川島のりかず③『恐ろしい村で顔をとられた少女』 【廃屋】 ('85、ひばり書房)
白い背景、雑然と積まれた無数の文字ブロック。
にゅっ、と背後からスズキくんが現れ、テキパキと文字を並べていく。
「怪奇ハンター第三話、五回 【廃屋】」
懐中からガソリン給油ノズルを取り出し、ジェームス・ボンドみたく射撃のポーズをキメるスズキくんに画面外から怒声が飛ぶ。
「それ、ハイオク違うから!!」
[ナレーション]
この物語は、非人類生命体の脅威と戦い続ける勇敢な少年の成長の記録である。
既にお気づきの通り、もはや川島でもなければ、のりかずでもない、ブックレビューですらない、勝手な創作の境地に突入している本シリーズであるが、
作者としましては、つべこべ文句を云うよりも、黙ってひたすら読み続ける白痴的行為を、素晴らしく知的な読者諸君に求めてやまない。
失踪した大手建設会社社長、UFO目撃談、偶然発見された怪奇現象の映っているビデオテープ、そして禁忌の対象となっている不吉な山。
長い前振りは終わった。パーティーはこれからだ。
物語はいよいよ、佳境へと突入する・・・・・・。
ウンベル総司令「・・・のかァ?!キャッキャッキャッ!!」
[シーン14・屋内]
身を屈めて廃屋のドアを潜る、黒沢刑事。
カメラは前方より、その緊張した面持ちを捉える。外界の光が眩しい。
ジャン・リュック・ゴダール「カット!」
室内にはディレクターズ・チェアが据えられ、黒いサングラスのゴダールが座っている。
「キミは映画のいろはが分かっていない。登場人物より先にカメラが室内に入っていたら、観客の緊張感は台無しだろ?
お前は川口浩探検隊か、ってーの。」
瞬時に反応した黒沢、拳銃を引き抜き、ゴダールを射殺する。
「・・・隊長を悪く言うな。わかったか。」
床に転がるフランス人の小柄な身体を跨ぎ越え、黒沢は前進する。
廃墟となって相当の時間が経過しているようだ。壁の滲みや埃りの積もり具合い、煤けた唯一の窓ガラスから漏れ出す日光のぼんやりしたコントラストに、過ぎた歳月がフラッシュバックするかのようだ。
「黒沢さーん、大丈夫ですかー?」
建物の外でスズキくんが声を掛ける。銃声に驚いたらしい。
「おぅ。表をしっかり見張ってろよー!
この調子じゃ、どっからなにが出てくるか、わからん・・・!!」
云った途端に、天井から蛇の塊りがバラバラと降ってきた。
「どわ、わッ!!!隊長ーーーッ!!!」
[シーン15・屋外]
家屋の内部で閃いた数発の銃弾に、窓のカーテンが揺れた。
反射的に一歩身を乗り出したスズキくんの足元に、ピンと伸びたロープが現れ、ググッと引かれる。
もんどりうって転倒したスズキくんに向かって、藪を揺らして丸太が飛んできた。
「のわッ!!ブービートラップ!!」
丸太と一緒に吹っ飛ぶスズキくん。
「あーれーーー!!!」
罠は巧妙に張られ、僅かでも力を加えようものなら、大木に吊るされた丸太が飛んでくる仕掛けだったらしい。
ボテ腹に丸太をめり込ませ、吹っ飛ばされる瞬間、スズキくんの視力2.0と無駄に目がいい眼球は、丸太の側面に彫り込まれた「731」の文字を確かに読み取っていた。
「マルタだけに、731か・・・。古いなァ・・・。」
そして、飛ばされていった。
[シーン16・再び、屋内]
履いていたヒールの角で、蛇の頭を踏み潰しまくっていた黒沢刑事は、ようやく安堵の息をついた。
「・・・はぁ、はぁ、ゼイゼイ。
爬虫類の分際で、てこずらせやがって。このヤロ、このヤロ。」
ブチブチ、潰れる蛇の体。
「やれやれ、これで一安心。」
その瞬間、壁をぶち破って、丸太とスズキくんが室内に飛び込んできた。
「ギィヤァァァーーーーーー!!!」
「のわァーーーーーー!!!」
派手に激突し、床に転がる二名。
パラパラとガラスの破片が辺り一面に降り注いだ。
[シーン17・廃屋内、別の部屋]
「まったく、呪われてるというのは、こういう状態を言うんだろうな・・・。」
黒沢が、スズキくんの腕の傷口を消毒しながら云う。
アウトドア慣れした刑事は、旅行用の簡易薬箱を持参済みだった。
「やめてくださいよ。
ただでさえ、不吉な連鎖に心身ともにビビリまくってるんですから。」
痛みに耐えかねながら、スズキくんが抗弁した。
「しかし、家の中は全部調べましたが、これといった手掛かりも無いですね。この建物が例の大学生のビデオで撮影に使われた物だと思うのですが・・・。」
「お前さんは肝心なところを忘れちまってるのさ。」
黒沢はリュックを引っかき回し、懐中電灯を取り出した。
「こういう、謎の建物には、地下室、もしくは秘密の部屋がつきもんだろ?
間取りはさっき調べた。秘密室なんか造る余裕はない。そもそも、ちいさい丸太小屋みたいなもんだからな。
となりゃ・・・。」
絨毯を捲り上げ、上げ蓋のラッチを持ち上げる。
「案の定だ。・・・ほれ、どうだい?地獄へ、ようこそ。」
黒々と口を開けた地下へ通じる暗い穴倉を覗き込み、スズキくんは身震いした。そこから厭な腐臭が漂い出してきたからだ。
かなりヤケクソな気持ちで、スズキくんは叫んだ。
「次回、地下室!!!」
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