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2010年5月14日 (金)

川島のりかず③『恐ろしい村で顔をとられた少女』 【流血牧場編】('85、ひばり書房)

 画面いっぱい、海亀が産卵する映像。
 体内の塩分を排出するため、涙を流している。

[ナレーション]
 お詫びと訂正。
 先日手に入れた資料によれば、『恐ろしい村で顔をとられた少女』 は、'87年ではなく、'85年が目撃された最も古いバージョンのようだ。
 だからなんだ、と云われても困るが、ひばり書房には重版という概念が存在しないので、タイトルを変えての出し直しなど日常茶飯事。
 背中の通しナンバーも、まるでデタラメなので、好事家の格好の餌食になっているのだ。

[オープニングタイトル]

  人生劇場・スズキくん
 第二十三話、「アニキ、俺だって男だ!!」

[キャスト]
 スズキくん      河原崎長一郎
 黒沢刑事       オダギリジョー
 彦根沢レイ子    安原麗子(少女隊)
 マリリン松坂     淡島千景
 小野教諭       本人
 村人A        つくもはじめ
 村人B        レイ・マンザレク
 
 安藤社長      常田冨士男

 その他        劇団のんぽり 東京演技研究所

  ウンベル総司令  ジョー・ストラマー

[シーン8・山道]

 狭い道が尾根伝いに延びている。
 荷物を背負ったスズキくんと黒沢刑事、来る。
 ふたりとも、登山の格好で、そのうえ機器類を無数にぶら下げているので、暑苦しい。

 「そろそろ、登り着いてもいいと思うのですが。」
 スズキくんが手にした地図を見ながら、云う。
 「五合目って、山のどのへんですか。」

 呆れた黒沢、口に含んだ水筒の水をびゅッと吐く。

 「やれやれ、おめぇは、英語が出来ないだけじゃなく、一般常識もねぇのか。
 いいか、こう、山があるよな。」

 手で、空中に女体のかたちを描き、指差した。

 「臍ぐらいだ。」

 「す・・・すると、乳房、あるいはその先端に位置する秘密の蕾までは・・・。」

 「まだまだ、遠いな!」

 急にうなだれ始めたスズキくんを励ますように、黒沢、肩を叩き、

 「もう少し、歩けば右手に沢がある。そこで昼飯といこうじゃないか。
 元気を出せよ、なぁに、娑婆の空気を吸えるだけ、まだマシだァな!!」

 スズキくん、樹幹越しに太陽を見上げる。
 昨夜のウンベル総司令との会話が記憶に蘇る。(ディゾルブ)

[シーン9・宿]

 テレビスクリーンに浮かぶ、ウンベル。踊っている。
 背景に、人類救済計画の本部。並ぶ端末。深夜にも関わらず、みんな、真剣に仕事している。

 「♪タリラリラ~ン、ハビラビラ~ン。ムヘー。ムヘー。
   (決めポーズ。)

 
・・・実はな!
 先日アララギ山付近で、ロケを行なっていた学生映画の連中がな、偶然、安藤社長の姿をカメラに収めていたのだ。」

 「エッ?!そんな映像があるのですか?」

 「ところが、どっこい。
 その連中が原因不明の失踪を遂げ、われわれの手元に回収できたのは、最後の、数分間を映したと思しいリールだけ、だ、っ、た、のだ~~~♪」

 裏声のソプラノで歌い出した。

 「むむむ。どっかで聞いたような話。」

 「♪まぁ~、そう云わず~、映像を~見てくれ~~~。ポチッ、とな!」

[粒子の粗いフィルム、インサート]

 山間にある農家の庭先。
 女優らしき女が、画面向こうから駆けて来て、前景の腕に取りすがる。
 振り向く老人のバストショット。

  
(画面外の声、「あっ!!安藤社長!!」)

 端正な容貌の、小柄な老人である。
 落ち窪んだ黒目がちの双眸は、深い虚無的な光を湛え、彼方を見つめているようだ。
 
 「おじいちゃん、あたし、結婚するとよ!」
 女優は下手な芝居口調で言う。
 「大好きな人の、お嫁さんば、なるとばい!」


(再び画面外より声、「方言指導が必要だな。どこの言葉だ、これは?」)

 穏やかに微笑む老人。
 
 ゴキッ、と首がのびる。


(「!!」「・・・・・・?!」)

 たちまち、四肢が異様な角度にねじくれながら伸びて、急速に姿が変形していく。
 スクリーンの隅で、女優が目玉を剥いて立ちすくむのが見える。
 カメラマンらしき男が、怒声を吐く。
 伸びる手足に、またたくまミシミシと剛毛が生え始め、色もどす黒く変わって、まるで甲殻類の足のような形状だ。
 その向こうの胴体は、無数の棘が並び、大きなだんごのように丸まった。
 急激な変身のためだろうか、苦痛に満ちたうめき声が、空中に伸びた首からほとばしる。
 その顔は、黒目が反転し、顔の両脇に寄って、鼻梁を縦に割ってまっすぐ亀裂が走っている。
 新たな口が生まれようとしているのだ。
 異様に長い、真っ赤な舌がべろりと飛び出し、唇を拭った。飛び出した白い牙が幾本も生え、じゅうじゅうと泡を噴きこぼしている。

 
 「ギヨェェェェェーーーーーッ!!!」

 スズキくんが、異様な吠え声に振り向くと、黒沢刑事が悲鳴を上げて立ちすくんでいた。

[シーン10・沢]

 お昼ご飯に、宿で作って貰った弁当をパクつくふたり。

 静かな渓流のほとり、カワセミの声がする。川面に映る新緑がどこまでも青々しい。
 山の清澄な空気は、あたりを森閑と包んで、平和としかいいようがない眺めだ。

 「あれは、いったい、なんだったんでしょうか・・・。」

 スズキくんがポツリと呟く。
 箸を持った黒沢の手が止まる。

 「うん・・・なんか、見ちゃいけねぇもんを見たって感じだな・・・。」
 
 「あそこでフィルムはブッツリ終わってますが。あのあと、あの連中、どうなったんですかね・・・?」

 黒沢、煙草に火を点ける。
 白い煙を吐いた。

 「・・・さぁ、な。
 他人の心配より、わが身だぜ。俺たちゃ、あのロケ地を探して山を登ってるんだ。」

 「ミイラ取りが、ミイラにならなきゃいいんですが・・・。」

 スズキくんは、考え深げに山頂の方向を仰ぎ見た。

 雲がかかり、深い緑に覆われた山肌を隠している。
 さんさんと太陽が降り注いでいるのに、なぜか暗い感じがした。

(以下次号)

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