サム・ペキンパー『ゲッタウェイ』(‘72、ソーラー/フォスター・ブラウナープロダクション)
メキシコまで逃げのびて。
苦い男の夢だ。目覚めると汗だくになって、ベッドの中。
かたわらにスリップ一枚の女がいて、眉毛が濃ければ言うことはない。
バーボン・ウィスキー。エルパソ。アルバカーキー。アリ・マッグローというヘンな名前の女優は飛び切りの美人なのか、不細工なのか。
テレビの時代から数えても何回観ているのか判らないが、原作ジム・トンプソンの名前も知らないまま、気がつくとあの有名なラストシーンが待ち構えている。
地元の有力者と取引きし、銀行強盗を条件に出所した男。50万ドルの強奪には成功するが、妻は有力者と通じていた。ギリギリのところで姦通相手を射殺し、夫を選ぶ妻。そこで生じた溝がストーリーに心理的なテンションを与えている。
大金の詰まったバッグを持ち逃げした男を捕らえて、金を取り返して帰っても、ハンバーガーショップでショットガンをぶっ放しても、ゴミ収集車に運ばれて夢の島の後ろ半分にされたワーゲンの座席に転げ込んでも、事態を救済する台詞は導かれない。
これはウォルター・ヒルの脚本が無能なのではなくて、現実とはそうしたものだからだ。ペキンパーの肉声が聞える。
ただ、時間だけが。ペキンパーは言う。ただ、時間だけが事態を解決する。
バスルームで縊れて死んだ哀れな夫ハロルドのように。自分が自堕落なバカ女の面倒をかいがいしく見ているだけの存在だと知るのは、哀しいことだ。時間は、観ているわれわれの内面にも作用している。だから、同じ映画を繰り返し観るのは大切なことだ。
やはり、あのラストシーンが好きだ。
メキシコ国境。土建屋のせこいトラック。抜けるような青空、土埃り。
生きのびたことが罰のように感じる。それでも人は生きていくのだ。他に選択肢がないなら。
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