『恐怖の報酬』 ('53、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
かのクルーゾー警部が撮った映画がカンヌで優勝!の報道を聞いたとき、われわれは一様に耳を疑った。
助手の中国人に命を狙われながら、よく映画など撮れたものだと感心せざるを得ない。
主演のイヴ・モンタンといえば、ディナーショーで人気のフランス人歌手であるが、ここでは死んで当然の浮ついた若手として登場し、案の定非業の死を遂げる。その死に被さるB.G.M.が『青き美しきドナウ』であるというのは失念していたが、そういや確かにそうだった。
モンタンは名曲『枯葉』を歌って銀巴里を沸かした男である。
♪ 枯葉よーーー
枯葉よーーー
枯れていなけりゃ、ただの葉っぱだぜーー
俺は、お前にほの字だぜーー
気づいているなら、今すぐ城を明け渡せ!
こんな歌で拍手喝采なのだから、世の中まったくたいしたものでない。
さて、この映画、いちいち面白いのだが、それは印象的なディテールを細かく積み重ねる警部の悪魔の如き計算力によって成り立っているといって過言ではない。
冒頭、昆虫をいじめる現地人少年の丸出しのおちんこから、せっせと床を磨く酒場女のいまにも画面にこぼれ出しそうな乳房の描写、骨折したおやじの足が臭いを放つ厳しい年齢表現、爆破した岩に一斉に放尿して勝利を祝賀する男たちの友情、散り際までせっせと髭を剃る金髪男に、ゲーム『スーパーマリオ・ブラザース』にインスパイアされたキャラであるマリオとルイージの登場に到るまで、一切がインパクト過剰だ。
(同時にわれわれは、なぜマリオのコスプレをした男がルイージと呼ばれているのか、その矛盾について真剣に議論を交わさなくてはならないのだが。)
もうひとつの特徴は、とことん本物を使うということだ。
油田に火を点けたのも本物なら、絶妙な計算で画面上方をフライバイする輸送機のカットも本物。
クライマックスに到っては、本物のトラックをイヴ・モンタンごと谷底へ突き落としている。
(モンタンはしかし、奇跡的な生還を遂げ、ここに彼の伝説が始まった。その能力はイーヴル・クニーブルを遥かに凌駕していた。)
馬鹿リアリストであるウィリアム・フリードキン(通称ドキンちゃん)が敬意を込めてこの作品をリメイクしているのも決して故のないことではないのである。
われわれは、とことん映画的であるということの意味を再度見つめ直してみようじゃないか。
本当に凄い映画を撮る為なら、今すぐモンタンを谷底へ突き落とすべきであるし、愛染恭子がカメラの前で本番するというのならそれを残さず撮影しようじゃないか。
『スナッフ』に収録された殺人は、真実だ。
映画を真剣に面白くしたいのならば、虚実の皮膜の向こう側へ行って、何食わぬ顔でスキップしながら戻って来ればいいのだ。
そういう意味で、スターウォーズ計画には期待している。
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