ヴァル・リュートン『吸血鬼ボボラカ』 ('45、RKOラジオピクチャーズ)
この映画、マーティン・スコセッシのフェイヴァリットだそうだ。
低予算、スタジオ撮り、戦時下の厳しい規制を逆手にとったハリウッドの名プロデューサー、ヴァル・リュートンの離れ業。
ボリス・カーロフがその怖い素顔を活かして、パラノイアにとり憑かれた将軍役をノリノリで演じている。
(やたら眉毛の濃いジョン・ルーリーのようにも見える。)
舞台は、疫病の蔓延するギリシアの離れ小島。
オープニングも含め、モチーフはアルノルト・ベックリン「死の島」をモロに使っていて、掴みのヴィジュアルがもう、秀逸。
不吉感、バリバリ。
この表現もどうかと思うが、バリバリ。
(絵画に詳しくない人、例えば佐藤氏なんかは原画を一度検索してご確認ください。Wikiなんかで、簡単に見れます。幻想絵画の傑作のひとつとして、斯界ではつと有名。とにかく、漂う不吉感が尋常でない。)
将軍は1912年バルカン戦争の英雄で、とにかく人をいっぱい殺しているが、それはさておき、今夜は亡き妻の墓参りだ。
この近くの島に埋葬したんだ。行ってみるかね、新聞記者くん?
島には宿屋が一軒あって、いろんな国の人が宿泊している。
なかに怪しげな現地人の老婆がいて、病弱な婦人に付き添っている美女を「悪魔ボボラカ」だと決めつける。
ボボラカはギリシア地方に伝わる伝説の悪鬼。夜な夜な活動し人の生き血を啜る醜い浮世の鬼であるらしい。
と、その夜、さっそくおっちょこちょいなイギリス人が「ホワイトチャペルが懐かしい・・・」なんて意味深な台詞を吐いて、死亡。(お前はジャック・ザ・リッパーか?)
続いてあれよ、あれよ、という間に第二、第三の犠牲者が・・・。
島に恐るべき疫病が蔓延したのだ。完全隔離され、誰も脱出することが出来ぬ緊急事態に。
医者が倒れ、牧師が息を引き取り、生き残り達の間では急速に疑心暗鬼が拡がって行く。美女を本気で悪魔の化身と信じる将軍は、新聞記者と全面的に対立、そんな中でずっと臥せっていた病弱な婦人が突然死亡し、緊迫は極限へと上り詰めていくのだった・・・。
この映画、なにが衝撃的だって、ボボラカが吸血鬼じゃない!
もう、これ100%ネタばれだけど、ヴァル・リュートンの恐怖映画においては、超現実的な恐怖は必ず、具体的な意匠を纏って現れるのだ。
これ、鑑賞ポイント。
この作品の場合、ポーの例の有名なやつを上手く着こなして出現する。
クライマックスの墓地の場面ね。
ここ、凄くうまいです。特殊メイクとか、ど派手な効果とか何もなしで、ちゃんと怪奇の演出を見せてくれる。
ちょっと、シャーリィ・ジャクソン的というか、スーパーナチュラルムービーにしては地味目というか、全体にあくまで雰囲気でもってく系の演出ですが、夜中に墓地を訪ねる場面のカット割りは、もう完璧!ヒデキ感激!
さて、以前ご紹介した『キャット・ピープル』と共通して、動物の吠え声がやたら怖い(ホント!)という特徴があるのですが、この作品、全編に流れる音楽も品があって、楽しいんですな。
と思ったら、初期ディズニー『白雪姫』『ピノキオ』のリー・ハーラインじゃありませんか。
『星に願いを』の人ですよ、ぼっちゃん。ビックリしたなァ、もう。
ついつい、口にしたくなる「ボボラカ」というネーミングも含め、なるほど秀逸な仕上がりでありました。
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