古賀新一『殺し屋カプセル』 ('79、秋田サンデーコミックス)
夏至。
赤塚不二夫のキャラ。
それは、べし。
・・・という書き出しが閃いて、なんとなく始まってしまった今回の文章、私の熱意はさしたる理由もなく夏枯れ気味である。
あぁ、だるい。
こんなときには、マンガでも読んで寝ちまうのが一番だ。
『とどろけ!一番』。
いや、そういう暑苦しいのではなくて。
テーマとか、内容とかなくて、奇妙で、怪奇なのがいい。
バトルも、うんちくも願い下げだ。
という訳で、古賀新一先生の『殺し屋カプセル』。
これは、へんなマンガという以外に形容が見つからない、立派なへんなマンガである。
ちなみに、掲載誌は『少年キング』だよ、スズキくん。
あったよね、『キング』。
わりと昔に、なくなっちゃいましたけどね。
で、これが、どういうマンガかといいますとね、映画『ミクロの決死圏』を観た若き古賀先生がうっかり思いついちゃった、バカげたアイディア。
「ミクロ化した殺し屋が入ったカプセルがある。」
これだけ。
本物のワンアイディア。
コイツを飲み下すと、中で殺し屋が暴れ出し、飲んだ人間をあの世に送ってくれるというね。
どんだけ、手が掛かってるんだ。
そんな面倒な手間ひま掛けるより、別のもっと妥当な手段は幾らでもありそうじゃないか。
この無駄な発想が素晴らしいよね。
まさに、マンガだ。
先生、この強引な設定をなんとか膨らませたくて、2話、3話で「風邪薬に化けた殺し屋カプセルを世界にばら撒き、陰謀を進める旧日本軍に酷似した秘密結社」まで作り出してるけど、やはり第一話『殺し屋カプセル 1号』のバカバカしさには敵わない。
自殺願望の、貧乏な青年が主人公ですよ。
もう、本当にうだつがあがらなくて、喰うに困って、夜道をたらたら歩いていると、チンピラの車にガキーーーンって、当てられちゃうんですよ。
意外に親切なチンピラは、「おいよー、にーちゃん、病院行くか?」とか気遣ってくれるんですが、助手席の女が最低の人格の持ち主で、
「あたしはお腹が空いてるのよ、早くレストラン連れてってよ。」チュッ、とかやるワケですよ。もう、最低ですよ。
仕方ないので、チンピラも諦めて、
「にーちゃん、これでもつけときな。」って、軟膏をくれるんですよ。あとは、“バハハーーーイ”って。
いいでしょ、この展開?
最高の出来だと思いますよ。
で、青年はそのまま、軟膏塗りながらだらだら歩いて、自殺願望のある人に「殺し屋カプセル」を飲ませるレストランに辿り着く、ということで。
あとの展開は、本当に大バカ。
殺し屋が皮膚のしたを泳いでる(黒いウェットスーツ着用、ライフル型光線銃を装備)のを見つけて驚愕したりとか、
途中で死ぬのが怖くなり、怪しいレストランのおやじにすがると、
「これをお譲りしてもいいですが、高いですよー。」
と、正義の殺し屋(白いウェットスーツ着用)の錠剤を勧められたりとか。
最終的に、青年は内部で神経系統を破壊されて顔面崩壊に到り、自暴自棄になって、全身の開口部という開口部に泥を詰めまくって窒息死してしまうんですが、
お陰で殺し屋も体内に取り残され、あえない最後を遂げるラストもナイス。
まったく、無意味なセンスが光る。
画調はアバウトになった楳図先生調で、展開はちょっと「ミステリーゾーン」っぽい感じでね。
あながち恐怖マンガとも言い切れない、この微妙な狙い目は、諸星先生や藤子A先生なんかもやってる路線ですけど、いいですよね。
ブラック、かつ奇妙な味。
こういう、うだるような暑さで寝苦しい夜には、最適だと思うんだ、
ニャロメ。
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