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2010年3月

2010年3月30日 (火)

リチャード・フライシャー『絞殺魔』 ('68、米)

 リチャード・フライシャーは、うまく説明できないが、真に映画の天才と呼べる人物だ。

 大ヒット作や超大作をいろいろ手掛けているので、娯楽映画の巨匠、巧い職人監督のように語られることもあるが、そのくせ「芸術映画」的な類いのものを一切撮っていないので、いまだに大型店に行っても映画監督コーナーに、この人のコーナーは存在しない。
 (まったく、何度探したことか。)
 
 フライシャーの映画は誰でも、一度は観ている筈だ。
 ディズニーの『海底二万哩』('54)でデビューし、『ミクロの決死圏』('66)、『ドリトル先生の不思議な旅』('67)といったSFやファンタジー、戦争大作『トラ・トラ・トラ!』('70)、近未来のデストピアを描く『ソイレント・グリーン』('73)、『マンディンゴ』('75)『アシャンティ』('80)といった黒人ロマン、大ヒットしたのに評価がボロボロの『ジャズ・シンガー』('80)、果ては『コナンPART2、キング・オブ・デストロイヤー』('84)なんてのまで手掛けている。
 支離滅裂なラインナップ、とてつもないフィルモグラフィー。提灯持ちも裸足で逃げ出す物凄さ。

 フライシャーの、どこが天才か。

 例えば、この人はカットを割ったり、割らなかったりすることの天才である。
 
 一番ポピュラーな『ミクロの決死圏』を例にとろう。
 あの映画は、着想自体が面白いし、抗体がラクエル・ウェルチのウェットスーツに絡みつくお色気シーンもあるし、タイムリミットの設定されたサスペンス性の妙といい、真に娯楽映画のお手本と申し上げていい造りなのであるが、最近DVDで観直してみたところ、
 「あのオープニングが衝撃的にやばすぎる」事実に、今更ながら気がついた。
 60年代的クールが横溢するタイトルバックデザインからして、尋常ではないのだが、
「博士の空港到着→護衛の車で街中へ→罠にはまるSPたち→かっこ良すぎる狙撃シーン→博士、撃たれる」
 この一連の流れの、矢継ぎ早のカット割りは、人体内部セットの数億倍のインパクトを有している。
 本当だ。小学生の頃、初めて買った文庫本がアシモフのノヴェライズ版『ミクロの決死圏』だった私が言うのだから、信用して欲しい。
 カメラが凄い、とか編集が凄いというより、カットの構成力が凄いのだ。これは完全に監督の力だ。あまりに凄い語り口なので、呆然とさせられる。

 例えは適切でないかも知れないが、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』で最初の犠牲者をレザーフェイスが屠殺する場面、ありますよね?
 ボカッって頭を一撃、倒れた犠牲者の足が痙攣し、床を叩く。で、鋼鉄の扉をバン!て閉める人皮マスクの怪人。あのテンポ。あんな感じ。
 イベントが常にリアルタイムで起こる。
 カメラはそれを捉え続ける。
 有能な監督は、それを連続して提示するだけで、われわれを映画の中の現実に強制的に立ち合わせてしまうのだ。あぁ、おそろしい。

 フライシャーはごく初期はドキュメンタリーやニュースフィルムを手掛けていたそうだから、そこから学んだ一種のテクニックなのかも知れないが、そういやキューブリックもデビュー当時同じような出自を持っていたな。
 『ミクロの決死圏』のオープニングは、凡庸な監督なら十数分は必要とする(七十年代の緩いアクション、例えば『ジャッカルの日』なんかを思い出して頂きたい)ところを、ものの数分で駆け抜けてしまう、かっこ良過ぎる反則行為である。
 私の知る限り、こういう真似を平気で出来る監督は、例えばヒッチコックだ。要するに真の天才だけである。

 もうひとつ。長回しについて。カットを割らない例。

 『ドリトル先生の不思議な旅』は、これまた、ハリウッドの王道ミュージカルを逆手にとったような、反則ミュージカルだ
 だいたい、いざ歌唱のシーンが始まると、役者の地の喋りを寸断し、吹き替えとかプリレコとかあらゆる装飾を駆使して、華麗に盛り立て捲くるのがミュージカル映画の基本なのだが、フライシャーはやはりここでも普通ではなかった。
 いきなり、役者が台詞の合間に、素の声で歌い出すのである。
 変だ。
 ちゃんと声が出ていなかったりするし、聞き辛かったりもする。明らかに失敗。でも、こういう実験的なことを平気な顔でやってしまうところが、フライシャーの真に恐ろしいところである。
 観客は滑らかな歌唱が紡ぎ出す無類のファンタジーに酔う筈なのに、これじゃ全員、船酔いだ。 勘ぐるに、この不自然なナチュラルさは、明らかに、監督の狙った質の悪いいたずらではないのか。モンティ・パイソン的な。そのぐらい、変だ。
 で、調子に乗ったフライシャーはさらに恐ろしい悪質な冗談を仕掛けてくる。
 猫用の肉を売ってるマシュ-が港で踊る長い、長いシーンは、ワンカットで撮影されている。
 踊りながら水夫の傍をすり抜け、町のおかみさんに愛想を振りまき、少女をからかい、しまいにボートを伝って向う岸までジャンプ。アクションてんこ盛り。
 この間、ずっと歌いながら、笑いながら。
 観ているこっちが、ハラハラドキドキ、現場のたいへんさと緊張感を共有させられてしまう、本当におっかないシーンだ。
 この間、カメラはズーッと据えっ放し。頼む、カットを割ってくれ!
 こんな変な場面を考え付き、実際撮ってしまったフライシャーは本当に凄いと思う。
 最終的に誰が得する訳でもないのだから、やはり映画は監督のものなのだな、とおかしなところで納得。
 この映画は、ドリトル先生が動物語を話すという、まったくもってクソの役にも立たない特技を持ち合わせているため、CGではない本物の動物をたくさん投入しての撮影となった。
 云うことを聞かない動物相手の撮影に、役者もスタッフも心底へろへろになったようだが、フライシャーひとりニコニコの上機嫌で撮影に臨んでいたそうだ。
 彼は、動物が大量に出演する、こういうタイプの映画を本当に撮りたかったのだ、と後に語っている。 

 さて、前置きが長くなったが、『絞殺魔』は、こうしたフライシャーの特性がストレートにドラマと結びついた傑作だ。
 これはボストンで実際に起こった犯罪事件を題材にしたもので、いわゆる実録犯罪物にあたる作品。
 実話ネタでも、心配ご無用。退屈とは無縁の面白さ。

 1962年にボストンで女性が連続して絞殺される事件が発生する。最初は老女ばかりだが、途中から若い女ばかりが狙われるようになり、捜査陣は混乱する。(老女連続犯は老女専門の場合が多い。役に立つ豆知識だ。)
 州知事は事態収拾のため、アメリカの良心、ヘンリー・フォンダに特命を下し、陣頭指揮に当たらせるが、なおも殺人は続く。困りあぐねた警察首脳は、心霊探偵(!)に相談を持ち掛けるが、満を持して鳴り物入りで登場した超能力者は、軽く常軌を逸したオカルトパワーを見せつけ、自信満々に犯人を指摘するのだが、苦労の末発見されたのは、トイレの便器の水で身体を洗うのが趣味の、ただの変態であった。見事、失敗。探偵は闇に消える。

 この映画は二部構成になっていて、ここまでが前半。
 錯綜する捜査の行方と、犯人による連続殺人が平行して描かれ、まったく噛み合わない。ここで登場するのが、この映画のトレードマーク、スプリット・スクリーン。分割画面ってことだ。
 ワイドスクリーンを細かく割って、例えば片方の画面に被害者が、片方に呼び鈴を鳴らす犯人が居たりする。あるいは、聞き込みに散開する刑事を十六分割で一気に見せ、個々の顛末を細かいカットで連続して展開させたりする。
 MTVなんかで、あなたもお目にかかったことがあるでしょ?
 ドラマチックだが、面倒くさい、実にわざとらしい手法である。
 なんでこんな手の込んだことをするかというと、話を省略するため、あるいは場面の緊迫感をさらに膨らませるためだったりするのだが、根底にある思想はひとつ。
 映画を面白くするため。これはもう間違いない。
 一見取り留めなさそうに見える手法が、捜査の空転と犯罪の進行を見事に伝え、面白く見せる役割を果たしているのに気づくとき、われわれは驚嘆と畏敬の念に駆られるしかない。
 あぁ、フライシャー、凄ぇなぁー、と。

 そして、後半。
 先に言っておくが、この映画の真犯人はトニー・カーティスである。ご存知かな?『グレート・レース』なんかに出ていた二枚目俳優だ。
 映画出演には数年のブランクがあって、この映画で再起をかけていたらしいが、なるほど、往年のキザトトくん(註・『グレート・レース』は『チキチキマシン』の元ネタ映画として有名)もすっかり脂ぎった中年になって、ホワイトトラッシュのガス屋の親父を演じるにはピッタリの風貌。
 折りしもJ.F.K.暗殺事件があった翌日、会社が休みになって、妻や娘と葬儀の中継を観ていたトニー・カーティス、ふらりと立ち上がる。
 「どこへいくの?」と、妻。
 「・・・ちょっとボイラーの点検に行ってくる。」
 と、見せかけ、まんまと他所の家に侵入し、女を絞殺しようとするも失敗。走って逃げる。後から、路地裏を全力で追って来る女の彼氏。
 両者、ひたすら走る。
 この追撃シーンの迫力は、尋常じゃない。あなたもいい歳なら、犯罪や事件の現場に実際に居合わせたことがあるでしょう。まさにあんな感じ。
 例えば、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』で、狂ったピーター・フォークが我が子を殺そうとしてて、何度母親が制止しても子供たちが父親のもとに駆け寄ろうとする、とんでもない場面があったでしょ。あれですよ、あれ。
 映画の持つ力を実感する瞬間だ。
 
 そして、トニー・カーティスは逮捕され、実は二重人格らしいということになる。(これ、この映画の原作者が独自に主張してる説らしく、本物のボストン絞殺魔が二重人格だという話は他では聞かないそうだ。以上他所様のブログの孫引き。)
 こっからは、犯罪を否認するトニー・カーティスと、ヘンリー・フォンダの精神世界での格闘戦に発展するのでありますが、そういや、ヘンリー・フォンダといえばヒッチコックの犯罪実録物『間違えられた男』で、濡れ衣を着せられる誠実かつ哀れな男を熱演しておりましたなー。今回は立場を逆転させて、人を追い詰める側です。底意地悪いキャスティングですなぁー。
 この終盤のくだりは、才気奔るフライシャーの、ちょいとヒッチを入れてやろう、という遊びごころが全開で、最後なんかまんま『サイコ』のパロディーみたいに終わってしまう。お前はヒップホップの連中か、ってぐらいあからさまにネタにして使っている。
 しかし、そういう盗人猛々しい連中とは異なり、とにかく才能溢れるフライシャー、取調べ室の場面なんざ、本家ヒッチの撮れない凄まじい長回しが炸裂するパワープレイだ。
 壁の白と、トニーくんの着ているシャツの白。やがて白日に晒される精神世界の白い色。狂気。彼が錯乱し、面会に来た妻の首を思わず絞めてしまう場面なんか、とんでもなく良く出来ている。
 前半の、細かく分割されたカメラワークが単なる演出意図の表れだったことが良く分かる、この辺りの迫力は、本当になんだろう、凄いとしか形容できない。

 フライシャーは、本当、不思議な映画監督だ。

 だいたい、父親が『ポパイ』『ベティ・ブープ』でお馴染みのマックス・フライシャーだという出身の辺りからして、解らない。なぜだ。
 

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2010年3月28日 (日)

アラン・ムーア『TOP 10』 ('99、米)

 刑事はみんなの憧れだ。
 
 アンケートすれば、なりたかった職業のトップワンを獲れるかも知れない。
 機長やスチュワーデスは惨めな凋落を遂げた。看護婦や幼稚園の先生が如何に大変な職業か、あなたもとうにご存知だ。
 大穴で職業=ドラゴンというのがあるが、中川翔子の喧伝以来どうも分が悪いようだ。
 やはり、刑事はいい。
 仕事人は仕事料を貰うには辛い仕事をしなくてはならない。その点、刑事は聞き込みに行けばいいのだ。
 なに、アイドル?
 いい歳こいてそんな寝言を言ってるようじゃ、碌な死に方しないぞ。

 アラン・ムーアも、当然刑事が好きだ。
 『ウォッチメン』だって、刑事の現場検証から始まっていたし。『フロム・ヘル』も切り裂きジャック事件の捜査記録として読める。『バットマン/キリングジョーク』なんて、ゴードン本部長が誘拐され、ジョーカーからセクハラを受けまくる話だ。(やおいか。)
 まったく、どんだけ、刑事が好きなんだ。
 という訳で、『TOP 10』は警察署が舞台のポリスアクションであります。
 (・・・そう、マチャアキが司会ではないのだ!バカモノ!)
 
 お話は、『ダーティーハリー3』みたいな感じで、ポリスアカデミー(通称ポリアカ)を卒業したての新人女刑事が、コワモテのベテラン刑事とコンビを組まされ成長していく、王道過ぎるまでに王道の物語。
 ただ第10分署が七曲署とちょっと違っているのは、街の住人も警官達もみんなスーパーパワーを持っていること。
 いわば、アメコミのヒーローユニヴァースが現実に存在したら?という思考実験。パロディやギャグ満載だ。おっかなくて鬼気迫るムーアの、別の顔。
 しかも、トレードマークとも云える緻密なストーリー構成、魅力的なキャラクターづくりはいつものように健在だから、入門書にいいんじゃないかしら。
 (なんか、こんなこと、去年『フロム・ヘル』のレビュー書いたときにも云ってた気がするが。)
 
 今回の作画は、ワイルドストーム系のジーン・ハーが担当。ダイナミック・プロの作家が皆、豪ちゃんのD.N.A.を体内に宿しているのと同じく、ワイルドストームはジム・リーなのであります。なんだか話が分からないきみも、「そういういうことになっているのだ!」と理解しよう。
 ジーンさんは、丁寧な今風のアメコミの絵柄で、いい仕事をしております。ムーア先生の鬼のような画面指定攻撃にも耐えているようだし。通りの看板やら、警察署の受付の端末(『禁断の惑星』のロビーのヘッド部分を使用!)にまで細かいネタが織り込まれている偏執狂っぷりは相変わらず。収監されている囚人に、ロールシャッハやナイトオウルが情けなく描かれている辺りには、ムーア先生の自嘲気味のギャグを感じます。
 ちょっぴり大人、ですね。安心です。

 「いやー、刑事って本当にいいもんですね!」

 と、水野晴郎の物真似をしてこの文章を締めようと思ったが、リチャ-ド・フライシャー監督の犯罪実録の傑作『絞殺魔』を観て、唸った。
 この件、別項であらためて。今は、許して。

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2010年3月27日 (土)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【完結編】 ('85、日)

[シーン16・再び交差点]

 全身に小銭を浴びてよろめく狼人間。
 物量攻撃が功を奏したのか、硬貨のめり込んだ傷口からピュッピュッと血潮を吹き上げている。

 「ほんじゃま、これでサヨナラです。」
 スズキくんが、絵に描いたような、丸い爆弾を持ってきた。
 導火線に既に火が点いて、ジジジジと煙を上げている。

 「わっ、どっから持ち出したんだ!」
 ウンベルが慌てふためく。
 「そんな爆弾、今どきマンガでもお目にかかれないぞ。」

 「したがって、破壊力も未知数。えい。」
 投げた。
 「のわわわわわーーーッ!!なぜ、私に放る?!」
 慌てたウンベル、しっかり受け止めてしまい、腕に火の粉がかぶって、大騒ぎ。
   
 「ちょっと、持ってろ。」
 横にいた部下に手渡すと、火の粉を消しにかかる。
 キョトンとした部下、一瞬で消し飛ぶ。

 「うわ!!」
 「・・・ウワワワーーーッ!!」
 

 激しい衝撃波に打ち倒され二名が同時に叫ぶ。
 場を覆った、真っ黒い煙りが消え去ると、カツラの吹き飛んだウンベル総司令と、爆発パーマに変貌したスズキくんが現れた。
 どちらも顔から服から煤けて、煙突掃除人のようなご面相だ。

 「・・・司令、ツイてませんね。」

 ツルツルの頭を撫でながら、ウンベル、
 「おおきな御世話だ。」

 その間、多少復活した狼人間、警官隊を殺しまくっている。

 ふたり、気がつくと、生き残りが自分達だけになっているので驚く。

[シーン17・小宮山くんの細胞内部]

 赤く脈打つ核に、ゴルジ体が激しく震動する。
 内部を満たした液体に、無数の稲妻が走り、細胞膜の外側へと連鎖していく。

[シーン18・走る小宮山くん]

 全身に生えた獣毛が急速に伸び続け、骨格自体も変形を遂げる。
 小学生らしい体躯であったものが、みるみる巨大化し、見上げるような大男に。
 口角を押し上げて巨大な牙が剥き出しとなり、両手両足の爪が鋭く伸びる。 

 その間もずっと走り続けているが、動きに不安定さはない。
 眠っていた本来の自己が解放されたかのような、スムーズな走りだ。

 路地の角を曲がると、倒れている警官隊の残骸が見えた。

 「ウォルルォォォオーーーーーーン!!」

 喉も張り裂けんばかりの歓喜の絶叫。
 応えて、血まみれの由美子が吠える。

 「・・・のわ、増えた!」
 ウンベル総司令が歯噛みする。
 「ポイント倍増です!こりゃダメだ!!」
 爆発パーマのスズキくんが両手をかざして宙を振り仰ぐ。「もうお手上げ、って感じ?!」

 ふたりが死の予感に思わず目を閉じた瞬間、目前に迫っていた由美子がふらりと離れた。
 猛スピードで突進してくる、もう一体の狼人間の股間に、巨大な陽物が屹立している。

 「あッ・・・あれは・・・・・・・。」
 「ダ・・・ダイナミック・ジュコー・・・!!」

 二体は激しく絡み合うと、路上で、交尾が始まった。
 あっけにとられるスズキくんと総司令。

 「むむ・・・U-15で、獣姦で、しかも屋外の本番行為。
 川島のりかずも、度を越すと西村寿行になるという教訓か・・・!

 こりゃマズいぞ、わしの引責問題に発展しかねん。」

 スズキくんがパチンコの出玉が全部吸い込まれた時のような表情で、答える。
 「でも、まァ、既に人間の姿じゃなくなっていることだし、都の青少年健全育成条例にも引っかからないんじゃないですか。
 なんだったら、ボクが証言してあげますよ。しかし、こいつら、どうします?」
 「始末をつけねばならん。」
  
 ポケットから、旧式の携帯端末を取り出して、絶叫した。

 「スズキくん強化パーツ、射出!!」

[シーン19・スズキ9号車]

 バカッ、とトランクが開いて、白煙と共にパーツが空中に打ち出される。

【ナレーション】
 スズキくん強化パーツ。
 人類救済計画の科学技術陣が総力を挙げて開発した、究極の破壊兵器である。
 あまりに威力が絶大なため、ウンベル総司令は使用をギリギリまでためらっていた。
 
[シーン20・交差点付近]

 空中を飛んできた強化パーツが、カシャン、カシャンとスズキくんに装着される。

 「YES/NOまくら!!」
 「夜の夫婦生活をYorNのマシン言語に置き換えた最新型の殺人マシン!」
 「ブーブークッション!!」
 「現代社会への不満を抗議!すべてのテロリズムを全面正当化する、悪魔の破壊兵器!」
 「ロンジンのペアウォッチ!!」
 「人生の新たな航路へ旅立つふたりに、永遠に離れぬ固い絆をお約束!まさに極悪!!」

 まくらを横抱きにし、クッションをかかえ、おのが両手にペアウォッチをはめて、今や究極の殺人マシーンと化したスズキくんは、路上で一心不乱に交尾を繰り返す狼人間カップルの方に向き直る。
 髪の分け目をまさぐると、こう言った。

 「♪いらっしゃ~~~い!!」

[シーン21・夜明け]

  JR大塚駅周辺に、巨大なクレーターが出現している。

 倒壊したビルの間から射してくる朝日を浴びながら、かつらを取り戻したウンベル総司令が感慨深げに呟く。

 「ニワトリが先か、卵が先か・・・?
 人類はいつまでこうした愚行を繰り返すのだろうな・・・?!」

 徹夜仕事を終えたスズキくん、無言だ。眠い。

[エンディング]

 軽快な三拍子、『スズキくん音頭』が流れる。

  ♪人が輪になる、花になる
   あなたも、わたしもス~ズキく~ん♪

 法被に鉢巻姿のスズキくん、率先して踊り終えると、TV画面に向かい一礼する。
 礼儀正しい。
 

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ジェイムス・ブラウン『ザ・シングルスvol.8』 (1972-1973、米)

 ジェイムス・ブラウンの音楽が重要であることは、議論を待たないのであるが、なかでもジェイムス・ブラウンのシングルこそが重要であることは、なぜか真剣に考えられて来なかった。
 その長年の不満を解消してくれるかのように、満を持して『ザ・シングルス』が登場!
 Hip-O-Select、よくやった。編集、マスタリング、選曲、各巻二枚組で120分強というボリュームも申し分ない。
 現在これほど重要な編集盤は、地上に皆無と断言したい。
 

 『Vol.8』は誰もが知ってるヒット曲こそないものの、渋いとこ揃いでお勧め。

 一番有名なのが“蟻がパンツの中に入ったぜ!こりゃ踊るしかないぜ!”と歌われる(事実)「アンツ・イン・マイ・パンツ」だが、
 他レアなオルガンインスト(JBがファンキーオルガン奏者でもあることは意外と一般に認知されていない。)に、リン・コリンズとのデュエット、JB'sのシングルやら、アンチドラッグキャンペーンソングから、『ブラックシーザー』『ザ・スローター』といったブラック・エクスプロイテーション映画の主題歌まで。
 まさに、毒の花が咲き乱れ、完全に狂いまくっている内容で、最高だ。

 実は、JBの全貌を知るには、アルバムよりはシングルが最適なのである。

 我が身を例に振り返れば、最初の入り口は確かに一般に代表作とされる、’67年のアルバム『ライブ・アット・ジ・アポロVol.2』なのであるが、良く出来た構成に感心こそすれ、それ以上の感興は薄かった。
 分かり易いジェイムス・ブラウン・レビューのショーケースとして、誰もがひれ伏す素晴らしい内容ではあるのだが、あまりに広く一般に門扉を開き過ぎていて、人の道に背く、ひねくれた、心貧しいマニアを惹き付ける吸引力にだけは弱い気がする。
 あれじゃダメだ。
 (このアルバムの完成度を知っている方にとっては、私の今の発言が結構、無謀なものだというのは、お判り頂けるだろう。)

 だから、私がJBおそるべし!と心の底から思ったのは、90年代の編集盤『イン・ザ・ジャングル・グルーヴ』と続編『マザーロード』の登場だった。
 全盛期のJBの、とりわけファンキーな部分だけ、拡大版で拾い集めた、この二枚はモク拾いなどのやさぐれた生活を送りながら、実際よく聴いた。
 なんたって、まともに歌っている曲がほとんどない、という選曲基準が凄すぎる。(特に『イン・ザ・ジャングル・グルーヴ』の方。)
 『ファンキードラマー』なんか、最高のトラックだ。

 ひたすらドラマーにファンキービートを叩かせて、「ファンキ・ドラマー!ウッ!!」って、怒鳴って、喋って、ひたすら煽り続ける。

 本当にそれだけの内容に、シングルA面B面、残らず使っている。八分以上。画期的な構成力だ。
 これでファンクの名曲が一曲誕生してしまうのだから、本当に才能の有る人というのは恐ろしい限りだ。

 ちなみに、フェラ・クティはJB・スライの同時代の人であるが、こっちはさらにバンド多人数編成による変則攻撃も加え、なかなかキャッチーな歌(本題)には入らず、果てしなくダラダラ暴走し続ける。
 ダラダラ暴走する、という表現自体もよく判らないが、聴いたことない人は、とりあえず一枚買って聴いてみてごらんなさい。喩えの妥当性が理解されるから。CD収録のギリギリまで尺を取って、でもやっと二曲とかだよ。
 (一曲十五分越えが平均タイム。後年になるほど大作化が進む。)
 しかも、延々楽器が煽り続けて、ようやく歌うかと思いきや、
 フェラの説教が始まったりする
ので、ほんと油断できない。必聴だ。

 話を戻して、『イン・ザ・ジャングル・グルーヴ』が出た頃、世間は確かD・J、ヒップホップカルチャーに浮かれていて、コステロのようなへなちょこ野郎までが、なんでかレアグルーヴの曲をやったりしていた。他にも似た例は和洋問わず、腐るほどあった。
 これらを丁寧に収集し、本家本元と比較してみた結果、私の出した結論は、
 形だけ、似たように真似してみても、決してJBの足元にも及ばない、

という当然かつ冷厳たる真実であった。
 例外的にプリンスの「ハウスクェイク」は良く出来ていたが、そりゃプリンス自身が優れたミュージシャンなんだから、当たり前の話だ。
 JBスタイルを取り入れようが、何をしようがプリンスの本質は揺らがない。(体毛の濃さもね。)
 それより遡るが、コートーションズの成功例だって同じことだ。あれは彼等の文脈の中に置き換えられたJBスタイルであって、まんまではないのだ。
 
 なぜ、それに気づかないのか。
 劣化コピーのJBを聴くぐらいなら、本家JBを聴けば充分だ。

 だからブラックミュージック・プロパーの連中より、80年代初期のニューウェーヴやらノー・ウェーヴの奴等のほうが、JBスタイルを正しく援用しているというのは、誠に皮肉な結果だ。
 黒人音楽は、黒人がやってる音楽だと勘違いしているあんたは、人種偏見差別主義の犬だよ。
 うー、わんわん。


 さて、再び話を戻して、今回の『ザ・シングルスVol.8』であるが、特にDisc2がやばいっスよ。
 絶妙なファンキービートの進化形がかなり渋いところまで来てます。胃腸が捩れて、飛び出しそうです。
 なかでも衝撃の仕上がりになってるのは、かの有名な、ジョージ・ハリスン「サムシング」かな。これまた、JB流ファンキーチューンに仕上がってます。
 印象的なAメロ終わりのインスト部、

 「♪チャッ、チャララン、チャー、チャー、チャー」

 ここに歌詞載せて、勝手に歌っちゃってます。オリジナルのメロつけちゃってる。
 でも全体に、コードまで変えてるから違和感なし。言われなきゃカバーだと気づかない。完全に、別の曲。
 ライナーによれば、ジョージはこれを聴いて非常に感心し、ミスター・ブラウンに感謝の手紙を送ったそうですが、いったい本気か。
 一番キレイなメロのブレイク部分、JBは完全に無視して適当なホーンの間奏のみにしちゃってますが、あれでいいのか。

 だとしたら、世の中、たやすい。
 
 な、JB?

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2010年3月25日 (木)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【現ナマに手を出すな編】 ('85、日)

 (激しい雄叫びが聞える。でも、彼女は雌だ。)

【ナレーション】
 川島のりかずの描く狼人間がユニークなのは、一度変身すると元に戻れない点である。傍に来る者すべての首をチョンパし、手足をもぎ取る。完全な狂獣と化すのだ。
 だって、直らない病気だから。

[シーン12・大塚駅北口方面] 

 夜の街路を疾走する狼人間。
 両手を大きく宙に突き上げ、グリコのパッケージのようなスタイルだ。
 大きな口をパックリ開け、だらりと垂れた長い舌が左右に揺れる。

 その脳裏に去来する記憶の断片、フラッシュバックする。

 かつて暮らした村の思い出。
 村八分にされた記憶。
 肺病にかかり助けの手ひとつ貸して貰えず、みすみす死なせた母しげ子。
 父親とふたりで、峠を越えて運ぶ途中で、衰弱し息を引き取った母の死に顔。

 (暗い街路に、通行人の影。
 絶叫する間もなく、首をもがれ、絶命する。)

 優しかった父親。
 その父もあの病気に感染し、野獣と化して死んだ。
 狂気を恐れ、自ら鎖で全身を岩に縛りつけ、最後まで人間であろうとしたが、病気は容赦なく理性を奪った。
 父は人を襲い、返り討ちにあって死亡した。
 
 (コンビニの明かり。終夜営業の店は珍しい。
 狼人間が入っていくと、店番のにいちゃんが悲鳴を上げた。)

 濁流に呑まれる村。
 かろうじて逃れた由美子は、学校の裏山からそれを見る。
 山崩れは夜明け前に村を押し流した。
 いともたやすく崩壊する家々。あの下には、老人が、男女が、母に抱かれた乳飲み子が眠っているだろう。

 (振り上げた前肢が棚を引き倒す。
 背後で唖然とする客は、パチンコ雑誌を立ち読みしていたおっさん一人だ。その顔面が抉られ、血がドバッとしぶく。頭部は欠けたトマトのようになってしまい、自重でへしゃげた。
 店員が逃げ出す気配を感じる。
 追いつくのは容易い。)

 小宮山ヨシオの記憶。
 惨状の村からからくも逃げ出して来たのだが、片目を失った。
 彼との再会を運命のように感じたのが、遠い昔のようだ。

 それから、あれは・・・。
 悲しそうにこっちを見ている、あの顔は・・・。
 つい先刻、別れたばかりの一平くん。

 ・・・ダギューーーーーーーン。

 回想を断ち切る、銃撃の音。
 

 両手で拳銃を構えたスズキくんが立っていた。

[シーン13・コンビニ前]

 「・・・って、場面転換の為に慣れない銃撃を行なってみたワケですが。」

 射撃態勢を崩さないまま、スズキくんが云う。明らかな説明口調だ。

 「生身の人間が、人狼に勝てる訳ないじゃないですか。このまま、ボクまで首と胴体が生き別れになってしまったら、御好評頂いたスズキくんサーガも目出度く完結、ということになるんでしょうね。」

 狼人間は、銃弾程度ではまったく怯まない筈だが、明らかに効いている。

 「その弾丸、特別製なんですよ。日銀さんのね。」

 主人公の特権全開でスズキくんが解説する。

 「いわゆる、百円玉です。」

 ギャゥオォォーーーン!!
 一声絶叫が響き渡ると、狼人間の眉間にめり込んだ硬貨が、ポロリと落ちた。
 銀の含有量により威嚇以上の力はあったが、その足を止めるにはまだ弱いようだ。却って激情を誘発する効果があったと見える。

 「硬貨、だけにね。」

 ぺロリと舌を出すと、踵を返したスズキくんは駆け出した。
 読者諸君の憎しみも味方した狼人間の黒い影が、疾風の如く追いすがる。

【ナレーション】
 ウンベル豆知識。日銀発行の百円硬貨は、その六十パーセントが銀である。残りは銅と亜鉛。
 スズキくんの今回使用した拳銃は、人類救済計画の科学技術陣が作り上げた、なんでも発射できる万能ピストルであった。弱点は唯一、普通の弾が装填できないことである。
 って、万能じゃないじゃん!


[シーン14・路上]

 「フゥッ、フゥッ・・・!」
 久方ぶりの全力疾走にスズキくんの息も上がってくる。
 「今の攻撃で、ボクのポケットマネーは残らず使っちまいましたー!兵力の維持にゼニカネが掛かる、というのは真実だったのだなァー!!」

 前方に交差点が現れた。

 直進すれば庚申塚方面に突き当たる、この辺りはもうじき巣鴨だ。
 ズラリ、と横一列に並んだ警官隊が見えた。
 囮役のスズキくんがその前を全速力で駆け抜けると、代わりに進み出たのは、全身シルバーメタルの制服に身を包んだウンベル総司令であった。

 慌てて蹈鞴を踏む狼女だったが、左右は高い壁が並び、手がかりになりそうなものがない。

 「撃てェェェーーーッ!!!」

 号令と同時に無数の百円硬貨が宙を切り裂き、世にも凄まじい絶叫が轟いた。

 「・・・見たか、のりかず!全員、自腹だ・・・!!」
 ウンベル司令は、苦々しげに呟いた。

[シーン15・小宮山くんの部屋]

 彼方で聞えた遠吠えに、ビクリとして擡げた小宮山くんの顔は・・・。
 一面が獣毛に覆われ、牙も剥き出しになった地獄の形相だった!

 「アァオォォォーーーーーーーン!!」

 窓ガラスの破られる音が響き、何かが夜に飛び出した。

 (以下次号)

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2010年3月23日 (火)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【血闘!大塚駅編】 ('85、日)

 (カーステから勇壮なマーチ流れる。)

 「・・・総司令、この曲は?!」

 運転しながら、スズキくんが尋ねる。車は法定安全速度を軽く突破し、マッハの勢いだ。

 「わしの考えた人類救済計画のテーマソングじゃ。『走れ、白タク』と名づけた。」
 「嬉しくないなぁ。」

 対抗車輌はない。
 東京都の人口は、盛時の1200万から大幅に減少し、行政機構も弱体化している。交通違反を取り締まる人員が確保できないのが現状だ。
 そもそも燃料輸入自体が不安定なのだから、昔ながらの化石燃料車など公的組織以外で乗り回す者は少ない。
 したがって信号など無きに等しく、スズキくんは思いっきりぶっ飛ばすことが出来るのであった。

[シーン10・JR大塚駅南口]

 車は春日通りを左折し、大塚駅南口へ進路を切った。大塚台公園を横目に、天祖神社をかすめて、駅南口ロータリーへと侵入する。
 月夜に映える樹々の姿が印象的な、山手線の駅にしては割と風情の有る造りだ。
 バス車線を突っ切って横転し、真っ赤な炎に黒い煙を噴き上げている警察車輌が見えた。
 ところどころに動かない人影が転がり、犠牲者は相当数に上るようだ。警官隊は分断され、てんで烏合の衆と化しているが、スズキ9号車の到着に呑気に手を振る者もいる。

 「ウチの部下は、どうしようもねぇな!」
 自分のことは棚に上げて、ウンベル総司令が吐き捨てるように呟いた。「たかが小学生の女の子一名に、完全武装の一個部隊が壊滅しおった。」

 「司令、相手は、仮にものりかずですよ。普通の尺度で考えてはいけない。」
 スズキくんは、そこでふと思い当たり、予ねてよりの疑問を訊ねた。
 「それにしても司令、そもそも、川島のりかずって、一体なんです?!」

 「・・・人類最大の敵・・・。
 それしか、私には答えられん。」

 珍しく真面目な顔で、ウンベル総司令は答える。

 「正しい進化の系統樹から外れた異形の生命体だという説もあるし、某国の研究していた生物兵器が暴走した結果、誕生したという者もいる。
 だが、有史以前からのりかずは存在していたという、確かな証拠も発見されている。穴居生活を送る狩猟民族の洞窟壁画にも、あるいはシナイ山の神殿の祭壇部分にも、確かにのりかずを思わせる怪物の姿は描かれているのだ。
 その姿は、人類の太古から持つ“悪魔”のイメージに似ている。
 歴史が伝える最もポピュラーなのりかずの肖像は、
 Gペンを耳に刺し、咥え煙草でゲームデンタクの当たる怪談絵はがきの抽選を行なう、気弱で優しげな青年の姿じゃ。」 

 「むむむ、おそろしい。」
 スズキくんは、タクシーを徐行させ、路肩に停車した。
 駅前広場は、祭りの後のような静けさに包まれ、うろつく警官隊の生き残りも放心状態のようだ。 

 「・・・どこにもいませんね、川島のりかず。」
 「最近、相場が上がったと聞くしな。入手困難がしばらく続くかも知れんな。」

 途端、ドンと激しい衝撃が走り、車体が大きく上下に揺れ始めた。

 「うわわわわッ!!なんだ!?」
 「司令ッ!!屋根の上です、突然近所のビルから落ちてきました!!」

 鋭い爪が、タクシーの天板を切り裂き、目前に出現した。司令は、ヒェッとおかしな声を発すると、勢いで不自然な形状に歪んだ己が頭髪を押さえつける。
 間髪入れずに、スズキくんはアクセルを踏み込んだ。
 ズボンと黒い煙を吐き出し、瀕死の悲鳴を上げてタイヤが軋る。負荷最大級の急発進だ。
 ヘッドライトが闇を切り裂く。

 「・・・落ちたか?!」
 まだ頭部を押さえたまま、ウンベル総司令が叫ぶ。
 返答をするように、屋根に強烈な打撃が加えられた。衝撃で、特殊装甲ガラスにひびが走る。
 タクシーは前後不覚の猛発進で、ロータリーを一直線に突っ切った。激しくバウンドするが、屋根の上にへばりついた怪物はまだ耐えている。
 
 暗がりの中、眼前に、標識柱が迫った。

 その瞬間を狙って、スズキくんは絶妙なタイミングでブレーキを踏み込んだ。
 ドキキキキィィィーーーーッ!!
 安全ベルトも裂けそうな衝撃がふたりを襲った。フロントガラスを越えて、黒い大きな影が前方へ飛び出すのが、ハッキリ見えた。

 「・・・ひぇー、危ない、危ない。」
 愛用の鬘がずれて、かなり危険な様相になったウンベル総司令が云う。
 「たかがマンガのレビューで、命を失くすところだったぞ。」
 
 「これ・・・どこが、マンガレビューなんですかね?」
 スズキくんは慎重に前方の様子を窺っている。
 「ちゃんと落ちたかな・・・?もういっぺん、轢いときましょうか?」

 前方に倒れた黒い人影は身動きもしない。
 遠くで燃える警察車の炎に微かに照らされ、闇そのものが蟠っているようだ。
 それにしても、大きい。
 小学生の女の子が変身したとは、俄かに信じれらない巨大さだ。
 
 「こりゃ確かに、人狼ですね。全身濃い獣毛に覆われていて、牙もあれば爪もある。ありゃ、両の耳までしっかり伸びてやがらァー!」
 その、耳がピクリと動いた。
 「・・・え、えッ??」

 途端に、僅かに首を擡げる格好で、くるりと振り返った爛々と眼光を放つ真っ赤な目が、タクシーの運転席を覗き込み、スズキくんをしっかり視野に捉えた。
 スズキくんは、恐怖に声も出ない。
 目は呪縛するかのように、しばし視線を合わせていたが、ふいにツッと離れた。脇で総司令が荒い息を吐く。
 
 怪物は、走り去ったのだ。
 
 「・・・総員、非常手配!」
 意外に職務に忠実なウンベル総司令がマイクを引っつかみ、怒鳴る。外部スピーカーのスイッチを押し上げている。
 「怪物は架線を越え、北口住宅地へ逃走した。繰り返す、総員、急行せよ!!」

 腑抜けたようになっていた警官隊が、のろのろと集まってきた。

[シーン11・小宮山くんの自室]

  前回から引き続き、全裸でシーツに包まった小宮山くんは、恐怖にガタガタ震え続けていた。

 「由美子・・・ッ!!由美子が、来るッ・・・!!
 オレには分かるんだ!!由美子が・・・。」


 (以下次号、たぶん完結)

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川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【中編】 ('85、日)

 (CMあける。)

 【ナレーション】
 ウンベル総司令の命により、大塚方面住宅地に非常線が張られた。配属されたのは警視庁きってのエリート捜査官達であった。

 警官A「いたか?」
 警官B「いねぇ!」

 (警官B、画面を左手に走る。科学探知器を装着して、徳川埋蔵金を探す男。)

 警官B「こっちは、どうだ?!」
 男「・・・クソッ!!ダメだ!!反応なし!!」

 (カット変わって、スズキ9号車、最初の事件のあったファミレス前に停車している。)

[シーン6・ファミレス内部]

  「・・・それじゃ、きみと話していた由美子くんがいきなり怪物に変身した、というんだね?」
 小学生相手に、真面目な顔で訊くウンベル。
 こくり、と頷く少年。両手に巻いた包帯が痛々しい。
 深夜なので、既にかなり眠そうだが、スズキくんが冷静に突っ込みを入れる。眠いのはお互い様だ。

 「しかし、変ですね。何の伏線があると、そういう事態になるんでしょうか?
 確かに今夜は満月ですが、それにしても話が唐突過ぎる・・・。」

 「ウーーーム、前触れなしの残虐展開か。
 これは、きみ、ひょっとすると・・・。」
 ウンベルの言葉に、ハッと緊張の色を浮かべるスズキくん。
 「もしや・・・のりかず・・・?!」

 そこへ、
  
 「大変です、司令!大塚駅南口に川島のりかずが出現!
 街の人を次々に襲っているとの通報です!!」


 駆け込んできた地元警官の言葉に、席を蹴るウンベル。

 「しまったッ!!出遅れた!!今回の敵は、まったなしだ!!
 ・・・おい、小僧!!丁寧な事情聴取なんか、もう、止めだ!!
 その由美子ってのは、他に何か云ってなかったか?!」

 大怪我している若年者を、緊急事態をいいことにガクンガクン揺さぶる。
 恐怖でしどろもどろになる少年、蚊の鳴くような声で、

 「あ・・・あの・・・たぶん、クラスの小宮山くんのところへ行ったんじゃないかと・・・。」

 「そいつだ!!」

[シーン7・大塚駅南口]

 暴れまわる毛むくじゃらの怪物が、ロータリーを越えてカメラの方向へ迫ってくる。
 人間を鷲摑みにし、千切っては放り投げ、残虐非道の仕打ちを繰り返す。まさに殺戮機械だ。
 荒れ狂う由美子の内面を反映しているのか、心なし巨大化しているようだ。

 対して、警官隊が到着し、駅を背後に道路をバリケード封鎖。
 拡声器を持った司直が、緊張した大声で話しかける。

 「アー・・・アー・・・アー・・・こんばんは!!」

 一斉にこける警官達。日頃の鍛錬が物を言う瞬間だ。
 そんな小手先技を嘲るかのように、街路樹を投げ飛ばし接近するモンスター。

 「エエィ、発砲を許可する!撃ちまくれェ!!」

 ダゥーーーン!!ダゥーーン!!
 ダゥーーーン!!ウゥーーーン!!


 ばら撒かれる薬莢、ビルの谷間に残響がこだまする。

[シーン8・平凡な住宅、二階の勉強部屋]

 激しい銃撃の音がここまで聞こえて来る。
 全裸で、シーツを身体に巻きつけた小宮山くんが、ガタガタと震えている。
 部屋には不釣合いな、豪奢な天蓋付きのベッドの傍らには、赤のグラスワイン。震動に揺られて、床に落ちで割れる。
 拡がる流血のような、不吉なしみを見ながら、小宮山くんが述懐する。

 「由美子・・・とうとう、発病したのか・・・。このままじゃ、オレも・・・。」

[シーン9・爆走するスズキ9号車内]

 ウンベル総司令が、安全ベルトにしがみつきながら、絶叫する。
 「話がなんだか、さっぱりわからん!ストーリー紹介モード、始動!」

 「了解!ストーリー紹介します!


 小学生がセックスすると発生する奇病が村に蔓延!!
 大人も子供も、その病原菌に罹患した者は前後の脈絡なく、突如狼人間となり、見境なく他人を襲っては食いちぎります!
 
発覚を恐れた村の指導者達は、感染者を発見次第、抹殺!近隣の市町村に情報が漏れることを警戒してきましたが、
 それとは関係なく、地元自治体の無謀な森林伐採により、村の西側の山が決壊!大規模な山崩れとなって、村に襲い掛かります!
 いちはやく、この災害を察したのは、村八分になっている超能力者の親娘でしたが、その言葉を信じる者など誰一人なく、娘の必死の訴えに耳を貸すことなく、村の連中は全員死亡してしまいます!

 隣町の小学校にちゃっかり編入を果たし、新たな学園生活の幕開けにルンルン気分になる娘でしたが、そこへ現れたのは、あの大災害から、片目を失いながら奇跡の生還を遂げた、ちょっとニヒルな幼馴染みでした!
 再会を無邪気に喜ぶ娘でしたが、恐ろしや、彼はセックス経験者!
 その肉体には、既に恐怖の種を宿していたのです・・・!!」

 「いろいろ、問題を孕んだストーリーだな!分析!!」

 「川島のりかず作品の中では、充分合格点クラスです!深い動機付けもなく、心ない残虐描写だけが進化している印象を受けます。
 特に、村に迷い込んだ小学生三人組に対する悪逆極まりない仕打ちは、絶対復刻不可能なハイテンションさ!!
 われわれの求めるブルータルなのりかず像が今ここに降臨!!」

 「お前が、煽るな!!行くぞ!!
 攻撃目標、若年層セックスだ!!」


 (劇伴、高まる。以下次号)
 

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2010年3月22日 (月)

黒沢清『CURE』 ('97、日)

 実は、Vシネオリジナル版の清水崇『呪怨』('00)を期待して観て、あにはからんや、期待値ほど怖くはなかったので、お馴染み『CURE』へと立ち戻って鑑賞しました、
 というのが、現在の私だ。

 だから、まず『呪怨』の話をしなくてはならない。
 この映画の最大のポイントは、「見えないものが見える」ということだ。

 映画は、視線の劇である。
 これがリュミエール兄弟の発言だったら、もっともらしいところだが、まぁ出典はともかく(実は忘れた)、映画は発明されたときから、本来そこにない、見えない筈のものを本当にあるかのように映す魔術だった。
 この点はどなたもご同意頂けると思うが、映画の重要性とはまさにここに尽きる。
 他人の恋愛ドラマだろうが、デススター攻略戦だろうがなんでも構わない。映画はそれを本当に起こった出来事のように、われわれに体験させてくれる装置だ。
 しかも擬似現実としてではなく、あくまでもドラマとして。とりとめのない現実を切り取ることは、ドラマを生むことだ。だから、そこに編集があるのだし、効果の如何が生じる。

 さて、心霊現象というのは目に見えない。
 したがって、いくらフィルムを廻しても、本物の霊魂が主演した映画というのはまだ存在しない。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や、今度来る『パラノーマル・アクティヴィティ』はそれを模した映画だが、本物ではない。
 (この世には霊が偶然映り込んでいるフィルムというのが存在するらしいが、私の興味の範疇ではないので、悪しからず。)
 『呪怨』の最大の功績は、もし霊というのがあるとしたら、現代の日本家屋でならこう動くだろう、という方法論を見せてくれたことである。
 映画の恐怖というのは、実は優れた理論の集積である。時代劇なら井戸から現れたり出来るだろうが、平凡な住宅地にある普通の一軒家ではそうはいかない。スモークで霧を表現するのにも慎重さが必要だ。嘘臭くなってしまうからだ。
 われわれは、見慣れた風景にそうそう簡単に恐怖したりしない。
 
 そこで『呪怨』の戦略は、日常の背景の中に、ありえない位置や角度で心霊を配置することであった。振り向くとそれがいるのだ。変な角度で。確かに見えるし、触れることもできる。しかし、触れた犠牲者は無事には済まない。頓死する。
 しかも犠牲者の死亡過程は具体的に見せない。
 用意周到な決意だ。賞賛に値する。
 「心霊現象に遭い、死亡した」というのは、「殺人鬼に切り刻まれる犠牲者」とは別の次元にある事態の筈だ。あくまで人知を越えた未知の恐怖でなくてはならない。
 そして、超自然な存在による殺人を具体的に描くということは、コント寸前までいく危険を冒すことなのだ。かつて、サム・ライミがはまった罠だ。あれでは、怖くなりようがないのだ。

 心霊の造形に目を転じると、『リング』の貞子の延長線にあるだろう、お母さんの変てこな動きが楽しい。この役は、子供だったら皆な真似してしまうだろう魅力に満ちている。奇怪に四肢を捻じ曲げて、怪物を表現する、怪獣世代共通の娯楽スタイルだ。最高。
 だが、その霊が全身白塗りメイクというのは、やはりまずい。いやがうえにも白虎社を連想させるではないか。
 だが待て、「顔色の悪い人が床を這いずり迫ってくる」としたら、それは本物のコントだ。死人を表現する選択肢はそれ程ありはしないのだ。全身塗ってくれ、と依頼した監督の気持ちはよく理解できる。ここは難しいところだ。
 しかし、私個人の意見では、これでは明らかに「塗りすぎ」なのだ。
 あの「顎のない少女」も、ちょっと眉毛を濃くしすぎではないか。あれではまるっきり鬼瓦権造だ。(最近ではイモトアヤコともいう。)
 そういう意味でいくと、「444444」で着信する携帯電話もいかがなものかと思う。意外にベタだ。これでは怖くなる前に、親切心を感じてしまう。
 しかも、電話に出ると猫の鳴き声。
 
 ニャーーーン、ニャーーーン。
 
 携帯を床に置いて、前肢でダイヤルを押し、電話してくる猫を想像してみたまえ。
 かわいいじゃんか。
 はっきり見えるということには、やはり限界はあるようだ。
 
 さて、以上の不満を胸に見ると、『CURE』はやはり巧い映画だ。
 ここでの怪物は、目に見えない。
 超自然の域にまで達している、催眠暗示を使った連続殺人。犯人の荻原聖人が常にヌボーッとしているのもいいし、彼相手にマジ切れする役所功司も大変よろしい。
 
 この映画のリアリティが、例えば、

  ・暗示で妻を殺害した小学校教師が、取調室で錯乱し、壁にテーブルに、頭をぶつけまくるところ
  ・自分の家庭の秘密を漏らした部下を、役所氏がボコボコにするところ
 
 など、感情を爆発させる役者の熱演に支えられていることは間違いないが、
 それにしても、最後、精神病で入院した妻は、夫に殺害されてしまうのだなー。
 その伏線は巻頭付近から用意周到に張りめぐらされていて、こっちまでX字の猿のミイラのような気分になりました。
 見えない筈の怪物が、牙を剥くのがハッキリ見える。
 こういうのが、映画の本来の楽しさなんだろうな。
 
 どうやら、私は、本当に恐ろしいものは「決して見ることが出来ないもの」と頑なに信じているようだ。

 ということで、「頼む、それを見せてくれ。」 

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2010年3月21日 (日)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【前編】 ('85、日)

【ナレーション】
 
 2千年。
 破滅的な大災害を生き延びた人々は、池袋の漫画喫茶・イメクラに入り浸り、サンシャイン地下にコロニーをつくって生活している。
 絶望的な現実を忘れさせるため、シャブ、暴行、児童ポルノが横行し、水着の児童の写真を携帯しているだけで逮捕される異常事態が続いていた。
 
 そこに、今・・・。

[主題歌、流れる。]

 “守れ、みんなの池袋”のフレーズに合わせ、以下のショットがインサートされる。
 
 ・埼玉方面の青い空。まだ人間が手を触れていない、美しい自然の只中を走るスズキ9号車。
 ・運転手の制服姿のスズキくん。Vサイン。背後でタクシーが民家に突っ込んでいる。
 ・人類救済計画の司令部。ミニスカ、スク水、ハミ乳のメガネっ娘達が、いっせいにアポを取っている。
 ・大正テレビ寄席を見て爆笑する、ウンベル総司令。
 ・日経の一面。「リーマンショックに、のりかず関与?!」
 ・伸びたスズキくんの腕が、メーター表示を切り替える。割増料金だ。ゴー。
 ・ビルの谷間から、不気味に持ち上がる、巨大な血まみれのドクロ(のりかず①)。
 ・エンジン全開でのりかず①を粉砕する、スズキ9号車。
 ・頭から地面に突き刺さったウンベル司令の両足。蟹股で、痙攣中。

[シーン1・深夜のファミレス]

 【ナレーション】
 地球が滅亡しても、塾があるのはどうしてであろうか。そんな不条理を解明するため、一平は由美子とファミレスに来ていた。

 (白熱した議論が続いている。)

 「・・・たしかに、今の日本はハードな状況よ。でも、子供は子供なんだから、しょうがないじゃない?」

 由美子はレスカを飲んでいる。さきほど、奇怪な飾り付けのチョコパをたいらげたばかりだ。

 「そこだよ。」
 一平は、半ズボンの付け根を掻きながら、反論する。
 「子供にだって、社会のために出来ることはあるはずだ。怪獣と友達になるとか。」

 「あなたのは、現実を直視しない弱虫の屁理屈よ。早く、大人になりなさい、一平くん。」

 フフンと鼻で笑って、グラスをかき回す由美子。

 「ちくしょう、由美子、おまえ、変わったな!」

 プルルル、と携帯に着信が。すかさず飛びつく由美子。般若の面のキーホルダーが揺れる。

 「・・・ごめん、あたし。今、ちょっち、マズイんだ。後で掛け直すから。・・・うんうん、もうハダカになってる?・・・あたしもよ、小宮山くん。」

 携帯を切った由美子に、一平が噛み付いた。

 「ちくしょう、なんだよ、由美子、お前、小宮山と。」

 「なにいってんのよ、あんた、関係ないでしょう?そこをどきなさいよ、このキモキモ人種!」

 怒りに駆られ、思わず組み付いていく一平。悲鳴を上げる由美子。
 しかし、瞳の奥にカッと怒りの火が点る。
 その瞬間、ショワショワショワーッと、由美子の全身から伸び出す体毛!みるみる毛むくじゃらの狼人間に変身していく由美子!
 その目は、血のように赤く輝いている。

 「ウガッガォオオォーーーン!!」

 泡を食って、床に倒れ込む一平。のしかかる狼人間、鋭い牙で一平の皮膚を切り裂く。流血し、逃げ場を求めて必死に床を叩く一平の細い手、ガッと毛むくじゃらの腕につかまれる。

 「ウワワァーーーッ!!」

 ねじ切られ、放り出される一平の手。
 無惨な棒くいと化したおのれの腕を悲しげに見つめる一平。激痛よりもショックの方が大きいようだ。
 断面からピュッピュッ、と血がしぶいている。

[シーン2・人類救済計画、総司令部]

 当直のオペレーターが電話を取っている。

 「はいはい、こちら総合本部。・・・あら、一平くん?」

 顔見知りらしい。
 切り返しのショットで、電話をする一平。傍らから従業員の手が、携帯を持ち上げてくれているのが判る。 

 「エ?!怪獣に襲われた?!場所は?」

[シーン3・スズキ9号車]

 【ナレーション】
 一平少年の訴えを聞いたウンベル総司令は、直ちに現地へ飛んだ。

 (S.E.夜の高速を爆走するトラックの通過音。)

 「なんだ、スズキ。まだ布団が恋しいです、って顔してるぜ。」
 助手席から話しかけるが、運転するスズキくんは寝ぼけまなこだ。

 「ふぁい、ふぁい。・・・いや、起きてますよ。ボクはどうも寝起きがダメでして。」

 キキィーーーッ。猫を踏んだ。

 「あぁ、ごめんなさーーーい!たたらないでね。
 
学校時代は、授業中居眠りを始めたら、決して起きない男として、有名でしたー。」

 「最悪だな。」
 ウンベル総司令は、煙草を出して火を着ける。窓を細めに開けた。
 「しかし、こうして深夜、自ら現場に赴くなんて、わしって本当に偉いのかな?隊長クラスでも、指揮官自身が現場に急行するなんて、まずないんじゃないか?」

 「メグレ警部は、警視になってもその姿勢を貫いてましたよ。」

 スズキくんも、煙草を取り出した。本日、二本目だ。

 「もっとも、現場を離れて政治的やりとりに終始しちゃったら、メグレ物じゃないですが。
 ・・・おぉっと。」

 タクシーが大きく蛇行した。

 「もっと慎重に運転してくれよ。車が長持ちせんじゃないか。
 ・・・んん?どうしたんだ、スズキくん?」

 一気に眠気が醒めて、青ざめた顔でスズキくんが云った。

 「司令。また、なんか轢いたみたいです。」

[シーン4・夜の住宅地]

 (斜めに停まったスズキ9号車。路面についたゴム跡が煙っている。)

 倒れている毛むくじゃらの人影。
 駆け寄るウンベル総司令とスズキくん。

 「おーーーい、あんた、大丈夫か?!」

 その途端、ガバッと起き上がってくる怪人物。伸びた鋭い爪が、スズキくんの鼻面を引っかいた。

 「イテテテテ!!」

 飛びずさり、暗闇にギラリと輝く真っ赤な目。変身した由美子だ。

 「ウワッ!!お前は!!」

 いきなり、腰だめに拳銃を構え、発射するウンベル総司令。
 ビックリして腰を抜かしたスズキくんを尻目に、慌てて逃げ出す由美子。拳銃の弾などものともしない、異常な走りっぷりである。

 「・・・ま、コイツは銀の弾丸じゃないからな・・・。」

 路肩の藪に潜り込んで姿を消した由美子の方を睨みながら、小声で司令が呟く。

 「し・・・司令。あれは、いったい・・・?!」

 「見ての通りだよ。
 よし、この地区一帯に非常警戒網を張るんだ。総員緊急配備!!」

[シーン5・深夜、薬局の看板前]

 酔っ払い、看板に凭れて泥酔状態。背後に月、煌々と照り輝いている。
 「ウィィッ、ヒック。」

 フラフラと近づいてくる狼人間。黒いシルエット。

 「なんだ、おめぇは?かぁちゃんか?このやろ。ペッ!」

 唾を吐き、持っていた日本酒を瓶ごと呷る。
 幸せそうな薄笑いを浮かべている。
 小首を傾げた狼人間だったが、意を決したように爪を一閃させる。

 地面に転がる、酔っ払いの首!!

 まだ、半笑いを浮かべている。
 狼人間、踵を返すと夜の街に消えていく。その姿にかぶる由美子のつぶやき(twitter)。

 「待ってて・・・小宮山くん。今いくからね・・・。」

  (CM入る。以下次号)

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2010年3月20日 (土)

『キャット・ピープル』 ('42、米)

 霧の夜を引き裂く吠え声が聞え、私は深く後悔している。

 やつらをなめていた。
 キャット・ピープルは、本当に恐ろしい人種だったのだ。
 その唸り声は地を劈く悪魔の狂騒である。鋭い牙は闇を噛み切り、真っ赤な血を流させるだろう。
 逃れる術などない。
 畏るべき災厄。それが、私自身の元に降りかかろうとは!

 やつらの存在を知ったのは、マニュエル・プイグの小説『蜘蛛女のキス』を読んだときだ。
 集英社(これは実に魔術的で不可解な出版社である!)がラテンアメリカの文学全集を刊行し始めた頃だから、私が高校の時分である。思えば随分、昔の話だ。
 マルケスの『族長の秋』に始まり、『日向で眠れ/豚の戦記』、コルサタルの『石蹴り遊び』、『英雄達と墓』(“呪われた旧家の少女はなぜ父親を拳銃で射殺し、残る銃弾は使用せずにあずまやに火を放ち焼身自殺することを選んだのか?”)、ドノソの忘れがたい『夜のみだらな鳥』、大好きと断言できる数少ない本『亡き王子のためのハバーナ』・・・。
 なんと、壮麗なラインナップであったことか!
 プイグの『蜘蛛女』は風変わりな本で、四本の映画の粗筋を語る、会話により成立している。舞台は、中南米の刑務所。囚われた青年が、毎夜同室のおかまに映画の筋書きを強請る、うちにふたりは恋に落ちていくという皮肉に満ちた物語だ。
 その冒頭に選ばれた映画が、ジャック・ターナーの『キャット・ピープル』。思い入れの深さが窺い知れる。
 だから、この時点でストーリーの概要と、名場面の解説は知っている訳だが、幸いにも映画を直接観る機会には恵まれなかった。
 知名度の高い、古典的な名画なのに、TVでやっているのにもお目にかからなかったし、ビデオ屋の棚で遭遇することもなかった。お陰で、今日まで無事に生き延びてきたわけだ。私は。

 キャット・ピープルの恐ろしい正体について見誤らせた最大の功罪は、ポール・シュナイダーの'81年のリメイク版である。
 これが、ぜんぜん怖くないのだ。むしろ、可笑しい。マルコム・マクダウェルの濃すぎる芝居で近親相姦を強要する兄も、全裸で猫人間に変身して大サービスの妹ナスターシャ・キンスキーも、エンディングで馬鹿ロックを披露する『レッツ・ダンス』期のデヴィット・ボウイも、どれもオーバーアクト気味で、恐怖映画とは程遠い仕上がりなのだ。
 似たテーマで同時期の『狼男アメリカン』の方が、ずっと恐怖映画の王道を往く作風だった。(が、この映画はジョン・ランディスの看板が祟って、コメディ扱いの公開だった。愕くほど古典的な枠組みの正調ホラーなのに!)
 
 さて、時代を経て、目にするキャット・ピープルの本当の姿は、想像を絶して恐ろしいものだった。
 人間が、黒豹に変身する。
 笑いを捨てて、良く考えてみたまえ。
 きみは野獣の姿を目の当たりにしたことがあるか?やつらは、肉を食らうのだ。鋭い牙が生えているのだ。そして、誰よりも敏捷だ。非人間的な思考をする生き物なのだ。
 そんな、あたり前の事実が、何より怖い。

 夜の暗闇に女が急ぎ足に歩いている。
 追いすがる、別の女のつまさき。
 都会の裏通りだ。他に人通りはない。
 背後に拡がる影の中を何者かが過ぎる。
 不安げに、振り向く女。
 誰もいない。
 そこに轟く、豹の吠え声、一発!
 女は耐え切れず、駆け出す。何かが、高速で足音を忍ばせ、追いすがる。
 ざわめく路傍の樹木!藪の中に、何かが!
 再び、間近で聞える豹の吠える声。それが、急停車する路線バスのブレーキ音とオーバーラップする編集の巧みさに酔わされるとき、われわれは映画の魔術を目撃する。

 喰われながら、あるいは喰われた後に、人間は何を思うのだろうか。
 口ひげの精神科医の言葉が聞える。
 「きみには、欲望がある。邪悪を世界に垂れ流したいという欲望が。」
 あるいは、やがて豹に変身する女の台詞か。

 「女には、他の女には聞かせたくない話があるのよ。」
 

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2010年3月18日 (木)

さくらまいこ『魔少女マヤの秘密』 ('87、日)

 『サ・イ・ア・ク!!』というのは、カルチャークラブのベスト盤のタイトルであるが、およそこの題名が真の意味で似つかわしいのは、例えばさくらまいこの『魔少女マヤの秘密』であろう。
 (よく使われるネタだが、彼女はさくらももこではないのでお間違えなく。)

 美少女マヤは、実は蛇人間だ。
 両親は魔力を持った蛇の一族で、とある避暑地の湖畔で、やって来る間抜けな観光客の生き血を吸って生活している。
 それもどうかと思うが、ご当人達には一切の躊躇はなく、今日も斧を片手に人間狩りに精を出す始末。蛇の一族とはいえ、特殊な殺人技などある訳でもなく、主に犠牲者の首を斬り飛ばす。たまに勢い余って、手や足をポンポンもいでしまったりするが、切断面はギザギザな、実にぞんざいな描き方がされていて、それがまた最悪な気分に拍車を掛けてくれる。
 ついでに説明しておくが、さくら先生の絵柄は、80年代ニューウェーブより以前、少女マンガの王道をいく素敵にロマンチックなものだが、残念ながら時代の花形としての役目はとうに終えてしまっている。端的に言うなら、古くさい絵柄だ。
 
 「少女マンガの絵柄には、明らかに“旬”があります。」
 と、春を感じてセーターを脱いだはいいが、寒の戻りにやられてへろへろのスズキくんが云う。
 「ファッションの流行と同じで、その時代によってジャストな気分の絵があるみたいです。うまい、下手とは別の次元で、リアルタイムの読者を獲得できる魅力的な絵柄というのが、確実に存在するんです。いつも同じセーターばかり着ているボクには、よくわかりませんが。」
 そう云うと、物まねを一個披露した。
 「どうも。おすぎです。」

 さて、蛇の一族のマヤの両親は、若き社長と身重の妻を見事罠に掛け捕らえるが、返り討ちに遭い、暖炉の炎の中へ突き飛ばされ、ふたりとも焼き殺されてしまう。
 絶命しかかった母親の腹を食い破って、子蛇の姿で初登場したマヤは、やがて人間の少女に姿を変え、親のかたきの社長夫妻に近づいて来る。
 社長夫妻には、みつぐという男の子がいて、蛇時代に命を救われたマヤは、彼にすっかり恋してしまう。

 「女性心理は複雑ですね。マヤがみつぐに惹かれる理由ですが、彼がいい顔だから、としか云いようがないんです。」
 これまた好青年のスズキくんが、解説を挟む。
 「このあとの展開を見れば判るんですが、こいつ、純情そうな顔して周りの女性に手当たり次第声を掛けまくる、最低のヤツです。仁義もなにもない、下半身ずるむけ野郎です。コンパに出れば確かにもてますが、同性の間での評判は最悪でしょうね。」

 記憶喪失のふりをして、みつぐの家庭に潜り込んだマヤは、やがて養女として迎え入れられ、すくすく成長していく。
 この間、みつぐに近づいてくるガールフレンドを次々と惨殺。
 お誕生日プレゼントのぬいぐるみは燃やす。ご本人は廃屋に連れ込んで首を噛み切る。
 死体はゴミ箱に隠し、白骨化させて次の犠牲者を脅かす小道具に再使用。
 脅すだけならまだしも、ちゃんとその後、鋭い牙で首を刈り取り、後始末。
 さらに、みつぐになついたペットの犬まで斧で斬首、現場を見られたみつぐの友人の男も首吊り自殺に見せかけ、殺害。
 やがてお年頃となり、みつぐに婚約者が出来ると、彼女を崖から突き落として死亡させ、そこへ偶然居合わせたみつぐの父親(マヤの両親のかたき)も、満を持して墜落死させてしまう。

 「とにかく、殺しまくりなんです。さくら先生、血に飢えていたとしか思えない。
 しかもなぜか、殺るときは必ず首を狙います。これは未開人種などの風習にも見られる通りで、死体を一種のトロフィー的なものに見立てるという原始習俗の表れなのでしょう。」
 スズキくんは、稗田礼二郎のように考え深げに解説する。
 「こんな超残酷劇を、古典的な少女マンガのスカスカの絵柄で展開するもんで、かえって嫌な気分が増幅する効果をあげています。まさに完璧です。
 アナザー・川島のりかずとも考えられますし、神田森莉の先駆者とも云えます。」
 「それにしても、」
 スズキくんは遠い目をした。
 「なにが彼女をそうさせていたんでしょうか・・・?」

 相次ぐ殺戮に懲りることなく、またしても現れたみつぐの嫁志願者は、連続する不審死を特に疑問視することもなく、結納を交わし、遂に結婚式へとこぎつけた。
 喜ぶみつぐの母親は、式の直前、実家の箪笥に長年隠されていた亡き夫(みつぐ父)の血染めのハンケチを発見する。
 「マヤニ、ヤラレタ。キヲツケロ・・・。」
 愕然とする母は、みつぐに事の真相を告げるが、「マヤに確認してみるよ。」などと呑気な回答。あまりのバカ息子っぷりに母も読者も呆れているところへ、待ちきれなくなったマヤ本人が登場。
 「あの子も殺した、この子も殺した。」と過去の殺人を次々と列記しながら、まったく改悛の色などないマヤ。
 「お前はその度に充分苦しんだわ。だから、みつぐは殺さない・・・。」
 「ウワァァアアアーーーッ!!」
 身勝手な理屈の並ぶバカげた会話の間隙を突いて、床に落ちていた大きな花瓶でマヤの頭を一撃する母。
 床に倒れ伏せ、身動きしなくなったマヤを見て、すっかり殺してしまったと思い込むバカ親子。
 まだ、首と胴体はつながってるのに。
 「さぁ、結婚式場へ向かうのよ、みつぐ!ママは後から行くわ!」
 母はひとり後始末に残った。そこへ昏倒から醒めたマヤが起き上がり・・・。

 「この展開も、正直どうかと思いますが。」
 スズキくんはセーターを脱いだり着たりを繰り返しながら、述懐する。
 「血は繋がっていないとはいえ、妹同然に育てられた娘を自分の実の母親が殺害する、という異常なシチュエーション。しかも、その妹は連続殺人鬼と判明している。
 そんな状況を無視して結婚式場に駆けつけるバカは、いったいどういう神経をしているのでしょうか。
 案の定、式場に待っていたのは、車より素早く移動できる蛇人間だったのです。
 母親を焼き殺し、式場へ駆けつけると、素早く花嫁の生首を作成し、ウェディングドレスに着替え、ご丁寧に(サロメよろしく)首を手でかざしてみせる・・・。」
 
 物語は、「どこか遠い山奥」で仲睦まじく暮らす、記憶を喪したみつぐに良く似た青年と、魔少女マヤの風聞を伝えて、幕を閉じる。
 この物語を形容するに、嫌な気分としか例えようがなく、そういう意味では完璧な作品と云えるだろう。必読。

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2010年3月16日 (火)

『地上最強の男・竜』 ('77、日)

 「まったく、馬鹿げている。」

 営業部長は、書類の束を机に投げ出した。
 
 「こんなとんでもないマンガが存在するものか。まるで頭の悪い中学生の妄想を忠実に作品化したみたいな話じゃないか。」

 困り果てた部下が、おろおろしながら答える。

 「おっしゃる通りです。明らかに、このマンガは無茶です。
 人間の描いていい範囲を越えています。
 しかし、似たアプローチを採りながら、風呂敷を広げるだけ広げ過ぎて破滅していった作品ばかりの中で、かろうじて土俵際で踏みとどまったのは、この『竜』だけではなかったか、と思えてならないのです。」

 部長は、椅子に深々と腰掛け、目を瞑った。

 「・・・ふむ。それが、永井豪とダイナミックプロの底力ということか。
 作者、風忍はアシスタント出身で、特異な作風で知られ、八十年代、海外でも高く評価されたのだったね。
 よろしい。
 今一度、検討してみよう。 
 ストーリーを復唱してみてくれないか。」

 「雷門 竜は、羅城門空手の若き使い手です。
 出場した全国空手選手権で、対戦相手の脳漿を木っ端微塵に砕いて、師匠道教に破門を宣告されます。
 幾本もの角が生えた異様な鉄仮面を被せられ、力を封印されて、地下の土蔵で暮らす竜。
 彼の味方は、妹の少女悦子だけ。ふたりの両親は既に亡く、家を乗っ取った意地の悪い叔父・叔母は悦子をいじめるのです。

 でも、彼女は予知能力を持っていました。
 師匠の道教が、竜に惨殺された対戦相手の婚約者、二階堂邦子を空手の達人に鍛え上げ、竜を殺しに来ることを事前に察知したのです。亡き父の造った巨大なマシンで竜を拘束し、防護迎撃システムを作動させる悦子。

 しかし、空手の力は科学を遥かに凌駕していました。
 道教の超能力はマシンを麻痺させ、電磁バリアの障壁をぶち破ります。空中へ吸い上げられた少女に、二階堂の容赦のない蹴りが炸裂。
 顔面を天井にめり込ませ、ボタボタと血を滴らして、(ダイナミックプロのお約束である)無惨な死を遂げる悦子を目撃し、竜は怒りを露に、鋼鉄の鎖を引き千切ります。
 
 「おれは、戦う!おまえら、ふたりとも地獄へ送ってやるぜ!」

 あとは、殺戮の嵐。
 最後の切り札として、ヘルメットで頭に丸のこを装着し、竜の全身をメッタ斬りにする二階堂でしたが、足を捉えられ無惨に脊髄をねじ切られて絶命。
 さらに、その屍骸を振り回し武器に代え、師匠の老人を叩きのめす竜。悪逆非道にも程があります。
 しまいに、強烈な手刀突きが、道教の身体の中心部を見事に貫通。背中まで指先が突き通ります。口からゴボッ、と血を吐きながらも、まだ闘志を剥き出しにする老人。両のこぶしを竜に向けて叩き込みますが、逆手に取られ、両掌を根元からもぎ取られてしまう!
 あわや流血と傷で、道教の生命も尽きんというとき、ちぎれた両掌が別の生き物のように動き出し、竜の首を締め上げる!高笑いする道教!念力による遠隔操作。さては、こいつも超能力者!」

 「おいおい。」
 営業部長は、ぼやいた。「さすがに、それはないんじゃないの・・・?」

 「しかし、奇跡はそれだけでは済まなかった。悦子の怨念が乗り移ったが如く、巨大マシンが勝手に動き出し、電磁波で二階堂の死体を操り、道教を攻撃!卑怯!
 なにせ相手はとっくに死んでいるので、いくら叩いてもダメージなし!
 業を煮やした道教、身を翻し猛烈な飛び蹴りをマシンのコントロールパネルに叩き込む!

 「馬鹿め!わしが、こんなマシーンに負けるものか!」

 なんて負けず嫌いなんだ!!
 当然、マシンは大爆発!
 意地の悪い叔父・叔母を含め、その場に居た全員を巻き込んで、竜の実家は跡形もなく吹き飛んでしまいます。」

 コツ、コツと鉛筆でテーブルを叩きながら、営業部長が諮問する。
 「・・・この時点で、既に一般読者の共感を得るには、ちょっと度が過ぎているんだが。
 荒唐無稽な空手物と云えど、最低限守るべき節度とマナーがあるだろう。常に破壊を心がけているダイナミックさんとはいえ、スポーツマンガには遵守すべきルールがある。
 きみは、そのへん、どう考えているのかね?」

 「お言葉を返すようですが、部長。」
 部下は額に浮いた汗を拭いながら、答える。
 「これは、スポーツマンガではないのです。なんというか、われわれの知っている既存のマンガとは別の何かです。
 この後の展開は、想像を絶しているので、要点を報告するのみに留めます。
 ある意味、変なマンガとして斯界では有名な作品ですので、競合他社との差別化を重視するわが社としましては、したり顔で、このマンガに一方的に突っ込むだけの愚行は繰り返したくないのです。」

 
「きみの立場も解るが。」
 部長は、顎の下を掻いた。「手短に頼むよ。そろそろ、会議なんだ。」

 「はい。

 生き延びた道教は、何千キロを素足で踏破し、羅城門空手の総本山へ走ります。
 寺の地下からは、阿弥陀如来像を頭部に持つ、超未来的な救世主機械が出現!道教に機械の拳を与え、コクピットに座らせます。
 怪異を感じたTV出演中の予言の大家は、大凶事の到来を告げると、和服の胸から心臓を飛び出させ、勝手に死亡!
 やがて機械が稼動し出すと、日本中の仏像が仏閣の屋根を突き破って空中に飛び上がります。
 日本上空を奔流となって合流地点を目指す仏像の群れ、数百万体!
 空中を舞い、螺旋うずまきのように機械を中心にしてグルグル回りだすと、仏像が壊れて内部から、脳、血管、目玉、骨格など人間の臓器がバラバラに出現!
 ジャキーン、ジャキーンと瞬く間に組みあがると、そこに鎧兜に身を包んだ、髯を伸ばし長髪で細面の、穏やかな瞳の男が立っていた!

 「救世主イエス・キリストよ!お待ちしておりました!」

 意表を突く凄まじい展開に、唖然とする読者。
 仏像の中から当然の如く復活したイエスは、誰も知らなかった意外な事実を道教に告げる。

 「道教・・・実はな、わたしは二千年前、竜に殺されたのだ。」

 『ダ・ヴィンチ・コード』など目じゃない驚愕の史実に、二の句も継げないわれわれ読者に、イエスはさらに言い放つ。

 「やつこそ、悪魔だ!わたしは、今度こそ必ず竜を殺す!!」

 もはや話の方向性がまったく見えない。
 さらに、イエスは刺客として、地上で最も強い男ふたりを死から蘇らせた。宮本武蔵とブルース・リー!二名を伴い、必勝を誓うイエス。

 その頃、竜は車に撥ねられ、交通事故で入院していた・・・!」
 
 「・・・って、それが一番、ビックリやったわ!
 漫★画太郎の作品かい!


 どこが地上最強やねん・・・!!」

 営業部長はひとこと絶叫すると、重苦しい沈黙のまま席を立った。
 部下がすかさず立ち上がり、ドアを開ける。

 「あ~ぁ。・・・とうとう、突っ込んじまった。」
 ひとり残された部下は、部長のデスクの上に胡坐をかいて座ると、煙草に火をつける。

 「・・・だみだ、こりゃ。」

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2010年3月14日 (日)

『ヘヴィメタルFAKK2』 ('99、米)

 股間に太いモノ持ってる人、集まれ!
 
 いきなり下品に始まる訳だが、まぁ、効果的だからね!
 この作品は、下品なアニメであるから、下品に始めるのが正しいのだ。

 80年代に一世を風靡したアメリカのマンガ雑誌、『ヘヴィメタル』のことは知ってるね?その本家、フランスの『メタル・ユルラント(重金属)』のことも?
 知らない?
 じゃ三分で説明するから、聞いて貰おうか。あぁ、ちなみに、今回のブログの記述スタイルは私の普段の喋りに極めて近い。珍重するように。なに、毎回この調子じゃないかって?
 正解だ。

 で、まず大事なことを教える。
 世界じゅうのあらゆる国で、マンガは子供のおもちゃだ。大の大人がマンガを読んでるのは、日本だけだったんだ、昔は。なぜって、そういう文化がなかったの。
 日本では、60年代にはマンガ読者層が安く見積もっても学生運動の連中ぐらいにまでには拡大し、より増加の方向へ進んだ。
 これは、世界史的に見て、実はかなり早い。
 大人を対象読者とするマンガがブームを迎えるのは、アメリカでもフランスでも八十年代に入ってからなんだ。
 もっともアンダーグラウンドでは、カルト的な作家もいるけどね。ロバート・クラムとか。
 じゃウィル・アイズナーはどうなんだ、エドワード・ゴーリーとか絵本や挿絵系の作家は、とかね。その辺は、私が語るより小野耕世先生の優れた著作を読んでくれ。頼む。

 フランスの漫画家というと、誰を思い出す?
 そう、まずはエルジュだね。『タンタンの冒険』の。それ、認識正しいから。
 エルジュは、ちょっとうまい作家だよね。達者すぎるくらい、達者で洗練されてる。 
 読んだことない人、いるのかな?いる?あ、そう、悪いことは云わない。福音館から出てる。買ってね。何か一冊というなら、『青い蓮』を勧める。あぁ、コラ自腹でやれ。馬鹿者。
 そんなフレンチコミックスのお上品な流れ(どこが?)を変えたのが、フランスではBD(バンド・デシネ)なる、下品なマンガジャンルの台頭だった。まぁ、早い話、劇画だ。劇画。セックス、ドラッグ、暴力。子供にはちょっと難しい内容。
 大友克洋や谷口ジローに影響を与えた(というか、パクられた)メビウスが、代表選手でそれしか紹介されないに等しいが、他にもガザとかアンキ・ビラルとかカステルマン社からいろいろ出てる。
 面白い作家、多いよ。細かく紹介する時間ないけど。
 あぁ、Dくん、昔サンリオでちょろっと出たピエール・クリスタンは、このBD系のマンガ原作者として有名だから。記憶に留めておいて、
 友達に自慢しよう!

 
 さて、フランスでBD中心に盛り上がったアダルト漫画ブームが、だね、『メタル・ユルラント』創刊に繋がり、アメリカへ飛び火して同誌の米国版『ヘヴィメタル』を産む。

 アメリカでの代表選手は、まずは、なんたってコーベンだね。リチャード・コーベン。『DEN』の。
 エアブラシでフルカラーがうまい作家ですけど、実はデッサンが結構歪んでて、それが重量感を醸し出してしまった。珍しい例。珍味です。
 関係ないけど、この『DEN』とか、あと、あっちはイタリアだけどリベラトーレ『ランゼロックス』とか、輸入本で買った時は感心したなぁー。ちゃんと、ちんちん描いてあって。
 『ランゼロックス』の方は、八十年代に永井豪先生監修(笑)で邦訳が出てるんだが、ホワイトでちんちん消してあった。そのくせ、定価は高校生には高すぎたゾ。オレは忘れてねぇからな!講談社。

(※『DEN』は異世界にトリップした高校生がマッチョな肉体を手に入れ、サル顔の美女とよろしくやる話。トカゲ人間とか、軟体じゅるじゅるの巨大アメーバとか、性的トラウマを感じさせるクリーチャーが多数出演。
 『ランゼロックス』は良心回路を破壊された、不細工パンクス風のロボットが十歳ぐらいの幼女のお尻をぺんぺんする話。平均より身長の短い人や、あまりに顔面のバランスが悪すぎる人などが多数登場します。)

  
 あー、もう、説明が多すぎて何の話だか解らなくなって参りましたが(だいたい、さっき三分で説明する、って明言しなかった?ごめん、ありゃ嘘だ!!)、
 この『ヘヴィメタル』誌がアニメになりました、ってのが'82年の映画『ヘビーメタル』(表記が微妙に日本寄り)なのであります。あぁ、しんどい。
 この映画の出来だが、検索したら「Allcinema」というところの以下の評が、言いえて妙だった。オレがちょっとでも楽するため、引用する。
 (※太字変換は、私の操作である。)

 「アメリカでカルト的人気を誇っているアダルト・コミック誌『HEAVY METAL』を基に作られたオムニバス形式のアニメーション。」
 「著名な作家陣に短編アニメーションを好きなように作らせるという方法は面白く、ファンにとっても嬉しいものになるはずなのだが……。全体を通して、好き勝手やっているという感じ以外に受ける印象はない。」
 「1話毎の繋ぎも、ショット的に続いているものあり、続いていないものあり、とバラバラで一貫性に欠けており、通しての演出はされているのかと頭をひねってしまう。」
 「肝心のアニメーションの出来も作画部分がお粗末で見ているのはかなり辛い。」
 「ただ逆に、“好き勝手さ”は半端ではなく、このノリについていくことができければ充分楽しむことはできるだろう。」
 「まさにキワモノ的作品。」
 「裸のお姉さんや残虐なシーンが沢山出てくるが、笑える部分もたぶんにあり(いろんな意味で…)妙なノリの作品が好きという人には胸を張って薦められる。」
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=21003
 
 ・・・この通り、だ。
 引用箇所に対し、一切反論はない。つまり、
 「この映画は別に面白くはないのだが、一見の価値はある。いろいろ目を潰れば、最高と呼べなくもない。」
 ということだ。
 だが、待てよ。今、鑑賞をスキップしようと思ったきみ。
 待て!
 そう、真面目な娯楽作品だと思うから、いけないのだよ。実験映画だと思えば、異常に面白い出来の映画ではないか?
 そう、そうなんだよ。やはり、最高だ。必見。

 さてさて、ようやく333メートルの天国に辿り着いた心境であるが、
 ここからが今回の本題である。なんて、前戯が長いんだ。お前は、とっくにべったりだ。

 『ヘヴィメタルFAKK2』は、前記映画のウン十年ぶりの続編である。
 八十年代のブームを経て、九十年代になにが変わったか。
 我輩と同期の諸君は、「宝島がいつの間にかエロ本に化けていた衝撃」をまだご記憶だと思う。
 あれと同じ事態だ。
 悲しいかな、いつの間にか、『ヘヴィメタル』もエロ中心主義になっていた。SFだって、喰わなきゃやってられない。それが嫌な奴は、特撮でも見続けろ。
 だから、この映画、主演はジュリー・ストレイン嬢だ。
 コスプレとかこなす、汚れ仕事も厭わない、根性の入ったモデルさんである。
 声優さんもやり、ヒロインのデザインの基になっている。コスプレで衣裳着てね。
 この人、ついでに言えば、『ヘヴィメタル』発行人のかみさん。
 どう、きなくさいアメリカ的なサムシングを感じるでしょ?

 ところで、九十年代『ヘヴィメタル』の看板スターは、度肝を抜く暴力(例えば、全身に銃弾が突き刺さる残虐描写をグロくもコミカルに演出する)を、パンク革命以降のヘビメタ的ライト感覚で描き込むサイモン・ビズレー先生なのである。
 確かに、先生、最高!下品で!
 ただし、サイモン先生はイギリス出身で『ジャッジ・ドレッド』とか描いて、アメコミ大手DC社からデビューした苦労人なので、『ヘヴィメタル』出身者とは位置づけられない。
 このへんにも、『メタル』本体の弱体化を感じることが出来ると思う。それが、九十年代。 

 先生はこの映画のキャラデザインやら、いろいろ手掛けられているのだが、
 映画の公開当時、先生の描いた映画本編のコミカライズ版が、『ヘヴィメタル』別冊としてリリースされていたのを洋書店でキャッチしてあったので、私は冷静に比較することが出来る訳だ。
 まさに、読んでから、観る。角川商法。
 で、映画の感想を(前記に倣い)箇条書きで申しますが、

 「最近のアニメにしちゃあ、絵がカクカクで、お粗末である。」
 「宇宙船の描写などに、わざとらしい、FFみたいなCGを導入しているのだが、座りが悪く、ダメな感じに拍車をかける結果になっている。」
 「でも、Jヤンキー感覚溢れる、先端にレーザー丸のこ装着の宇宙バイクなんか、カッコイイぞ。」
 「サイモン先生は、囚われたパンク系少女のヘアやら、大股開きのコーマンまで描いていらっしゃったのに、そういう悪逆な意地悪描写は(たぶん、レイティングとか気にして)カット。」
 「話は、誰でも判り易い。女囚さそりの宇宙版みたいなもんだ。」
 「前回の映画での失敗点を、まったく踏まえていない。ばかりか、祭りよ、もう一度、という空疎な空騒ぎに徹してしまっている、往生際の悪さだ。」
 「そういや、前作でDEVOやら、ブルーオイスターカルトやら、ドナルド・フェィゲンまで担ぎ出していた無駄に豪華なサウンドトラックは、今回、誰だか判らない今どきメタル野郎に都合によりチェンジ!ガックシ。」

 という訳で、総括するに、
 「前作を楽しめた奴だけ、観ろ!あれの、拡大縮小版だ!」
 
 あ、「拡大」ってのは、いちエピソードの尺が伸びただけ、って意味で、「縮小」ってのは予算規模の縮小ね!
 まぁ、でも、なんだかんだ云って、楽しいかったよ!
 また、作ってくれよ!

 でも、いい加減、ヒロインの乳首ぐらい立体で描けるようになれよな!アメリカ人アニメーター! 

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2010年3月10日 (水)

こまるえいこ『まさかの将門くん』 ('88、日)

 長い黒髪を背中まで垂らし、おやじは白い歯で快活に笑いかける。

 「悪ィーなァー、スズキぃ!あんたのリクエストで取り置きしといた本、勝手に読ましてもらっちまったぜー!」

 「いや、まぁ・・・、別にいいんですが。」
 普段と違うおやじの態度に、リアクションに困ったスズキくんは、もじもじしながら訊ねる。
 「その・・・、いったい、どうしたんですか、なんか普段とキャラ変わってませんか?」

 「ガッハッハッハッハ!!
 
最近、辛気臭い記事ばかり続いてたからな!たまには、こんな、胡散臭い明るさを振り撒いてみるのも、いいかな?なんて、な!!」

 
(コイツの、軽佻浮薄にはついていけん・・・。)
 と、内心、スズキくん、はの字眉毛になりつつ、
 「それで、どうでしたか?お気に召しましたか、こまるえいこ『まさかの将門くん』?」

 「・・・ま・さ・か!!!ハッハッハッ!!
 日本アルプス山中に氷漬けになっていた、伝説の武将、平将門が現代の日本に蘇る!
 そして、女子高生ひとり暮らしの家に勝手にホームステイ!
 将門は、・・・なんと、イケメン!
 
1000歳越える筈なのに、途方もない若づくり!現代の若者ファッションも、とっくにリサーチずみ!
 
だけど、自然体で、いつも、自由にのびのび!
 主人公とタメ口きいて、まったく違和感なし!
 明るく、能天気な性格で、おまけに、超能力者だ!おっと、こりゃ、便利!
 だいたい、霊界から蘇った将門の第一声が、

  “うるせーなー、人の耳元でギャーギャー騒ぐなよな!”

 ・・・って、完全に、クラスのちょいワル男子!!
 将門クラスの大物を、敢えてその扱いというのが実に衝撃的!いいのか?!
 特技は、「ギャハハハ!」と叫びながら、生首を飛ばすこと!
 
おいおい!大丈夫か、こまるえいこ?その後の人生、呪われてないか?」

 「最近はレディースコミックなんかでも活躍されてるようですね。」
 データを検索しながら、スズキくんが答える。
 「別に、呪われて困ったり、されてないみたいですよ。
 個人的には、将門様を粗末にして、無事に済むとは信じがたいですが。」

 「おーおー、きみは『帝都物語』方面にも造詣が深かったんだよなァー!」
 「加藤保憲、万歳!!我を崇めよ!!」
 「念のため、云っとくわ。ここでの将門の扱いなんだが、
 魔人加藤と、いま来た加藤ぐらい違うからな!気をつけろ!!」
 「うワァァァーーーッ!!・・・」

 「しかし、実はこのマンガ、そうそうお寒い出来じゃないんだよ。」
 おやじが総髪の枝毛を探しながら、真面目に述懐した。
 「これが一般誌に載っていても、そう違和感はないと思う。天然でお気楽なノリだから、狙ってトップを取るのは難しいだろうが、作者が楽しんで描いているのは充分伝わるし、ワン・オブ・ゼムとして考えれば固定客の望める作風だ。
 要は、感覚がメジャー寄りなんだよ。ウチの店には不向きかナ?!
 ・・・なんてネ!!」

 パラパラと本を捲りながら、スズキくんが呟く。
 「あの、これ・・・。まったく恐怖マンガじゃないですよね・・・?」

 「ギャハハハハ、ははははは!!
 それを云っちゃ、いやーーーーん、バカ!!!
 表紙には“伝奇恐怖シリーズ”って、銘打ってあるけどな!!」

 
予想通り、調子に乗り、生首を飛ばしてはしゃぎ回り始めたおやじを見ながら、
 (この人のは、なんか、素直に笑えん・・・。)
 と、スズキくんは密かに思うのだった。剣呑、剣呑。 

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2010年3月 9日 (火)

『魔獣大陸』 ('68、英)

 男なら、心に大陸のひとつやふたつ持っているものだろう。
 アトランティス、ムー、暗黒大陸、情熱大陸、ヤコペッティの残酷大陸・・・・・・。

 そんなきみの、心の大陸名鑑に加えて欲しい傑作がここに誕生した!
 魔獣大陸。

 「男は、大陸で、磨かれる。」


 ・・・というようなCMがあった事実はまったくないのだが、英国ハマープロ空前の大失敗作『魔獣大陸』は、なんというか、おやじの煮汁をレアで一気飲みするが如き、凄まじい作品である。
 なにが凄いって、もう、なんだか本当に意味が解らない。
 レビューを書く人間がそれじゃいかんだろうと思うんだが、いや、もう理解不能なんだからしょうがない。
 これに比べりゃ、タルコフスキーなんざ子供のお遊戯大会だ。甘いんだよ、お前は。

 この映画、渋すぎる主題歌から始まるオープニングからして尋常ではない。
 007の主題歌と、ダスティ・スプリングフィールドのゴージャスなヒット曲の構成成分を、強力なジューサーにかけて裏漉しし、残った絞り滓のみを華麗に盛り付けたような、へんてこな曲。
 おやじの低いアカペラから入って、ムーディにじわじわ攻めて来る。粘っこい。中年のセックスみたいな曲。
 しかも歌の流れる背景は、ずーっと船の墓場。美術スタッフ、やたら頑張ってる。ミニチュアも造り、背景色をくすんだトーンに抑え、ムードあるカメラワーク。ロケハンも効果的で不気味な空気感が良く出ている。
 そこへ、なぜに、この主題歌なのか?
 かつて日曜洋画劇場のエンディングを観ながら、明日学校かぁー、と憂鬱な気分になった記憶が心に蘇る重たさ。一体なんだこれは?
 先に解答を教えておくが、この映画は、諸君の疑問に一切答える気がない。
 それでいい奴だけ、ついて来い!と云わんがばかりの強引さなのだ。
 しかし、私は嫌いになれないなぁ、この映画。
 どうでもいい作品なのは議論を待たないのだが・・・。

 歌が切れると一転、サルガッソー海のような船の墓場で、しめやかなお葬式。
 くすんだ空、荒涼たる船上。陰惨な雰囲気。
 子供らしき、小さな亡骸が聖衣に包まれ、海へと放り込まれる。水葬だ。厳粛に見守る船員達。女達も数名。あと、十七世紀のスペイン兵士。・・・え?!
 いま、画面になんかとんでもないものが映ってなかったか?これ、モンティ・パイソンじゃないよね?
 監督もさすがにまずいと思ったのだろう、お茶を濁すように、回想へ強引にトリップ!

 ・・・密輸の特殊爆薬を船倉いっぱいに積み込んだ、豪華客船カリタ号は勇躍、港を後にした。
 デッキは今日も、セレブとは程遠い、怪しい乗客の皆さんでいっぱい。
 そもそも、密輸の主犯である船長の挙動からして異常だ。常に脂汗を垂らし、誰彼構わず、怒鳴りつける。部下なんか、いい面の皮だ。人間、後ろめたいことがあると、こうなるのだろうか。身につまされる。
 そんな怪しい船だ、港を出るなり、税関の船に強力に追撃される。しかし、一等航海士をどやしつけ、エンジン全開にふかして、後続を振り切り、沖へと逃走。
 税関の連中も、「まぁ、次の港で捕まえりゃいいさ。」とさっさと引き返してしまう。非常にやる気がない。
 船はカラカスへと向かっている。
 ところで異常なのは、船長ばかりではないのだ。この船には、まともな人間はひとりも乗っていない。
 
 ドミニカ大統領の元愛人だったおばちゃん。大統領に三行半を突きつけ、カラカスに預けた自分の子供(大統領の私生児)を迎えに行く途中。
 実の娘に近親相姦を強要する悪徳医者。デブでメガネ。鈍臭そうで、アンディ・パートリッジに酷似。でも、その娘も娘で、完全な色情狂。V字に胸の谷間に切れ込む異常なナイトドレスを着用。(OK!)
 アル中のピアニスト。いつも上機嫌でへらへらしているが、酒が切れると、突然暴れ出すので、危険。
 実は凄腕の殺し屋である、ニヒルな黒人。細身でダークなスーツ、一見切れ者風。しかし、殺しの標的だったおばちゃんと、密かにベッドイン。まさに文字通り、抱き込まれてしまう。
 船長は密輸商の権力亡者で、機関助手の片目は潰れている。
 
そして、船員達はみんな欲求不満で、隙あらば叛乱を企てている。

 
・・・こんな船、嫌だ。その気持だけはよく理解できる。
 
 以上ポイントは、観客が感情移入できる登場人物がひとりも出てこない点だろう。
 かたぎは、ひとりもいない。残念だが、健常な生活を送る常識人など、ここには皆無。見事に。
 全員キャラが立ち過ぎで、自己紹介など必要ないくらい。(というか、勘弁してくれ!)そして、ヒーロー不在。ヒロイン不在。
 笑いの要素も(残念だが)一切無い。全員、憂鬱な境遇で、自己主張が強く、しかも全然本気なので始末に悪い。
 英国の煤けた灰色の空を、労働者階級の集うパブを、即連想させる、やりきれない華の無さである。
 
 この人物設定に関しては、たぶん、本気で失敗しているのである。でも、そこに深い意味はないのだ。
 監督・製作のマイケル・カレラスを取り巻く現実が、まさにこんな、つまらない、色彩を欠いたものだったのだろう。

 やがて船は海上で暴風雨に遭遇し、座礁。船員の叛乱やら、醜い生存競争やら、お決まりのなんやかんやが発生し、船長以下一同は船を捨て、ヒッチコック『救命艇』へ。
 食糧を食い延ばし、漕げや漕げやで漂流するうち、不気味な海草漂う、怪しい海へ辿り着く。
 食糧とを廻り、いざこざが起き、悪徳医者と船員Aが海中へ転落。
 そこへ・・・鮫だ!やっぱり!
 この鮫は、情けないことに背ビレしか見えないのが、まぁ、いい。医者は非常に情けない絶叫を残し、鮫に食われてしまった。
 近親相姦を強要されていた娘は、ざまぁみろ、と実父の死にそっぽを向く。
 船長は船員Aを助けようとして、偶然腕に巻きついた海草が、吸血性であることを知る。
 イテテテ、と顔を顰め、包帯を巻く船長。でも、そんだけ。フォローは一切なし。
 誰も、そんな非現実的な海草に対して、あえて突っ込まないのだった。実に見上げた大人の態度である。空想もロマンも、どうでもいい。
 明日の飯と、セックス。それだけが彼等の関心事なのだ。

 やがて、生き延びた一同はサルガッソー海の只中へと引き入れられ、とっくに沈んだと思っていた自分達の乗船とバッタリ再会する。
 船では、頭の緩んだ給仕のおやじが、ひとり残ってやけ酒を飲んでいた。
 「おかえんなさ~い。ヒック。」
 船長は怒って、問いただす。
 「おまえ、なんであの時、わしらと一緒に逃げなかったんだ?!」
 「どこへ逃げたって同じですよ。だいいち、あんたら、戻って来てんじゃん。」

 思わず言葉に詰まる船長であった。

 その夜、久々に自由の利く、広い甲板で濃い一発をキメようと、色情狂の罰当たり娘は、ニヒルな黒人を誘い出す。
 深い霧が立ち篭め、他に邪魔する者もなさそうだ。
 黒人は、「オレ、黒人に生まれて本当に良かった!モテモテじゃん!」と遠い故郷シカゴの両親に感謝しながら、下半身を、すなわち黒人自身を剥き出しにして、娘に襲い掛かろうと身構えた途端、背後から巨大イカに襲われた!
 「うわッ、襲うどころか、襲われてるの、オレかよ!」と嘆きつつ、海中に没する黒人!
娘は絶叫!
 
イカは、娘の乳房をいとおしげに撫で回すと、駆けつけた人々を嘲笑うかのように船べりから姿を消すのであった。

 この一件で、さすがに呑気な連中も、ようやく見張りを立てて眠ることを思いつく。
 歩哨に立った船員Bが、不貞腐れてうつらうつらしていた早朝。
 「おい!起きろ、間抜け!」
 誰より早くしょんべんに起き出した船長が叫ぶ。
 夜明けの光の中を、背中に気球を二個背負った人影が海面をジャンプしながら近づいて来る!
 しかも、揺れるその胸には、さらに大きな二個の膨らみが!異常に巨乳の娘だ!
 ご丁寧に、胸元の大きく開いたピチピチのシャツを着ている!
 背後から追いすがる、やはり気球を着用の男たち、数名!こちらは、鎧に兜を被り、旧世紀の剣を振りかざす、いかめしい髯づらの巨漢たち!
 スペインの異端宗教裁判だ!
 議論の余地なく、一同は巨乳の娘を助けに廻り、スペイン兵たちは哀れ、ボコボコにされて敗退する。
 以下助けた娘の談話。

 この近くに島があり、サルガッソーから脱出できなかった人々が、何世代にも渡り生活している。
 支配しているのは、十七世紀スペイン王族の末裔で、残忍な専制政治を敷いている。当主は十代の少年王で、悪魔のような神官の言いなりのまま、拷問と悪政を繰り返しているのだった。
 彼女は島で生まれた難破船の子孫で、処女です。

 俄然、色めき立つおやじども、現政権打倒を心に誓うのであった・・・。

 ・・・と、長々と続けて来たが、もういいだろう。勘弁してくれ。
 これから物語はいよいよクライマックスへと向かい、かの有名な、顔部分だけはスタン・ウィンストン張りに良く出来ているヤドカリ怪獣と、ど間抜けな巨大サソリの怪獣大決戦など、盛り上がらない見せ場は多々あるのだが、それは諸君が実際に確認してみることをお勧めする。
 絶対、がっかりするから。
 これほど自信を持ってお勧めできるケースは非常に稀だ。
 いい歳こいて、ロマンや空想や希望を真剣に追い求めている人は必見。
 この映画は、本物である。

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2010年3月 7日 (日)

『クォーターマス2/宇宙からの侵略生物』('57、英)

 宇宙空間。
 どこを見渡しても星の海だ。それに、底無しの暗黒。
 ロケットは順調に飛び続けている。
 
 『ヒューストンよりD、ヒューストンよりD。緊急呼び出し。』

 コクピットで、銀色のヘルメットを被った人物がマイクを握る。
 「こちら、D。ヒューストン、何かあったのか?」
 『生物学研究チームの最新の成果を伝える。
 オナニーに使う際のこんにゃくは、少し温めた方が具合がいいようだ。
 だが、温め過ぎには注意。
 おいおい、それじゃ、おでんだ!
 
どうぞ。』

 「こちら、D。情報に感謝する。」
 応えたDは、ヘルメットの前で手をかざしバタバタ扇ぐ。
 「それにしても、夏でもないのに暑いな。どうにかならないのか?」

 『うむ、いま、太陽のすぐ近くを飛んでいるからな。お約束だから仕方がない。
 ちなみに、宇宙船の外側は、現在鉛も溶ける高温状態ですよ。』
 「・・・むッ、キャプテン・フューチャーのネタか。
 ヴィンテージSF文庫と、譜面解析は、僕の得意ジャンルです。
 どうだ、伝授してやろうか、ヒューストン?」
 

 『・・・結構!
 それよか、今回は枕に、キャプテンつながりで、ちばあきおの“キャプテン”を使おうと思ったんだが。困った。』
 「何か、トラブル発生か、ヒューストン?」
 『実は谷口キャプテン時代すら、まともに読んでいないんだ。
 野球マンガは、嫌いだ。死ね。
 そこで、趣向を変えてキャプテン・ケネディを枕に使うことに、パンパカパーン、大決定!!』
 「漫画トリオじゃないか。今頃全員死んでるぞ。」
 (※原注・この情報は誤り。「そのうち死亡予定」に修正。)

 『ヒューストンより、D。キャプテン・ケネディシリーズを覚えているか?』
 「ハヤカワSF文庫、白背ですな。宇宙版CIAみたいな奴が、へんな仲間と無茶する話。」
 『そのシリーズ第三作、“メテラーゼの邪神”なんだが、アタマは宇宙諜報部員が暗殺される007風の出だし、宇宙新興宗教が大ブームで、怪しんだケネディが潜入すると、その惑星を治める宇宙独裁者は、実は他の宇宙人に操られていた!というね。
 そんなチャチいの、いまじゃ子供も騙せんぞ。』
 
 「もろB級まる出しで、結構楽しんだけどな。
 それが、なにか?」

 『この話、実は下敷きにしてたのが、“クォーターマス2”って50年代の映画なの。侵略SFの名作です。今回はこの作品を伝授!どうぞ。』
 「うわーッ、先に云われた。悔しい。
 Dよりヒューストン。悪いけど帰らせてもらう。」
 『大人げないな。まぁ、いいじゃないか、別に著作権を申請してる訳でもあるまいし。』
 「“夏への扉”の主人公にでもなった心境です。」
 『ヒューストンより、Dへ。
 まぁ、確かにお前の云うのも尤もだな。俺も1980年の時点では、
 2010年未来の地球で伝授が大ヒットし、お前が蔵を建てたなんて話、聞かされても到底信じなかっただろうな!!』
 「リッキー・ティッキー・ティヴィー。おやすみ。」
 『フン、下衆のロリコン野郎め。 


 ・・・ヒューストンより、D。クォーターマス博士のシリーズは知ってるか?』
 「・・・えぇと、電話ボックスがタイムマシンになってて、ダレックってブリキのゴミ箱の親玉みたいな種族が時空を越えて襲ってくる話。」
 『それは、ドクター・フーだ!
 同じイギリスBBCの作品だが、紛らわしいボケをかますんじゃねぇ。
 クォーターマス博士は、イギリスが誇る天才科学者、月面に人類の植民地を造ろうとか真剣に考えている、本物の気違いだ。』
 「こちら、D。その表現は不穏当。悪いが、一般読者が逃げるので、言い直してくれ。」
 『ヒューストン、了解。
 尋常でないことを考え続けて、頭のねじが二三本外れてしまった不幸なお年寄りです。』
 「まぁまぁだな。不幸な、が付いているから是としますか。」
 『不幸な人肉愛好家。』
 「うぁあぁぁッ!」
 『不幸な幼児強姦犯。』
 「やめろー!」

 『ヒューストン、了解。
 これは、大ヒットした“原子人間”('55)に続く、テレビシリーズの映画化第二作目だ。
 いわば、“踊る大捜査線、ザ★ムービー2”だ。レインボーブリッジ、閉鎖できませーん!だ。兵隊は口答えしないで!だ。ナイナイの岡村が連続猟奇殺人犯で、カマカマカマカマ、カマ、カミリィ~オ~ン!だ。』
 「Dよりヒューストン。それだけは云わないで。青島刑事のコート、持ってたんだから。」
 「ヒューストンより、D。本気か?
 
 解説を続ける。
 前回、怪生物を腕にブラ下げて帰還した宇宙飛行士の事件を見事解決したクオーターマス博士の研究所では、また性懲りも無く、月面に送るロケットの準備が着々と進んでいたが、常識的なイギリス政府が突然に予算カット、計画の中止を申し入れてきた。
 博士が不貞腐れて、今夜はキャバクラでも行くかと財布と相談していると、研究所のレーダーが宇宙から落下してくる無数の怪物体を探知するんだ。
 落下地点を調べに行くと、そこには政府の最重要機密とされる謎の工場プラントが。
 ゾンビのように無表情な兵士に守られ、下院議員ですら自由に立ち入ることができない。
 しかもプラントのデザインは、博士が模型まで作って温めていた月面基地と同じ!巨大なドームが林立する構え。
 すわ、著作権侵害?と誰かの如く疑心に駆られた、心の狭い博士が山本晋也オトナの社会学の如く調査に潜入すると、警備兵が撃ってきた!
 マジ?困るんですけど!
 苦心して覗いた巨大ドームの中には、酸素を呼吸できない不定形の異生物がのたのたと蠢いていた!
 ありゃー、こいつは侵略だー!!』

 「Dよりヒューストンへ。
 最後の台詞、“カリオストロの城”の銭形警部だな?」

 『これは、よく出来た宇宙からの侵略映画だ。
 侵略が二年前に既に始まっていた、という目のつけどころがいい。政府の要人まで侵略者の支配下になっている訳だ。
 もっとも、これは原作・脚本のナイジェル・ニールの独創ではなくて、ハインライン“人形つかい”('51)が嚆矢なんだろうが。非常に盛り上がる設定である。
 また、ロケには英国シェル石油の実在するプラントが効果的に使用されているから、工場萌えの人にもお勧めです。』

 「あぁッ!しまった!」
 『ヒューストンより、D。緊急事態か?!』
 「こんにゃく、完全に茹で上がっちまった!
また、やり直しだ!!ちくしょうめ!!」

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2010年3月 5日 (金)

神田森莉②『美々子、神サマになります!!』('96、日)

 (承前)
 デパート屋上の監視カメラには、異常行動を続けるおやじと二十代の好青年の姿が映し出されている。
 二名の足元には既に死体と化した中年女性が横たわり、周囲は飛び散った鮮血で真っ赤だ。テーブルの間を行き来するウェイターも含め、かなりの人数が視界には見えているのだが、誰もまだ殺人行為が行われた事実には気づいていない。
 だが、職務に忠実な監視要員は厳格な保守マニュアルの手続きに従い、それぞれ配色の異なるボタンふたつを同時に押した。
 官警への通報、並びに上司への報告を同時に行ったのである。

 彼は、通り魔的な犯行だろうか、などと適当なことを考えていたが、もし監視カメラ以外に高性能な指方向性マイクでも備え付けてあれば、二名の殺人者たちが以下のような会話を交わしていたのが聞き取れた筈である・・・・・・・。

 「推定だが、私のチェックした範囲では、『美々子、神サマになります!!』が神田先生の一番長いホラー作品のようだ。
 というワケで、この作品は重要なのだ。」
 おやじが半分酔っ払った口調で続ける。
 「読めば一発で理解できるだろうが、これはかのオウム事件をより下らなく、一層極悪に描き直したものだ。
 あれが酷い事件だったことは衆目の一致を見ると思うが、どっかのバカがまたしても“事件がフィクションを越えてしまった!”などと責任放棄の戯言を抜かしたため、
 親切な神田先生が一念発起、虚構の真の恐ろしさを改めて諸君に知らしめるべく、熱筆を奮ったのが『美々子』なのだ。」

 「ボク、これ興味津々なんですが、残念ですが、未読です。」
 食べ跡と血糊で口元を汚したスズキくんが、問いかける。
 「どんなお話なんですか?」

 「かいつまんで話そう。
 美々子はごく普通の女子高生。ある日、クラスメートに誘われ怪しげな降霊儀式に立ち会うことになる。これが悪質な勧誘の手口で、同級生は実はサクラだった。
 UFOインター教は、常にこうして信者の数を増やしていたのだ。
 この辺は、別段オウムに特化した手法ではないわな。宗教団体なら、多かれ少なかれ必ずやっている行為、いわばセックスだ。
 賢明にも危険な自分の立場を素早く見抜く美々子だったが、勧誘の場に居たイケメンに一目惚れしてしまう。
 神田先生の登場人物たちの行動の規範が、常に、狂った愛だ、というのはもう説明したっけね?
 彼等は愛に生き、愛に死んでいくのだ。
 少女マンガに限らず、古典的なロマンだね。素敵だ。

 ともかく、それを切っ掛けに美々子は教団に入信してしまい、連れ戻しに来た家族と争ったり、自宅に軟禁されたり、結構ベタに「マインドコントロール」をめぐるドタバタが続く感じ。
 この時点では、まだ現実に即した常識的な展開で、宗教に目覚めた少女が、日常に紛れ込んだ異常者の如く描かれていて、わりとおとなしい。
 
 神田先生の凶悪さが真価を発揮し始めるのは、この教団のボスが、手足のないダルマ人間だと判明した辺りからだ。
 彼の元でハードな修行を積む美々子は、修行中、完全に発狂!座禅を組んでぴょんぴょん跳ね周り、泡を吹いて失神!
 それを高みで見ながら哄笑する、極悪教祖!
 そして彼に心酔する信徒達は、少しでも彼に近づこうと、競って手足を斬り落とし始める!
 教団科学班は、危険な薬物を製造し、迫害する国家権力に対し、抗争の姿勢を露にする!
 同時に、教祖に逆らったバカ女の首と、インコの首を挿げ替え、怪奇インコ女が誕生両腕は短い羽根!飛べません!バタバタバタ!キーキー!うるさいだけ!
 まったくもって、余計な科学力!
 そんなところへ坂本弁護士事件を彷彿とさせるような、悪逆な拉致監禁、殺害事件が発生!かわいい男の子も、無惨に虐殺!官警は強制捜査に乗り出し、上九一色村によく似た教団本部へ一斉突入!
 そんな大混乱の中、ダルマの教祖が裏切り者の手により、突如暗殺される!
 
美々子が恋したイケメンは実は公安の手先のゲス野郎だったのだ!
 怒りに言葉も出ない美々子は復讐を心に誓う。
 教祖を失い、他に行き場がない哀れな教団の構成員達を擬似家族のように思い、盲目的な愛情を持つに到った美々子は、二代目教祖襲名を決意し、強大かつ冷酷無慈悲な現実社会に対し、全面戦争を開始する!
 実は、彼女は自分で気づいていなかったが、瞬間移動も可能な超能力者だったのだ・・・。」

 一気呵成に語りきったおやじは、真っ赤なマンゴージュースを飲み干した。
 「グェッ・・・まずい。なんか、鉄分が多めだ。」

 「トマトジュースですから。それ。」
 平気の平左で素ッとぼけるスズキくんは、なにやら怪しい臓物の乗っかったパスタを器用に掬い上げながら、
 「ダルマ教祖、ですか。確かに、むずかしい場所へ行きましたね。」
 「これまでの作品の流れからすると、当然の帰結だがね。
 同じ’96年に、これは小説だが、キャスリーン・ダンの『異形の愛』が邦訳されているんだ。あれも身体切断カルトが出てくるフリークス物だから、神田先生がシンパシーを感じてもまったく不思議はないね。サーカス一家に生まれたフリークスの子供たちが繰り広げる愛憎に満ちた年代記。フリークス版『百年の孤独』なんて評も当時あったな。
 そういや、身体切断売春婦の大量出演する異端SF、K・W・ジーターの『ドクター・アダー』もこの頃だし、なんかそういうものが流行ったのかも知れないね。」
 「それは、あれですよ、鬼畜ブーム。」
 「鬼畜ブーム!!(爆笑)
 久々に聞く名前だな(笑)。いったい、どんなブームだったんだ(笑)」
 「そういうマスターも、村崎百郎『鬼畜のススメ』を持ってましたよね?」
 「わしは、流行には弱いんだ。」

 スズキくんは、持ち込んできたバッグを開け、異常な量の凶器類をテーブルに並べ始める。
 スパナ、ドライバー、金槌などの工具から、ボウガン、エアピストルなどのサバゲー系、電動ドリルに小型チェインソー、ジャックナイフ、鹿撃銃、柄を短くした改造ショットガンまで持参とは恐れ入る。

 「いずれにせよ、神田先生は結構なSF読者らしくて、HPの『タイタンのゲームプレイヤー』評に、“ああ、ディックだ。こけてもディックだ。”と書いてあるのに感動した。
 この本はまったく読む価値がないんだ。そこが重要な作品である。さすが、わかってらっしゃる。ついでに『フロリクス8から来た友人』も同じ感想で載せて欲しかったな・・・。」
 おやじは、愛用の山刀にワックスをかけ、ハーッと息を吐いて真鋳の刀身が曇らないかチェックしている。
 「そろそろ、『美々子』に戻りましょうよ。
 そもそも、この作品の問題点ってなんだったんですか?」

 「充分面白いが、度肝を抜く超傑作ではなかったこと。」
 おやじは即答した。
 「現実に起こった事件をヒントにしたせいもあるが、全体としてバランスが悪いんだ。
 外部からの狂気に翻弄され、おのれの内在するアブノーマル性に覚醒し、光り輝くヒロイン像というのは、傑作『まま母ビン詰め地獄』に共通する、神田先生の王道なんだが、
 短編では有効に機能した八方破れの展開というのが、長編では単なる行き当たりばったりに見えてしまう。
 もちろん、壊れていてこそ神田森莉なのだが、爆発のタイミングが妙に間延びして見えてしまい、連鎖する大爆発につながらない。惜しい。
 長編向きの作風じゃないのかも知れないし、描き方が極められていないだけなのかも知れないが、それにしても惜しい。狂ったときの永井豪みたいな反則が出来る筈なんだが・・・。」

 「さて、そろそろ、行きますか。」
 スズキくんは適当な得物を手に立ち上がった。
 「あぁ。でも、最後に言わせてくれ。
 最終的に美々子たちの戦争は、テロ行為と片付けられ、大量の犠牲者が出て終結する。
 生き延びた美々子や他の少女は妊娠しており、二世を産んでまたやるわよ!と明るく未来を誓ってこの話は終わるんだが、
 これって筒井の『俗物図鑑』だよね?!凄えオマージュだよなぁ。」
 タタタ、とおやじの腕の中でウージー機関銃が咆えた。
 「じゃあ、いきましょう!」

 ・・・それから、デパート屋上で繰り広げられた阿鼻叫喚の惨劇には、駆けつけた警官隊も目を剥いた。人体がバラバラに四散し、到る所で鮮血の花が咲き、倒されたテーブルもデッキチェアーも噴き出した内臓の欠片でどどめ色に染め上げられている有様。
 「いったい何人殺したんだ?!」
 「この、薄汚い気狂いどもめ!」


 飛び交う怒声の歓迎を受け、デロリはみ出した眼球を歪めて笑うおやじに、警官のひとりが心底不思議そうに声を掛けた。
 「わからないな。・・・あんたら、なんでこんな残酷な真似をしたんだ?!」
 
 やがて、なんとも複雑な表情で戻って来た警官に、仲間のひとりが尋ねる。
 「で・・・なんだって?」
 警官は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
 「政治家と金持ちと愛人の類いは、いくら殺してやっても罪にはならないんだってさ。
 あの、気違いどもめ!!!」
 
頭の横で、くるくる指先を廻した。 

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2010年3月 4日 (木)

神田森莉①『血まみれの夏休み』 ('93、日)

 午後のティーカクテルラウンジ。

 白い日傘の花が咲く、デパートの屋上は、ちょいとアンニュイな、暇人どものオアシスだ。
 医者、弁護士、ちょっとした政治家。商店主。銀行家。その夫人や、子供たち。家政婦、愛人に連れ子、隠し子。私生児。生まれついての賑やかな連中。
 無数に並ぶ白いテーブルには、コロナ・ビールやハーフパイントの黒ビールなんかが並び、おいしそうに盛られたサラダボールに魚介類、揚げシュウマイ、サフランライス。

 目の前に置かれたタイ風春巻を頬張りながら、スズキくんは嘆息した。
 「うわぁ、これが全部奢りですか。お財布は大丈夫なんですか、マスター?」
 香港の遊び人みたいな、庇の短い白の麦藁帽に、薄茶のレイバングラスの古本屋のおやじは、豪快に笑いながら、
 「気にするな、たんと食え。」
 と、云った。
  ラスベガスへ行った初代農協ツアーは、こんな感じだったんだろうか。
 スズキくんは落ち着かぬ思いで、周囲を見渡す。
 「・・・しかし、なんでまた、こんな場所に呼び出したんですか。だって、本日のテーマは・・・。」

 「神田森莉。」
 
 おやじはキッパリと言い切る。
 「歴然とした現役作家だ。消息不明の作家が多いわれわれのコンテンツでは、珍しいケースだな。」
 「それも問題かと思いますが・・・。」
 片耳にリボンを結わえた犬を抱き、おばさんがジュースを載せたトレイをおっかなびっくり運んでいる。空いた席を探しているのだ。
 やばい、と思った瞬間、肥えた肉の塊りが隣の席に潜り込んでいた。
  「・・・まぁ、なんだ。」
 多少隣席を警戒しながら、おやじは続ける。
 おばさんは知らん顔で、先の細い煙草を取り出した。
 「きみは神田先生の存在自体、まったく知らなかったんだよな、スズキくん。」
 「はぁ。マスターに勧められて、先日初めて読みました。」
 
 「恥、だな。」

 スズキくんは思わず、咥えた海老餃子を取り落としそうになる。
 「これは怪奇探偵として、一生の不覚だろう。
 御茶漬を知ってる、犬木加奈子を知ってる、山咲トオルまで知ってる。
 なのに、なんで神田森莉を知らんのだ?!」
 どすッ。
 机を叩いた。
 隣席の犬がきゃんと鳴き、そわそわし始め、おばさんは明らかに警戒心を持った横目でこちらの様子を窺っている。
 「お言葉ですが、マスター。」
 スズキくんは落ち着き払って反駁する。
 「ボクの手落ちは、当然認めるとしまして(あとで反省文でも書きますよ。)、
 しかし、正常な生活を送っている世間一般の皆さんは、まったく認知していないんじゃないですか?そもそもジャンルとしてのホラーマンガ自体、どんどん読者を選ぶ方向へ進みましたし。」

 おやじはカクテルグラスの中の焼酎をグィとあおると、持論を展開し始める。

 「90年代以降の恐怖マンガを考える上で、神田森莉は重要だ。その作劇は、ショック重視である。
 BADな貸本マンガがハードコアパンク化して蘇ったかのようだ。
 人間がありえないぐらい、スパスパ切れる!!
 たいていの作中人物は、死亡か、発狂!!
 後味悪い結末もナイス!!」


 「それに、少女マンガの伝統に則った、スカスカの絵柄も素敵だ。
 デコレーション過剰で、くどすぎる登場人物の顔。
 明らかにバランスに不自由な人体デッサン。
 フェミニンな女性キャラは全員、巨乳!
 重厚さ、皆無!
 エログロ重視!
反則しか使わない、卑怯すぎるストーリー展開!」

 「全然、褒めてるように聞えませんが。」

 スズキくんは、言葉に詰まり、隣席の犬のリボンを引っ張り出した。
 「そう・・・ボクは、こんな後あとまで嫌な感じが尾を引く作品を読んだのは、山野一以来ですよ。」
 
犬は怒って、スズキくんの手に噛み付いた。
 がぶ。
 「『混沌大陸パンゲア』だね。『四丁目の夕日』とも云うね。」
 「それ、“三丁目”と間違える人、結構いるんですよね・・・。」
 スズキくんは冷静に痛みに耐えながら、懐中から取り出したカッターナイフで犬の喉首を切断する。
 ぶしゃーっ、と血が飛沫いた。おばさんが目を剥く。
 「神田先生は、マイナス方向へ限度を越えた背負い投げを喰らわす天才ですよね?好き嫌いは別として、確かに残るものがあります。」

 鮮血に染まったテーブルの食事を、まったく気にせずパクつきながら、二人は話し続ける。
 大量出血で力を失った犬の身体を、だらんとぶら下げて、おばさんが後ずさる。
 声にならない絶叫を上げているらしく、口元が三日月型に開いて見える。

 「そもそも、今回取りあげた作品ですが、なんでまた『血まみれの夏休み』なんですか?他に適当なテクストはありそうなもんですが。」
 赤く染まったカルボナーラをフォークとスプーンで上手く掬い上げながら、スズキくんが尋ねた。
 「これ、確かにバッドテイストではありますが、神田先生のもうひとつの特徴である、“笑い”の要素が希薄ですよね?」

 「あぁ、うん。そうね。

 『夏休み』は、ファースト作品集『怪奇カエル姫』の巻頭を飾る、『キャリー』的モチーフの、正統派ホラー寄りの作品だね。
 限度を越えたいじめを受けた高校生のデブが、キャンプ先の海辺でいじめっ子たちを虐殺するストーリー。殺し方がいちいち、えげつないの(笑)。
 特にフジツボの一杯付いた岩で、背中の肉を削いでいって、背骨を剥き出しにして、岩の角でボキッと折る。
 この場面は、作者の画力の無さと相俟って、素晴らしい名場面になっている。
 いや、冗談じゃなくて、これは映画じゃできない痛さの表現だよ。アタマを殴って地面に倒して、背骨を折るまでたっぷり三ページかかるんだぜ。
 本当にやったら、」

 おやじは手早く、まだその場で恐怖に口を引き攣らせて固まっているおばさんを、空いたステーキの鉄板皿で殴り倒すと、いつも持ち歩いているマチェーテで、軽く背中の肉を削いでみせた。
 
 「ね?流血が夥しくて、あぁは綺麗にいかないだろ。
 まさに、マンガ的恐怖の表現じゃないか。“フジツボ付きの岩”って、凶器のセレクションも渋いよねぇ。場面のバカ度はアップするし、やられたら本当に痛そうだ。」

 倒れたおばさんと犬の死体を足蹴にしながら、スズキくんも考え深げに云う。

 「この辺の話はまだ、作者ご本人がおっしゃる『少女マンガの呪縛』が濃厚に働いている気がしますね。
 いじめっ子のイケメンが被害者のデブ少女に、うっかり情が移るあたりの展開なんか、少女マンガの王道に対し強力にオマージュを捧げてますもんね。」
 
 「そういう意味では、表題作『怪奇カエル姫』がオマージュ方面での集大成だろう。最終的にあぁなる以前の未発表原稿が二本、HPに公開されているから覗いて見るといいよ。非常に貴重な資料です。

 しかし、この段階ではまだ、作者ご本人も“ホラーらしいホラー”を模索している過程のように見える。
 90年代のホラー誌創刊ブームに乗って、デビューは果たしたものの、はてどうしたものか。試行錯誤しながら、作風を固めていってる段階だね。
 だから、ご本人もどうやら認めているらしいが、ベストはこれの次に出た『37564(ミナゴロシ)学園』収録の諸作だと思う。リアルタイムで読んでいた読者は、全員深い感銘を受けた筈だ。ここまでするか、というメーターを振り切った爽快感だね。
 特に後半の3連発、『恐怖うじ虫少女』『まま母ビン詰め地獄』『ドクロ蝶666の恐怖』あたりは、無意味に加速する残虐描写と無謀すぎる物語展開が、完全にねじの外れた哄笑を生む、という奇蹟を体現してしまった。
 はからずも笑いの神が降臨した瞬間だったろう。
 特に『まま母地獄』で、憎い継母(実は殺人SMの女王)に逆襲し、足首を切って瓶詰めにしてしまった主人公が、「日本で唯一のSM中学生としてがんばっていこう」と決意する場面は本当に素晴らしい。
 笑えて、とことん皮肉な逆説に満ちていて、しかも感動的だ。
 恐怖マンガの典型的モチーフを高速で分解投影したみたいな『うじ虫少女』も、怪奇生物ネタがなんだか解らない異種族間恋愛(しかもレズ)に決着する『ドクロ蝶』も、躊躇ない強引な展開とチープ感溢れる絵柄に乗せられて、実にハイテンションだ。
 こりゃすごいことになるぞ、と誰もが次回作を期待した。
 問題は・・・。」

 スズキくんは、赤いトムヤンクンを啜りながら物憂げに答えた。
 「オウム問題を扱った、短めの長編(ノヴェレットって感じですね。)の、『美々子、神サマになります!』ですね。」

 (以下次号)

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2010年3月 1日 (月)

池川伸一『恐怖のほうたい女』 ('80、日)

 誰がBADだって?!

 マイケル?・・・そんな奴のことは忘れちまいな!
 そう、あんたがマイケル・J・フォックスやマイケル富岡のことを忘れたみたいに、さ。
 俺たちは、「時間」という名の列車に乗ってるんだぜ。
 目的地は、墓場。
 遅いも早いもあるもんか。

 俺に言わせりゃ、本当のBAD(ワル)は池川伸一だ。
 
リスペクト!

 あんたに、「ほうたい女」の話をしてやろう。
 女としての幸せを、残らず奪い取られた奴さ。悲しい話さ。

 彼女は、母親の再婚相手に殺されかけた。
 自分達、親娘を捨てて、若い別の女に走った父親に、だ。
 母は失意から病気で亡くなり、天涯孤独の身となった彼女は、義理とはいえ父親の責務を一切果たそうとせず、平気で新家庭を構えた男を許すことが出来なかった。
 彼女は単身、男のところに話をつけに乗り込んで行き、こう云った。

 「私は、絶対許せない。あんたの新しい家庭をメチャメチャにしてやるわ!!」

 義父は前非を悔いた。
 海より深く、反省した。
 だけど、彼女がそれを許したかって?・・・許す筈ないだろ!
 意を決した父親は、「すまない。すまない。」と呟きながら、彼女の首を絞めたのさ。
 こうして、彼女は殺されたんだ。アーメン。

 しかし、彼女は蘇った。
 ポーの「早すぎた埋葬」(1850)さ。乱歩の「白髪鬼」('31)さ。
 暗闇の地底で目覚め、恐怖に身を焦がされながら、全身をネズミに齧られながら、逆にそのネズミの肉を食いちぎり、飢えをしのぎながら。
 彼女は、地上に這い上がった。
 親切な医師に助けられ、なんとか命は永らえたが。
 
 髪は抜け落ち。肉は削げ落ち、顔は食い破られ。
 必死に土を掘った指先は、骨も剥き出し、見る影もない。
 医者は、整形手術を幾度も施してくれたが、無惨に崩壊し切った彼女の肉体はもとに戻らない。
 そして、彼女の精神も。
 二度とは元には戻らない。

 彼女はかつらを被り、醜い全身をほうたいでグルグル巻きに隠すと、宣言した。

 「アイツのすべてを奪ってやる!!」

 ・・・さぁ、そこから先の話が聞きたいかい?
 本当に、ひどいことになるんだよ。
 
よせ、よせ。
 知っても嫌な気分になるだけさ。聞かない方がいいよ。

 父親は、新しい妻との間に、ふたりの子供がいるんだ。
 自分がされたのと同じ仕打ちを、その子らに。

 十歳の子供の手を、ネズミに喰い切らせ、骨まで剥き出しにする。
 この、骨が飛び出した指先のアップが、実に凶悪な描写でね。
 また、かじられた子供が「痛い、痛い。」と泣くもんで、こっちまで指先が痛んでくるよ。
 
 包帯だらけのその子を縛り上げて、目玉と耳にクリームを塗るんだ。
 またも、ネズミを放って襲わせる。
 そいつを眺めてほくそえむのさ。

 しまいに、その子は棺に入れられ、地中に埋められ、完全に発狂。
 もう、人間じゃないよ。
 唸り声を上げて、姉に襲いかかって来るのさ・・・。 
 
 ・・・どうだい、誰がBADか分かったかい?
 マイケル?
 おいおい、こんな気分の悪い話をした俺だって?!

 こんな嫌な話をしたのには、理由があるんだ。
 俺たちがこの店で扱ってる商品には、愉快なばかりじゃ済まない、劇薬もあるってこと。
 それに、もうひとつ。
 きれいに包装されたお菓子だけじゃ生きていけないってことさ。
 誰も、ね。

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