川島のりかず③『恐ろしい村で顔をとられた少女』 【魔界誕生編】('85、ひばり書房)
(画面いっぱい、躍る活字。)
「遂に、川島のりかずの正体が判明?!」
「のりかずは宇宙からの侵略者!!安藤社長、衝撃の会見」
(前記文字にオーバーラップして、記者会見場の遠景。瞬くフラッシュ。)
壇上、両側を背の高い屈強な米兵に固められ、小柄な老人、両手を上に掲げさせられている。
エリア51で撮影された宇宙人写真と同じ構図だが、捕まっているのは、品のよさそうな、穏やかな印象の老人だ。
しかし、その目は恐ろしいほど、澄み渡っている。
飛び交う怒号。
記者A「納得のいく説明を聞かせて貰おうじゃないか、社長!!」
記者B「おたくの会社がのりかず献金のパイプ役を担っていたってのは、本当ですか?!」
記者C「社会に対して、どう責任を取るつもりなんだ?犠牲者は計り知れないぞ。」
記者D「タリラリラ~ンの、コニャニャチワ~!」
会場に張り込んでいた私服刑事、警備員に素早く目配せする。
「バカボンのおやじが一人混ざっているぞ。摘み出せ。」
連れ去られる腹巻姿の植木屋を尻目に、安藤社長が重い口を開く。
『ア~~、ア~~・・・あーーー、うぅーーー・・・。』
「大平総理!!」
会場中が一斉に突っ込んだ。
[ナレーション]
二千年。
人類は未知の生命体の侵攻により、壊滅の危機に瀕していた。
川島のりかずと呼ばれる謎の侵略者は、発狂、洗脳、惨殺といった悪逆な手段を用いて、人口の九割を瞬時に消し去ってしまったのだ。
残された一握りの人々は、池袋地下の商店街に閉じ篭もり、西武と東武を行き来する暗黒の生活を送るしかなかった・・・。
(E.L.T.の歌う主題歌、流れる。)
♪パチスロで四万スッた(実話)、つらい夜にも
夢を捨てないで、フライ・アウェ~イ~♪
その間、流れ続けるススキくんの出玉カウント。
(「これ、人権蹂躙ですよ!」との、本人からの抗議の声が入る。)
字幕。
原作、モーパッサンのメールより
制作、衝撃!猫殺し映像(株)
監督、全裸 仁王立ち
放映、「“楽しくなければ、TVじゃない!”なら、俺の目の前の物体はなんだろう?」テレビジョン
[シーン1・マンションの一室]
臨時の捜査本部が設営されている。
モニタースクリーンに、会見を終え、タクシーに乗り込む安藤社長が映っている。
連続で瞬くフラッシュ、記者たちに揉みくちゃにされ、物凄い騒ぎだ。
音声は聞えないが、現場ではさぞかし色んな怒号が飛び交っているだろう。
「・・・よし!」
振り返った部長刑事、黒沢が云った。
「ターゲットは会場を出たぞ。尾行開始だ。」
角刈り、レイバンの黒目がねで、『西部警察』放映当時の渡哲也を彷彿とさせる風貌だ。スーツも黒、原色の青いシャツ、ラメ入りの幅ふといタイ。
要は、ヤクザか、殺し屋にしか見えない。
『こちら、スズキ9号車。』
無線が入る。スズキくんのおとぼけ声だ。
『正直、まだ寝たりません。』
黒沢刑事が、唐突にマイクを殴った。
「甘えんじゃねぇよ、クソガキが。真面目に仕事しろ、この野郎。」
[シーン2・スズキ9号車]
スズキくん、鼻から血をちょっと垂らしている。
「・・・やれやれ、今回は以前に増して暴力的な展開が期待されますね。
一体これのどこがマンガ本のレビューだというんでしょうか?」
イグニッションキーを差込む音がする。
「それじゃ、仕方がない、行きますか。
・・・ハイ、そこのあんたがた、降りて、降りて。」
後部座席で濃厚なペッテイング行為に耽っていた馬と黒人が猛烈に抗議したが、すかさずスズキくんがギアボックス横の隠しボタンを押すと、室外に飛び出した。
天井が開き、座席下のバネが動いて、乗っている者を表に放り出す仕掛けだ。
「まったく、今どきボンドカーか?!っていうね。大げさだなぁー。」
解放されてブラブラ揺れる巨大バネをミラー越しに見ながら、スズキくんが呟いた。
タクシー無線の送話器を手に取り、連絡を入れる。
「9号車より、本部。追跡を開始します。どうぞ。」
[シーン3・人類救済計画、総司令部]
水族館のある、池袋の超巨大ビルディング最上階。
ウンベル総司令が電話をとっている。
「んん・・・あぁ、私だ。
なに、真性なら保険が効きます、だと?そいつは十五年以上前の江口寿史のネタじゃないか。今更なにを云ってるんだ。バカ者。」
叩きつけるように、受話器を置くと、心配顔で指を組んだ。
「今回の敵は、いままでとは違う。
くれぐれも、慎重な行動を頼むぞ。黒沢刑事。スズキくん。」
[シーン4・首都高]
スズキくんのタクシーが、爆走している。
「ヒャッホーーー!!俺は、今、風になるんだ!!」
カーラジオから流れるステッペンウルフ、スズキくんの目がテンパっている。
前方を走る、安藤社長の車を追い抜きかねない勢いだ。
人口の激減と共に、首都高を走る車も大幅に減っているが、たまに大型車輌を見かける。これは政府のチャーターした輸送便で、地方都市から生活物資を吸い上げ、首都圏一帯へ供給する、いわばライフラインだ。
そうした公用車を除けば、首都高には殆ど車影が認められない。
こんな車輌の少なさでは、背後から猛然と追い上げてくるタクシーが、気づかれない筈がなかった。
助手席の窓が開き、黒い塊りが数個車外にバラ撒かれる。
「ウホッ?ウホッ?」
ドカーーーン。ドカーーーン。
高速道路上に、連続して火柱が立ち、スズキくんは慌ててハンドルを切る。
「・・・手榴弾とは味な真似をしてくれるじゃないですか。」
フロントガラスは爆風でひび割れ、真っ白だ。
スズキくんは、ダッシュボードから取り出した拳銃の柄でガラスを叩き割りに掛かる。
「ウヒョーーー!!
猛然と、カッカとしてきましたよーーー!!
しっちゃか、めっちゃかで、もう、気が狂いそうだーーー!!」
アクセルを踏み込んだ。
エンジンが咆哮し、強力な加速がスズキくんをシートに叩きつける。
「ラブ・ガン、発射ーーーッ・・・!!」
ボンネットに載せられた考える人のエンブレムが外れ、凶悪な発射口が顔を出した。
とろり、濃厚なラブジュースが滴り落ちる。
「ヴァイオレンス&ピース!!風忍です!!」
カカカ、と哄笑するスズキくんの耳に、遥か上空より迫り来る爆音が届いた。
「こ、これは、まさか・・・・・・伝説の、あのスタイル・・・?!」
首都高上空を、二台の車に併せて追撃するヘリの姿があった。
ヘッドセットを着用した黒沢刑事が、スナイパーライフルを構えて半身乗り出している。
「テーマ音楽が欲しいなぁ、音効さん。」
スズキくんがぼやいた途端、ライフルが火を噴き、前方を走る車が横転した。
(以下次号)
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