『ジャイアント・スパイダー大襲来』(’75、グループ・ワン?)
不細工な映画の襲来に戦慄したまえ。
歴然と安く、人の記憶に残らない、見るも無惨なセルロイドの屑束。
なんでこんなものを創るのか、製作者?そしてまた、なぜそれを好んで観ようとするのか、われわれは?
ある日、地球にミニブラックホールが落ちてくるのだ。必然性などまったくない。
(ミニ・ブラックホールの問題をもう少し真面目に扱った、ラリィ・ニーヴンのヒューゴー賞受賞短編「ホール・マン」は同じ’75年だから、これは単に当時旬の科学トピックスだったのだろう。だから何だ?と云われても困るが、エクスプロイテーション映画ほど、流行に敏感なものはない事実の証明にはなる。)
映画の冒頭、宇宙空間に幾筋もの光芒が映し出され、地球にズガーーーンと衝突する。下手くそなイメージ映像。当然ながら、ノーCG。
場面変わって、胡散臭さ満点のロイド眼鏡の博士がどうでもよさそうに解説を入れる。
「あれは、ミニ・ブラックホールが地球に衝突したのです!」
後出しじゃんけん。
この手法でなら、何だって云える。
が、得てしてジャンルの映画はこんなもの。呆れるしかあるまい。重力場や輻射の複雑な問題は全て無視だ。
さらに必然性を無視し、未知の空間に繋がる暗黒の穴から姿を現したのは、誰の役にも立たないハリボテの大蜘蛛の集団だった!!
彼らはダイヤモンドを多量に含む、固い殻から孵化し、ぐんぐん巨大化する。その数、数万匹!!(ちょっと、大げさに書いた。実は十匹くらい。)
撮影は、本物の蜘蛛と、人間が操る信じがたいくらい出来の悪いハリボテの二種類で行なわれ、同じ年に公開の『ジョーズ』がいかに怪物の見せかたに長けていたかを実証する、貴重な資料となっている。
蜘蛛の集団は当然の如く、裸の若いねぇちゃんを襲う。
キャーーーッ。画面にこぼれるおっぱい。
さらに、欲深な農場主を襲う。これまた、お約束。
次に運の悪いバイカーが犠牲になる。ここで一瞬、血みどろのゴアメイクが画面に映ったりして、明らかにこの映画、お子様向けではない。
ようやく恐怖の正体が明らかに。完璧にやっつけ仕事。
われわれは、その事実に戦慄するしかあるまい。
そして、蜘蛛の集団は(やはり)巨大化し、街道を台車に乗って走る。
(楽しそうなエキストラの皆さんの背後から、台車が見え見えの蜘蛛のハリボテが滑って来る。)
誰もこの時点で真面目に映画など観ていないだろうから、さして問題がないのだが、それにしても酷い場面だ。頭の悪い子供の夢のようだ。
結局、蜘蛛集団の意図はよくわからないうちに、ブラックホールを科学者が爆弾で吹っ飛ばすと、映画は唐突に終わる。
・・・それにしても、われわれは、一体何を見せられたのだろうか?
届きそうで届かない人の意識の暗闇。一般の映画が決して到達し得ない、表現の深み。
それは激しくぬかるみ、常に滑る。資金もない。意欲もなにもない。アイディアも既に枯れ果てた。出来ることは下手くそな真似事だけ。でも、納期は否応なく迫ってくる。
だが、映画がその恐るべき歪んだ真実の容貌を振り向けるのは、いつも、そんな不毛の次元ではなかったか。
そういう意味で、これは満足できる意欲作だ。
万人にお勧めする。
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