岸本斉史『NARUTO~ナルト~』巻二十六 ('05、ジャンプコミックス)
先駆者は常に模倣され、物語は肥大する。
捉えるべき対象は既に膨大すぎて、一個人が読み解くには困難だ。だから、ガイドブックのたぐいが流行るのだろうが、逆説として申し上げるが、このマンガはすごくない。
それほどには。
まったく。いや、全然。
にも関わらず、物語は続いているのだ。そこに読者がいる限り。なにか秘密がある筈だ。
われわれは大いなる惰性と習慣の生き物であるが、なんの理由もなく読み続けていったりはしない。おそらく、その秘密は巧妙に隠されているのだ。鍵のかかる宝箱に、洞窟奥深く埋められて。それがジャンプ神話と呼ばれる構造だ。
専属契約として知られる詭計。
そこにしか存在しない作家たち。
あなたは、『ワンピース』や『ナルト』の作者名を正確に答えられるだろうか?
そうか、ならば『デスノート』の二人の作者名はどうかね?ふむふむ。
そこで、解析の為の方法論の呈示だが、「断片にすべてがある」と信じてみるのはどうか。どんな大河巨編であろうと、一冊のマンガはあくまで一冊だ。
※ ※ ※ ※ ※
「・・・なんか、難しいですねー。」
二十代の好青年、スズキくんは微笑みながら云う。「要するに、ジャンプコミックを一冊拾ってきて、感想を書きますよ、ってことですね?」
古本屋のおやじは、気難しげに腕組みする。
「うん、きっかけはアニメの『ナルト』の戦闘場面ダイジェストをYouTubeで視聴したことですよ。難解すぎて、なにかの実験アニメかと思った。
それで興味を持って、適当な単行本一冊105円で入手してきたんだ。これだ。」
机の上に転がされたのは、いかにもアニメ的なポーズで、炎の中から怒りにまかせて立ち上がる主人公の姿がある。
「この少年の名前がナルトだってのは、いかな私でも解る。
でも、コイツの職業はなんなんだ?忍(しのび)でいいの?しかも学生?忍術学校一年生?
舞台は現実世界とは異なる時空間だよな、これは完全に?
でもなんか微妙にバタ臭いんだ。城とか、殿とか、忍者の必須アイテムは出てこなそうな雰囲気。あ、でも、姫だけは出てそう。
そもそも、チャクラ・コントロールってなに(笑)?なんだその適当かつイージーなネーミングセンスは?真剣に考えた上での結論なのか?」
「エヴァゲリ以降、設定でなんとかしようって話が増えましたね。」
「いくら尤もらしい用語を並べ立てても、説明は単なる説明でしかない。
だいたい、世界観って言葉の使用方法を、根本から完全に間違ってるぞ、お前ら全員!!バカもんが!!廊下に立ってろ!!」
「まぁ、まぁ(笑)。」
「それにしても、かつて『忍空』ってのがジャンプにあった筈だが、常に連載の中に“忍者枠”ってのがあるってことなのか?
ってことは、もしかして流行ってるのか、忍術?忍術ブーム?ケムマキ?」
「さぁ、ボクからはなんとも。」
スズキくんは困ったように頭を掻いた。
「ただ、ひとつ云えるのは、2010年現在の時点でジャンプの人気No.1はナルトじゃないか、という推測ですね。これは、毎週買ってるボクの実感です。」
「散々文句を云っといてなんだが、この二十六巻、まぁ、解るんjだよどんな話だか。
こちとら、無駄にマンガ読みのキャリアだけはある方なんだ。
ナルトと幼馴染みのサスケが対決する。
なんでかっつーと、サスケの兄の謀略で、さらに強い力を手に入れたければ、親友を殺せ!っつーことなんだね。
どういう理屈か、サッパリ意味はわからんが(笑)。
で、このふたりの対決は、鳥山明『ドラゴンボール』が描いた放物線の軌跡の中にある。
すなわち、天地を揺るがす、派手な殴り合いだね。
その過程でお互い、なにか憑依しているらしき描写が出てくる。」
「実はアニメ版を先に見て、そこに興味を惹かれたんだよ、私は。
アニメじゃ、ニセナルトみたいな奴と戦ってて、追い詰められたナルトが『もののけ姫』のタタリ神みたいになるんだ。」
「あぁ。あれ、マンマですよね、いいのか(笑)?」
「モサモサ、モサーッって変形してね。高速で不定形の奴が襲ってくる。で、その過程の台詞で判明するんだが、ナルトには九尾の狐が取り憑いているらしい。」
「史上初、狐憑きのヒーロー(笑)」
「自力で敵を倒す訳じゃないのが、新しい。アニメではそのブニョブニョの溶けた人体みたいな姿が、牛骨みたいなのを纏って、あ、このデザイン知ってる!って思った。」
「ふむ、ふむ。」
「で、マンガ読んだら、サスケの兄の名前がイタチだろ?
で、サスケがもう一段階変身して、眼球真っ黒になった姿を見たら、作者は確信犯的にリスペクトを捧げているのが解った。
こりゃ完全に松本大洋『鉄コン筋クリート』じゃんか!!」
「ん・・・その通りですね。わかってて、あえて変形させずストレートにオマージュしてますね。」
「二順目だな。そこで、私の口から出てきたのは以下の言葉だったって訳だ。
先駆者は常に模倣され、物語は肥大する。」
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