フレデリック・ポール「われら被購入者」('74、創元社文庫『究極のSF』収録)
[あらすじ]
ウェインは被購入者。重刑囚として公共に売りに出され、人権などとうに剥奪された身。
買ったグルームブリッジ星人はタキオン通信機を使って、銀河系の彼方から彼の身体を操縦し、地球政府との交渉にあたる。
額に穿たれた金属の円盤から指令の電波を受けると、全身の感覚が取り上げられ、文字通りリモコンによって動くロボットと化してしまうのだ。
エネルギー学会。貴重な美術品の買い付け。政府との交渉ごと。過酷な任務は数日間ぶっ通しで続き、寝食も忘れて酷使される肉体。操縦者が非人類なので、人間の限界を無視して運転され、思わず、うんこを漏らしてしまうこともある。
そうした生理的欲求を満たすため、使命を終えると一定時間、行動の自由が与えられる。
公衆便所で手っ取り早くマスを掻き、メキシコ料理に舌鼓を打ち、コールガールを買うウェインだったが、心に秘めたひとつの希望があった。
任務先で擦れ違う金髪のかわいいあの娘。
同じように額に円盤を嵌めて異星人に酷使される身だが、お互い時間の調整ができれば、んーーー、どうかイッパツ、寝てみたい。
しかし、運命は残酷なもので片方が自由なとき、もう片方が仕事中だったりして、なかなかタイミングが合うときがない。
悔し涙に暮れながら、今日も仕事に励むウェインであったが、次の任務を終え、解放されると、なんと、目の前に裸のあの娘が立っていた。
驚き、夢かと疑いつつ、股間が即座に仁王立ちになるウェイン。だが、それは意外とエロに興味しんしんのグルームブリッジ星人の卑劣な罠であった。
お察しの通り、早速始まるハメハメ実験。
本人達の意志を無視してずっこん、ぺったん、餅つき大会。
外宇宙からの訪問者たちのあまりに非道な人権蹂躙ぶりに、断然抗議の娘は舌を噛んで死に、ウェインは強力洗脳により、半気違いと化してしまう。
なにしろ、ちょっとでも催眠が解けると、すぐ自殺を図ろうとするのだ。これじゃ、手綱を緩める隙もありゃしない。
連続して過酷な労働に従事する状態になるのだから、どのみち長持ちはしないだろうが、身体が持つあいだはいい仕事をしてくれるだろう。
さっさとくたばるのが、本人の希望でもあるしね!
[解説]
1970年代のアメリカSFには、完全な人権無視を模索していた一派というのがあって、ハーラン・エリスン「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」とか、ティプトリーJr.「接続された女」などが有名である。
(そうそう、ディッシュがいた。もちろん『334』の巨匠だが、「犯ルの惑星」は恐るべき傑作だ!)
フレデリック・ポールは、その人でなしぶりに定評のある作家で、火星への植民のため合衆国政府が宇宙飛行士をコウモリ人間に改造する『マン・プラス』は、全ては巨大な存在が仕組んだ皮肉なゲームだという、よくあるひねくれたどんでん返しなんかより、改造人間がトイレをひたすら我慢する描写(うかつに放尿すると、電気系統が破壊されるのだ!)が印象に残る、ひたすら下にこだわった作品だった。
「ゲイトウェイ」なんかも、異常にあせくさい宇宙船の最下層デッキで冴えない男女がひたすらセックスする場面や、あるいは、宇宙的規模の謎を握る少年が、異星人の残した巨大構造物の中で成長するが、毎日することがなくて、やたらオナニーばっかしている暮らしを送っていたもので、地球の宇宙船に偶然拾われて人前に出ても、ついつい習慣で股間を握ってしまい、「キャー!!エッチーィィ!!」と美人科学者に平手打ちされる場面などが印象に残っている。
あー、ところでこの短編「被購入者」。
ひさびさに読んだが、主人公への仕打ちにかつて感じた冷酷さはなかった。
どこの会社でもやってることだし、実際こんなもんだ。
ウェインは俺やきみですよ。現状をかんがみるに。
だから、これはもう、SFではないね。
究極のSFではありませんでしたーーー。
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