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2010年3月23日 (火)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【血闘!大塚駅編】 ('85、日)

 (カーステから勇壮なマーチ流れる。)

 「・・・総司令、この曲は?!」

 運転しながら、スズキくんが尋ねる。車は法定安全速度を軽く突破し、マッハの勢いだ。

 「わしの考えた人類救済計画のテーマソングじゃ。『走れ、白タク』と名づけた。」
 「嬉しくないなぁ。」

 対抗車輌はない。
 東京都の人口は、盛時の1200万から大幅に減少し、行政機構も弱体化している。交通違反を取り締まる人員が確保できないのが現状だ。
 そもそも燃料輸入自体が不安定なのだから、昔ながらの化石燃料車など公的組織以外で乗り回す者は少ない。
 したがって信号など無きに等しく、スズキくんは思いっきりぶっ飛ばすことが出来るのであった。

[シーン10・JR大塚駅南口]

 車は春日通りを左折し、大塚駅南口へ進路を切った。大塚台公園を横目に、天祖神社をかすめて、駅南口ロータリーへと侵入する。
 月夜に映える樹々の姿が印象的な、山手線の駅にしては割と風情の有る造りだ。
 バス車線を突っ切って横転し、真っ赤な炎に黒い煙を噴き上げている警察車輌が見えた。
 ところどころに動かない人影が転がり、犠牲者は相当数に上るようだ。警官隊は分断され、てんで烏合の衆と化しているが、スズキ9号車の到着に呑気に手を振る者もいる。

 「ウチの部下は、どうしようもねぇな!」
 自分のことは棚に上げて、ウンベル総司令が吐き捨てるように呟いた。「たかが小学生の女の子一名に、完全武装の一個部隊が壊滅しおった。」

 「司令、相手は、仮にものりかずですよ。普通の尺度で考えてはいけない。」
 スズキくんは、そこでふと思い当たり、予ねてよりの疑問を訊ねた。
 「それにしても司令、そもそも、川島のりかずって、一体なんです?!」

 「・・・人類最大の敵・・・。
 それしか、私には答えられん。」

 珍しく真面目な顔で、ウンベル総司令は答える。

 「正しい進化の系統樹から外れた異形の生命体だという説もあるし、某国の研究していた生物兵器が暴走した結果、誕生したという者もいる。
 だが、有史以前からのりかずは存在していたという、確かな証拠も発見されている。穴居生活を送る狩猟民族の洞窟壁画にも、あるいはシナイ山の神殿の祭壇部分にも、確かにのりかずを思わせる怪物の姿は描かれているのだ。
 その姿は、人類の太古から持つ“悪魔”のイメージに似ている。
 歴史が伝える最もポピュラーなのりかずの肖像は、
 Gペンを耳に刺し、咥え煙草でゲームデンタクの当たる怪談絵はがきの抽選を行なう、気弱で優しげな青年の姿じゃ。」 

 「むむむ、おそろしい。」
 スズキくんは、タクシーを徐行させ、路肩に停車した。
 駅前広場は、祭りの後のような静けさに包まれ、うろつく警官隊の生き残りも放心状態のようだ。 

 「・・・どこにもいませんね、川島のりかず。」
 「最近、相場が上がったと聞くしな。入手困難がしばらく続くかも知れんな。」

 途端、ドンと激しい衝撃が走り、車体が大きく上下に揺れ始めた。

 「うわわわわッ!!なんだ!?」
 「司令ッ!!屋根の上です、突然近所のビルから落ちてきました!!」

 鋭い爪が、タクシーの天板を切り裂き、目前に出現した。司令は、ヒェッとおかしな声を発すると、勢いで不自然な形状に歪んだ己が頭髪を押さえつける。
 間髪入れずに、スズキくんはアクセルを踏み込んだ。
 ズボンと黒い煙を吐き出し、瀕死の悲鳴を上げてタイヤが軋る。負荷最大級の急発進だ。
 ヘッドライトが闇を切り裂く。

 「・・・落ちたか?!」
 まだ頭部を押さえたまま、ウンベル総司令が叫ぶ。
 返答をするように、屋根に強烈な打撃が加えられた。衝撃で、特殊装甲ガラスにひびが走る。
 タクシーは前後不覚の猛発進で、ロータリーを一直線に突っ切った。激しくバウンドするが、屋根の上にへばりついた怪物はまだ耐えている。
 
 暗がりの中、眼前に、標識柱が迫った。

 その瞬間を狙って、スズキくんは絶妙なタイミングでブレーキを踏み込んだ。
 ドキキキキィィィーーーーッ!!
 安全ベルトも裂けそうな衝撃がふたりを襲った。フロントガラスを越えて、黒い大きな影が前方へ飛び出すのが、ハッキリ見えた。

 「・・・ひぇー、危ない、危ない。」
 愛用の鬘がずれて、かなり危険な様相になったウンベル総司令が云う。
 「たかがマンガのレビューで、命を失くすところだったぞ。」
 
 「これ・・・どこが、マンガレビューなんですかね?」
 スズキくんは慎重に前方の様子を窺っている。
 「ちゃんと落ちたかな・・・?もういっぺん、轢いときましょうか?」

 前方に倒れた黒い人影は身動きもしない。
 遠くで燃える警察車の炎に微かに照らされ、闇そのものが蟠っているようだ。
 それにしても、大きい。
 小学生の女の子が変身したとは、俄かに信じれらない巨大さだ。
 
 「こりゃ確かに、人狼ですね。全身濃い獣毛に覆われていて、牙もあれば爪もある。ありゃ、両の耳までしっかり伸びてやがらァー!」
 その、耳がピクリと動いた。
 「・・・え、えッ??」

 途端に、僅かに首を擡げる格好で、くるりと振り返った爛々と眼光を放つ真っ赤な目が、タクシーの運転席を覗き込み、スズキくんをしっかり視野に捉えた。
 スズキくんは、恐怖に声も出ない。
 目は呪縛するかのように、しばし視線を合わせていたが、ふいにツッと離れた。脇で総司令が荒い息を吐く。
 
 怪物は、走り去ったのだ。
 
 「・・・総員、非常手配!」
 意外に職務に忠実なウンベル総司令がマイクを引っつかみ、怒鳴る。外部スピーカーのスイッチを押し上げている。
 「怪物は架線を越え、北口住宅地へ逃走した。繰り返す、総員、急行せよ!!」

 腑抜けたようになっていた警官隊が、のろのろと集まってきた。

[シーン11・小宮山くんの自室]

  前回から引き続き、全裸でシーツに包まった小宮山くんは、恐怖にガタガタ震え続けていた。

 「由美子・・・ッ!!由美子が、来るッ・・・!!
 オレには分かるんだ!!由美子が・・・。」


 (以下次号、たぶん完結)

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