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2010年7月10日 (土)

『惑星大戦争』 ('77、東宝)

 俄かに信じがたい事実だが、金星は消滅した。

 池部良の開発した新型爆弾、宇宙の構成元素エーテル(!)を破壊する謎の兵器により、敵、銀河帝国の侵略軍と共に宇宙の藻屑と散ったのだった。
 われわれは、あっけにとられて見守った。
 これには、一体どういう意味が隠されているのか?
 敵の宇宙母艦を破壊するだけで話は完全に尽いた筈だった。
 百歩譲って、爆発に刺激され地殻変動が起きました、一帯の火山活動が活発になって、金星の大陸の一部が大爆発を起こしました。
 まぁ、これはいい。
 ここまでなら理解できる。よくある話だ。
 しかし、事態はそこからエスカレートし、森田健作を乗せた宇宙艦が遠ざかる、その背後の金星を必要以上に長く映している。
 巨大な火柱が幾筋も走り、われわれが嫌な疑念を感じた瞬間、金星は跡形もなく吹っ飛んだのだった。
 
 誰もがあっけにとられ、爆笑した。
 
 天体の運行は複雑だ。惑星一個分の質量が消滅するだけでも、太陽系にどのような影響が出ることか。
 さらに云えば、物語上でそんな必要がどこにあったのか。
 まさかとは思うが、映画のクライマックスを派手にするだけの為に、惑星一個を吹き飛ばす暴虐が許されていいものか。

 「スターウォーズから学ぶべきものは何もなかった。」
 かつて田中友幸はそう言い切ったそうだ。活動屋のハッタリとして、傾聴に値する発言である。今でもそういう人種は我が国の映画業界に跋扈し、映画を作り続けているらしい。
 それにしても、『スターウォーズ』を無視して『宇宙戦艦ヤマト』に教えを乞うていても世話はないと思うが。
 (これ、実写版『ヤマト』だよ。隊員の服とか、戦闘機、煙突ミサイルとかやりすぎ。ストーリーの着想自体が「地球の危機を救うのは、超兵器の宇宙戦艦ただ一隻!」って、まんまだもんなぁー。)

 この映画は、全米を席巻した『スターウォーズ』が日本に公開されるまでに一年以上のブランクがあった不可解な事態に着目し、東宝が全力ででっち上げたものとして識者に知られている。製作期間実質二ヶ月(!)。
 宇宙船内のセットの一部や、沖雅也たちが着用する、ボーマン船長(『2001年宇宙の旅』)のやつを簡略化したようなオレンジの宇宙服など、後に田中が製作する問題作『さよなら、ジュピター』へと繋がっていく要素が既に見受けられる。

 この作品独自のものを探すなら、おそらく『バーバレラ』を脈絡無視して手本にしたのだろう、浅野ゆう子の黒いボンデージ姿宇宙で、太腿丸出し。まさに神秘の世界だ。
 
問題なのは、先輩バーバレラすら悩殺コスチュームでもヒールは履いていたのに、浅野は敵基地内部で完全にはだしだ、という事実である。
 これ、物凄く頭悪い感じがして、浅野のダッチワイフみたいな美貌と相俟って、『ブルーベルベット』で精神崩壊したイザベル・ロッセリーニが全裸で家の前で待ってるシーンを髣髴とさせる、嫌なサムシングを醸し出すことに成功している。ここだけ素晴らしい演出である。監督福田純、まったく意識していないだろうが。

 大作SF映画の時代は着実に迫り、世代交代の足音が聞え始めていた。

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