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2010年8月 1日 (日)

沼よしのぶ『ツッパリ刑事彦』 ('79、講談社マガジンKC)

 これは、江口寿史についての記事である。
 つまりは、'80年代の黄金期に駆け上っていく『少年ジャンプ』についての記述だ。

 講談社なのに?
 沼よしのぶ、というマイナー作家の記事なのに?
 (私はマンガ全般の熱心な読者ではないので、悪いが、沼といえば正三!ぐらいしか知識がなかった。諸君、蘊蓄を期待しないように。)
 そもそも、表題『ツッパリ刑事彦』のレビューなのに?

 今回は先に、ネタを割っておく。
 『ツッパリ刑事彦』は、『すすめ!パイレーツ』のデッドコピーである。

 特筆すべきことは、その出来が決して悪くないことだ。
 本家を凌ぐとは云わないが、そこそこに面白い仕上がりである。
 警視庁世井署に勤務する敏腕刑事、刑事彦が赴任したばかりのイッペーちゃん似の若手刑事を巻き込んで起こすドタバタは、あなたが今想像した内容よりは、ちょびっとマシな仕上がりだ。
 六巻続いた程度には、堅実かつ誠実なエンターティナー振りを発揮している。

 問題なのは、そのことの意味の方である。
 われわれは、『右曲がりのダンディー』が巻き起こした波紋を記憶している。
 私が偶然、古本捨て本の山から『刑事彦』を摘み上げたとき、脳裏をよぎったのは、あの時の不吉な霧に似た戦慄であった。
 そもそも、作家のオリジナリティーってなんだ?
 芸術の根幹に横たわる巨大な黒い山脈。
 
 これは、つまりコピーできない天才の作品を一方的に引き継いで、独自路線を暴走した竹内寛行版『墓場の鬼太郎』とはケースが異なる、ということだ。
 江口は、コピーできるのだ。
 しかし、だからこそ、そこに江口寿史ならではの、立ち位置の特殊性・独自性を見ることが可能である。

 そもそも、江口は(外観含め)語りやすい特徴・逸話を多々持っているので、俎上に載せられることが多いのだが、これぞという膝を打つ言説に巡り会えた試しがない。
 たいてい、「女の子が可愛い」とか、凡庸な細部、枝葉末節の取り扱いに終始し、本質に噛み込んでこない。
 江口寿史の作品なら万事、ちばてつやの画風を等身を縮めてポップ寄りに解釈したデビュー作「恐るべき子供たち」から、『パイレーツ』『ひのまる』『ひばりくん』『エイジ』、傑作『寿五郎ショウ』や『なんとかなるデショ!』、アクション連載で未完の『エリカの星』特大号に到るまで、コツコツ踏破し続けた私からしまするに、どの意見もぬるい。ぬる過ぎる。
 作家に対して、不当な敬意が感じられる。
 叩かれてこそ、江口らしいのではないか。

 江口が、コピー可能だというのは既に申し上げた。
 女の子キャラの描き方だけ取っても、影響を受けて実践している者は(残念ながら現在も)多数だろう。
 江口の表現は間違いなく、現代マンガ史の方向性を変えた。
 これは、鳥山明がやってのけた(実にたいしたことの無いように見える)偉業に匹敵する。
 そしてそれは、いかにビッグネーム面しようと江川達也程度の器の持ち主には逆立ちしても出来っこない、巨匠レベルの神業だった。

 では、江口のレベルはどの点において突出していたのか?
 画力?
 その足りなさは、本人がにがい自覚と共に言文化している。
 ストーリー?
 そもそも、まともなストーリーマンガなど一本もないではないか。
 イラストレーターとしてのキャリアも、マンガ家として築いた名声なくしては、成立しなかったろう。

 はっきり、云う。
 江口寿史は、凡庸であることを体現して、初めて偉大となったのだ。
 コピー可能であることの意味は、そういうことである。
 そんな不可思議な成り立ちかたをして、しかも商業的な成功を納めた作家は、江口以外、存在しない。
 この点には素直に感服するし、敬意を払うべきである。

 以上の結論を出し、深く納得した私は、所持していた江口寿史の単行本すべてを即座に破棄処分とし、別の方向へ彷徨い出した。

 天才の後追いはしてはならない。
 諸君、これは誠心からの忠告である。

 
 その方向で、名を成した人はいない。
 

 

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