ザ・バンド『南十字星』 ('75、キャピトル・レコーズ)
最近、個人的の音楽的な事情により凹んでいるので、ザ・バンドを聴く。
本当は「Jポップ墓堀り」の資料も溜まっているのであるが、やる気がしない。音楽は自由気ままに流れて行くのが一番だそうだから、問題ないだろ。落ち込ませろ。
ザ・バンドはロックの中でも不思議な音楽だ。
ロックバンドが単純な足し算の方程式で出来ていないことを、改めて教えてくれる。
特にこの『南十字星』など、ロビー・ロバートソンがすべての作曲を手掛けているので、ソロアルバム的色彩が強くなる筈なのだが、そうならない。
で、かくいう、このロビーという人物が史上最低の人格を持つ、鼻持ちならない捻くれ者であることは、ザ・バンドの解散ドキュメンタリー『ラスト・ワルツ』をご覧になった皆さんならきっとよくご存知だと思うが、彼が全面に出た筈の『南十字星』はあにはからんや、意外な傑作となった。
アーシーで温かみのあるサウンド。それがザ・バンドのトレードマークだとすれば、ディラン色の濃い『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』や、実験色の強い詰め込みすぎのセカンド(大好きだが)に比べ、『南十字星』のサウンドメイクは異様に落ち着いて聴こえる。
私が一番好きなのは、このアルバムの「ジュピター・ホロウ(邦題・ジュピターの谷)」なのだが、このウィットと温かみはどうだ。
ガース・ハドソンの裏を取る、意外に込み入ったオルガンとシンセに自然体で乗っかって、リヴォン・ヘルムが、リチャード・マニュエルが心地よげに交互にボーカルを担当する。
リック・ダンコのベースも嬉しげだし、じゃあ、問題人物ロビー・ロバートソンが何をしているかというと、なんとクラヴィネットだ。
この人は、本当に人の輪に入るのが苦手なようだ。
でも、でかい顔をしていたいのだ。自分が物凄く才能溢れる人物のように錯覚している。
これは、かつてディランも陥った罠だが、きみはきみ自身が思うほど、たいしたことはやっちゃいないのだ。
きみの周りの人たちのほうが、よほど輝いているよ。
アンディ・パートリッジは、音楽をやる気が失せると、ザ・バンドとディランの『ベースメント・テープス(邦題・地下室)』をよく聴く、とかつてインタビューで云っていた。
彼は、いまでもそれを聴いているのだろうか、と疑問に思う。
| 固定リンク
「テーブルの隅の音楽」カテゴリの記事
- ザ・ドアーズ『L.A.ウーマン』(L.A. Woman)1971、エレクトラ・レコード(2022.09.18)
- 戸川純+Vampillia『わたしが鳴こうホトトギス』 ('16、VirginBabylonRecords)(2017.01.14)
- 相対性理論『ハイファイ新書』 ('09、みらいレコーズ)(2013.11.25)
- ポール・マッカートニー&ウィングス『レッド・ローズ・スピードウェイ』 ('73、東芝EMI)(2013.08.14)
- スティーヴ・ライヒ『MUSIC FOR 18 MUSICIANS』 ('97、Nonesuch)(2013.07.23)
コメント