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2010年3月28日 (日)

アラン・ムーア『TOP 10』 ('99、米)

 刑事はみんなの憧れだ。
 
 アンケートすれば、なりたかった職業のトップワンを獲れるかも知れない。
 機長やスチュワーデスは惨めな凋落を遂げた。看護婦や幼稚園の先生が如何に大変な職業か、あなたもとうにご存知だ。
 大穴で職業=ドラゴンというのがあるが、中川翔子の喧伝以来どうも分が悪いようだ。
 やはり、刑事はいい。
 仕事人は仕事料を貰うには辛い仕事をしなくてはならない。その点、刑事は聞き込みに行けばいいのだ。
 なに、アイドル?
 いい歳こいてそんな寝言を言ってるようじゃ、碌な死に方しないぞ。

 アラン・ムーアも、当然刑事が好きだ。
 『ウォッチメン』だって、刑事の現場検証から始まっていたし。『フロム・ヘル』も切り裂きジャック事件の捜査記録として読める。『バットマン/キリングジョーク』なんて、ゴードン本部長が誘拐され、ジョーカーからセクハラを受けまくる話だ。(やおいか。)
 まったく、どんだけ、刑事が好きなんだ。
 という訳で、『TOP 10』は警察署が舞台のポリスアクションであります。
 (・・・そう、マチャアキが司会ではないのだ!バカモノ!)
 
 お話は、『ダーティーハリー3』みたいな感じで、ポリスアカデミー(通称ポリアカ)を卒業したての新人女刑事が、コワモテのベテラン刑事とコンビを組まされ成長していく、王道過ぎるまでに王道の物語。
 ただ第10分署が七曲署とちょっと違っているのは、街の住人も警官達もみんなスーパーパワーを持っていること。
 いわば、アメコミのヒーローユニヴァースが現実に存在したら?という思考実験。パロディやギャグ満載だ。おっかなくて鬼気迫るムーアの、別の顔。
 しかも、トレードマークとも云える緻密なストーリー構成、魅力的なキャラクターづくりはいつものように健在だから、入門書にいいんじゃないかしら。
 (なんか、こんなこと、去年『フロム・ヘル』のレビュー書いたときにも云ってた気がするが。)
 
 今回の作画は、ワイルドストーム系のジーン・ハーが担当。ダイナミック・プロの作家が皆、豪ちゃんのD.N.A.を体内に宿しているのと同じく、ワイルドストームはジム・リーなのであります。なんだか話が分からないきみも、「そういういうことになっているのだ!」と理解しよう。
 ジーンさんは、丁寧な今風のアメコミの絵柄で、いい仕事をしております。ムーア先生の鬼のような画面指定攻撃にも耐えているようだし。通りの看板やら、警察署の受付の端末(『禁断の惑星』のロビーのヘッド部分を使用!)にまで細かいネタが織り込まれている偏執狂っぷりは相変わらず。収監されている囚人に、ロールシャッハやナイトオウルが情けなく描かれている辺りには、ムーア先生の自嘲気味のギャグを感じます。
 ちょっぴり大人、ですね。安心です。

 「いやー、刑事って本当にいいもんですね!」

 と、水野晴郎の物真似をしてこの文章を締めようと思ったが、リチャ-ド・フライシャー監督の犯罪実録の傑作『絞殺魔』を観て、唸った。
 この件、別項であらためて。今は、許して。

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