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2010年4月18日 (日)

石川賢『魔界転生』 ('87、角川書店)

 これぞ、マンガ!

 これぞ、石川賢!


 率直に申し上げるが、この作品を未読の方がいらしたら、おのれの人生行路を再度点検してみることをお願いする。
 何か、重要な間違いがある筈だ。それが、あなたの命取りにならないことを祈る。

 ケン・イシカワに関しては、ひとこと、ダイナミックプロの重鎮と申し上げれば、事足りるだろう。
 残虐描写の容赦無さと、あまりの台詞のカッコよさにおいて、本家豪ちゃんを抜き去った感のあるグレイトかつワンダフルな作家だ。
 恐竜人類が牙と爪とで襲いかかり、人類を食い散らかす初代『ゲッターロボ』単行本が、私とケンちゃんの初遭遇だと思うが、
 ケンカ空手の達人、学生運動の闘士崩れ、山で修行する柔道チャンプが乗り組む巨大ロボ、というワイルドにも程があるキャラ設定と、容赦ない残虐描写(傘で野犬を突いて殺す、など)で小学生読者を心底震え上がらせた。
 特に、ビルディング一個がまるまる敵のメカで、内部に閉じ込められた人々が容赦なく串刺しになっていく話は忘れがたい。物凄く痛そうなんだ、これが。

 しかし、注意して頂きたいのだが、重要なのは表面的な残虐性ではない。
 そこを勘違いしないで欲しい。

 ケン・イシカワの人体破壊描写には、明らかに血肉がかよっている。
 ちぎれ飛ぶ生首は、人の感情に訴えかけてくる強力なサムシングを有している。


 それが破壊の原動力となり、マンガ表現自体を転がすエネルギーに見事に転換されているのだ。いわゆる、ハートを掴む、というヤツだ。にくいあんちくしょう、である。
 読み出したら止まらない。
 手に汗、握る。
 技術的側面から冷静に分析しても得られない、不可解で原始的生命力に直結するエネルギー。ダイナミックプロはおそらくそれを発見、生成することに成功したのだ。
 
 面白いマンガにそれはつきものじゃないですか、とあなたは言うだろう。
 それは事実だ。
 しかし生涯、ケン・イシカワほどの熱量を放ち続けた作家がどれほどいるだろうか?
 表現の真摯さにおいて、作品に篭められたエネルギー含有量に於いて、私は常に脱帽だ。
 諸君もそれに倣うことを希望するものである。

 『魔界転生』はいわゆる原作有りもので、映画にもなってるから、誰でも知ってるだろう。
 深作欣二の角川映画版('81)は、封切り当時、映画館で観た。
 千葉ちゃんのやたらギラギラした柳生十兵衛と、あと坊主にこねくり廻される白いおっぱいくらいしか印象に残っていないな。
 つまらん映画でしたよ(断言)。
 
で、正直舐めてたんだが、大学生になってから読んだ山田風太郎の原作小説は、凄かった。
 簡素かつ切れのいい文章の、たとえば風景描写とかまでが恐ろしく冴え渡っている。紀州の海岸の下りなんか、溢れる陽光に目が眩むし、波涛の飛沫が顔にかかる。
 魔界の剣士に追撃され、柳生の里へ逃げ帰る娘達の場面も印象深いし、なにより決闘シーンのひとつひとつに見事なアイディアと工夫が凝らされ、これはとんでもない力量だな、と滅多に時代小説など読まない門外漢も感服のできばえ。
 最後の、武蔵との決闘なんか本当凄いですよー。
 クライマックス、天守閣を目前にハリウッド映画並のスペクタクルを見せてくれる前作『柳生忍法帖』も凄過ぎる(読んだ人以外意味解らんだろうが、坊主どもの自己犠牲が凄い。)出来だが、ま、いくらなんでも、こんな大メジャー作品なんざ、当然読んでるでしょ。
 な、スズキ?
 (入門編として『甲賀忍法帖』を渡して数ヶ月、いまだにリアクションがない。)

 さてさて、ケン・イシカワも豪ちゃんも風太郎のファンなのは当然として、忍法帖をモロパクした恥知らずな白土三平に比べて(風太郎先生はお怒りだったという事実をマンガ界は記憶しておくように)、豪快極まるオリジナル技が繰り出される『魔界転生』の方が風太郎イズムの正統な後継であり、作品としての価値が高いのは当然の話だ。
 どういう技かって?
 要は、有名剣豪をズラリと揃えた只でさえ強い敵が、『遊星からの物体X』みたいなモンスターと化して襲ってくる!しかも、グチャグチャ度十割り増し!
 とにかく、斬られても、撃たれても死なないんだ。こいつらは。このしぶとさは、殆ど感動的だ。
 それを迎え撃つ十兵衛も、当時の科学水準を軽く無視した装甲に鉄砲で対抗!
 反則というか、もう、掟無用の面白さ。
 
しかしね、ひさびさに、鼻から上の頭部を吹っ飛ばされ、そこからメキメキとロブ・ボッティン張りの鉤爪を無数に生やして襲って来る荒木又衛門を見ながら、感慨深いものはありましたねー。
 こういう描写って現在じゃ、2次元エロの触手ぐらいにしか利用されてないんだよ。
 実に勿体ない。
 あの密度を維持する体力がある人、誰か拾ってくれませんかね。

 あ、最後に念のため。
 この作品は、入り口だけ原作小説と一緒で、後はどんどん逸脱していくから。
 「最終的に十兵衛まで魔界転生を果たしてしまう」、
 
と云えばその自由度もお判り頂けるんじゃないか。

 ケンちゃんのオリジナルですよ、これは。
 お間違えなく。

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コメント

はじめまして。

>傘で野犬を突いて殺す

 少年サンデー版ゲッターロボで、傘で突かれたのは、爬虫人類の尖兵さんたちです。
 長雨で気がたっていた犬は手刀一発で首が飛んでおります。

 どっちにしても、容赦のないことは確かです。

投稿: ちゅるふ | 2010年5月 1日 (土) 09時15分

こんにちは!

恐れ入ります、ご指摘通りです。
「チッ!長雨で犬まで気が立ってやがる。」
もっかい全巻買い直します。

投稿: ウンベル本人 | 2010年5月 1日 (土) 21時58分

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