ユーリ・ノルシュテイン『霧につつまれたハリネズミ』 ('75、ソ連)
やたら評判が高く、そのくせ現物はお目にかかったことがない。
お前はカウンタックか、ノルシュテイン?
・・・いや、私はカウンタックなら見たことがあるな。雨のスーパーカー・ショーで。
あれは、でも、台風の日だったよお兄ちゃん。
悪天候でか、ショーは中止。
でも、大風に翻る防水布と大慌てのスタッフの隙間から、確かに見えたんだ、きいろいカウンタックLP400が。
いつか見た夢のような気がするな。
不思議と記憶に残って、纏わりつく感じ。
スーパーカーなんか、ちっとも好きじゃないのに。
そのときの写真もあるけど、どれもピンボケしてしまってよくわからないんだ。
カメラはいつも肝心なところを写せない。
それはボクの腕がまずいからだろうし、機械もきっと良くなかったんだろう。
でも、返品しようにも、あのカメラはどこで買ったのか。
そんな重要なことさえ、思い出せなくなってる。
われわれは、また、霧につつまれてしまった。
ノルシュテインの技法は、独特。
アニメ作家、アニメ作家としてばかり紹介されるので、誤解を招きやすいが、この人の作品は実のところ3Dのアニメーションに近い。
切り紙でつくったキャラクターと精緻な画面設計で、実景まで取り込みながら、空間をうまいこと表現している。
マッス(質量)が感じられるのに、決して重くならないのは、素材が切り紙だから。
絵ではなく、実際の材料を組み合わせる手法は、確かにセルアニメでは絶対に出来ない独特の表情を、キャラクターに与えている。
そして、かれらの細かい仕草や表情の演出は、とても、とても時間をかけて繰り返し練り直して、達成されている。
ちょっと気が遠くなるくらいの手間がかかってるよ。物凄いくらい。
いちど見てみれば、きっときみも気に入ると思う。
とても、素朴な作風で、偉そうなところは微塵にもないんだ。イジー・トルンカもそうだけど、立ち居地が実に不思議。
その世界では、大物なんだろうに。手垢の付いた形跡がいっさい認められない。
純粋で、曇りなく、力量に溢れていて。
特殊な場所、特殊な国にしか現れないタイプなんだろうね。
これに比べりゃ、われわれって、かなりの俗物だよなー、と確かに思うよ。
ライナーノーツによれば、
ノルシュテインは、CGを「想像力を疎外し、人間をダメにする」から嫌い、と断じたそうだ。
ここからは何も生まれて来ない、とも。
CGの存在が果たしてそうなのか、私には正確に判定しきれないが、
「想像力を疎外し、人間をダメにする」・・・か。
現在のわれわれの置かれた境遇にピッタリ当て嵌まる言葉だとは思わんかね、きみ?
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