朝倉世界一『デボネア・ドライブ』③ (’10、エンターブレイン)
デボネアに乗って、旅に出よう。
気持ちいい風が吹いているだろう。
太平洋を右手に見ながら北へ。日本列島は意外と縦に長いのだ。夏。晴れた日が続く。そういう休日をかわいく、カッコよく、バカバカしく写し撮ってみせてくれたコミックはそうそうなかった。
映画的とか、そういうんじゃなくて、あくまでマンガ。
マンガだからウソも描いてあるんです、ってことだ。単細胞諸君。
それにしても、楠みちはるの横浜は、どうなのか。
ヤンキー。
そう、日本の街道には常にヤンキーが常駐していて、デニス・ホッパーに憧れて旅に出るバカ者をへこませてくれる。だから、ロードムービー的な設定はVシネと親和性が高く、それはそれで悪くはないのだが、普段着にアロハを着るがごとき違和感は、常磐ハワイアンセンター通いの親父への侮蔑と嫌悪に帰着するしかなかった。
これまでは。
朝倉先生が切り開いたのは、見た事ありそうで実は見たことがない、見慣れたものが微妙に定点を変えて、自由にフラフラ動き回る不安定な土壌だ。
その次元においては、やくざがかわいい老人となり、盗癖のある女がサーフライダーで、くらげ拳の秘密は運動時に沁み出してねばりつく体液の一種だ。
例えば、三巻126Pを開いて。
この見開きは一貫して松本大洋が描き続けている、あのお馴染みの高揚する場面とまったく同じなのだが、それが日常に平気で降りてきて差し挟まれている。それをこのページ数でやってのけてしまうのだから、恐れ入る。
要するに、途方もなく高度なのだが、それはどうでもいい。そういう気楽さが古い甕に新しい酒を注いでいる。
物語が終着するとき、われわれには幾つかの場面が残っている。登場人物と知り合い、その印象が残る。幾つかの台詞が交わされた場所が。
それが記憶されるようなら、物語は成功したのだ。
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