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2010年7月 7日 (水)

飴村行『粘膜兄弟』 ('10、角川ホラー文庫)

 (昼間のAMラジオ。ジングル流れる。)

 NA『ウンベルケナシの撲殺天国』。この番組は撲殺社の提供でお送りします! 

 「や、や、師匠。どうも。」

 「なに、これ?ブックレビューのコーナーじゃん。」

 「そうなんですよ、毎週気に入った本を取り上げて、適当な感想を言い合う、という。
 師匠は何気に、活字がお好きな方ですんで、“猟奇バカ”ジャンルから最近出た本を一冊、持って参りました。」

 「へぇー、角川ホラーって、まだあったんだねぇー。」

 「これなかなか面白いですよ、飴村行の『粘膜』シリーズ。」

 「知らない。だれ、それ?」

 「何回目かの日本ホラー大賞で、長編賞を獲って出てきた人なんですがね。猟奇って、なんか、こう偉そうな高級感あるじゃないですか。アメ車みたいな、無駄な重厚感。
 そういうの、皆無なんですよ。
 物凄く頭悪い感じが売りで、マンガみたい。」


 「それ、褒めてるの?」

 「はァ、一応。
 いまどきの無臭な感じの書店の軒先で、『粘膜人間』ってタイトル見たら、思わず手が出てしまいませんか?
 そういう奇特な皆さんがたまたま捕獲されて読者になってしまった、というね。
 シリーズ一作目ではまだギャグ指向が全開になっていないんで、パッと見、残虐ホラーのようにも受け取れます。
 が、二作目『粘膜蜥蜴』がオチも含めて開き直った大馬鹿小説だったんで、みんな喜んだ。あげく、日本推理小説協会賞まで獲得してしまったという。」

 「ふーーーん。どんな話なの?」

 「舞台は、戦争している架空の日本です。
 でも、架空歴史物みたいな設定や解説がまったく省かれていて、作者の興味がそこにないことは明白です。
 これは褒め言葉ですが、戦時下のガジェットやタームを持ち出してきても思想性が全然感じられない。
 勝手に風呂敷を広げられるように、そういう設定を持ち出してるとしか思えない。
 『粘膜蜥蜴』は中盤、舞台が南方の架空の国に移りますが、蜥蜴人類が徘徊してるような、いい加減なジャングルです。巨大ミミズとか、食人昆虫だとか、太田蛍一『人外魔境』のジャケット画みたいな感じの、うそ臭い世界。
 でも極端な造形の飛躍とか、残虐の大暴走はなくて、誰でも楽しく読めるところが実は人気の秘訣じゃないかと思われます。」

 「中庸の美学ですか。重要だね、それは。」

 「あと、師匠にお勧めしたいこの作家の特性として、下半身の欲求重視というのがありまして。」

 「おぉ。」

 「第一作のオープニングからして、河童に会いたい為(!)に、中学生の男の子が浮浪者のおっさんのズリセンを手伝ってやる破目になる、という公俗紊乱スレスレのくだらない描写から入るんですが・・・。」

 「そりゃバッドな、トラウマ体験だねー。」

 「一作目も、二作目も、この最新作も、話の流れに一貫性はなくて、どれから読んでも別に問題はないんですが、主人公がどれも同情の余地のない大馬鹿者揃いという共通性はあるかな。
 どいつも、こいつも、“やりてぇ!”って童貞中学生みたいな行動原理の持ち主ばかりです。」

 「そんなんで長編小説が成り立つもんなの?」

 「事態を悪い方に転がす能力には長けた作家だと思います。考えてないようで、意外とオチがあったりするんで、二作目の『粘膜蜥蜴』は好評だったんじゃないですかね。デタラメやってるようで、実はちゃんとエンターティナーだったりするという。
 平山夢明先生みたいだ、っていう評価もありましたが、この作者は狂気よりバカ寄りに才能を発揮するタイプだと思いますよ。
 ノッてた頃の筒井康隆みたいな感じもします。『ポルノ惑星のサルモネラ人間』とかね。
 夢野久作が好きなのは間違いないと思うんですが、あれもよく考えると、バカな話はとことんバカですからねー。
 ともかく、バカ好きにはお勧めです。」

 「このレビュー、結局褒めてるの?なんか、バカにしてるように聞えるけど・・・。」

 「この本は夢野久作版『ポリスアカデミー3・全員再特訓!』みたいな話です。どうです、素晴らしいでしょ?」

 「やっぱり、バカにしてる。」

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