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2011年3月15日 (火)

いばら美喜『午前0時の心霊写真』 ('85、立風書房レモンコミックス)[中編]

(承前)

 室内では不気味な沈黙が続いている。
 真っ向から睨み合った怪奇探偵スズキくんと、黒い影はお互い動かない。
 
 一瞬、遠くで緊急自動車のサイレンが鳴った。

 「それにしても、この世の地獄とはいったいなんであろうか?」

 影が口を開いた。
 「先日からわれわれは報道機関に齧りつき、数々の衝撃映像を目撃し続けているわけだが、起こった出来事の全体像をまだ把握しきれていない。
 “二百人から三百人の遺体が発見され・・・”とか、“宮城県だけで死者は一万名を越える”だとか、垣間見れる映像とを繋ぎ合わせておぼろげに想像しているだけだ。
 あの、放射能汚染危機の件も含めてね。
 瓦解した建物の隙間に、泥まみれの屍骸が無数にごろごろ転がっている眺め。それは確かにこの世の地獄にふさわしい光景であろうけれども、それは此処から離れた場所でまぎれもなく現在進行形で起こっている現実なんだ。
 今まさに地獄にいる人間にとっては、地獄もクソもない。
 生きるか、死ぬか。選択肢はそれだけだ。」


 「それって・・・。」

 「そう、戦争だよ。」
 影はニンマリ笑った。「均衡は破られた。いままさに、この地が戦火の海に呑まれたのだ。」


※     ※     ※     ※     ※

 麻衣子は、ともかく芳恵の引っ越した菅沼市へ行ってみようと決心する。
 ちょうど良いタイミングで、兄も菅沼の親戚宅へ赴くという。どうやら電車で行ける距離のようだ。
 こうなると、ますます麻衣子と芳恵に一年間交流がなかった理由が不自然に思えて仕方がないのだが、それこそが怪奇だ。怪奇現象のなせる業(ワザ)だ。
 
昨晩芳恵と会話するまで、麻衣子は彼女の引越し先すら知らなかった。
 「ここから50キロほど離れた、菅沼市の二丁目」
 説明はかなり具体的だったから、間違いではないだろう。

 さて、兄の出向く理由だが、いとこの宏志から唐突に電話があり、珍しいものを見せてやるから今晩絶対来い、というのだ。
 
 「四年に一度、六月十六日の夜、菅沼の町外れを御所車が通る、という伝説があるらしいんだ。」
 呑気に説明する兄。
 「その噂の真偽を確かめようというわけさ。」

 「バカバカしい。」
 ダンディーな髭の父親は一笑に附した。当然だろう。
 伝承によれば、平安時代、戸隠の鬼女なる者が御所車を見て大層気に入った。鬼女は京都御所近くで乗っていた青涼納言を殺害、従者の魂を抜き取り、従者・もろとも御所車を強奪したという。

 「戸隠の鬼女は嬉しくて、それから御者車に乗って全国を巡って歩いたというんだ。どうだい、面白い話だろう?」
 「まぁ、ずいぶんひょうきんな鬼女ね。」
 「そのうち、廻国のルートも定まり、菅沼市を通るのが四年に一度、午前零時なんだ。」
 「オリンピックでもやってるつもりなのかしら。」
 「鬼女リンピックだな。」

 「まぁ、兄さん、なんだかあたしもそのボケの顔を拝んでやりたくなってきたわ!!」
 興奮するバカ兄妹に、両親は完全に呆れ果て、たしなめることしか出来なかった。

※     ※     ※     ※     ※

 「なんか、無理やり山岸涼子先生の路線を行こうとしている感じですね。」
 スズキくんは、テクニカルな注釈を付ける。
 「きれい系だけど、怖いというよりおっかない方面。サイコ系。鬼女と子供を亡くした母親の怨念が合体すると、精神的に異界へ突き抜けた殺人鬼が主人公を追ってきますね。」
 
 「フフン、そういう話じゃまったくないんだなー。コレが。」
 影はニヤニヤ笑いを止めない。
 「いばら先生の恐怖表現は、常に即物的でストレートなんだよ。
 いつだって、直線距離を最短の速度で駆け抜けることしか考えていない。
 愛すべきロックロール魂の持ち主なのさ!」



※     ※     ※     ※     ※

 翌日。
 半ドンの学校を終えた兄妹は、仲良く電車で出発。
 菅沼市の手前の下高場まで来て、山崩れにより路線が不通となったことを知らされる。
 復旧には五時間以上かかる見込みだという。

 「・・・歩こう!!」
 どこかで聞いたような台詞を吐く兄。
 「え?!」
 「峠を越えて行けば、一時間で着くんだ。さぁ、急ごうぜ!」
 ぶつくさ云いながら、ノリの軽い兄に付き合わされる麻衣子。とはいえ、こんな田舎でボケーーーッと五時間待つ気なんか、ないしィ。
 
 それからえんえん、てくてく、山道をひたすら歩き続けること数刻。チラホラあった筈の民家もまったく途絶え、青葉の眩しい山中を奥へ奥へと分け入っていくふたり。
 とある鄙びた神社の鳥居前、赤子を抱いて何かを待ちわびている風体の巫女さんにバッタリ出会う。

 「ヘイ、ユウ!!」
 左とん平か、GHQの高級将校か、ピンクフロイドのメンバーのような口調で話しかけてくる巫女。
 とはいえ、突出するいばら先生の美女造形能力により描き出された、お姫様みたいな端正かつノーブルな美貌に兄はもう、眼がクラクラ。ハートが、ドッキンコ。
 
しかも、小袖に緋袴を履いて、雰囲気はあくまで本格派。完璧に衣裳が板についている。断じて商売巫女などではない。

 「ミーの抱いてるこのベイビーちゃんを、ジャスト・ア・モメント、しばし、ホールドオンタイト、預かっていてはくれまいか・・・?!」

 「なに、この人?」

 あやしむ麻衣子をよそに、ふらふらと前に進み出て赤ん坊を抱きとってしまう兄。
 余りにも軽率な行動が裏目に出て、かかえ上げた赤子の体重がグワッ、と増した。

 「おわわわっ!!」

 「いいですか、わたしが戻るまでその子を落しちゃ駄目ですよぉぉぉーーー・・・・・・」

 脱兎の如く、山道を全速力で駆け去っていく巫女。

 後に残されたバカ兄妹、ずんずん重みを増す赤ん坊を抱きかかえ、お前が悪い、いやお前が、と互いに罵り合っていたら、あっという間に一刻が過ぎ、太陽は中天へ。
 初めは小学生ぐらいだった体重も、今や大人ひとり分にもなり、とても女子中学生の持ち上げられる重さではなくなり、仕方なく抱き取った兄も早くも青息吐息、精も根も尽き果てて、あわやその場に倒れ臥そうかという、まさにギリギリのそのとき。

 「間に合ったーーーッ!!」

 地面に着く筈の足も高速で擦れて見えなくなるスピードで、山道をカッ飛んで戻ってきた巫女。
 赤子を抱き取ると、勝利のVサインを出した。

 「ユウたち、よくぞこの子を抱いていてくれました。この切り株を!」

 「エエーーーッ?!」

 見ると、兄の抱いていたのは紛れもなく産着に包まれた木の根っこ!!

 「実は私は、巫女ではなく、この神社の氏神なのです!頑張ったみなさんには、特別プレゼントとしてこの、氏神特製お守りを差し上げています!!」

 汚ねぇお守りをそれぞれ、授けられる兄と妹。

 「それじゃ、また来てねん!チャオ!バイならーーー!!」
 

 神の力を誇示するかのように、透明になり社殿の中へ消えていく氏神。
 突然訪れた本格派の民話展開に、顔を見合わせるバカ二名。

 「とりあえず・・・先に進むか・・・」

 成り行きの異様さにそこはかとなく自信を失くした兄を尻目に、麻衣子は心に誓うのでありました。

 「あたし、このお守りを死ぬほど大切にするわ・・・!!」



※     ※     ※     ※     ※


 怪奇探偵スズキくんは、恐る恐る声を掛けた。

 「あの・・・この世の地獄の惨状は・・・どこへ?!」

 黒い影はやけくそで叫んだ。

 「ええい、畜生、またしても記事が肥大化する傾向にあるぞ!!なんということだ!!
 行政には一刻も早い対応をお願いしたいネ!!
 そういった意味で、以下次号だ!!」

(以下次号) 

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