白石晃士『ノロイ』 ('03、Entertainment Farm+オズ+ジェネオン エンタテインメント+ザナドゥー+PPM)
不吉な感じ、呪われた状態というのには、ある種の魅惑があるように思う。
日常の変貌というのは、例えようもなく不快だが、鮮烈な印象を人にもたらすものだ。
※ ※ ※ ※
朝の公園に捨てられたエロ本。
雨でもないのに湿気ってガビガビの、女の股ぐらの写真は、なんとも説明し難い、駄目過ぎる印象を発見者に投げかけてくる。
強制力。
そこに一種の磁場が発生し、見る者は否応無く、その地点に捕らわれてしまう。
早朝のカプセルホテルで、ごみ箱に無数に捨てられた週刊誌のヌードグラビア。
くしゃくしゃに丸められたカラーページの隙間から漂うやるせなさは、せわしなく共同洗面所で髭剃りを使う、男たちのきびきびした動きと相対照して、なんともダルな感じを残す。
人生、丸ごと駄目になりそうな、説明不能の虚脱感。
これらは男性生理に即してのわかりやすい説明だが、一般性を持たせるなら、「バスタブの排水溝に詰まった無数の髪の毛」だとか、「玄関横に放置された、犬のふんを始末する自分」だとか、不愉快な状況はいくらでも想起されるだろう。
(そういえば、ある朝、道路の真ん中にひり出された、あきらかに子供のものではない一本ぐそを見つけたことがあるな。)
他人の生理現象と、その結果。
われわれは、それを嫌悪する。
(あるいは、執着する。いずれも同根だ。)
※ ※ ※ ※
「電車できちがいに話しかけられる」という状況も、これに同じである。
精神活動も、生理現象のひとつの表れに他ならないからだ。
ただし、設定はもう少し、複雑になる。
受け止める側の態度の問題が絡むからだ。
「見ず知らずの他人に恋愛を告白される」というのは、どうだろうか。
たいてい、これは、ストーカー被害を連想させる不幸なシチュエーションだと思うが、中には喜ぶ人だっているかも知れない。
人間は、複雑だ。
「お前は、クビだ」ですら、ちょっと弱い。
「マンガ喫茶、出入り禁止」も、考えようによっては、面白そうだ。
では、以下のケースはどうだ。
あなたは、バスに乗った。
やがて、どこかのバス停で乗り込んで年かさの女が、降車口の手すりをつかんで、立ちはだかり、
「♪あーーくーまーーー、あーーくーまーーー」
と、大声で歌いだす。
子供の、うそ歌のような、素朴な節回しだ。
いやな予感がする。
案の定、歌い終えた女はくるり振り返り、ほとんどいない乗客の中から、よりにもよってあなたを指差し、絶叫する。
「今日はァーーー!!!」
え?
「わるい、日!!!」
な?・・・・・・・なんだ、それは・・・?
類似の効果をかもし出す用法として、「ブッ殺してやる」など、直接的かつ暴力的な言動を他人に吐く場合が想定されるが、常人のそれと比べて、きちがいのたわごとは、明らかによりたちが悪い。
目的が、あきらかでないからだ。
説明できない、不快な感じ。
理屈にならない、もどかしさ。悪意。
あなたは、呪われてしまった。
※ ※ ※ ※
どうやら、私は、
「そもそも人間は呪われた存在であり、それを忘れて、日常生活を送っている。」
という公然の事実を指摘したいらしい。
そして、それを諌める規範として、宗教が成立し、国家が形成されたのだと説明すれば、何か解決したような錯覚に陥るだろうが、本当のところ、そうではない。
呪いは、たしかに存在するのである。
いま、この状況でも。
誰にも解決できない状態で。
今日も、人を殺し続けている。
そちらの方が、世界の実相により近いようだ。
※ ※ ※ ※
白石晃士はエンターティナーであり、これは楽しめる映画だ。
きちがい女の復活させた前近代の呪法により、連鎖的に殺害されていく人々。
気持ちいいぐらい、登場人物はどんどん死ぬ。
劇中の、超能力少女のつぶやき、
「たぶんね・・・・・・もう、ぜんぶ、ダメなんだよ。」
というのは、実に魅惑的な考えだ。
ノストラダムス的な救済願望だ。
そう、「ぜんぶ、ダメ」でない、今日も日常を生きているわれわれの方が、よっぽど呪われた存在なのだ。
そのことを念頭に置いて、観て欲しい。
この映画の、もっとも呪われた部分というのは、劇中の架空TV番組に、飯×愛が出演しているところだろうから。
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