五島慎太郎『少女が殺される②』('80、ひばり書房)
巻を開くと、
いきなり全裸で寝台に大の字に拘束されている少女。
そして響く、「エコエコエコ・・・」の妖しい呪文。
(古賀新一の『エコエコアザラク』は'75年より連載開始である。すなわち、本書が発行された頃には、既に「エコ」は世界の合言葉になっていたと云えよう。)
悪夢の黒ミサ。ドラクエのキャラとしてお馴染み、悪魔神官の手により、無惨にも少女の首は切断されてしまう。
いきなり、サタンメタルの轟音演奏が鳴り響くような、血も凍る展開だ。ワクワクするね。
それを合図に、遂に地上に姿を現す大悪魔アスタロト。
ここでのアスタロトは、貧相な痩せたおやじだ。ザンバラ髪で、全裸。腕から何か粘液のようなものを垂らしているようだが、五島先生の描写力不足により、よく解らない。
形状としては、水から上がった無職のやばいおっさんに酷似している。
「違ァーーーーーう!!!」
登場するなり、いきなりテンション全開で絶叫するアスタロト。怯える悪魔崇拝者たち。
「よく見ろ!
そいつはドロシーではない!小悪魔だ!!」
少女の生首、見る見る、耳の尖った醜い顔に変身する。
なるほど、似ても似つかない。この差異に気づかないとは、確かにこいつら、無能すぎる。
管理責任者としての大悪魔の憤りも、確かに首肯されるところだ。
小悪魔と入れ替わった少女は、イケメン風の男エディと森に逃走。
どうやら、この舞台はどこだかわからないが、外国のようだ。例えば、多田由美が描くような外国らしい外国が、マンガの画面に登場する以前にあった夢の国。
この物語は、奇妙だ。
続きマンガの第二巻、完結篇であり、先の少女ヌードに続くページは、第一巻のあらすじであるのだが、上下三段組(うち一段はマンガのコマを抜き出し使用)でびっちり4ページもある。
一冊中に、そんなに物語があったのか。
だが、これはおそらくその通りだ。簡潔に語る美徳など学ぶ気がない、おそろしく説明の下手くそなこの文章の書き手は、ただでさえ面倒な、混乱したプロットを何とか短く要約する必要に迫られ、混乱を混乱としてそのまま語ってしまったのだ。
僭越ながら、私が要約してみよう。
アメリカの片田舎ボイド・クリーク。
ドロシーは親友マリーを訪ねた。この町で、禁断の魔女集会が開かれ、大悪魔アスタロトが召喚されようとしているのだ。
マリーの下宿先、元女優のモーリンは悪魔の手先だった!
狡猾な罠にはまり、生贄にされんとするドロシー。危機一髪!
以上だ。
こんな単純な話のどこが問題なのか?
おそらく、事件が起こりすぎるのだ。必要以上に。
モーリンの家の地下には悪魔に関する美術品が多数収蔵されている。
町の中央には聖水の湧く泉(明らかな宗教的誤解がある。聖水は儀式により浄化された水、もしくは水源だ。)があるが、ある日、それが干上がってしまった。誰もが悪魔復活を囁く。
魔女とそれを狩る魔女ハンターとの戦い。牧師。さらに、悪魔ばらい師(エクソシスト)。魔女に母を惨殺されたイケメン。
マリーの女優デビューを祝う仮面舞踏会では、参加者全員が悪魔の仮装をつけて踊り狂う。なぜ?
事件を羅列するばかりで、いっさいの意味づけを拒否する物語は、なんだかあれに似ている。ほら、小栗虫太郎『黒死舘殺人事件』に。
どっかで聞いたような、どっかの映画で観たような、異様にデジャヴ感のある物語は、一切の感情移入を否定し、ただ繋がっていくだけの紙芝居的構造を持っていて、ある意味気持ちいい。
誰が死のうが、誰が悪魔に憑依されようが、読者はただ「ほぅ・・・」という、距離を置いた感想を漏らすことしかできまい。
水晶玉を覗き、ドロシーの逃亡を察知する魔女。(この魔女の描写は、漫★画太郎のババァに酷似している。)
悪魔に取り憑かれ、巨大な鎌で人間を襲う村人。
オビ=ワンとルーク・スカイウォーカーのような、エクソシストとその弟子。念動力で岩をも砕く。(凄い能力だが、エクソシズムと関係ない。)
この悪魔祓いの老大家は、碩学らしく、片目にモノクルを嵌めているが、その理由はつまびらかにされない。雰囲気だけだろう。
羽根のある、痩せた労務者風の悪魔の大群が空を覆い隠す!少女は地面に倒され、間一髪となるが、手前に邪魔に描かれたクイが気になると思ったら、悪魔は期待通り、勝手に串刺しになってくたばるのであった。親切すぎる展開に拍手喝采だ。
そして、悪魔が化けているのではないか、と警察にも疑われる町外れに住むお金持ち、ジャクソンさん。
でも、一番怪しいのは、サリーちゃんのパパと同じ髪型をしているジャクソン家の執事スアトロ(どんな名前だ?あ、アナグラム・・・)だというのは、子供でも分かるだろう・・・。
ただ続いていくだけの物語が面白いのか?
その答えを知る意味でも、この本は入手する価値がある。
とことん徹底して表面的であり続けるというのは、実は物凄く、高尚なことなのかも知れない。
が、いっけん、大馬鹿だ。
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