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2010年3月25日 (木)

川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【現ナマに手を出すな編】 ('85、日)

 (激しい雄叫びが聞える。でも、彼女は雌だ。)

【ナレーション】
 川島のりかずの描く狼人間がユニークなのは、一度変身すると元に戻れない点である。傍に来る者すべての首をチョンパし、手足をもぎ取る。完全な狂獣と化すのだ。
 だって、直らない病気だから。

[シーン12・大塚駅北口方面] 

 夜の街路を疾走する狼人間。
 両手を大きく宙に突き上げ、グリコのパッケージのようなスタイルだ。
 大きな口をパックリ開け、だらりと垂れた長い舌が左右に揺れる。

 その脳裏に去来する記憶の断片、フラッシュバックする。

 かつて暮らした村の思い出。
 村八分にされた記憶。
 肺病にかかり助けの手ひとつ貸して貰えず、みすみす死なせた母しげ子。
 父親とふたりで、峠を越えて運ぶ途中で、衰弱し息を引き取った母の死に顔。

 (暗い街路に、通行人の影。
 絶叫する間もなく、首をもがれ、絶命する。)

 優しかった父親。
 その父もあの病気に感染し、野獣と化して死んだ。
 狂気を恐れ、自ら鎖で全身を岩に縛りつけ、最後まで人間であろうとしたが、病気は容赦なく理性を奪った。
 父は人を襲い、返り討ちにあって死亡した。
 
 (コンビニの明かり。終夜営業の店は珍しい。
 狼人間が入っていくと、店番のにいちゃんが悲鳴を上げた。)

 濁流に呑まれる村。
 かろうじて逃れた由美子は、学校の裏山からそれを見る。
 山崩れは夜明け前に村を押し流した。
 いともたやすく崩壊する家々。あの下には、老人が、男女が、母に抱かれた乳飲み子が眠っているだろう。

 (振り上げた前肢が棚を引き倒す。
 背後で唖然とする客は、パチンコ雑誌を立ち読みしていたおっさん一人だ。その顔面が抉られ、血がドバッとしぶく。頭部は欠けたトマトのようになってしまい、自重でへしゃげた。
 店員が逃げ出す気配を感じる。
 追いつくのは容易い。)

 小宮山ヨシオの記憶。
 惨状の村からからくも逃げ出して来たのだが、片目を失った。
 彼との再会を運命のように感じたのが、遠い昔のようだ。

 それから、あれは・・・。
 悲しそうにこっちを見ている、あの顔は・・・。
 つい先刻、別れたばかりの一平くん。

 ・・・ダギューーーーーーーン。

 回想を断ち切る、銃撃の音。
 

 両手で拳銃を構えたスズキくんが立っていた。

[シーン13・コンビニ前]

 「・・・って、場面転換の為に慣れない銃撃を行なってみたワケですが。」

 射撃態勢を崩さないまま、スズキくんが云う。明らかな説明口調だ。

 「生身の人間が、人狼に勝てる訳ないじゃないですか。このまま、ボクまで首と胴体が生き別れになってしまったら、御好評頂いたスズキくんサーガも目出度く完結、ということになるんでしょうね。」

 狼人間は、銃弾程度ではまったく怯まない筈だが、明らかに効いている。

 「その弾丸、特別製なんですよ。日銀さんのね。」

 主人公の特権全開でスズキくんが解説する。

 「いわゆる、百円玉です。」

 ギャゥオォォーーーン!!
 一声絶叫が響き渡ると、狼人間の眉間にめり込んだ硬貨が、ポロリと落ちた。
 銀の含有量により威嚇以上の力はあったが、その足を止めるにはまだ弱いようだ。却って激情を誘発する効果があったと見える。

 「硬貨、だけにね。」

 ぺロリと舌を出すと、踵を返したスズキくんは駆け出した。
 読者諸君の憎しみも味方した狼人間の黒い影が、疾風の如く追いすがる。

【ナレーション】
 ウンベル豆知識。日銀発行の百円硬貨は、その六十パーセントが銀である。残りは銅と亜鉛。
 スズキくんの今回使用した拳銃は、人類救済計画の科学技術陣が作り上げた、なんでも発射できる万能ピストルであった。弱点は唯一、普通の弾が装填できないことである。
 って、万能じゃないじゃん!


[シーン14・路上]

 「フゥッ、フゥッ・・・!」
 久方ぶりの全力疾走にスズキくんの息も上がってくる。
 「今の攻撃で、ボクのポケットマネーは残らず使っちまいましたー!兵力の維持にゼニカネが掛かる、というのは真実だったのだなァー!!」

 前方に交差点が現れた。

 直進すれば庚申塚方面に突き当たる、この辺りはもうじき巣鴨だ。
 ズラリ、と横一列に並んだ警官隊が見えた。
 囮役のスズキくんがその前を全速力で駆け抜けると、代わりに進み出たのは、全身シルバーメタルの制服に身を包んだウンベル総司令であった。

 慌てて蹈鞴を踏む狼女だったが、左右は高い壁が並び、手がかりになりそうなものがない。

 「撃てェェェーーーッ!!!」

 号令と同時に無数の百円硬貨が宙を切り裂き、世にも凄まじい絶叫が轟いた。

 「・・・見たか、のりかず!全員、自腹だ・・・!!」
 ウンベル司令は、苦々しげに呟いた。

[シーン15・小宮山くんの部屋]

 彼方で聞えた遠吠えに、ビクリとして擡げた小宮山くんの顔は・・・。
 一面が獣毛に覆われ、牙も剥き出しになった地獄の形相だった!

 「アァオォォォーーーーーーーン!!」

 窓ガラスの破られる音が響き、何かが夜に飛び出した。

 (以下次号)

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