「いいんだ。そこが。脚本は、アメコミの革命児フランク・ミラー!」
「この人、ときどき才能を疑うレベルの勘違いを飛ばしてくれますよね。“ダークナイト・ストライクス・アゲイン”とか・・・」
「続編に弱い男なんだよ、きっと」
「監督は、さっき名前の出た『帝国の逆襲』でコアなファンのハートを揺さぶった名匠アーウィン・カシュナー!」
「『JAWS2』のヤノット・シュワルツと並ぶ大物映画監督だね、俺の中では!とにかく凄いんだよ、カシュナーは!他監督作に『007ネバーセイ・ネバーアゲイン』もあるぞ!」
「・・・王様ですね、ある意味では・・・。」
《二本目》 『キング・ソロモンの秘宝』('85、キャノンフイルム)
「シャロン・ストーンが乳みせねェーーー!!」
「いや、これ、まだデビュー作ですから・・・まァ、すでにビッチ演技の片鱗はありますがね。教授の娘というお姫様役なのにあきらかに下品。シャロンといえば、マニア筋には『トータル・リコール』で見せたシュワルツネッガーへの全力廻し蹴りが印象深い筈」
「タニヤ・ロバーツの『シーナ』と勘違いしてたのかな?乳、乳・・・」
「内容は、あれ、ライダー・ハガードってこんな話だったっけ?と我が目を疑いたくなる知能の低さがスパーク!
最後、洞窟で秘密の仕掛け踏んだら、石膏像の巨大ワニが襲ってきてどうしようか、と本気で悩みました!」
「あれ、『続・恐竜の島』へのオマージュだから。実は」
《三本目》 『ハロウィーンExtended Edition』('78、ジョン・カーペンター&デブラ・ヒル)
「根負けして、3本目はちゃんとした奴を観ちゃいましたー!!」
「ま、製作費の安さだったら今回の4本ではぶっちぎりトップですけどね!」
「何度観ても素晴らしい。だいたい、殺人鬼マイケル・マイヤーズがリアル・サイコなのか、超自然的怪物なのかさっぱり分からない、という描き方が奇跡的に成功している。カーペンターの優れた演出力の賜物だろ。
この中途半端な感じ、凡庸な監督がやったらギャグにしかならん。そういう意味でジェイソンもフレディーも、全部ダメ!」
「雨の真夜中、精神病院の患者が野放しになってる場面とか、追加撮影シーンも面白いんですよねー」
「ま、J・リー・トンプソンとカーペンターを比較するのも気の毒な感じはするけどな。映画監督に必要なものは、まず才能だろ?
そういう基本を分からせる映画だ。」
《四本目》 『マダガスカル』('05、ドリームワークス)
「・・・最後の最後に、こんな映画を観せられて、私はどうすればいいんだ?誰か、教えてくれ!!」
「映画の観過ぎには注意ですよ、ボス」
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