羽生生純『俺は、生ガンダム』 ('10、角川書店)
「いやさー。
『千九人童子ノ件』が面白かったもんで、羽生生純の同時発売の新刊、三冊とも揃えちゃったんだよ」
古本屋のおやじは、テーブルの上を示した。
「勢いがあるってのは、大変いいことだネ・・・!
という訳で、今日は『俺は、生ガンダム』の話をしようかと」
「イヤですよ」
生まれついての怪奇好き、スズキくんは眉をしかめる。
「ガンダム・パロってのは、どう見てもありすぎです。
現代の日本に必要なニーズを明らかに越えていると思われます」
「うーーーん、確かに・・・」
「どれも安直な出来で、さっぱり面白くない。我が国の誇る輸出コンテンツであるアニメ産業に対してボクは一貫して批判的な立場を固持してきました。
特に、エヴァンナントカには我慢がなりません。
・・・吐いていいですか?」
「エ・・・?」
「いいですか・・・?
吐きますよ。
ホント、吐きますよ。
ゲェェーーーーーーッ!!!」
「うわわぁッッ!!マジゲロ!!」
「・・・ガフッ、ガフッ。あー、気持ち悪い。水をくれ」
「お、おい、大丈夫か。いま、なんか、臓物みたいなものも一緒に吐き出したぞ」
「それは昨晩食べたモツです。
あーーー、なんか、本気で気持ち悪いわ。
・・・で、なんですか?」
「♪おまえ、スズキ。店内、メチャメチャ」
「あ、ラップだ」
「♪オレは、カタギ。商売、グチャグチャ」
「一応、韻は踏んでるみたいですね」
「♪倒産、寸前!父さん、助けて!
倒産、寸前!かあさんの、がい骨!」
「はいはい、三智伸太郎先生のひばりマイナー作品『助けてよ!かあさんのがい骨』を入れてみたってことですね。
しょぼい読者サービスですね!」
「うるせぇ。
お前のゲロ、羽生生先生の著作にもちょびっとかかったじゃねーか!
こうなりゃ、股裂きだ」
「あッ・・・!あッ・・・!あッ・・・!やめて、タムレ」
「故人のネタを軽々しく使うんじゃねー!
いいか、暇がないから遊びはやめて、こっから一気に喋るからな!
DCコミックスがバットマンやらワンダーウーマンやら常連キャラを生活感たっぷりの枯れた絵柄で、『劇画オバQ』みたいな、リアル版の単発コミック出してたの、知ってっか?
じじいやババアがコスプレして群れてんだよ!
羽生生先生の『ガンダム』も、基本あれと同じクチだ!
藤子F先生は、基本的につるんとした絵柄の人だから、描き込みは斜線の含有量が増えた程度だったが、そこは異常に線とベタの占める面積の多い羽生生先生のことだ、無駄な熱さが炸裂しまくっていて素晴らしい!
ハッキリいって、俺もガンダムのことはよくわからん!
だから、ここで展開されている見立てがどの程度正鵠を得たものなのか、妥当な判断など出来ん!
出来ん・ザビ!」
「・・・あっ、UFO」
「だから、これは先生のいつもの路線、異常な顔のキャラクターが過剰な行動に走る、暴走コメディーとして楽しむべきなのだ!
だいたい、ガンダムに登場するメカの数々をすべて人間の顔面で表現しようという、着想自体が既にファンタスティックじゃないか・・・?!
お陰で、主要登場人物が奇跡のように異常な顔揃い。こういう連鎖を見せられるのは、本当に楽しい。
だいたい今時だなぁー、生身の人体の持つ、うざい、汚い、ぐちょぐちょの皮膚感覚を、創作領域の中心に据えようなんて作家は、もって珍重すべしだ。
どうだ小僧。わかったか!!」
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
「ん、どうした?」
「イクとき、キュンってなるんです。」
「なるか!!」
ゲロの海に、スズキくんを叩き込んだおやじ、意気軒昂と店内を片付け始めた。
「それにしても、羽生生先生、最終的に生い立ちにもってく話が多いよなぁー。なんか、それってどっかで見た作劇法だよなぁー・・・」
「イプセン?」
スズキくんが顔面を吐瀉物に埋めてドリフ調で叫んだ。
「イッ、プセン!!」
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