川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【完結編】 ('85、日)
[シーン16・再び交差点]
全身に小銭を浴びてよろめく狼人間。
物量攻撃が功を奏したのか、硬貨のめり込んだ傷口からピュッピュッと血潮を吹き上げている。
「ほんじゃま、これでサヨナラです。」
スズキくんが、絵に描いたような、丸い爆弾を持ってきた。
導火線に既に火が点いて、ジジジジと煙を上げている。
「わっ、どっから持ち出したんだ!」
ウンベルが慌てふためく。
「そんな爆弾、今どきマンガでもお目にかかれないぞ。」
「したがって、破壊力も未知数。えい。」
投げた。
「のわわわわわーーーッ!!なぜ、私に放る?!」
慌てたウンベル、しっかり受け止めてしまい、腕に火の粉がかぶって、大騒ぎ。
「ちょっと、持ってろ。」
横にいた部下に手渡すと、火の粉を消しにかかる。
キョトンとした部下、一瞬で消し飛ぶ。
「うわ!!」
「・・・ウワワワーーーッ!!」
激しい衝撃波に打ち倒され二名が同時に叫ぶ。
場を覆った、真っ黒い煙りが消え去ると、カツラの吹き飛んだウンベル総司令と、爆発パーマに変貌したスズキくんが現れた。
どちらも顔から服から煤けて、煙突掃除人のようなご面相だ。
「・・・司令、ツイてませんね。」
ツルツルの頭を撫でながら、ウンベル、
「おおきな御世話だ。」
その間、多少復活した狼人間、警官隊を殺しまくっている。
ふたり、気がつくと、生き残りが自分達だけになっているので驚く。
[シーン17・小宮山くんの細胞内部]
赤く脈打つ核に、ゴルジ体が激しく震動する。
内部を満たした液体に、無数の稲妻が走り、細胞膜の外側へと連鎖していく。
[シーン18・走る小宮山くん]
全身に生えた獣毛が急速に伸び続け、骨格自体も変形を遂げる。
小学生らしい体躯であったものが、みるみる巨大化し、見上げるような大男に。
口角を押し上げて巨大な牙が剥き出しとなり、両手両足の爪が鋭く伸びる。
その間もずっと走り続けているが、動きに不安定さはない。
眠っていた本来の自己が解放されたかのような、スムーズな走りだ。
路地の角を曲がると、倒れている警官隊の残骸が見えた。
「ウォルルォォォオーーーーーーン!!」
喉も張り裂けんばかりの歓喜の絶叫。
応えて、血まみれの由美子が吠える。
「・・・のわ、増えた!」
ウンベル総司令が歯噛みする。
「ポイント倍増です!こりゃダメだ!!」
爆発パーマのスズキくんが両手をかざして宙を振り仰ぐ。「もうお手上げ、って感じ?!」
ふたりが死の予感に思わず目を閉じた瞬間、目前に迫っていた由美子がふらりと離れた。
猛スピードで突進してくる、もう一体の狼人間の股間に、巨大な陽物が屹立している。
「あッ・・・あれは・・・・・・・。」
「ダ・・・ダイナミック・ジュコー・・・!!」
二体は激しく絡み合うと、路上で、交尾が始まった。
あっけにとられるスズキくんと総司令。
「むむ・・・U-15で、獣姦で、しかも屋外の本番行為。
川島のりかずも、度を越すと西村寿行になるという教訓か・・・!
こりゃマズいぞ、わしの引責問題に発展しかねん。」
スズキくんがパチンコの出玉が全部吸い込まれた時のような表情で、答える。
「でも、まァ、既に人間の姿じゃなくなっていることだし、都の青少年健全育成条例にも引っかからないんじゃないですか。
なんだったら、ボクが証言してあげますよ。しかし、こいつら、どうします?」
「始末をつけねばならん。」
ポケットから、旧式の携帯端末を取り出して、絶叫した。
「スズキくん強化パーツ、射出!!」
[シーン19・スズキ9号車]
バカッ、とトランクが開いて、白煙と共にパーツが空中に打ち出される。
【ナレーション】
スズキくん強化パーツ。
人類救済計画の科学技術陣が総力を挙げて開発した、究極の破壊兵器である。
あまりに威力が絶大なため、ウンベル総司令は使用をギリギリまでためらっていた。
[シーン20・交差点付近]
空中を飛んできた強化パーツが、カシャン、カシャンとスズキくんに装着される。
「YES/NOまくら!!」
「夜の夫婦生活をYorNのマシン言語に置き換えた最新型の殺人マシン!」
「ブーブークッション!!」
「現代社会への不満を抗議!すべてのテロリズムを全面正当化する、悪魔の破壊兵器!」
「ロンジンのペアウォッチ!!」
「人生の新たな航路へ旅立つふたりに、永遠に離れぬ固い絆をお約束!まさに極悪!!」
まくらを横抱きにし、クッションをかかえ、おのが両手にペアウォッチをはめて、今や究極の殺人マシーンと化したスズキくんは、路上で一心不乱に交尾を繰り返す狼人間カップルの方に向き直る。
髪の分け目をまさぐると、こう言った。
「♪いらっしゃ~~~い!!」
[シーン21・夜明け]
JR大塚駅周辺に、巨大なクレーターが出現している。
倒壊したビルの間から射してくる朝日を浴びながら、かつらを取り戻したウンベル総司令が感慨深げに呟く。
「ニワトリが先か、卵が先か・・・?
人類はいつまでこうした愚行を繰り返すのだろうな・・・?!」
徹夜仕事を終えたスズキくん、無言だ。眠い。
[エンディング]
軽快な三拍子、『スズキくん音頭』が流れる。
♪人が輪になる、花になる
あなたも、わたしもス~ズキく~ん♪
法被に鉢巻姿のスズキくん、率先して踊り終えると、TV画面に向かい一礼する。
礼儀正しい。
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