まちだ昌之『血ぬられた罠』【序説】 ('88、ひばり書房)
(ナレーション)
「無限につらなる宇宙空間。
これは、人類の叡智も及ばぬ、広壮なる神秘世界に今日も挑み続ける男達の記録である!」
[クレジットタイトル]
ダイナマイト・ウォーズ 帝国の逆襲
隕石がびゅんと飛び過ぎる。
「・・・ヒューストン、ヒューストン、応答せよ。こちら、D。」
宇宙船のコクピット内で、銀色のヘルメットを着用し、あとは全裸の男が言った。ヘルメットの上から、わざとらしくインカムを装着している。
『こちら、ヒューストン。久しぶりだな、D!』
「まったく、われわれのシリーズはとっくに終了したかと思っていた。今後二度と人前に出る機会もないと思ったので、最近宇宙船内ではもっぱら、この格好で生活しているんだ。」
『・・・ちんちんを引っ張るな!
一般読者が逃げるぞ!
お前がどんなにエロエロでも、喜ぶのは火星で待ってる嫁さんぐらいじゃないのか?違うとしたら、深刻な国際問題だぞ。ま、ちょと、覚悟はしておけ。
ところで、ここで恒例の質問タイムだが、
信長、秀吉、家康。あなたが一番好きなのは、誰? 』
「加藤雅也。」
『こちら、ヒューストン。・・・・・・回答は無期限に保留する。
それでだ、レイア姫の件だが・・・。』
「(小声)シーーーッ、姫のことは言わないで・・・!」
『姫は、お前が来るのをずっと待ってるってさ。伝えて欲しい、と頼まれた。』
突如、スピーカーより狂ったようにファンキーなソウルミュージックが流れ出し、宇宙船内の人影は弾かれたように踊り始めた。
制御盤から幾つも火花のスパークが走り、心なし、宇宙船が傾いだようだ。
『うわッ・・・!!わッ・・・!!
やめろ!!
このままでは、航行の安全に支障をきたすぞ!!』
ヒューストンからの制止をまったく無視して踊り続ける宇宙服の男は、勢い余ってコンソール中央にわざとらしく置かれた、真っ赤な「緊急」と刻印のあるボタンに触れた。
途端、激しくローリングし始める宇宙船。
「うわわわァーーー!!」
『(広川太一郎の声で)・・・だから、ダメって云ったじゃないの・・・・・・!!』
宇宙船は煙を吐きながら、間近に迫った巨大な未知の惑星へ墜落して行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『もし・・・。もし・・・。』
揺り動かされ、目覚めると、機器類がバラバラに取り散らかったコクピットの残骸の中。
全裸に宇宙ヘルメットの男は、頭を擦りながら起き上がった。
「ありゃー・・・また、やっちまった。まいったね。
またもや宇宙船一隻、オシャカにしちまった。今月、給与から天引きされるぞ。くそ。
んん・・・おや・・・お前さんは、誰だ?!」
かたわらに立っていた人影は、ひるむ様子もなく立ち上がった。暗がりに隠れていて、姿がよく見えないうえに、ご丁寧に奇妙な仮面を着けているようだ。
もっとも、奇妙といっても、六本木のSMクラブで見かける程度の奇抜さだが。
『私は、メーテル。過去を背負って旅する女・・・。』
「嘘つけ!零士先生は著作権にはちょっと五月蝿いんだぞ。」
『あわわ・・・嘘です。嘘。
本当の正体は・・・・・・。』
ガバ、と仮面をかなぐり捨てた。瞬間、照明が最大になる。
『嫁という名の、異星人!!』
「ギィヤヤヤァーーーーーーッ!!
出たァーーッ!!!」
再び狂って、周囲のものを投げ散らかすDに、懐かしい声が響いた。
『・・・こちら、ヒューストン!
取り乱すな、D!!そいつは、本物のお前の鬼嫁じゃない・・・!!
その惑星の原住生物が仕掛けた、たちの悪い罠だぞ・・・!!』
「止めるな、ヒューストン!!オレは、今度こそ、悪を滅ぼす!!」
Dは宇宙船のスクラップで十字架を組んでいる。
『いや、だから、幻覚だってば。』
(転がっていた光線銃に飛びつくD。)
『そいつの本当の姿は、お前の嫁じゃないの。ええい、わかんないかな?』
(近寄って来る人影に向かって、光線銃を乱射しまくるD。まったく手応えがない。)
『よく、SFとかにあるでしょう、ソイツはお前が深層心理の中で、本当に恐れる存在を実体化してみせてるだけなんだってば。
アレだよ、アレ。“イドの怪物”って奴ですよ!』
(ふと、動きを止めるD。)
「イド・・・?!井土紀州・・・?!」
『こまかいボケはいらねぇんだよ!!
ちくしょう、なんてことだ!久々のシリーズ再開だというのに、まったく本筋の古書レビューに辿り着かないぞ!!』
(Dの撃ちまくる光線によって、周囲の壁はドロドロに溶けて崩壊し消滅していく。)
『こうなりゃ、アレだ。禁じ手を何度も使うのは厭だが、仕方がない・・・。』
その瞬間、画面の動きが静止し、中央に巨大なテロップが出現した。
(以下次号)
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コメント
こらこら
投稿: D | 2010年9月27日 (月) 19時49分