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2010年7月 3日 (土)

いばら美喜『恐怖の修学旅行』 ('85、リップウ・レモンコミックス)

 今夜も眠れないスリラーショック!!

 ここ数日、冷房病でダウンしていた私は、怪奇マンガなど読む気力もなく、だらだら暮らしを続けていたのであるが、お陰様で、普段から野犬の如きしぶとさを数少ない取り得とする人間としては、貴重な経験をすることができた。
 漂流生活から帰ったロビンソンのように、珍しい国を訪れたガリヴァーのように、今回はそれを報告させて頂きたい。
 といっても、これは闘病記ではないよ。
 体調の悪いときには、どの怪奇マンガを読むのが正しいか、というお話だ。
 うーむ、我ながら見事に一般性がないな。どうか、狭い世界の限定された諸君のみ、有事の際の参考にされたい。危機的状況は突然発生するものだ。それが9・11以降の常識だそうだ。

 熱が上がって初めて解ったことは、病人というのは、面倒なことは一切しなくなる生き物だということだった。
 寝て、起きて、またすぐ寝る。
 家の中にあるものを食べて、生活必要物資がなくなると、そのまま済まそうとする。
 (一日、マックスコーヒー2缶で生きていた日があったのには、驚いた。これは最近全国区になったが、最近までは一部地域でのみ流通していた、練乳が配合された異常な甘さの缶コーヒーである。)
 こういう朦朧とした精神状態の場合は、だらだらTVを流しっぱなしにするのがセオリーであるが、しかし、あいにくウチにはTVがなかったのだ。これは一体どうしたことか。
 無駄の削減だと威張ってはみたものの、そうか、こういう状態の時にはあるといいのだな。人間、幾つになっても勉強である。

 なにしろ、面倒なことが嫌なのだから、複雑な筋を持っている映画も小説もダメだ。理解できない。
 ストーリーやキャラクターを追う手続きが煩雑に感じられ、うんざりだ。
 音楽ならどうかというと、かつて遥か昔に実験してみた記憶があるのだが、高熱がある状態でロキシー・ミュージック『アヴァロン』を繰り返しかけてみた。(このアルバムでのアンディー・ニューマークのドラムは、人類が作り出した最も耳障りのいいサウンドのひとつである。)
 結果、私は『アヴァロン』が大嫌いになった。
 聴くといまだにあの時の不快感がプレイバックしてくる。パブロフ実験の見事な成果である。
 以来、私は熱があるときは音楽を聴かないをモットーにしている。

 残る選択肢は、雑誌。読み物。「イラストレーション」「映画秘宝」の各最新号、「ヴァンピレラ」日本版二号、コロコロコミックの歴史を俯瞰したインタビュー本『コロコロ爆伝』などをペラペラ読む。脳に負荷が掛かりそうになると、一時停止。
 やがて、病いも峠を越え、ふもとの村が見えてきた辺りで、私が手に取ったのは、いばら美喜先生の『恐怖の修学旅行』であった。

 いばら先生は、貸本期から活躍なさっているその世界の大御所で、端正かつシャープな描線、女性キャラの美しさで今日でも多くのファンを持つ方である。
 絵柄の系統として小島剛夕(『子連れ狼』)辺りを想定して貰ってよいのだが、ジャパネスクな繊細さを流線に籠める剛夕に比べると、いばら先生の方がよりドライでアメリカナイズ。ウェットな感情のつけ入る余地などまったく無い。
 西部のガンマンの汚れた皮ブーツの如く、ハードだ。
 代表作『悪魔の招待状』は、不条理かつハードコアな人体破壊描写が連続する、完璧に狂った作品である。
 AC/DC『バック・イン・ブラック』やモーターヘッド『エース・オブ・スペーズ』にも匹敵する男の偉業をマンガというかたちで成し遂げたこの稀有な作品は、CGモーフィング技術の発達した今こそ、ハリウッドにより完全映画化されるべきだと思う。
 (頭部が異常に膨らんで破裂するお兄ちゃんを実写で観たい!)

 『恐怖の修学旅行』は、この時期に発表された同傾向の佳作で、やすだたく『ミイラの呼ぶ夜』がカーペンター版『ハロウィン』への見事なアンサーだったが如く、80年代アメリカンホラーの潮流に対する日本からの責任ある回答と位置づけることができる。
 ま、『サイコ』『悪魔のいけにえ』テイストまで加味して狙ったやすだ先生に比べ、どの作品って具体的オマージュ対象が特定しにくいんだけどね。だいたい舞台が修学旅行だし。
 要は、バタくさい魅力に溢れた輸入ホラーテイストのマンガってことで、理解をお願いしますよ。

 修学旅行前日。
 笹山中学校3年B組は、担任(美女)の「枕投げ禁止」等の注意を受け、全員ワラワラ下校する。明日のイヴェントに備えて早帰りデー。相当のゆとり教育ぶりだ。
 男子、女子、固まりになってだらだら歩いて、途中の河原まで来ると、護岸コンクリートの穴に逃げ込む奇妙な黒い影を発見。
 何かの小動物だろうと思った生徒達は、穴に石を投げるわ、竹竿を突っ込むわ、悪質な集団いじめに走る。
 そこへ再び担任の先生(美女)登場。まだるっこしいキャラ名表記で申し訳ないが、この先生には最初から名前がついていないのだ。登場人物の99%が死亡する、極めて罹患率の高い凶悪な物語で、数少ない生存者の片われとなるにも関わらず。
 「あんた達、早く帰らなきゃダメじゃないの。」
 とか、適当な注意を受け、B組生徒達はまたワラワラ去っていく。
 誰もいなくなった河原に、一足遅れて忘れ物を取りに行っていた主人公めぐみと友人二名が到着。
 穴から出てきた、首に竹竿の刺さったフランケン風の大男と遭遇する。
 驚愕するめぐみに、「おまえの仲間にやられたんだ。」と話す怪人。ラサール石井がトーマス・ドルビーのメイクでトンプソン・ツインズに加入したような、異様な不細工顔である。
 「と・・・とにかく、救急車を!」
 と慌てる子供を軽く制止し、何食わぬ動作で喉もとに刺さった1.5mはある竹竿を、一気に引き抜く怪人。ちょっと血が出てるが、平然としている。
 「わたしは、大丈夫だ。心配しなくていいよ。」
 黒人風にニカッと笑って、再び穴の中の暗闇へ消える怪人。唖然として見送るめぐみ達。

 以上のプロローグが因果となって、3-Bの生徒は修学旅行先で魔界に引き込まれ、(めぐみ以外)全員無惨な最期を遂げることになる。
 理屈で考えてもさっぱりわからない、完璧に壊れ果てた設定だが、切れ味のいい絵柄でインパクトあるビジュアルを連続して叩きつける、早弾きギタリストのようないばら美喜先生(だから、私は勝手に“ミッキー・イバラ”と呼んでいる)の姿勢は、もはや、「考えるな!感じるんだ!」の境地に到達していて、異様にソリッド、かつ高速!ハイテンション!
 巻を捲る手が止まらず、あっという間に最終ページまで一気呵成に誘われてしまう。なにしろ、じっくり考えてる余裕はないんだもの。高速スラッシュメタルのような勢いだ。(新書版単行本、一冊10分切ると思う。)
 その間に登場する、華麗な人体破壊オンパレード!

 ・土中に埋まり、全身が木の根っこと化していく生徒3体。スニーカー着用の足に根が生えてきてるファーストヴァージョンから、下半身が完全に植物化している女生徒で繋いで、首以外すべて根っことなった生首少女で落す残虐ワザ。生首は、やがて木の実の如く変形し種子が発芽する。
 ・泥人間に襲撃され、泥濘に身を呑まれる少女。ちょっとアンヴィエント感あり。
 ・人間より巨大な鷹に捕獲され、洞窟内を連れ去られる少年。だから何?という拭いがたい不条理感は、しかし展開の速さにより、絶妙なフックと化す。これより、怒涛の早弾きパートに突入なのだ。
 ・魔界の住人二名による超絶バトル。金髪、スケスケネグリジェの美少女と、例の竹竿フランケン。口から太麺仕様の糸を吐き出し、人体をがんじがらめにする少女に対し、フランケンは律儀に手刀でスパスパ切断。悔しがる美少女、おのれの右の眼球をポロリと手のひらに落すと、空いた眼窩から盛大な火炎を全力放射。フランケンは瞬時に全身黒焦げに。
 ・骨になっても動けるフランケン、主人公めぐみと担任(美女)の手を引き、魔界から全速力で脱走。高速で飛びすぎる洞窟の壁!あまりのスピード、早弾きっぷりに、走りながらどんどん全身の骨が崩れてバラバラになっていく!
 ・やがて出口で追いついて勝ち誇る金髪美少女に対し、フランケン、右腕をひじから外してエイヤと投げつける!美少女の脳天を握り潰す強力なアイアンクロー、鉄の爪が決まった! 
 ・ご丁寧に、外れた右ひじを宙に動かすと、脳漿を潰された美少女は「ヒェーツ」と洞窟の天井に激突、血だるまで圧壊!同時に全精力を使い果たしたフランケンも諸行無常の風に吹かれて、灰になる。
 ・で、ようやく現世に戻れて「ホッ」(書き文字)とする生存者二名だったが、ひとクラスまるごと潰した責任問題からして、担任(美女)は絶対クビだろう。無惨なことだ。

 ・・・と、書き連ねてみて解ったが、クラス全滅は基本的に人体の植物化によって完了しているのだな。
 人体が切り刻まれるゴア指数は、『悪魔の招待状』や、以前取りあげた鬼城寺健の超傑作『呪われたテニスクラブ』の方が高いようである。
 って、まあ、それが解ってどうするレベルの問題だが。

 あぁ、いい加減長くなったから、このへんで適当な結論。

 体調が悪いときは、怪奇マンガなんか読むもんじゃないですよ。

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コメント

いばら美喜先生の作品を集めていますが.初期作品.短編などは集めるのが大変ですね

投稿: あきら | 2010年12月19日 (日) 20時12分

そうそう。
ご苦労お察し申し上げます。

いばら先生の描線は明らかにワンランク上をいってますよね!
全部読みたくなる気持ちは非常によく解ります。
全集とか選集が出ても全然不思議はないクラスだと思ってるんですが、せめて貸本版傑作選ぐらいあって然るべきかと。

投稿: UB | 2010年12月19日 (日) 22時19分

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