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2011年2月 6日 (日)

駕籠真太郎『アナモルフォシスの冥獣』 ('10、コアマガジン)

 真空の真っ只中を飛び続ける宇宙船。
 
 ギラギラ輝く星の群れは天空に嵌め込まれた無数のダイヤモンドのよう。
 時折り、流れすぎる流星が真っ赤の炎を尾を引いて、大気圏でもなかろうに音を立てて消滅する。
 この辺りの空間では、時空因果律が不等に干渉を受けていい加減に歪んでいるらしい。

 『こちら、ヒューストン。応答せよ、応答せよ、D』

 「・・・んぁ?!」

 宇宙船の内部では、頭に氷嚢を載せた銀ヘルメットの男が布団に臥せっている。フル装備の宇宙服の上から煎餅布団を一枚掛けて、突っ込むな、というのが無理な状態だ。

 『ひさびさに呼び出してやったのに、なんだD、またもや風邪引いてるのか?』

 「・・・あぁ。昨日も会社を休みましたー」

 『可愛く云うんじゃねぇ!!突然の残業で残された連中は、お前を死ぬほど呪っているぞ!!』

 「・・・」

 『だいたい、昔から思っていたが、お前ほど風邪を引きやすい人間はこの世にいないな。次のギネスに申請しておくわ。カゼカゼの風邪人間ってな!!』

 「・・・じゃ。」

 『寝るな!!
 今回はお前向けのネタを仕入れたんで、せっかくご紹介に上がったってのに、なんだ、そのやる気のない態度は!!
 それでも名のある某大ミステリー研出身者か!!
 ええい、こうしてくれようぞ!!』

 ドバッ、と冷水が天井から落ちてきた。

 「あひぃぃぃぃーーー!!なにすんだ?!」

 さすがのDもガバと跳ね起きた。
 全身濡れ鼠になり、ガタガタ歯の根を震わせている。

 『こちら、ヒューストン。
 本日ご紹介は、駕籠真太郎の書き下ろし新作長編『アナモルフォシスの冥獣』。
 
 ちなみに、貴様の乗ったその宇宙船は完全にわれわれの制御下にある。
 今度任務をサボリやがったら、万物を構成する自然界の四大元素がお前を襲うから、そう思え』 

 「火・・・水・・・風・・・土・・・。
 ヒューストン、もうすでに一個、襲われてる気がするんだが・・・?」

 『気のせいだ。

 さて、駕籠先生のデビューは'88年というから、まァキャリア的には長いお方なのだが、作風が一貫してアレなもので一般への浸透度は殆どあるまい。
 それがどういうものかってーと、早い話がエロとグロだ。
 性器とか内臓とか、切断中の手足の断面とか、生首放りだしたりとか。
 簡単に要約するなら、18歳未満お断りの世界。ボーン・トゥ・ビー成人指定。無期限でアンダーグラウンドへ永住権獲得。
 でも、ロリ、萌え排除の一貫したクールな描写力により、ポルノマンガ方面で大ヒットを飛ばすことなどありえない。
 残酷も、性描写もそうだが、この方、あまりに冷静な体質のため、自分の描いてるエクストリームな描写についついギャグを見てしまう。
 ある意味、プロとして正解。

 初期単行本『喜劇・駅前虐殺』なんかは、さまざまなバリエーションによる人体破壊のオンパレードなのだが、ちっとも陰惨じゃない。
 不思議と明るいの。
 この手の描写に当然ある、嫌な感じは付き纏うけどね。
 大友の水脈を継ぐ、アンチ70年代劇画の硬質な描線の持ち主だからね。残虐行為を描いても妙にカラッとしてるんだ。
 細い線で、神経質に正確なパースを切る。
 理科の解剖図とか人体切断面図みたいな感じよ。あぁいう路線の継承者よ。
 “絵がうまいですね”と他人からは言われるだろうが、作家本人にはそこが逆に悩みどころになってしまう。
 物語を組み立てるってのは、ある意味、読者にお手盛りを食わせるってことなの。手を換え品を換え、飽きさせずに最後まで食べてもらう為には、味付けがいる。感情っていう名の。
 でも自分は、人の涙腺を潤したり、欲情させたりする方向には、明らかに視線が向いていない。
 ハテサテ、どうしたものか?
 そういう意味で、ミステリー方面へのシフトはなかなかに優れた選択であるといえよう』

 「・・・ヒューストンへ、こちらD。
 悪意に犯されて、39度8分。どうぞ」

 『こちら、ヒューストン。

 130P強の長編「アナモルフォシスの冥獣」は、かつての国産怪獣特撮映画へのオマージュだ。
 特撮セットのミニチュアの町で、怪獣の着ぐるみを着て爆殺されたお笑い芸人。
 物好きな金持ちが同じセットを組んで彼の霊を召喚し、事件の真相に迫ろうとする。
 肝試し役として呼ばれた男女六人は果たして生き延びることができるだろうか・・・?

 ペラペラのちゃらいCGが跋扈する昨今の映画状況に対する、ひねった批判も交えつつ、でもこれはあくまでミステリーとして構築されている。
 駕籠先生は、オカルトは一切信じていないと思うよ。

 霊なんていない。
 怪奇現象なんて、すべて説明は可能だ。
 そうでないと、面白くならない。


 さて、野暮なネタばれはしたくないから、ここからは慎重に結末について触れるが。
 たしかに興味深く読み終えたんだが、私の頭には疑問が残った。
 此処に登場するトリックは、殺される作中人物に対して仕掛けられたものではないんだ。
 神の視点、すなわち物語の読者に対してのみ有効に機能するものだ。

 クリスティの「アクロイド殺し」と同じ種類の。
 知的遊戯の一形態としては充分面白いと思うが、物語としてはどうか?説明が説明になってなくないか・・・?』

 「・・・がふゥ。がふゥ。・・・うぅ、ヒューストンへ。
 正直、もう限界だ。
 家に帰って、寝てもいいか・・・?!」


 『・・・なんだ、D』

 ヒューストンは気の抜けた返事を寄越した。

 『おまえ、そこに居たの・・・?』

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