SUPER46『フー・ショット・ザ・マウス?』 ('10、牛人会レコーズ)
無限に広がる大宇宙。
そこには人知を越えた不可思議な現象、謎が数多く存在する。
その秘密に迫るため、そして、新たな世界を求めて、今日も宇宙船は飛行を続けている。
『ヒューストンより、D。応答せよ。』
干渉電波のノイズが激しい。マイクから飛んでくる声も、乱れ気味だ。
ハンモックチェアーに寝転び、煙草を吸っている男は、気の無い返答を返した。
「こちら、D。どーじょー。」
『ハタ坊か。古いな!
どうした、D?勤務中だというのに、性行為直後のような、虚脱した声だぞ。』
「・・・実は、缶コーヒーが切れたんだ。・・・買ってきてくれないか、ヒューストン?」
『またか。
お前は、缶コーヒーを飲まないとまともに仕事しない男だからな!
そんなこともあろうかと、宇宙船内に自販機を設置しておいた筈だが。』
宇宙服の男は大きく、かぶりを振った。
「実は、小銭も切れたんだ。
駅で両替してきたいが、構わないか?」
『・・・その前に聴いてくれ。今日は用件を急ぐ。地球の危機が近づいているのかも知れない。』
ガチャリ、とディスクの押し込まれる音が響いた。
サウンドシステムが反応し、宇宙船のキャビン内に耳障りな音楽が流れ始める。
「Dより、ヒューストン。なんだこれ?」
『宇宙からの謎の信号だ。
パロマ地方気象台が偶然、琴座のベータ星から送信されているのをキャッチしたものだ。
信号はニュートリノ粒子波で、二十六分数十秒単位で、無限に繰り返されている。
ピッチは一定、送信内容の具体的な解読はまだだが、その複雑で奇怪な内容からして、なんらかの宇宙人からのメッセージではないか、と科学者チームは云っている。
きみはどう思う、D?』
「こちら、D。ふーーーむ。
なんか、音楽みたいに聞えるな。」
『こちら、ヒューストン。われわれも同じ結論だ。二十六分の合間に、信号の途切れる箇所があるんだ。それを数えると、都合、十曲入りのアルバムということになるな。』
「二十六分間で、十曲を演奏してるというのか。
随分、せっかちな宇宙人だな。早漏ドピュピュ星人だ。」
『ヒューストンよりD。その宇宙人が登場するビデオは現実に存在するが、おそらく誰も知らんだろう。諦めて解析を頼む。』
宇宙服の男は、缶コーヒーを諦めて煙草を吸いながら、スピーカーから流れる音楽にジッと耳を傾けていたが、3本ばかり灰にしたところで、早々に聴き終えたらしく、再び口を開いた。
「・・・なるほど。
さすがに、二十六分。あっという間だ。
Dより、ヒューストン。ひとつ、解ったことがあるぞ。」
『こちら、ヒューストン。なんだ?』
「琴座星人の演奏力は、たいしたことないようだな。」
『ヒューストンより、D。
大きなお世話だ。
・・・しかし、なんだ、科学者の中には、この信号群に単なる音楽以上の、特別な意味を見出すよう主張する者もいるんだ。
あまりに、えぐい内容だからな。
現在、学会を中心として活発な議論が捲き起こっている。』
「エッ?そりゃ、なに学会だ、ヒューストン?」
『超心理学会。』
「心霊学会じゃねぇか!オカルトかよ。
その方面は、またにしようぜ。話がややこしくなる。」
『率直に云って、どうだ、この十曲を聴いた感想は?伝授してくれないか?どうぞ。』
「自ら伝授を望むとは、いい度胸だ。褒めてやろう。
これは、ポップソングのアルバムのようだ。
楽曲の構成は必要最小限の単位に纏められていて、明らかにそこに腐心した形跡がある。
小節が冗長な箇所は確かに一箇所も無い。
この点は、モータウンや50年代のポップヒットの構成に酷似している。
無論、そのこと自体は例えばパンクの連中も意識していてやっているから、独自性は余り主張できないが、ここで演奏される音楽には、本来短くならない筈のブルースロックや、ファンクなどのレア要素も含まれる。」
『・・・本当は、テクノとレゲエも加味したかった。』
「Dより、ヒューストン。いま何か、云ったか?
次はマイナス面だ。
勢いがあって荒削りなのは結構だが、お陰でかなり聴きづらいな。特にボーカルはきつい。難聴になるかと思ったぞ。
なんで、この男の声がこんなに大きく、ミックスされる必要があるんだ?」
『琴座で、いちばん大声の男なんじゃないか?』
「歌詞や歌い回しからすると、粗暴で、遠慮が無い性格が見受けられる。しかも、こいつは打たれ弱いな、実は。
他人に頭ごなしに噛み付かれると、黙るタイプだと思うな。
議論下手だから、社会的に成功できる人物ではないぞ。」
『ヒューストンより、D。知るか。』
「しかし、バックの演奏にはなかなか、見るべきものがあるな。
皆さん、がんばっている。
特に、バンジョーを弾いてるおにいさん、がんばれ。」
『個人的な応援メッセージは、や・め・ろ。
しかし、それを云うなら、ふたり出てくるリードギターの人も素晴らしいぞ。片方は渋くて、片方は狂っているな。』
「ドラムも、三人いるみたいだぞ。
やたらくねくねした男と、お調子者と、落ち武者だ。」
『コーラスで出てくる、山田辰夫に似た人は誰だ?』
「コラ、見えるんか、顔が?!
Dよりヒューストンへ告ぐ。
一応、ブログの記事なんだから、過度な内輪受けは自重してくれ。読者が逃げる。」
『うるせぇ!!
・・・あッ!!・・・ちょっと待ってくれ!!』
「どうした、ヒューストン?
琴座の宇宙艦隊でも攻めて来たんじゃないだろうな・・・?!」
『メッセージの最後に、URLが記載されているんだ。
ここから、注文できるようだな。
サンプルの試聴もできるようだ。
http://homepage3.nifty.com/gyu-dynamite/gyujin_index.htm
営利団体じゃありません、ってわざわざ書いてある。』
「まったく、ご苦労な連中だな ・・・うわッ!!!」
『どうした、D?!』
「宇宙空間に、異常な質量反応を検知・・・重力波に乱れが生じている。」
『さては、ブラックホールか・・・?!』
「規模は大きいが、そこまでの巨大質量じゃないな。惑星や衛星レベルより、ずっと小さい。アステロイドか何かじゃないか。
モニターに拡大してみよう。」
画面に、接近中の小惑星が映った。
「むッ・・・・・・!!!」
『こ、これは・・・・・・一体?!』
小惑星には、巨大な立て看板がつくられ、マジックで『オナニー禁止』と書かれてあった!!
「・・・学生時代、銀河系に伝わる伝説で聞いたことがある。
これは、もしや、禁欲主義者の宇宙領域じゃないか・・・?!」
『ヒューストンよりD。
データバンクを検索してみた。その場所は、お前の言うとおり、宗教上の戒律により、過度な性行為を自粛して滅亡した、百万年前のデネブ星人の版図だ。
まだ、こんなところに遺産が漂っていたとはな!
・・・しかし、マズいぞ、おい、下手な動きをするんじゃない!
そいつは、超時空素子を通じて、周囲の性行動を監視してるんだ!
不適切と見做された性的接触があると、たちまち反応して周辺20パーセクの空間が量子的大爆発を引き起こすぞ!!』
「し・・・しかし・・・。
オレは・・・、ご存知だろうが、やたらと巨根で・・・。
何をするにも・・・このへんが、突っ張って・・・。
・・・すぐ、当たっち・・ま・・・う・・・ウウッ!!!!!!』
『・・・D!!どうした、D!!』
(その直後、近隣の宇宙基地からも観測される、大規模な爆発の発生が確認された。爆発は恒星系をひとつ丸ごとふっ飛ばし、周囲の天体運動にも多大な影響を及ぼした。
回収に向かった捜索隊は、宇宙船の残骸すら発見できていない。)
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