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2010年4月 3日 (土)

『昆虫怪獣の襲来』 ('58、米)

 真空の大宇宙。

 目には見えないが、無数の放射線が飛び交う、危険な世界だ。
 その中には、ひょっとしたら、人類に甚大な被害をもたらす種類のものも含まれているかも知れない・・・・・・。

 『ヒューストンより、D。定時通信。元気か?』
 
 宇宙ヘルメットの男が、ゆっくり返事をした。息が弾んでいる。
 「あぁ、現在、青竹、踏んでるから。」
 『・・・踏んでるのか?』
 「火星の駅前のスーパーで、安く売ってたんだ。また、かみさんに怒られちまうナ。」
 
 太陽空電によるノイズ。
 あるいは、遥かヒューストンからの罵り声だった可能性もある。

 『・・・まぁ、いい。
 のろけは、へび座方向1500光年彼方の木星型惑星でやってくれ。
 それよか、実は、今日酷い映画を観たんだ。話を聞いてくれないか。代わりに伝授していいから。』

 「Dより、ヒューストン。なんだ、その交換条件は?しかし、お前、碌でもない映画ばかり、好んで観るな。」
 それは事実だ。言い返せない。
 なにしろ、この映画には、D、お前自身が出演しているんだからな!』

 宇宙服の人影は、カメラの前で必死に手を動かす。

 「ヒューストンへ。そりゃ誤解だ。
 いくら俺が人並み外れた巨根の持ち主だからといって、AVには出演していないよ。
 ありゃ、別人だ!」

 『ヒューストンより、D。お前は金の為なら、なんでもやるんだな!』

 「うわーーーッ!!なぜ、信じない。なぜ、信じてくれないんだ!!!」
 突然カメラに向かい、宇宙船内の機材を投げつけ始めた。
 生命維持装置が破壊され、苦労して集めた貴重な標本類がどんどん失われていく。国家予算規模を費やして建造された、現代科学の結晶がいま、崩壊の危機に瀕しているのだ。
 慌てた声が、スピーカーから割って入る。

 『どうしたんだ、D?酸素タンクを投げるのはやめるんだ。
 確かに、昆虫怪獣役が辛すぎる想い出だとは、理解できるが・・・。』

 「こ、昆虫?!・・・昆虫怪獣、だと・・・?!」

 過剰な攻撃を繰り返していたDの動きが、ピタリと停止した。
 頭上に振り上げた航宙儀を、ゆっくりと床に下ろす。

 「Dより、ヒューストン。・・・いったい、どの映画で俺を見たんだ?」

 『ヒューストンより、D。古い、モノクロのアメリカ映画だ。
 ストックフィルムの正しい使い方、そのお手本みたいな映画だ。
 物語は、西部のロケット基地から始まる。ウェスタン的オープニングだな。西部らしさをアピールする為、グランド・メサの横に原子力発電所の書き割りを貼り付けてある。』
 「わざとらしい組み合わせだな。反原発の連中が喜びそうだ。」
 『基地では、ロケットに実験動物を積んで打ち上げて、宇宙線に晒しどう変化するか、調べる、どうでもいいような研究をやっている。』
 「今なら動物愛護団体から即クレームが入りそうだな。
 ま、人類の進歩に動物の残酷死は欠かせないものだからな!
 プードルでも積んで、打ち上げてやれ!」


 『ヒューストンより、D。・・・嫌いか、プードル?』
 「向かいのアパートのババァが、飼ってるんだ。俺を見つけると、キャンキャン吠え立てやがる。」
 『確かにお前は、犬に吠えられやすい顔してるからな。
 世論調査をしたところ、プードルの勝ちでした。』
 「そうなのか?!」
 
 『それで、話を続けるが、ある日偶然の事故が起こり、スズメバチを乗せて実験に使っていたロケットが一機、アフリカの奥地に墜落するんだ。
 放射線で変化した動物が、人間に危害を及ぼす可能性がある。
 慌てた博士と助手が、現地へ回収に出発する。』

 「ほぅ、アフリカ・ロケか。低予算のドライブイン映画で、よく実現したな。」
 『いや、Vシネの東南アジアロケより、金がかかっていないよ。版権フリーの過去のフィルムから、勝手に抜き出して使っているんだ。
 この映画の迫力あるシーンは、みんな他所様の撮影。本編は、どっかの国立公園で撮影されたものだ。』
 「公園か。そりゃいい。
 俺の青姦シーンも、どっかの児童公園で無許可撮影されたものだ。って、何を言わせるんだ!!」
 『ヒューストンより、D。喋って楽になりたいか?
 で、アフリカに行くと、シュヴァイツァー先生みたいな医者と、その娘がお出迎え。
 この娘がおかしな奴で、理解に苦しむ行動しかとらない。主人公達が到着すると、父親は出かけていて、そこへハナ肇みたいな顔の黒人が入ってきて、
 「博士は死にマシタ。蜂に刺されて死にマシタ。」
 とかいうんだが、知らせを聞いた娘、いきなり初対面の主人公に抱きついて、泣きじゃくる。
 明らかに、不自然過ぎる行動だ。
 ハナ肇も、ちょっと引いている。 
 NASAのマシンで素粒子単位まで遡って解析してみたが、これは“お願い、あたしをイカせて!”というサインだと結論が出た。』
 
 「国家権力をエロネタに使うんじゃない!!」
 
 『博士の遺体から検出された毒針のサイズから、刺したスズメバチは、小山(!)ほどもあるキングサイズだと推測される。
 いいか、子牛じゃなくて、小山だからな!
 さっそく、一行は手榴弾を何発もぶら下げて、蜂退治に出発する。』
 
 「よく出発ばかりする映画だな。」
 『でも、発射シーンはロケットだけだったよ。』
 「当たり前だ!
 ・・・Dより、ヒューストンへ。それにしても、一体いつ、俺が登場するんだ?」
 
 『まぁ、そう急くな。
 途中、土人の襲撃に遭遇し、人足どもは荷物を放り出し、自分の村に帰ってしまう。ジャングル映画にお決まりのパターンだ。
 残ったメンバーで焚き火を囲んでUNOとかやっていると、不快な金属音が真っ暗い森に木霊する。緊張感に顔を見合わせる主人公達。
 その時、やりたい女は、またしても男にしがみついている。』
 「・・・ヒューストン。いい加減、その女に注目するのは勘弁してやれ。どうせ、本筋とは一切関係ないんだろ。」
 『ヒューストンより、D。またしても、正解。賢くなったな。
 しかし、一行には他にも、脂ぎった口ひげの中年男とか、気前良く金貸してくれそうな黒人とかいるんだぞ。
 なんで、一番若くてハンサムな男のところへ行くかね?』

 「Dよりヒューストン。
 世の中、そういうもんなんだよ、トシ。」

 『で、そこへジャングルの藪を掻き分けて、突然ヌ-ッと顔を出すのが、D、お前だ。』
 「・・・俺か?」
 『昆虫怪獣のモデルは、実物大のを実際に製作したようだ。
 頭部だけだが、牛一頭分くらいあるぞ。とにかく、意味なくでかい。
 そして、巨大な複眼、面長でひらべったい顔、そして鼻腔から直撃で突き出す、針金の束のような無数の鼻毛!!」
 「・・・あ・・・。」
 『モンスター製作は、ポール・ブレイズデルってコーマン映画なんかでもお馴染みの名物男が手掛けてるんだが、お前をモデルにデザイン画を描いたとしか思えないのだ。
 だって、あんた、学生時代のあだ名が、鼻毛番長じゃん!!』
 「・・・うぅッ・・・。」
 『DVDのパッケージ裏に写真あるから、各自確認しておくように。』
 「・・・お前、誰に念を押している?」

 突然、警報が鳴り出した。
 真っ赤なシグナルが閃き、宇宙線の壁際でグルグル廻る。

 『非常事態発生!ヒューストンより、Dへ。なにか異常な物体が接近中!』
 「・・・なんだ?」
 『質量は本船の数十倍ぐらいあるな。衝突コースだ。
 馬鹿話してて、見落としてたわ。』
 「ちゃんと仕事しろよ!」
 『心得た。
 ・・・よし、スクリーンに拡大してみよう。』

 キャンキャン鳴きながら、宇宙空間を漂いながら接近してくる、それは赤いリボンを結んだ巨大なプードルだった。
 
 「うわわぁーーーーッ!!!」
 『・・・どうした?!応答せよ!!応答せよ、D!!』

 宇宙服で悲鳴を上げるD。必死に呼びかけを続けるヒュ-ストン。ボインの胸元を揺らし、失神寸前の蘭花ちゃん。
 このシリーズ、果たして次回はあるのか?宇宙船と、地球全体の運命やいかに?!

 奇絶!怪絶!!また、凄絶!!!

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