こまるえいこ『まさかの将門くん』 ('88、日)
長い黒髪を背中まで垂らし、おやじは白い歯で快活に笑いかける。
「悪ィーなァー、スズキぃ!あんたのリクエストで取り置きしといた本、勝手に読ましてもらっちまったぜー!」
「いや、まぁ・・・、別にいいんですが。」
普段と違うおやじの態度に、リアクションに困ったスズキくんは、もじもじしながら訊ねる。
「その・・・、いったい、どうしたんですか、なんか普段とキャラ変わってませんか?」
「ガッハッハッハッハ!!
最近、辛気臭い記事ばかり続いてたからな!たまには、こんな、胡散臭い明るさを振り撒いてみるのも、いいかな?なんて、な!!」
(コイツの、軽佻浮薄にはついていけん・・・。)
と、内心、スズキくん、はの字眉毛になりつつ、
「それで、どうでしたか?お気に召しましたか、こまるえいこ『まさかの将門くん』?」
「・・・ま・さ・か!!!ハッハッハッ!!
日本アルプス山中に氷漬けになっていた、伝説の武将、平将門が現代の日本に蘇る!
そして、女子高生ひとり暮らしの家に勝手にホームステイ!
将門は、・・・なんと、イケメン!
1000歳越える筈なのに、途方もない若づくり!現代の若者ファッションも、とっくにリサーチずみ!
だけど、自然体で、いつも、自由にのびのび!
主人公とタメ口きいて、まったく違和感なし!
明るく、能天気な性格で、おまけに、超能力者だ!おっと、こりゃ、便利!
だいたい、霊界から蘇った将門の第一声が、
“うるせーなー、人の耳元でギャーギャー騒ぐなよな!”
・・・って、完全に、クラスのちょいワル男子!!
将門クラスの大物を、敢えてその扱いというのが実に衝撃的!いいのか?!
特技は、「ギャハハハ!」と叫びながら、生首を飛ばすこと!
おいおい!大丈夫か、こまるえいこ?その後の人生、呪われてないか?」
「最近はレディースコミックなんかでも活躍されてるようですね。」
データを検索しながら、スズキくんが答える。
「別に、呪われて困ったり、されてないみたいですよ。
個人的には、将門様を粗末にして、無事に済むとは信じがたいですが。」
「おーおー、きみは『帝都物語』方面にも造詣が深かったんだよなァー!」
「加藤保憲、万歳!!我を崇めよ!!」
「念のため、云っとくわ。ここでの将門の扱いなんだが、
魔人加藤と、いま来た加藤ぐらい違うからな!気をつけろ!!」
「うワァァァーーーッ!!・・・」
「しかし、実はこのマンガ、そうそうお寒い出来じゃないんだよ。」
おやじが総髪の枝毛を探しながら、真面目に述懐した。
「これが一般誌に載っていても、そう違和感はないと思う。天然でお気楽なノリだから、狙ってトップを取るのは難しいだろうが、作者が楽しんで描いているのは充分伝わるし、ワン・オブ・ゼムとして考えれば固定客の望める作風だ。
要は、感覚がメジャー寄りなんだよ。ウチの店には不向きかナ?!
・・・なんてネ!!」
パラパラと本を捲りながら、スズキくんが呟く。
「あの、これ・・・。まったく恐怖マンガじゃないですよね・・・?」
「ギャハハハハ、ははははは!!
それを云っちゃ、いやーーーーん、バカ!!!
表紙には“伝奇恐怖シリーズ”って、銘打ってあるけどな!!」
予想通り、調子に乗り、生首を飛ばしてはしゃぎ回り始めたおやじを見ながら、
(この人のは、なんか、素直に笑えん・・・。)
と、スズキくんは密かに思うのだった。剣呑、剣呑。
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