« 朝倉世界一『デボネア・ドライブ②』 ('09、エンターブレイン) | トップページ | リジー・メルシェ・デクルー『プレス・カラー』 ('79、ZEレコーズ) »

2010年7月15日 (木)

ユニコーン『ケダモノの嵐』 ('90、ソニー・ミュージック・エンターティメント)

 無限に広がるアメリカ野球界。

 メジャーリーグを代表する球団、ニューヨーク・ヤンキースの本拠地、ヤンキー・スタジアム。その地下秘密練習場に、その男は立っていた。
 銀色に輝く宇宙服に、特殊グラファイト製のヘルメット。1Gの重力下では、背負った呼吸装置の重みが、一層肩に食い込む。
 吐きそうだ。

 「ヒューストン、ヒューストン。聞えるか?
 こちら、D。」


 『こちら、ヒューストン。
 ようやく、Jポップ墓堀りのコーナーが再開できて嬉しいよ。
 岡村ちゃんのアルバムを聴いていたら、気に入って、そればかり聴いているうち時間が過ぎてしまった。
 今回は、これぞJポップの本命!ユニコーンの巻です。』

 「・・・それよか、なぜ、俺が此処にいるのか、教えろ。」

 『私の考えるところでは、ユニコーンって、変化球に見えて実は直球なんですよ。
 そこを誤解して、過剰に評価してる人って、結構多いと思う。』

 金属バットが球を弾く、景気のいい音がこだました。
 ドッ、と湧き上がる観客の歓声が巨大スタジアムを揺るがす。

 「いや、そうじゃなくて・・・・・・。」

 『要するに、ロックバンド的なカタルシスがちゃんとあって、適当そうに見える箇所が、それに対するフックとして、実は活かされる構造になっている。
 狙うのは、知能犯とやっつけ仕事の中間ラインね。
 さんざん仕事して、結局、“知能犯ですね”の一言で片付けられちゃったら、ゲームセットな訳ですよ。
 運が良ければ音楽家としては認められるかも知れないが、それはもう、ロックじゃない。
 ロックというのは、ちゃんとしてちゃダメなんですよ。
 
これは、伝統的な音楽のスキームからは絶対に出て来ない、違和感バリバリの異端児なんです。』

 チアガールの威勢のいい掛け声が、彼方から聞えてきた。
 幾本ものビールの栓が抜かれる音が、無数のクラッカーがはじけ飛ぶ音がする。
 
 「こちら、D。
 で?!・・・この状況下で、俺にどうしろと云うんだ?」

 『そうそう、『服部』が出た時点でね、あぁ先を越されちゃった、悔しい、という人間は相当数いたんじゃないかと思うんですよ。
 日本語の扱いかたとしてね。
 伝統的なロックのリフに、“男は、服部”と載せた時点で、勝利は確定した。
 面白い、というか目新しかったのは、一見ギャグやてらいに見えるそれが、ギリギリ狙いのストレートだったところなんです。
 それ以前にも、自虐やヤケクソでそれやってた人はいたんですよ。
 でも、継続的にマスの支持を取り付けることに成功したのは、このバンドが初めてだったんじゃないかな。
 バンドブームの幕開きですよ。』

 突然、ピッチングマシーンが唸りを上げ、剛速球が飛んできた。

 「・・・うわッ!!!」

 『打てよ、D・・・!!打ち返せ!!
 俺はどんな球でも打てる、って云ったじゃないか!!』


 「云ってねぇよ!!!」

 白い魔球は連続して、どんどん飛んで来る。
 なす術のないDは、ボコボコに当てられ、情けない悲鳴をあげた。

 「ヘィ、ユー!!まだ、わからないのかネ?!」

 小柄な、胡麻塩あたまの老人がベンチを飛び出し、ファームにやって来た。

 「この世に変化球なんてモンはないんだ。
 実は、全部、直球なんだぞ!!」


 「・・・そんな、オチかよ!!!」

 Dは、血塗れの歯を吐き出し、悪態をついた。

 

|

« 朝倉世界一『デボネア・ドライブ②』 ('09、エンターブレイン) | トップページ | リジー・メルシェ・デクルー『プレス・カラー』 ('79、ZEレコーズ) »

Jポップ墓堀り」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ユニコーン『ケダモノの嵐』 ('90、ソニー・ミュージック・エンターティメント):

« 朝倉世界一『デボネア・ドライブ②』 ('09、エンターブレイン) | トップページ | リジー・メルシェ・デクルー『プレス・カラー』 ('79、ZEレコーズ) »