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2010年5月 3日 (月)

白石晃士『ノロイ』 ('03、Entertainment Farm+オズ+ジェネオン エンタテインメント+ザナドゥー+PPM)

 不吉な感じ、呪われた状態というのには、ある種の魅惑があるように思う。

 日常の変貌というのは、例えようもなく不快だが、鮮烈な印象を人にもたらすものだ。

      ※        ※        ※        ※

 朝の公園に捨てられたエロ本。

 雨でもないのに湿気ってガビガビの、女の股ぐらの写真は、なんとも説明し難い、駄目過ぎる印象を発見者に投げかけてくる。

 強制力。

 そこに一種の磁場が発生し、見る者は否応無く、その地点に捕らわれてしまう。


 早朝のカプセルホテルで、ごみ箱に無数に捨てられた週刊誌のヌードグラビア。

 くしゃくしゃに丸められたカラーページの隙間から漂うやるせなさは、せわしなく共同洗面所で髭剃りを使う、男たちのきびきびした動きと相対照して、なんともダルな感じを残す。

 人生、丸ごと駄目になりそうな、説明不能の虚脱感。 

 これらは男性生理に即してのわかりやすい説明だが、一般性を持たせるなら、「バスタブの排水溝に詰まった無数の髪の毛」だとか、「玄関横に放置された、犬のふんを始末する自分」だとか、不愉快な状況はいくらでも想起されるだろう。

 (そういえば、ある朝、道路の真ん中にひり出された、あきらかに子供のものではない一本ぐそを見つけたことがあるな。)

 他人の生理現象と、その結果。

 われわれは、それを嫌悪する。

 (あるいは、執着する。いずれも同根だ。)

    ※         ※          ※          ※

 「電車できちがいに話しかけられる」という状況も、これに同じである。

 精神活動も、生理現象のひとつの表れに他ならないからだ。

 ただし、設定はもう少し、複雑になる。

 受け止める側の態度の問題が絡むからだ。

 「見ず知らずの他人に恋愛を告白される」というのは、どうだろうか。

 たいてい、これは、ストーカー被害を連想させる不幸なシチュエーションだと思うが、中には喜ぶ人だっているかも知れない。

 人間は、複雑だ。

 「お前は、クビだ」ですら、ちょっと弱い。

 「マンガ喫茶、出入り禁止」も、考えようによっては、面白そうだ。

 では、以下のケースはどうだ。

 あなたは、バスに乗った。

 やがて、どこかのバス停で乗り込んで年かさの女が、降車口の手すりをつかんで、立ちはだかり、

 「♪あーーくーまーーー、あーーくーまーーー」

 と、大声で歌いだす。

 子供の、うそ歌のような、素朴な節回しだ。

 いやな予感がする。 

 案の定、歌い終えた女はくるり振り返り、ほとんどいない乗客の中から、よりにもよってあなたを指差し、絶叫する。

 「今日はァーーー!!!」

 え?

 「わるい、日!!!」

 な?・・・・・・・なんだ、それは・・・?

 類似の効果をかもし出す用法として、「ブッ殺してやる」など、直接的かつ暴力的な言動を他人に吐く場合が想定されるが、常人のそれと比べて、きちがいのたわごとは、明らかによりたちが悪い。

 目的が、あきらかでないからだ。

 説明できない、不快な感じ。

 理屈にならない、もどかしさ。悪意。

 あなたは、呪われてしまった。

   ※         ※          ※           ※

 どうやら、私は、

 「そもそも人間は呪われた存在であり、それを忘れて、日常生活を送っている。」

 という公然の事実を指摘したいらしい。

 そして、それを諌める規範として、宗教が成立し、国家が形成されたのだと説明すれば、何か解決したような錯覚に陥るだろうが、本当のところ、そうではない。

 呪いは、たしかに存在するのである。

 いま、この状況でも。

 誰にも解決できない状態で。

 今日も、人を殺し続けている。

 そちらの方が、世界の実相により近いようだ。

   ※         ※          ※           ※

 白石晃士はエンターティナーであり、これは楽しめる映画だ。

 きちがい女の復活させた前近代の呪法により、連鎖的に殺害されていく人々。

 気持ちいいぐらい、登場人物はどんどん死ぬ。

 劇中の、超能力少女のつぶやき、

 「たぶんね・・・・・・もう、ぜんぶ、ダメなんだよ。」

 というのは、実に魅惑的な考えだ。

 ノストラダムス的な救済願望だ。

 そう、「ぜんぶ、ダメ」でない、今日も日常を生きているわれわれの方が、よっぽど呪われた存在なのだ。

 そのことを念頭に置いて、観て欲しい。

 この映画の、もっとも呪われた部分というのは、劇中の架空TV番組に、飯×愛が出演しているところだろうから。

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