ホドロフスキー&メビウス『アンカル』 ('80-'88、レ・ユマノイド・ザソシエ)
[あらすじ]
超未来。
宇宙の運命を握る、謎の物体アンカルを手に入れたZ級超人(かなり常人以下)の探偵ジョン・ディフールが上に行ったり、下になったりする。
その間、世界は何回か破滅を迎えているのだが、物語の進行には特に影響しない。
[解説]
メビウスとは、いろいろあった。
俺が若くて今より考えが定まらなかったころ、些細な行き違いで喧嘩になり、泣かせたりもした。
だが、俺たちはずっと一緒に過ごしていたし、夜通しバカな会話に興じては飲んだくれ、釣り銭も貰わずに店を出たりした。
その頃、波止場に船はいなかった。
夜明け前の埠頭はやけに寒く、メビウスは風邪を引いた。
一晩中月を眺めて吠えていたんだから、当然だ。
前から変わった女だと思っていたが、あそこまでとは思わなかった。
俺は徹夜で看病したのだが、彼女は日に日に痩せ衰えて、とうとうある日ポックリ逝っちまった。
・・・まったく、バカげた笑い話さ。
海に落ちるのが趣味の女と、それを笑って眺めていた男。
どちらがまともか解らないが、俺たちはどちらも同じようにいかれていたのかも知れない。
彼女が絵を描く人間だと知ったのは、遺品を整理していたときだ。
ずいぶん、間抜けな野郎だとお思いだろうが、それが真実だからしょうがない。
絵には、砂漠が描いてあった。
空気がスカスカに乾いて、歯抜けのじいさんの口みたいになった土地。
奇妙な飾りを吊るしたナッパ服の男や、天まで届く壮麗な都市。汚れきった掃き溜めに蠢くミュータントや兵隊。
背後に光輪をまとったエキゾチックな天女。
宗教、占星術やら魔術に絡む呪的イメージ。
こう書くとなにやら、おどろおどろしいが、すべては乾いてスカスカで抜けがいいんだ。
さわったことがない、爬虫類の皮膚をそっと撫でてる感じだ。
絵には風が吹いていた。
俺はそれをじっと眺め、風に吹かれながらゆっくりタバコを一本灰にすると、立ち上がり、靴紐を固く結んで道路に出た。
くそ面白くもねぇ街。
電線に小便するカラスがとまって、こっちの出かたを窺ってやがる。
だが、まだまだ時間はある。
日暮れまでには、もう少し遠くまで歩けるだろう。
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