ジョージ・パル『宇宙戦争』 ('53、パラマウント)
いや、実のところ、この古典的なSF映画すら、ちゃんと観ていなかったのだ、私は。
だから、「火星人がよく出来ていて、コワイ」とか、「カラーで撮影された本格的な都市破壊スペクタクル」とか、前評判だけは知っていて、ちょいと期待しておりました。
巻頭、ナレーションと共に太陽系の諸惑星の様子が映る。
「水星・・・暑くて、住めない。」
「天王星も、海王星も寒くてダメだ。」
とか、各惑星のネガティヴな特徴を列記して、火星人が地球に攻めてきた理由を説明する。
ここの背景画が呆れるほどきれい。チェズリー・ボーンステルという天体画家の第一人者が描いていて、名人芸を見せてくれます。
『遊星からの物体X』のホイットロック(ほら、あの氷漬けの円盤が見つかるシーンの背景画だ)といい、ハリウッドの背景画家は本当に凄い。『宝島』のオープニング、町の全景なんかもいいねぇ。楽しそう。
あたしも、高校の文化祭で合唱の背景用に、体育館の舞台に掛ける背景を描いたことがあるんだけど、あぁいう仕事は絵描き冥利に尽きるよねぇー。下絵をペラペラっと引いて、後はクラス中をアシスタント代わりにこき使えるし。校舎の屋上で描いたんだよね、あれ。ペンキ用の刷毛持って、走りながらポスターカラーを塗って。
なりたかった職業は、他にあんまりないけど、「ハリウッドの背景画家」だな。第一位。
で、『宇宙戦争』なんですが、この作品でアカデミー賞も獲得し名美術監督と称されるアーネスト野口氏に苦情を申し上げたい。
円盤、思いっきり、吊り糸が見えてるよ。
最初、エド・ウッドかと思いましたよ、あたしは。
野口さん、特典映像に収録のインタビューで、「糸は青く塗ったから見えない筈なんだけど、見えたという人もいて・・・」なんて苦笑してたけど、
こりゃ見えない奴が、どうかしている。
そういう杜撰なレベル。
確かに破壊されるロサンジェルスの街のセットなんか、細部まで再現してよく出来てましたけど、あの円盤はちょっと。
あと、火星人ね。
最初の登場で、ヒロインが夜の庭を覗くと、一瞬、走って樹に隠れる姿が見えるんだが、不自然極まる着ぐるみで、凄く格好悪いです。
三原色のストロボみたいな目玉も、アイディアは悪くないし、造形もいいんだけど、なんかつまらない。
1953年という製作年度を考えますと、これが本当の元祖で、後のSF映画に対しここからの影響がいかに大きいかよく解るんですが、歴史的価値だけじゃちょっとねぇ。
それに、教会に逃げ込んで救いの祈りを捧げてると、火星人が偶然、細菌により死滅するって展開も、説教臭い。微妙な宗教賛美が憎いです。
子供の頃に観ると、素直に喜べるいい映画なのかも知れないな。
でも、ジョージ・パルのパペトゥーンは観たいです。
特典にさわりが入ってたけど、凄く面白そうなんだ、これが。
特典といえば、ハリーハウゼン先生がテストで作った蛸型火星人のモデルアニメも収録していて、動きもアニメートも完璧ですけど、あのデザインは笑った。
ハゲ頭の巨大なおっさんの顔に、嘴をつけて、太い蛸の足を無数に生やしたやつ。
「原作の忠実な再現だ。」ってハリー先生は威張るけど、あんな奴、出てません。
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