ジャックス『レジェンドBOX』 ('08、EMIミュージックジャパン)
宇宙船内で、真っ赤な光が明滅している。
エンジンの唸りは壁を引き裂かんばかり、到る所から白い蒸気が噴出する。
銀色の宇宙服を身に纏った男が、コンソールに身を屈めて、叫ぶ。
「メーデー送信、メーデー送信!」
壁に、グリーンのランプが点った。
『こちら、ヒューストン。メーデー確認。どうした、D?』
「Dより、ヒューストン。当機の運行に障害を与える重大な問題が発生した。大至急、解答を頼む。
SMの女王様は居るのに、なんでSMの帝王っていないんだろうか?」
『・・・梅宮辰夫じゃないのか?』
「それは、 夜の帝王だ。」
『・・・そんな用件か?もう、電話切るぞ。』
「Dより、ヒューストン。確かにふざけて聞えるかも知れないが、本当に緊急を要する事態なんだ。最優先で、連想分析コンピュータの起動を要請する。」
『山田正紀「地球・精神分析記録」か。・・・なんだかなぁ。』
「・・・なんだかなぁ。」
『(キーボードの操作音)よし、北極圏のコンピュータ団地と回線が繋がったぞ。ログイン。
パスワードを要求されています。』
「え?!それで、パスワードは・・・?!」
『当然、忘れた。メモもない。こんなに頻繁にパスワード登録と更新を要求される未来社会なんて、サイバーパンクの連中は予言できていたんだろうか?』
「俺の巨根に誓って、答えは“ノー”だ。眉村卓先生だけは、確実に予見していたと思うが。」
『こちら、ヒューストン。じゃ、お勝手口から失礼します。』
「・・・あるのか、お勝手?!お前は、出入りの業者か?」
『マイ・コンピュータ>コントロールパネル>(クラシック表示に切り替える)>インターネット・オプション>お勝手、ね。よい子は試してみてね。
回線、開いたぞ。メインメニューです。検索キーワード入力。SM&帝王。団鬼六と、中野D児を除外。連想類推分析。サーチ開始!』
地球の北極圏には、永久凍土を刳り貫いて地殻マントル層まで届く、巨大な浚渫坑が掘られ、幾重にも積み重ねられたスーパーカーボナイト樹脂製のメモリバンクが全長数万キロに及ぶ記憶バンクを形成している。
連想分析コンピュータはこれら、人類の叡智の集合体に自在にアクセスし、googleやyahooを凌ぐ超絶に細かい精度のハイパーメディア検索を可能にするのだ。
「・・・説明がやけに形容過多だな。詰まるところ、普通のサーチエンジンとどういう違いがあるんだ?」
『こちら、ヒューストン。さぁ?・・・早速、検索結果が表示されたぞ。五兆件。』
「では、先頭画像を表示してくれ。・・・こ、これは・・・?!」
画面にはワイルドな髪型で、黒いレザーを装着しバイクに跨る男の姿があった!
『トーカッター、ですな。マッドマックスの悪役の。』
「むむ、SMの帝王とは、トーカッターのことだったのか!!」
「嫌な予感がする。検索順位、上位から順に連続で表示。」
映画『ストリート・オブ・ファイヤー』のウィリアム・デフォー。『北斗の拳』のケンシロウ。トラボルタ。
「・・・なぜ、トラボルタが?!」
『映画「バトルフィールド・アース」で、悪の宇宙人に扮した時のやつですよ。レアです。』
「そういう問題ではないと思うが・・・。
ヒューストン、どうも、この検索エンジンは使えない気がする。」
『・・・同感だ。
それよか、ジャックスって、いつの間にかデビュー40周年だったんだな!』
「なにを、2008年の話題をしている。」
『当時流行のSMH-CDで、ボックスが出てたんだが、\4、800もしやがるの。結果として売れ残って、デッドストックが中古屋に流れてきて、俺が購入した。未開封、\2,800ナリ。
オリジナルアルバム二枚を紙ジャケ、リマスター。シングル音源追加ボーナス。ラジオ音源「エコーズ・イン・ザ・レディオ」も同梱。
内容的には、まったく文句がない。聴くと、目の前が真っ暗になる素晴らしい出来だと思う。
ザッとまぁ、こういうワケでさ、親方。』
「誰の物真似をしているんだか、サッパリわからん。
それよか、ヒューストン、SMエッチって・・・。」
『結局、業界の無駄な抵抗、タコが自分の足を喰う行為だったんだろうな、SMH-CD。
プリンスの「1999」とか買ってみたが、どこが音質向上してるんだかさっぱり理解できなかったゾ。
通常CDで、丁寧なリマスタリングのリトルフィートに負けてどうする。新素材。』
「こちら、D。
それ、ヴィニールレコードの時代から繰り返されてる長い歴史っスから。
・・・それよか、さっきからSMH-CD、SMH-CDと連呼しているのは、ひょっとして、SHM-CDのことか?」
『・・・・・・・・・え?!』
そのとき、全宇宙の時計が停止し、狂ったように逆行を始めたという。
大天使ガブリエルの吹き鳴らす喇叭の音が聞こえ、浅倉久志は永劫の眠りに就いた、と黙示録の記述では伝えている。
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